えっ!?俺が勇者?断固拒否します!

marry

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第5話 夜伽

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「銀河様申し訳ありません。
 お許しください」

 エルナは正座し、何度も床に頭をこすりつける。

「だから、もういいってさあ」

 真っ赤な手形をつけたほっぺたをさすりながら、エルナに立ち上がるように言う。

「でも、でも……
 本当に申し訳ございません」

 ……そもそも、どうしてこうなった?

 話は昨日の夜まで遡る……

 ―― 俺が豪華すぎるベッドに横たわり、あらためて部屋の中を見回していたときのことである。

「はて?
 いつリゾートホテルのスイートルームの予約をしたんだっけか?」

 ―― 俺が横たわるベッドは、まるでファンタジーアニメにでてくるような王様仕様のベッド。

 四つの柱には金細工が施され、赤色の天幕が張られている。

 ベッドを囲むカーテンはまるで綿わたのように柔らかく、光を受けるたび表面がキラキラと波打っていた。

 当然、豪華なのはベッドだけではない。

 その広い空間はドアから中央のベッドまで10メートルはあるだろう。

 その全てにフカフカの青い絨毯が敷き詰められ、天井のシャンデリアはこの建物のエントランス同様、宝石が散りばめられている。

 壁にはこの国のシンボルで有るのだろうか、太陽の両端に半月の月が寄り添うような紋章が飾られている。

 広いバルコニーへと続く窓は床から高く伸び、俺の身長の倍以上ある。

 当然として、ここにも豪華な金細工が施され、ノブ部分はドラゴンの首を模したものであった。

 サイドのテーブルには地球でも見たことのあるようなフルーツやシャンパンの瓶とグラスが置かれていた。

「いや、俺はポテトチップスとサイダーのほうが有り難いんだけどなあ……」

 コンッ コンッ コンッ

 軽く苦笑いしたとき扉が3回ノックされた。

 こんな夜更けに来訪者?

 俺は中腰になり、警戒とともに返事を返した。

「どなたですか?」

「……銀河様……
 お休みのところ申し訳ございません。
 エルナにございます」

「エルナ!?」

 俺は慌ててドアに駆け寄りカギを開けた。

 まあ、思うが、このカギにあまりいみはないのだろう。

 王族がその気になればマスターキーでドアを開けて俺の寝首を掻くなんて造作もないのだろうし、現にこの部屋の掃除やなんかでエルナたちは日中出入りしているはずなのだから。

 俺が部屋にいるときのノックはあくまでも礼儀としてである。

 ガチャリ

「やあ、エルナ。
 どうしたんだい?」

「……」

 恥ずかしそうに俯くエルナ……

「廊下は寒いだろ?
 そんなところに立ってないで中に入りなよ」

 俺はエルナを部屋に招き入れ、サイドテーブルのイスに腰掛けた。

 エルナもちょこんと俺の前に座る。

 湯浴みをしてきたのだろうか、ほんのりエルナから温かい甘い香りがする。

 俺はエルナをボーッと眺めている。

 ―― かわいい……

 あのウサ耳に触れてみたいなあ……

 ……いかんいかん。

 俺は何を考えているんだ。

「あ、あの……
 銀河様……」

「は、はい」

 なぜだか俺は緊張して、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「姫様から銀河様の夜伽を仰せつかっております」

「夜伽って!?」

 ―― 本来、夜伽の意味は、夜に誰かのそばにいて、見守ったり話し相手になったりすることなんだけど……

 エルナのこの態度……

 あの姫様の命令だもんな。

 それだけの意味じゃないよなあ……

「あのさあエルナ……
 エルナは自分の意志でここに来たわけじゃないよね?」

「……」

「食事のときも言ったけれど、君たちの置かれた立場もあるとは思う」

 エルナは黙ったまま俺の話を聞いている。

「でも、国の奴隷制度を認めたくない。
 そのせいで君たち三人に迷惑がかかるってんなら、それは譲歩しようとは思うけれど……」

 依然としてエルナは無言のままだ。

「もう一度聞くけれど君はなんのためにこの部屋へ来たんだい?」

「それは……」

 やっとエルナが口を開いた。

「姫様のご命令で……
 銀河様の夜のベッドでのお相手をと……」

 エルナはまた俯いた。

「そこに君の意志はないんだよね?」

「……」

 エルナは口を紡ぎ、自分の手のひらをジッと見ている。

「だったらそんなことしなくていい」

 エルナはハッとした顔を俺に向けた。

「勘違いしないでほしいんだけど……
 君に魅力がないって意味じゃないからね。
 とってもかわいいし、優しい子だとは思っているよ」

 エルナは俯いたまま顔を真っ赤にする。

「姫様にお咎めを受けるってんならここにいればいい」

「……」

 エルナは何も答えないし、部屋を出ていこうともしない。

「エルナはこのベッドを使いなよ」

 そう言って俺は黙り込むエルナの手を引いた。

「俺はあっちのソファで寝るから」

「あ、あの……
 銀河様はこちらでお休みください。
 私は床で結構ですので」

「ダメだってば。
 俺はソファでいいから」

「でも……」

「さあさあ」

 俺はエルナの体をクルリと反転させ、手のひらで両肩を押し、ベッドの方へと促した。

「おっとっと」

 エルナの肩を押す力が少し強かったかも……

 バサッ

「キャッ」

 俺とエルナは足がもつれ、そのままふたりともベッドに倒れ込んでしまった。

 ドキッ

 俺は思わず触れていたエルナの手からサッと離れた。

「ごめん、エルナ」

「……い、いえ……」

 しばし沈黙が続く……

「「アハハハハハ」」

 ふたりともなんとなく笑いが込み上げてきた。

「なんだかおかしいね」

「そうですね」

 またしばらく沈黙が続く。

 口を開いたのはエルナであった。

「あの……
 銀河様……
 失礼を承知でご提案があるのですが……」

「なんだい?」

「ふたりでこのベッドを使うというのはどうでしょうか?
 姫様にご命令されたようなことではなく、ベッドの端と端ならば、銀河様のおっしゃるような問題はないのかと」

 幸いなこと(?)にこの部屋のベッドはかなり大きい。

 俺が地球で使っていたシングルベッドの3倍以上横幅があるだろう。

 俺は少し考えてから聞いてみた。

「それは君の意志なんだよね?
 無理してない?」

 エルナは顔を赤らめコクリと頷いた。

「わかった」

 そう言って俺はベッドの端に潜り込み、ライトを消した。

「失礼いたします」

 そう言ってエルナも恥ずかしそうに俺とは距離を取り、背中を向けてベッドに入ってきた。

 一度俺はエルナに背を向けたが、なんとなく気になって、エルナの後ろ姿を覗いてみた。

 大きな窓から二つの月が顔を覗かせる。

 優しい月明かりに照らされたエルナのウサ耳は少しピクピクと動いていたように見えた。

 ―― 眠れない……

 眠れるわけがない……

 硬派を貫いてきた(?)25年間、彼女なんていたためしがない。

 キスをぶっ飛ばして女の子と一緒のベッド!?

 おかしい……

 おかしいって……

 女の子と一緒の布団?

 そんなの幼稚園の頃に母親かばーちゃんとしか記憶ねーよ!

 俺はもう一度エルナの方を見た。

 今はウサ耳は動いていない……

 疲れてたんだろうな……

「なんだか俺も眠たくなってきたなあ」

 俺はエルナの後ろ姿に呟いた。

「お休み、エルナ」

 ―― そこから静かに夜は過ぎ……

 やがて朝がきた……

 チュン チュン チュン

 すずめらしき鳥の鳴き声で俺はゆっくりと目を開ける。

「……誰?」

 ウサ耳少女が俺に抱きついている。

「エルナ?
 異世界?
 夢じゃなかったの?」

 寝ぼけながらも俺は頭をフル回転する。

 パチリッ

 ウサ耳も目を覚ます。

「キャーッ!」

 パシーンッ!

「いてーっ!」

 俺は一瞬で目が覚めた。

「あっ……
 銀……河……様?」

 エルナは飛び上がり、秒で床に頭をこすりつけた。

 そして冒頭のシーンである。

「もういいってばー」

 ガチャリ

 そのとき、勢いよく部屋のドアが開かれた。

「銀河兄ちゃーん!
 朝飯の時間だよー!」

 ドアを開けて飛び込んできたのはレグルスだった。

「こら!
 レグルス!
 勝手にドアを開けちゃダメだってば!」

 セレスが急いでレグルスのあとを追ったが間に合わなかったようである。

 ある程度事情を知ってるであろうセレスからしたら冷や汗ものだったろう。

 ひょっとしたら勇者と自分の姉が裸でベッドに寝ている可能性もあったわけだからな……

「姉ちゃん、そんなとこに正座してなにしてんだよ。
 銀河兄ちゃんが起きるの座って待ってたのかよ?
 そんなのチューしたら一発で起きるってば!」

「「なっ!?」」

 俺とエルナは顔を見合わせ真っ赤になる。

「ふたりとも照れんなって!」

「こらっ!
 レグルス!」

 エルナは急いで立ち上がりレグルスの方へ向かう。

「怒んなよ。
 エルナ姉ちゃん!」

 そう言ってレグルスは食堂に向かって廊下を駆けて行く。

「ほんとにレグルスったら!
 フーッ」

 セレスは呆れ顔で腕組みしながらため息を吐いた。

 俺はセレスの横に立ち口を開く。

「なあ、セレス。
 昨日も言ったけどさ。
 この国での君たちの立場もあるとは思う。
 だけど俺に対してだけは嫌なことは嫌って言ってほしいんだ。
 なかなか難しいとは思うけどさ。
 それにもし、思っていることやしてほしいこととかあったなら、些細なことでもいいから相談してくれないかな?
 ときには喧嘩になるかもしれないけど、それが友達ってもんだと思う」

 セレスは不思議そうな顔をこちらに向ける。
 
「私達が銀河様の友達?」

「心にはいつでもそういう気持ちを持っていてほしいんだ。
 君たち三人はこの世界で最初の友達さ」

「……承知いたしました」

「ほら、その言葉遣い」

「……」

「ねっ」

 俺はセレスに微笑みかけた。

「わかったわ。
 銀河さん」

 ハニカミながらも、セレスは嬉しそうな笑顔を俺にくれた。
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