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「好きだ、奏汰」

 途端に空気の密度が変わった気がして、胸がざわめく。
 見つめられた視線の強さに言葉を失っていると、椅子から立ち上がって傍に来たサクラに、軽々と抱き上げられてしまった。横抱きにされて、そのまま寝室に向かって進んでいく。

「うわっ、えっ、サクラ? 重いよ? ね、降ろして」

 サクラの引き締まった胸に手を当てて足をジタバタさせながら、降ろしてもらおうと抵抗を試みたが、力強い腕が許してくれない。
 あっという間に寝室のベットの上に降ろされたかと思うと、視界が斜めに傾いた。

「へ?」

 頭と背中を支えていたサクラの手が離れて、弾力のあるベットが代わりに僕の体を受け止める。天井だ……と思ったら、それをサクラの整った顔が遮って大きく心臓が跳ねた。

「サクラ、えっと、あの、これは……」

 状況についていけなくなってしどろもどろになっていると、サクラの体がふわりと重なって、まるで壊れ物を扱うようにそっと優しく抱きしめられた。僕の肩に顔をうずめると、すりすりと額をすり寄せてくる。柔らかい黒髪が首筋に当たってくすぐったい。

「サクラ?」

「奏汰、キス……してもいいか?」

 熱い息が首元をかすめて、柔らかな低音が耳のすぐ傍で響く。じわりと耳が熱くなる。
 顔を起こしたサクラの琥珀色の瞳が澄んだ光を放って、僕を見つめてくる。とても綺麗で温かな色合いに目が離せない。

「……っ、うん」

 その目に誘われるように、僕は返事をしていた。抱きしめられて見つめられて、それだけでじわりと体温が上がるのを感じる。思わず手を伸ばしサクラの切れ長な目許にかかる髪をよけると、その瞳がさらに光を強くした。
 伸ばした手にサクラの形の良い唇が触れて、腕を伝いこちらに向かって落ちてくる。そしてゆっくりと、確かめるように優しく唇が重ねられた。柔らかくて温かくて、嬉しいような気持ちになる。

「もっとしてもいいか」

 唇にかかるサクラの吐息が熱い。

「ん、サクラのキス、好きかも……っ、んぅっ」

 僕が言い終わった途端、待ちきれなかったと言わんばかりに、今度は深く唇を奪われた。その熱量に少し驚いて、わずかに開いた唇の隙間からぬるりと温かいものが滑りこんで口蓋をなぞられる。
 先ほどの優しいキスとは打って変わって、味わい尽くすような濃厚なキスにぞくぞくとした感覚が湧き上がってくる。サクラの舌が動くたびに、少しずつ溶かされていくようだ。
 キスがこんなに気持ちが良いものだったなんて知らなかった。

「……奏汰」

 キスの合間に、少し唇を離してサクラが僕の名前を呼んだ。瞬間、その柔らかな低音の甘やかな響きに、腰の辺りがジンと疼いた。まるで声で愛撫をされているような感覚に、たまらなくなる。

「ふぁ……っ、名前呼ぶの、だめっ」

 一瞬、驚いたような顔をしたサクラがひどく色香のある笑みを見せる。その瞳に熱が宿るのが垣間見えて、心臓が煩いくらいに脈を打ち始めた。

「可愛いな。俺の声で感じるのか……奏汰」

「……っ」

 更に追い打ちをかけるように耳元で囁かれ、頭から手足の先まで痺れるような感覚が行き渡る。そしてまた舌を絡めとられ、与えられる濃厚なキスの愉悦に、僕はすっかりとろけてしまった。

「大丈夫か?」

 唇が開放されたかと思うと、額や瞼、鼻先や顎まで顔のあちこちに口づけながら、サクラが聞いてくる。

「う……うん」

 僕は上がった息を整えながら、ふわふわとした思考のまま返事をした。濃厚なキスで煽られたとはいえ、声でこんなにされるなんて、なんかずるい。

「奏汰の反応、俺の想像してた数百倍、いやそれ以上の可愛いさだな」
 
 独り言のように呟いて、ふっと吐息混じりに微笑んだサクラに耳朶を甘噛みされる。

「んっ、耳やっ」

 キスの余韻で些細な刺激にすら、ぞくぞくとした感覚が腰に走って自然と脚をすり合わせてしまう。

「ここも、ちゃんと反応してて可愛いな」

 その脚の間にサクラの手が滑り込んできて、いつの間にか兆しを示し始めていた僕の中心を、服越しに包み込んでしまった。

「ひゃあっ! ちょっとサクラどこ触ってるの、離して!」

 突然のことに驚いて、身をよじりながらサクラの手を引き剥がそうとしたが、ビクリともしない。

「ダメだ、逃げるんじゃない。奏汰の可愛い姿、もっと見せてくれ」

 そう言って僕の抵抗を物ともせず、器用に下着の中へ大きな手が侵入してきた。そして直接そこを掴まえられ、ゆるゆると上下に刺激される。
 普段から自分で触ることもほとんど無いそこを、初めて他人に弄ばれ与えられる快楽に体の自由を奪われる。慣れない刺激が、中心をあっという間に昂らせてしまった。

「はっんっ、んっ……」

 更に先端を濡らす蜜を指で広げるように擦りたてられて、肩が跳ねる。

「あっ、は……っ」

 いつの間にかシャツのボタンがはずされていて、露になった首筋にサクラがゆっくりとキスを落としていく。そして首から始まったキスが、次第に下へと降りてきて胸の途中でピタリと止まった。

「奏汰のここ、綺麗な色だな」

 言いながら胸の突起に何度もキスが与えられ、存在を分からせるかのように舌が行き来する。

「ひぁっ、んっ」

「いい反応だ」

 空いている手でもう片方の突起もくすぐるように弄られて、隆起しきった場所で初めて感じる快感に、呼吸を乱されてしまう。その間にも、中心への刺激は絶え間なく与えられていて、少しずつ、確実に追い詰められていく。

「あっ、一緒だめっ……んっ」

「胸、ちゃんと感じるんだな。奏汰、感度良すぎ」

 嬉しそうに微笑んだサクラの唇が再び降りたかと思うと、ジュッと音を立てて快感を覚えたての胸の突起を吸いあげられた。

「ひっ、あっ、アァァッ……」

 ビリビリとした電気が走るような感覚と共に全身が震えて、僕は簡単にサクラの大きな手の中に放ってしまった。そのまま絞り出すように、何度か擦りあげられて腰が浮いてしまう。

「んっ、ごっ、ごめん。手にっ」

 僕は呆然としながらも、思わず謝っていた。

「謝る必要はない。それにしても、奏汰は達する時も可愛いいんだな」

 快楽の余韻に囚われたまま、まだ息を上げている僕の唇をひと舐めして、一層甘い声でサクラが囁く。

「そんな、可愛いとかないからっ」

 その声にまた溶かされそうになって誤魔化すように強がってはみたが、顔中と耳まで熱くなるのを感じて何も言い返せない。
 サクラに可愛いと言われるのが嫌なわけではない。むしろ嬉しくて仕方ないくらいだが、恥ずかしさで消えてしまいそうになるのだ。ここで素直になれないのは恋愛偏差値の低さがなせる業なのだろうか。
 熱い頬をさらりと撫でてくる手がとても優しい。

「そうやってすぐ赤くなるのも、全部可愛い。今日は我慢するつもりだったんだがな……、全部欲しくなった……」

「え? なんて……」

 はぁっと何かを耐えるように息を吐きながら呟かれた言葉の最後がよく聞こえなくて、聞き返そうとしたがまた深く重ねられた唇によって、僕の言葉は遮られる。

「んっ、ぅんっっ」

 サクラの熱い舌が僕の舌と合わさって聞こえる濡れた音が、頭の中にまで響いてくる。滴る唾液も気にならないくらいに翻弄されて、その心地良い喜びに浸るように、もっとこうしていたいと思ってしまう。

「奏汰の全部、俺のものにしてもいいか?」 

 名残惜しそうに唇を離したサクラが静かに口を開いた。潤みきった視界がとらえたサクラの顔はわずかに上気していて、優しく僕を見つめている綺麗な瞳の奥には、確かな欲情が垣間見える。

「……っもう、僕をこんなにしておいて、今更そんなふうに聞くなんてずるい」
 
 わざと拗ねたように言うと、サクラは少し困った顔をする。

「怒ったのか?」

 言いながら額に瞼に頬に指先にと、視線を合わせたまま伺うようにふわふわと優しくキスをされた。

「ウソ、怒ってないよ。その、僕も全部……サクラのものになりたい」
 
 サクラの仕草ひとつひとつがやけに艶めかしく熱っぽくて、感化されたように体温が上がる。恥ずかしいけど、それよりもサクラに触れてもっと触れられたいと思う。

「可愛い奏汰。大事にする」

 サクラがそう低く囁いて、僕の首元にキスを落とした。首筋から鎖骨まで埋め尽くすように口付けられて、滑らかに這う舌に胸の突起を絡めとられる。その隙にするすると下りて行ったサクラの手に、早々と下着を取り払われてしまう。

「うわっ、あっ」

 ぐいと腿を掴まれたかと思うと露になった部分を隠す隙もなく、脚の間に入ってきたサクラの体に大きく割り開かれてしまう。思わずかろうじて身に着けている、前がはだけきったシャツの裾を引いて隠そうとしたが届かない。触れられたいとは思ったが、全てをさらけ出すような態勢に目を覆いたくなる。

「隠さなくていい。奏汰はここも綺麗なんだな」

 キスと胸への愛撫で、再び芯を持ち始めていた中心にサクラの指が触れ、そのまま滑るように滴る蜜で濡れた双丘の隙間にある蕾をなぞられた。

「ひゃっん、あっ、そんなとこっ」
 
 くるくると円を描くように撫でられて、ビクリと体が震える。

「大丈夫だ、痛くないように解すだけだ。じゃないと俺のは入らないからな」

 そう言って示された先にある、引き締まった腹筋から続くその場所の逞しすぎる存在感に、僕は唖然とした。

「解すって、えっ、それを、えっ」

 ヒトを含め、動物の生態には獣医としてそれなりに知識はあるつもりだが、どんなに知識を総動員させても冷静にはなれない。

「余計なこと考えるな。おまえはただ感じていればいい」

「でもサクラ、僕が初めてだってこと忘れてないっ……」

 言い終わる前に与えられたキスによって、またしても僕は言葉を奪われてしまった。
 サクラの甘い舌が口内を絡めとり、唇が食まれる度に僕は息継ぎをするのを忘れるくらいに溶かされてしまう。キスの快楽に酔わされていると、溢れた蜜が伝う蕾につぷりと指が入ってくるのが分かった。しかし、反射的に蕾が閉じて弾かれるようにすぐに出ていく。

「んっ、ふぅんっ」

 少しずつ出入りを繰り返され、指の侵入が深くなっていく。中をこすられる度にぞわぞわとした感覚が生まれて、キスをされたままの唇から自然と声が漏れる。
 1本の指が楽に進むようになると2本に増やされ、溢れた蜜を絡めたサクラの長い指で何度も抜き差しされるだびに、ぐちゅぐちゅという煽情的な水音が聞こえて体が熱くなる。
 そうして時間をかけて愛撫された蕾は、いつしかサクラの指を自分から受け入れようになっていった。

「あぁんっ、やっ、んんっっ……っ」

 解れきった内側をぬるぬると大きくなぞられて、僕の口から甘い喉声が飛び出す。自分でも聞いたことのない声にハッとして、思わず両手で口を覆う。恥ずかしくてぎゅっと閉じた目の淵に涙が滲んだ。

「声、我慢しなくていい。もっと聞かせて」

 サクラの指の動きに応えるように漏れてしまう声を必死で抑えようとしていると、覆っていた手を取られて、片手でベットに押し付けられてしまった。
 その力強さに驚いて閉じていた目をそっと開けると、目に飛び込んできたのはピンと凛々しく伸びた三角の、黒い毛並みの耳だった。

「待って! サクラの耳が……っ。しっぽ、尻尾もある……」

「あぁ、これか。驚いただろ? 俺ももう、余裕が無いらしい。奏汰の淫らで可愛い姿を見たら、制御できなくなった。猫に戻ったりはしないから心配するな」

 突然の出来事に言葉を詰まらせる僕とは裏腹に、全く動じることもなく淡々と話す。
 サクラには驚かされる事ばかりだ。元が猫だと知らなかったら、きっと卒倒していただろう。

「急に、どうして?」

「俺もこうなるのは初めてなんだが、感情が高ぶると一時的に制御できなくなるらしい」

「らしいって、自分のことなのに」

「まぁ、人間の姿になって間もないからな。それにこの姿でするのは奏汰と同じで初めてだからな」

 サクラの口元に意味深な笑みが浮かぶ。

「それにしても奏汰。俺の耳と尻尾のことを気にしてる暇なんてないぞ?」

「えっ? あっ、ひぁっ」

 悪戯に微笑んだサクラが、ぬるぬると蕾をなでた。そして先ほどよりも深く入ってくる指に、僕は体を震わせ一瞬にして快楽の渦の中に呼び戻されていった。
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