私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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本編

白虎、邂逅-4

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 ようやく落ちつきを取り戻した三人の耳に、ばたばたと忙しない足音が響いた。かと思うと、上甲板にいたはずのルイが顔を覗かせた。

「あっいた!」
「ルイ。どうしたのさ、何かあったのかい?」

 マリーが問いかけると、ルイが興奮した様子で告げた。

「白虎の船がいます!」

 その言葉に、三人は息を呑んだ。マリーはルイの両肩をがっしと掴み、叫んだ。

「でかした!!」

 その言葉に、ルイは嬉しそうな、泣きそうな顔をした。ライアーも、力が抜けたように眉を下げて、大きく息を吐いた。

「あ~……奇跡って、起きるんだな」

 白虎海賊団は、探していた。まだ何の情報も得られていなかったが、まさか偶然にも海上で会えるとは。しかし、皆の反応は、元々の目的からではない。

「白虎の船には、船医がいる……!」

 微かに希望が見えて、メイズが確かめるように口にした。それに、皆が頷く。
 白虎海賊団は医者のいない島での医療活動を行うため、船医を抱えている。彼らの気質からしても、『急病人の少女』であれば、助けてもらえる可能性は高い。
 
「よし、白虎の船にはあたしとライアーで行こう。構わないかい?」

 メイズに確認を取るマリー。
 マリーは奏澄の様子を看てきたので、一番病状を把握している。丸腰の女性がいることは、安心材料にもなるだろう。ライアーも機転が利くし、交渉事には向いている。この二人であれば、任せられる。

「頼んだ」

 メイズの眼差しを受け止めて、マリーとライアーは力強く頷いた。



 近くにいたのは、正しく白虎海賊団の主船、ゴールド・ティーナ号だった。
 白虎へ向けて合図を送り、たんぽぽ海賊団はコバルト号を寄せた。ゴールド・ティーナ号に向かうマリーとライアーに全員が希望を託し、祈るような思いで戻りを待った。いち早く出迎えられるようにと、見張りと奏澄の看護を除いて、皆が上甲板に集まっていた。
 メイズは無意識に首から下げたペアリングを握りしめていた。こんなものに、何の力も無い。何の意味も無いのに、縋ってしまう。そこに思い出があるから。無機質なただの物でしかないのに、ほの温かい気さえする。この温かさは、記憶の温度だ。今の自分には、振り返りたくなるような記憶が、ある。
 どうかその思い出が、ここで途切れてしまわないように。

「戻ってきた!」

 乗組員の誰かが声を上げ、メイズは顔を上げた。メイズの元へ向かってくるマリーとライアーの表情は、暗い。まさか、と嫌な想像に鼓動が速まる。
 もしもの時は、その時は、何をしてでも。
 メイズは慣れ親しんだ武器を、指で確かめた。

「……駄目だったのか」

 硬い声色で問いかけるメイズに、マリーが緩く首を振った。

「いや、まだ断られたわけじゃないんだけど」

 煮え切らない返答に、メイズは視線で先を促す。

「白虎の船長が、副船長が頼みに来るのが筋だろうって。勿論、それがメイズだってわかった上でね」

 メイズは唇を引き結んだ。やはり、白虎はメイズの存在を快く思っていないらしい。マリーやライアーは言葉を尽くしてくれただろう。それでも、決断するに至らなかった。『黒弦のメイズ』の存在が、足を引っ張っている。

 邪魔をするなら殺してやる。
 殺してやる。殺せるものなら。殺して助かるなら。殺せばいいなら。

 ――それが例え、自分自身でも。

「メイズ!!」

 ぱん、と目の前で手を叩かれて、はっとする。今、何を考えたのか。
 メイズは、今度は意識的にペアリングを握りしめた。しっかりしなくては。約束を、違えるわけにはいかない。誓ったのだ。ここで命を投げ出すのは、彼女への裏切りだ。

「わかった。俺が、行ってくる」
「なら、あたしも一緒に」
「いや。一人でいい」

 マリーの申し出を、メイズはきっぱりと断った。
 殺されるつもりはない。だが、わざわざ呼びだすということは、制裁程度はあるかもしれない。そうなった時、巻き添えにするわけにはいかない。庇おうと、するかもしれないから。

「行ってくる」

 簡潔に告げて、白虎の元へ向かうメイズ。その背中に、声がかかった。

「行ってらっしゃい!」

 その言葉に、思わず振り返る。そこでメイズは、自分を見送る乗組員たちの顔を目にした。
 急に、視界が開けた気がした。
 唇を開いて、だが何を言葉にすることもなく、ただ吐息を漏らして。メイズは前を向き、歩を進めた。

 残された乗組員の誰かが、ぽつりと呟いた。

「……今、メイズさん、笑った……?」
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