私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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本編

緑の海域-2

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「とうちゃーく!」
「よーし、買い出し班こっちー」

 たんぽぽ団は次の島へと降り立った。カラルタン島で特に何も見つからなかったものの、コンパスに変化は無く、奏澄たちはとりあえず青の海域方面へ進路を取り、緑の海域を進行中だ。
 人数が増えたことで物資は以前よりも頻繁に補給する必要があり、途中の島々にはなるべく立ち寄っている。下船するメンバーを確認し終えた奏澄の元へ、上機嫌のラコットがやってくる。

「カスミ、デートしようぜ!」
「メイズの許可が取れたらいいですよ」
「またかよ!」

 ラコットが大げさに天を仰いだ。似たようなやり取りを何度もしているので、奏澄もすっかり慣れてしまった。

「しょーがねぇ、その辺でナンパでもすっかぁ」
「揉め事起こさないでくださいねー」
「信用ねぇなぁ」

 それがただの軽口であることもわかっているので、奏澄は苦笑で流した。
 ラコットに対しても敬語を崩すかどうかは迷ったのだが、今更口調一つで奏澄をどうこう思う者もいないだろうということで、そのまま話している。崩す時がくれば崩れるだろうし、特に意識して切り替えることはしない。

「んじゃ、今日はカスミはオレとデートな」
「ライアー」

 ぽんと肩を叩かれて、珍しい誘いに奏澄は驚いた。

「あ、ちゃんとメイズさんの許可は貰ってるから」
「メイズが?」

 デートだ、と言って許可を貰ったのだろうか。そう考えるとなんだかもやもやして、奏澄は首を傾げた。

「ていうか、メイズさんと相談の上、オレとカスミで偵察。あの人目立つから」
「ああ、そういう」

 ライアーとカスミの組み合わせなら、歳も近いし違和感が無い。お互いに相手に威圧感を与える見た目もしていないし、動きやすいのだろう。

「メイズが外れるってことは、セントラル関係?」
「そ。ちょっとギルドで確認しておきたいことがあって」
「ギルドに? それ、私行って大丈夫なのかな」
「うん、だから念のため変装的なことをね」
「え?」

 きょとん、と首を傾げた奏澄に、ライアーは悪戯っ子のような顔で笑った。



「おお、いいじゃん似合うじゃん」
「これはちょっとスカート短すぎない……?」
「えぇー、じゃぁこっち」
「それは背中が開きすぎだと思う……」

 ギルドに偵察に行くはずだったのに、何故か服屋にいる。全く臆することなく女性物の服を選べるライアーに、奏澄はいっそ尊敬の念を抱いた。

「じゃコレで!」
「ライアー、遊んでるでしょ」
「あはは」

 ぱっと見で奏澄だとわからないように、普段と違う服装をしようということになり、奏澄の服を買いに来た。
 しかしライアーが選ぶのは奏澄にはどれもこれも気が引けるものであり、かつライアー自身も本気で選んでいなさそうだった。

「もう、真面目に選ばないなら私自分で選ぶからね」
「奏澄に自分で選ばせると、メイズさんみたいになっちゃうじゃん」
「……どういう意味?」
「無難。飾りっけなし。それじゃ変装の意味ないし」
「そ、そんなことないし」

 奏澄が普段全く飾りけのない格好をしているのは、初期に節約しようと思ったことと、旅をするのに適している服装を選んだだけだ。選ぼうと思えば、TPOに合わせた服装くらい選べる。

「まぁまぁ、デートなんだし、選ばせてよ」
「次で最後にしてね」
「りょーかい」

 やけに楽しげなライアーが最後に持ってきたのは、奏澄の好みにも合う、派手過ぎず可愛らしいデザインの服だった。
 ふわりと揺れるロングスカート、ノースリーブのブラウスは袖口と襟に控えめなレースがあしらわれている。足元はローヒールのパンプスで、足首にストラップがついていた。

「スカートが長めだし、ほんとはもっとヒール高い方が合いそうなんだけどねー、走るかもしれないから」

 見た目だけで選んだのかと思っていたが、そのあたりはちゃんと考えているらしい。奏澄は鏡の姿を思わずまじまじと眺めた。

「どうです? 姫」
「え、あ、い、いいと思う」
「よし。んじゃそれ買って、顔も髪もいじろっか」

 何故か上機嫌のライアーは、そのまま服を購入し、メイクスペースで奏澄にメイクを施し、髪を編み込んだ。

「なんでライアー、こんなのできるの」
「んー? 女の子にモテるための努力なら惜しみませんよオレは」
「本当に尊敬する。なんでモテないんだろうね」
「上げて落とすのやめてもらっていい?」

 ふふ、と思わず笑いを零す奏澄に、ライアーは苦笑した。

「ほら、できたよ」
「わ……」

 奏澄は、鏡に映る自分を信じられない気持ちで見つめた。自分でだってメイクをしないわけじゃないが、正直あまり器用なことはできない。ライアーに整えてもらった姿は、自分でも見違えるようだった。

「すごい。ライアー、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」

 ふわりと笑った奏澄に、ライアーも嬉しそうに返した。

「それ、メイズさんに見せるの楽しみだね」
「えっ」

 急にメイズの名前を出されて、奏澄は動揺した。何故だか、顔が熱くなる。

「え、いや、これ変装だし、見せないでしょ」
「そのまま戻ればいいじゃん」
「だって、なんか……へ、変じゃない?」
「なんで? 可愛いよ」

 そういうことではない。この姿が変だとかそういうことではなく、わざわざ着飾った姿をメイズに見せることが変ではないか、ということなのだが。さらっと可愛い、と言われると、それ以上続けられなくなる。しかもこの台詞に全く他意が無いのだから恐れ入る。

「……ライアーがモテない理由がわかる気がする」
「えぇ!? 嘘、なんで!?」
「ちょっとだけルイのこと見習った方がいいよ」
「いやほんとアイツがモテるの理解できないんだけどツラかツラなのか」

 恨み言に変わっていく様子を見ながら、奏澄はくすりと微笑んだ。
 ライアーは、根本的に人を喜ばせることが好きなのだろう。手慣れた様子でわかる。多分、今までにもこうやって女性を着飾ってあげたことがあるのだと思う。自分ではない誰かのために、綺麗になりたい女性を。
 初めて声をかけてきた時もそうだった。ライアーは、弱っている女性を放っておけない。でも決してそれに付け込むことはしない。元気になって他の人の所へ行っても、それはそれで良かったと思ってしまうタイプだ。

 ――いい人止まり、なんだろうなぁ。

 ライアーに感じる妙な安心感は、そのあたりも関係しているのだろう。不憫だが、それがライアーの良い所なので、そこを好きになってくれる人と幸せになってほしい。

「ライアー、ほら、ギルド行くんでしょ」
「ああ、うん、行こっか」
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