私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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本編

セントラル-2

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「すご……大きい……」

 見上げれば首が痛くなるほどの巨大な図書館。ここに無い本はない、と言われるほどの蔵書を誇る。もっとも、閲覧禁止の書物も多く、一般人が立ち入れる区域は限られている。
 しかし閲覧自由区域だけを見ても、並みの図書館よりは遥かに広く、セントラル市民は自由に利用ができる。国外からの訪問者も、来館時に誓約書にサインすれば、貸し出しは行えないが閲覧は自由だ。

「これだけ大きいと、階段上るの大変そうだなぁ」
「確か、大きな建物には滑車の仕掛けがあるんじゃなかったか」
「えっそれって、自動で上がるやつ!?」
「実際に見たことは無いから、詳しい仕掛けはわからないが。必要なら、中で聞いてみるといい。上層階は立ち入れなかった気もするが」
「それもそうだね」

 まさかエレベーターのようなものがあるとは。近代的だとは感じていたが、他の島との差に奏澄は素直に驚いた。
 セントラルは技術力も優れていて、他の島には無いものが山ほどある。技術の流出を防ぐため、持ち出し禁止になっているものや単純に価格が非常に高いものが多く、国外にはあまり普及していない。

「じゃぁ、私は中に入るから。メイズも、近くで時間潰してて」
「ああ。無理はするなよ」
「うん、わかってる」

 奏澄はメイズと別れ、緊張しながらも大図書館への階段を上った。入口の両脇には警備員が、バレルの長いマスケットを立て銃たてつつの姿勢で持っている。
 それを横目でちらりと見た奏澄は、なんだかちぐはぐな印象を受けた。近代的な国だというから、てっきりピストルやライフルも最新の物が揃っているとばかり思っていたが、そうでもないらしい。
 館内へ進み、受付を済ませる。何分なにぶん蔵書が多すぎるので自力で目的のものに辿り着くのは困難で、レファレンスサービスを利用した。無の海域や、はぐれものの島に関すること。噂話でしかないそれらはオカルトに分類されるらしく、係の人は少し笑って、関係のありそうな蔵書の場所を示した。
 書かれたメモを頼りに館内を歩き、目当ての棚に辿り着く。

「よし……頑張りますか」

 複数の本を抱えて、席に着く。結局文字は完璧に読めるほどにはならなかったが、ある程度どんなことが書かれているのかくらいは理解できるようになった。関係がありそうだ、と思う記述があれば、念のためメモを取って、後で仲間に見せる。そういう段取りになっている。
 元々、図書館での成果にはそこまで期待していない。誰でも閲覧できる本に確かなことが書かれているくらいなら、とっくに誰もが見つけているだろう。どちらかと言えば、マリーやライアーが行う情報収集の方がメインだった。
 それでも、異世界出身の奏澄が見ることで、何か気づくことがあるかもしれない。それ故の配置だった。
 例え大した成果が上がらなくても、自分にできることをする。そう決めた奏澄は、気合を入れて本を開いた。



 数時間。ひたすら本と睨めっこをした奏澄は、眉間に皺を寄せた。わかってはいたが、そう簡単に答えには辿り着けないようだ。
 『無の海域はセントラルが隠している』『無の海域は数百年に一度しか現れない』『無の海域の入口は黒の海域と白の海域の境目にある』『無の海域へは悪魔が誘う』等々。レファレンスの人がオカルトだと言ったのも道理で、陰謀論からスピリチュアルまで様々だ。
 しかし、読み物としては興味深かった。以前にメイズからも少しだけ聞いていたが、白の海域には神や天使が存在したという伝承が残されている。それと対を成すように、黒の海域には悪魔や魔物が存在していた。そして二つの勢力は、創世の頃から戦争をしていたという。
 争いは神々の勝利で終結した、とするものが多いが、曖昧な記載のものもある。真実は不明だが、現在は白の海域と黒の海域が争っているという話は聞いていない。世界の支配をセントラルが行っているということは、今は黒の海域もセントラルに従っているということだろう。
 わかったことは、白の海域と黒の海域は、他四つの海域と比べて、特別視されているということだ。少なくとも、どちらかが無の海域に関係しているのでは、と奏澄は予想している。

 ――少し、休憩するか。

 ぐっと体を伸ばしてから、本を元の棚へ戻す。それから体を動かすために、奏澄は館内を歩いて回ることにした。ついでに、トイレの場所を確認しておこうと思い立つ。これだけ広いのだから、行きたくなってから探し回るのは辛いだろう。
 ああいうのはだいたいフロアの端か、奥まったところにあるものだ。そう考えて壁沿いを歩き、奥の方を覗くようにしながら進んでいく。だが、一向に端と思われる場所につかない。
 どこから来たのかもあやふやになって、人の姿も見えなくなり、戻れなかったらどうしようと不安に駆られる奏澄。すると、通路の奥の方に箱のような、籠のようなものが見えた。

「あ、これもしかして」

 エレベーター、にあたるものだろうか。近くで見ると、冷たい金属の棒で組まれたそれは、牢のようにも見えた。どういう仕組みなのか外見そとみからは全くわからないが、それらしく見える。しかし、階を指定するようなボタンやダイヤルも見当たらないし、ドアの開閉すらできない。

「手で開いたりして」

 さすがにそれは不用心だろうか。そう思いながら押してみると、いきなりドアがガシャンと音を立ててスライドした。

「え」

 まさかそう動くとは思わなかったので、押した体勢のまま中へ倒れこむ。

「えっ嘘、ちょっと待って」

 急いで出なくては。立ち上がろうとした瞬間、がくん、とその箱は急降下した。

「きゃああああああああああああ!!」

 恐怖に絶叫する奏澄。
 何で、何で、何で!
 何で、のか。
 
 奏澄がいたのは二階のフロアだ。それより上はあるが、下はエントランスのある一階しかない。落ちるほど、下がるはずがないのだ。
 最悪二階から一階に落ちるくらいなら無事で済んだかもしれないが、体感でこれはかなり落ちている。このまま打ちつけられ、死んでしまうのではと嫌な想像が頭を過ぎり、涙が浮かんでくる。外を見る勇気は無くて、落ちている間、奏澄はぎゅっと目を瞑っていた。
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