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第6話 囚われの皇女
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ここは王城のとある一室。
広い部屋の上座には、成金趣味の極みと呼んでもいいぐらいに真っ金金の椅子が置かれている。
その上にはある意味、下品な椅子に似付かわしい、いやらしい笑みを浮かべた男がふんぞり返っていた。
国王【ゲナハ・フォン・ギルティア】である。
元は王族でもなんでもなく、違法な奴隷売買をしていた犯罪者。
ゲナハはまず、汚く稼いだ金の力を使い、悪徳貴族や大臣に取り入った。
そして最初は男爵の位を手に入れ、気がつけば、侯爵の地位まで上り詰めていた。
少しずつ金の力を使い、貴族社会で着実に勢力を伸ばしたゲナハ。
やがて彼を野放しにしたこの王国に、恐ろしい出来事が起こった。
ゲナハは取り巻き貴族を使い、前国王を病気に見せかけ毒殺したのだ。
そして…
こともあろうにゲナハは【王統図】の系譜に自らの名前を加え偽装した。
皆が気づいたときにはもう遅かった。
ゲナハが王位を継ぐことは盤石のものとなっていたのである。
彼の権力の前には、本来の王位継承者ですら平伏すしかなかった。
やがて……
王族は全て粛清……
そこから、われわれ獣人族の暮らしは一変することになる。
同盟国であったはずのヴァル=ギルティア王国による突然の進攻。
我が街は焼かれ……
金品も強奪され……
そして……
幾多の民が惨殺されたのである。
温厚で武器など持たぬ我が種族は、成すがまま属国に成り下るしか術はなかった。
この国にも表立って、奴隷制度ができたのはそのときである。
当然のことながら、その制度は私にとっても、無縁のものではなかった。
いや、むしろゲナハは私を奴隷にし、自分の手元に置くことで、獣人の国【ミスト=ファンタス】への見せしめとしたのだ。
なぜならば……
私は【ミスト=ファンタス】の第一皇女【エルナ・レム・ファンタス】なのだから。
現在、私は異世界からの来訪者である銀河さまの、お世話係に任命されている。
でも、それはあくまでも体の良い表向きの呼び名。
その実、監視役である。
この世界に召喚された銀河さまは、召喚時、この王国に仕えることを拒否している。
監視役と同時に、私はもうひとつ、命じられていることがある。
勇者が従順になるよう、あの手この手で骨抜きにせよと。
あの手この手!?
つまりはそういうことである……
―― 私があれこれと考えを巡らせていると、ゲナハの横の、無駄にきらびやかで、イジの悪い笑みを浮かべた女が口を開いた。
人を見下す態度で、あからさまに性格の悪さが表に溢れ出ている。
この女は【ヴァル=ギルティア王国】、皇女【ディスダナ・フォン・ギルティア】である。
「で、エルナ……
どうなの?
あの異世界から来た下民の様子は?」
「はい。
こちらへ来られて、はや五日……
お疲れはすっかり回復なさったかと……」
「あんたバカ?
下民の疲れなんてどうでもいいのよ!
私はちゃんと手なづけたのかって聞いてるのよ。
アイツと寝たんでしょ?
あんたみたいに脳足りんでも体を使って誘惑するぐらいできるでしょうに!
早くあいつを手なづけて、次は魔族を制圧しないといけないんだからね!
あいつは重要な道具なのよ!」
ディスダナは目を釣り上げ、強い口調で私に迫る。
「ねえ!
バカウサギ!
ひとの話を聞いてるの?」
「……申し訳ございません」
私はすぐに頭を下げた。
「で……
寝たの?
寝てないの?
まさか私の命令を聞かなかったわけじゃないでしょうね?」
ここで答えを間違えたら、また酷い目に遭わされる。
銀河さまにご迷惑をお掛けするかもしれない……
「はい……
仰せの通りに……」
私は俯き、静かに答えた。
「アハハハハハ……
そう……
それは良かったわ。
異世界の下民と役立たずの獣人がねえ……
あーおかしい。
でも考えるだけで反吐が出るわ。
ゾッとするほど気持ちが悪い。
下民とウサギが絡み合ってるなんてね……
ウゲーッ……」
下品な女は胸に手を当て吐きそうなポーズを見せた。
屈辱的……
私はグッと拳を握り締めた。
この女は、私たちをおもちゃにして楽しんでいるんだ。
悲しい……
悔しい……
恨めしい……
……でも逆らえない……
私には愛する妹や弟がいる。
そして……
故郷にはお父様やお母様……
なにより、愛すべき民がいる。
獣人の国ミスト=ファンタス皇女として、私は全ての者を守らねばならない。
そのために私はこの身を差し出した。
だから私に感情はいらない……
そんなものは足枷になるだけだから……
でも……
苦しい……
胸の奥……
心臓を裏側から鷲掴みにされ、引きちぎられそうな感覚。
私だけが罵られているのならば……
あるいはここまで苦しくはなかったのかも知れない……
いつものことだと……
でも……
……銀河さま……
奴隷の私たちを見下すことなく、ひとりの人間として接してくれる人……
銀河さまのことを馬鹿にされると辛いし悲しい。
こんな感情はとうの昔に捨てたはずなのに……
「とにかくじゃ……
エルナよ、早急に小僧を取り込まねばならん。
魔族とのこともあるが、小僧がレベルアップして、ワシらの手に負えん状況になってからでは遅いのだ。
わかるな?」
私はコクリと頷いた。
「よし、ならばこのお香を使え。
リラックス用のアロマじゃと言って、ヤツの近くで使えばよい。
しばらくすると虚ろな状態になるはずじゃ。
そのときに、【おまえはこの国の勇者だ】と何度も言い聞かせよ。
ひと月もすれば、この国の勇者だと、ヤツは思い込むようになっておろう。
決してお前は吸い込まぬよう、気をつけるのじゃぞ」
「……」
私が俯いているとディスダナがイラッとした口調で釘を刺す。
「あんた、わかってるんでしょうね?
妙な気を起こしたら、妹や弟だけでなく故郷がどうなるか!」
私は唇を噛み締めながらも、頷くこと
しかできなかった。
「わかっているならそれでいいわ。
今晩からお香は継続的に使うのよ。
それと毎晩ヤツの相手はしなさいよ。
念には念を入れておかなきゃね。
それでアイツがあんたに対し情が湧いたなら、より扱い易いってもんよ。
わかったら下がりなさい」
私は一礼してその部屋を出た。
お香をポケットにしまい、トボトボと廊下を歩く。
銀河さま……
今の気持ちは辛いはずなのに、彼の顔を思い浮かべると、ほんの少し幸せな気持ちになる。
なぜだろう……
私はふと立ち止まり、後ろを振り返ってみた。
「フフフ……」
思わず思い出し笑いをしてしまう。
初めて会ったあの日。
銀河さまはこの廊下で立ち止まって、私のことをジーッと後ろから見てたわよね?
私、あのとき気づいてたんだからね(笑)
……銀河さま……
……なんだかあの人のことを考えると胸が苦しい……
この気持ちはいったい……
今すぐ会いたい……
私の火照った頬を、冷たい夜風が撫でるように通り過ぎる。
私は空を見上げた。
そのとき……
「エルナ!」
あの人の声が聞こえた。
広い部屋の上座には、成金趣味の極みと呼んでもいいぐらいに真っ金金の椅子が置かれている。
その上にはある意味、下品な椅子に似付かわしい、いやらしい笑みを浮かべた男がふんぞり返っていた。
国王【ゲナハ・フォン・ギルティア】である。
元は王族でもなんでもなく、違法な奴隷売買をしていた犯罪者。
ゲナハはまず、汚く稼いだ金の力を使い、悪徳貴族や大臣に取り入った。
そして最初は男爵の位を手に入れ、気がつけば、侯爵の地位まで上り詰めていた。
少しずつ金の力を使い、貴族社会で着実に勢力を伸ばしたゲナハ。
やがて彼を野放しにしたこの王国に、恐ろしい出来事が起こった。
ゲナハは取り巻き貴族を使い、前国王を病気に見せかけ毒殺したのだ。
そして…
こともあろうにゲナハは【王統図】の系譜に自らの名前を加え偽装した。
皆が気づいたときにはもう遅かった。
ゲナハが王位を継ぐことは盤石のものとなっていたのである。
彼の権力の前には、本来の王位継承者ですら平伏すしかなかった。
やがて……
王族は全て粛清……
そこから、われわれ獣人族の暮らしは一変することになる。
同盟国であったはずのヴァル=ギルティア王国による突然の進攻。
我が街は焼かれ……
金品も強奪され……
そして……
幾多の民が惨殺されたのである。
温厚で武器など持たぬ我が種族は、成すがまま属国に成り下るしか術はなかった。
この国にも表立って、奴隷制度ができたのはそのときである。
当然のことながら、その制度は私にとっても、無縁のものではなかった。
いや、むしろゲナハは私を奴隷にし、自分の手元に置くことで、獣人の国【ミスト=ファンタス】への見せしめとしたのだ。
なぜならば……
私は【ミスト=ファンタス】の第一皇女【エルナ・レム・ファンタス】なのだから。
現在、私は異世界からの来訪者である銀河さまの、お世話係に任命されている。
でも、それはあくまでも体の良い表向きの呼び名。
その実、監視役である。
この世界に召喚された銀河さまは、召喚時、この王国に仕えることを拒否している。
監視役と同時に、私はもうひとつ、命じられていることがある。
勇者が従順になるよう、あの手この手で骨抜きにせよと。
あの手この手!?
つまりはそういうことである……
―― 私があれこれと考えを巡らせていると、ゲナハの横の、無駄にきらびやかで、イジの悪い笑みを浮かべた女が口を開いた。
人を見下す態度で、あからさまに性格の悪さが表に溢れ出ている。
この女は【ヴァル=ギルティア王国】、皇女【ディスダナ・フォン・ギルティア】である。
「で、エルナ……
どうなの?
あの異世界から来た下民の様子は?」
「はい。
こちらへ来られて、はや五日……
お疲れはすっかり回復なさったかと……」
「あんたバカ?
下民の疲れなんてどうでもいいのよ!
私はちゃんと手なづけたのかって聞いてるのよ。
アイツと寝たんでしょ?
あんたみたいに脳足りんでも体を使って誘惑するぐらいできるでしょうに!
早くあいつを手なづけて、次は魔族を制圧しないといけないんだからね!
あいつは重要な道具なのよ!」
ディスダナは目を釣り上げ、強い口調で私に迫る。
「ねえ!
バカウサギ!
ひとの話を聞いてるの?」
「……申し訳ございません」
私はすぐに頭を下げた。
「で……
寝たの?
寝てないの?
まさか私の命令を聞かなかったわけじゃないでしょうね?」
ここで答えを間違えたら、また酷い目に遭わされる。
銀河さまにご迷惑をお掛けするかもしれない……
「はい……
仰せの通りに……」
私は俯き、静かに答えた。
「アハハハハハ……
そう……
それは良かったわ。
異世界の下民と役立たずの獣人がねえ……
あーおかしい。
でも考えるだけで反吐が出るわ。
ゾッとするほど気持ちが悪い。
下民とウサギが絡み合ってるなんてね……
ウゲーッ……」
下品な女は胸に手を当て吐きそうなポーズを見せた。
屈辱的……
私はグッと拳を握り締めた。
この女は、私たちをおもちゃにして楽しんでいるんだ。
悲しい……
悔しい……
恨めしい……
……でも逆らえない……
私には愛する妹や弟がいる。
そして……
故郷にはお父様やお母様……
なにより、愛すべき民がいる。
獣人の国ミスト=ファンタス皇女として、私は全ての者を守らねばならない。
そのために私はこの身を差し出した。
だから私に感情はいらない……
そんなものは足枷になるだけだから……
でも……
苦しい……
胸の奥……
心臓を裏側から鷲掴みにされ、引きちぎられそうな感覚。
私だけが罵られているのならば……
あるいはここまで苦しくはなかったのかも知れない……
いつものことだと……
でも……
……銀河さま……
奴隷の私たちを見下すことなく、ひとりの人間として接してくれる人……
銀河さまのことを馬鹿にされると辛いし悲しい。
こんな感情はとうの昔に捨てたはずなのに……
「とにかくじゃ……
エルナよ、早急に小僧を取り込まねばならん。
魔族とのこともあるが、小僧がレベルアップして、ワシらの手に負えん状況になってからでは遅いのだ。
わかるな?」
私はコクリと頷いた。
「よし、ならばこのお香を使え。
リラックス用のアロマじゃと言って、ヤツの近くで使えばよい。
しばらくすると虚ろな状態になるはずじゃ。
そのときに、【おまえはこの国の勇者だ】と何度も言い聞かせよ。
ひと月もすれば、この国の勇者だと、ヤツは思い込むようになっておろう。
決してお前は吸い込まぬよう、気をつけるのじゃぞ」
「……」
私が俯いているとディスダナがイラッとした口調で釘を刺す。
「あんた、わかってるんでしょうね?
妙な気を起こしたら、妹や弟だけでなく故郷がどうなるか!」
私は唇を噛み締めながらも、頷くこと
しかできなかった。
「わかっているならそれでいいわ。
今晩からお香は継続的に使うのよ。
それと毎晩ヤツの相手はしなさいよ。
念には念を入れておかなきゃね。
それでアイツがあんたに対し情が湧いたなら、より扱い易いってもんよ。
わかったら下がりなさい」
私は一礼してその部屋を出た。
お香をポケットにしまい、トボトボと廊下を歩く。
銀河さま……
今の気持ちは辛いはずなのに、彼の顔を思い浮かべると、ほんの少し幸せな気持ちになる。
なぜだろう……
私はふと立ち止まり、後ろを振り返ってみた。
「フフフ……」
思わず思い出し笑いをしてしまう。
初めて会ったあの日。
銀河さまはこの廊下で立ち止まって、私のことをジーッと後ろから見てたわよね?
私、あのとき気づいてたんだからね(笑)
……銀河さま……
……なんだかあの人のことを考えると胸が苦しい……
この気持ちはいったい……
今すぐ会いたい……
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