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402、ジーナの思い

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「中々いい味に仕上がったね。スープとサラダとパン、少し簡素だけど迷宮の中だからね。よしとしようか」

「へえ、ジーナ隊長の手料理なんてこんな時じゃないと食えないぜ! どれどれ……」

 ライアンはそう言いながら、木のスプーンでそっと鍋の中のスープをすくおうとする。
 ジーナはその手をすかさず叩いた。

「何してるんだいライアン! もう少しぐらい我慢できないのかい?」

「へへ、隊長が作ったと思うとつい」

 ふぅと溜め息をつくジーナ。
 そして、苦笑しながら肩をすくめた。

「まあ、そんなところは可愛いと言えないことも無いね」

「ほ、ほんとっすか!?」

 シェリルは呆れ顔で。

「馬鹿だにゃライアン、隊長は呆れてるにゃ」

 皆は顔を見合わせて笑うと、寝室の方を見た。
 エリスとエイジが、こちらにやってくるのが見える。
 リアナが心配そうに二人に駆け寄った。

「エリス! もう起きて大丈夫なの?」

「ええ、リアナ。何だか凄くいい匂いがしてきたから寝ていられなくて」

 顔色もすっかり良くなったエリスを見て、ホッとするリアナ。
 ミイムとリイムは、エイジがやって来たのを見て嬉しそうに傍に飛んでいく。

『ねえ、エイジ! 私たちお料理を作るのを手伝ったのよ? 凄いでしょ!』

『ミイムも頑張ったです! ぐつぐつスープを煮込んだです!』

 エイジの前で大きく身振り手振りを交えて、自分たちの活躍を報告する二人。
 エイジとエリスはそんな様子を眺めながら、顔を見合わせて微笑んだ。
 リイムとミイムの頭を指先で撫でながらエイジは言う。

『へえ、二人も手伝ったんだな! 食べるのが楽しみだ』

『へへ~ん、きっとおいしいわよ!』

『早く食べて欲しいです!』

 人の姿になっているファルティーシアがそんな二人の様子を見て、クスクスと笑うとそっとその頭を撫でた。

『リイム、ミイム、折角ですもの私たちも頂きましょう』

『いいの? お母様!』

『みゅう! ミイムも食べていいですか?』

 ファルティーシアは二人に頷いた。

『精霊使いの旅に同行する精霊の特権ですよ。ふふ、皆一度は試す事ですから』

 本来は精霊は人間と同じような食事をとる必要などは無いが、ファルティーシアもかつて精霊使いだったころ試したことがあるのを覚えている。
 美しいこの高位精霊も、昔を思い出して少し心が高鳴っていた。

『ふふ、エイジ。私たちも頂いてもいいかしら?』

『もちろんですよ。三人にはお世話になりっぱなしなんだから』

 ジーナに伝えると彼女は笑いながら。

「構わないさ、少し余裕を持って作っておいたからね。ただしエイジ、あんたがいつも以上にガツガツ食べなきゃだけどね」

「はは、酷いなジーナさん」

 そう言いつつも、ぐぅと鳴るエイジのお腹。
 エリスとリアナは顔を見合わせてクスクスと笑った。

「そうそう、黙ってるとエイジったら全部食べちゃいそうな勢いなんだもの」

「本当よね、皆気を付けてね」

 そう言いながら、皆は休憩室のテーブルを食卓にして遅めの晩御飯をとることにした。
 リイムとミイムは、テーブルの上に座ってスープのお皿を見ながら目を輝かせている。
 隣にすわるエリスが、小さめのスプーンでそっとそれをすくうとリイムたちに差し出した。
 言葉は通じないが、気持ちが伝わったのだろう。
 リイムとミイムは、そっとスープを口に含んだ。

『美味しいわ!』

『凄く美味しいです!』

 嬉しそうな二人を見てジーナが胸を張る。

「どうだい、私の料理の腕も捨てたもんじゃないだろ? 見てみな、精霊だって舌鼓を打つぐらいさ」

 皆もスプーンでスープをすくって一口飲んで目を丸くした。

「美味しいわ!」

「ジーナ隊長が料理が上手だなんて意外よね」

「ほんとほんと、どちらかというと男に料理を作らせるタイプかと思ってたわ」

 アンジェの言葉に、ジーナが軽くその額を指で弾く。

「ったく! どんな目で私を見てるんだい」

 エイジはジーナに言った。

「フィアーナさんが作ってくれる味によく似てるね。やっぱり付き合いが長いだけあるよ」

「まあね……ほら……あいつがフィアーナの料理が好きだろ? そ、そりゃあ女としては勉強もするさ」

 それを聞いてリアナが首を傾げた。

「あいつって?」

「もう、鈍いわねリアナ。そんなのラエサルさんに決まってるじゃない」

「ああ! そっかエリス! ジーナさんてラエサルさんのこと好きだものね!」

 ライアンが驚いたように言う。

「嘘だろ! ジーナ隊長がラエサルさんを!?」

「ふにゃ、知らないのはライアンだけにゃ。警備隊にラエサルさんが顔を出す時は、ジーナ隊長いつもよりおめかししてるにゃろ?」

 ジーナは軽く咳ばらいをすると肩をすくめた。

「それにしてもラエサルの奴、私に料理を作らせておいて自分はいないんだからね。女の気持ちが分からない男だよ」

 そして呟いた。

「あの二人のことだ、今頃はもうルイーナに戻っている頃だね。無茶をするんじゃないよ、ラエサル、キーラ」
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