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第2話 不機嫌な彼女
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10分休みにトイレから戻って自分の席に着くと、「おい」と声をかけられた。教室で私に声をかける人は限られている。誰だろうと思い顔を上げると、少し機嫌の悪そうな三好純が立っていた。
「今日は委員会の仕事、休みだと。さっき、小形が来てた」
「そうなんだ、ありがとう」
三好さんから委員会の話をされると思っていなかったので、少し驚いた。けれどもすぐに、委員会が休みなら放課後は生物室に行こうかな、と思考を巡らせる。
「あ、ちょうどいいところに!」三好さんの存在に気がついたひとりの女子が、パタパタと上履きを鳴らした。ここは私の席なのに、きっと、私のことなんて1ミリも視界に入っていないだろう。
名前も覚えていない、別グループの女子。彼女は期待を込めた目で、三好さんに「今日の放課後、女子会をやろうと思ってるんだけど、純さんも来てくださいよ!」と話し始めた。しかし、それとは対照的に、三好さんは不機嫌そうな表情を保ったまま、軽くため息をついた。
「……悪い、そういうのはパス」
「ええ~、最近パスばっかり! たまには来てくださいよ~」
三好さんに誘いを断られた女子は不満を漏らす。それから取ってつけたように「えーっと、倉益さんは? 女子会、どう?」と言われたので、つい「ごめんなさい」と頭を下げてしまった。
「委員会の仕事があるので……」
「あー、今週は2年が担当だっけ? りょーかい、それじゃあ純さん、気が向いたら来てくださいね!」
引き止められても困るけれど、私との会話はさくっと終わった。パタパタと上履きを鳴らして、彼女は所属グループへと戻っていく。その後ろ姿をしばらく眺めたあと、三好さんは私の方に顔を向けた。
「委員会は休みだって、いま言っただろ」
「私が参加しても、みんな楽しくないかなって……三好さんは行かないの? 女子会」
「そういう集まり、ダルいしウザい。話の内容も、毎回同じでつまんねーし」
三好さんがクラスの誰かと遊びに行った話はあまり聞かない。しかし、先ほどの女子は「最近パスばっかり」と言っていた。1年生のときは参加していたけれど、つまらなく感じて進級してからは断るようになったのかもしれない。
「……三好さんは、どんな話が好き?」
私と三好さんは去年別のクラスだったので、彼女の趣味や交友関係をよく知らない。だから、なんとなくで聞いてみたら、三好さんは目を丸くしていた。
「は? どんな話って……別に、おもしろけりゃなんでもいいよ」
「私も、楽しい話だったらなんでもいい……かな」
自分で聞いておきながら、確かに会話を広げづらい質問だったと後悔する。返しに困り、語尾が弱々しくなった私に気を遣ったのか、三好さんが「倉益は」と口を開いた。
「倉益は、どういう話がおもしろいって感じるんだよ」
「え、うーん……小さい生き物とか、そういうやつ……?」
「意味わかんねえ」
そのとき、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。そして、クラスメイトがぞろぞろと自分の席へ戻るのと一緒に、私たちの会話もそこで終了した。
三好さんは私と正反対のタイプだ。短く整えられた髪は明るい茶髪で、左耳にはピアスホールがある。きっと、休みの日はピアスをつけているのだろう。制服は開襟シャツに、股下数センチのスカート、それからくるぶしソックス。うちはそこまで校則の厳しい学校ではないけれど、生活指導の先生から注意されている姿をときどき見かける。
一方、私は衣替えをしても律儀に赤いリボンをつけて、長袖シャツにベスト、膝下スカートという模範的な格好だ。正直、暑苦しいし自分でもバカ真面目だと思っているけれど、真面目キャラを脱するタイミングを逃してしまったので、卒業するまで私はこのままだと思う。
――せめて、この三つ編みだけでも。
胸元まである三つ編みをつまみ上げたあと、やっぱりやめようと首を振った。三好さんのようなショートカットは、私には似合わない。それから、授業に集中しようと思い、現国の教科書を開いた。
「今日は委員会の仕事、休みだと。さっき、小形が来てた」
「そうなんだ、ありがとう」
三好さんから委員会の話をされると思っていなかったので、少し驚いた。けれどもすぐに、委員会が休みなら放課後は生物室に行こうかな、と思考を巡らせる。
「あ、ちょうどいいところに!」三好さんの存在に気がついたひとりの女子が、パタパタと上履きを鳴らした。ここは私の席なのに、きっと、私のことなんて1ミリも視界に入っていないだろう。
名前も覚えていない、別グループの女子。彼女は期待を込めた目で、三好さんに「今日の放課後、女子会をやろうと思ってるんだけど、純さんも来てくださいよ!」と話し始めた。しかし、それとは対照的に、三好さんは不機嫌そうな表情を保ったまま、軽くため息をついた。
「……悪い、そういうのはパス」
「ええ~、最近パスばっかり! たまには来てくださいよ~」
三好さんに誘いを断られた女子は不満を漏らす。それから取ってつけたように「えーっと、倉益さんは? 女子会、どう?」と言われたので、つい「ごめんなさい」と頭を下げてしまった。
「委員会の仕事があるので……」
「あー、今週は2年が担当だっけ? りょーかい、それじゃあ純さん、気が向いたら来てくださいね!」
引き止められても困るけれど、私との会話はさくっと終わった。パタパタと上履きを鳴らして、彼女は所属グループへと戻っていく。その後ろ姿をしばらく眺めたあと、三好さんは私の方に顔を向けた。
「委員会は休みだって、いま言っただろ」
「私が参加しても、みんな楽しくないかなって……三好さんは行かないの? 女子会」
「そういう集まり、ダルいしウザい。話の内容も、毎回同じでつまんねーし」
三好さんがクラスの誰かと遊びに行った話はあまり聞かない。しかし、先ほどの女子は「最近パスばっかり」と言っていた。1年生のときは参加していたけれど、つまらなく感じて進級してからは断るようになったのかもしれない。
「……三好さんは、どんな話が好き?」
私と三好さんは去年別のクラスだったので、彼女の趣味や交友関係をよく知らない。だから、なんとなくで聞いてみたら、三好さんは目を丸くしていた。
「は? どんな話って……別に、おもしろけりゃなんでもいいよ」
「私も、楽しい話だったらなんでもいい……かな」
自分で聞いておきながら、確かに会話を広げづらい質問だったと後悔する。返しに困り、語尾が弱々しくなった私に気を遣ったのか、三好さんが「倉益は」と口を開いた。
「倉益は、どういう話がおもしろいって感じるんだよ」
「え、うーん……小さい生き物とか、そういうやつ……?」
「意味わかんねえ」
そのとき、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。そして、クラスメイトがぞろぞろと自分の席へ戻るのと一緒に、私たちの会話もそこで終了した。
三好さんは私と正反対のタイプだ。短く整えられた髪は明るい茶髪で、左耳にはピアスホールがある。きっと、休みの日はピアスをつけているのだろう。制服は開襟シャツに、股下数センチのスカート、それからくるぶしソックス。うちはそこまで校則の厳しい学校ではないけれど、生活指導の先生から注意されている姿をときどき見かける。
一方、私は衣替えをしても律儀に赤いリボンをつけて、長袖シャツにベスト、膝下スカートという模範的な格好だ。正直、暑苦しいし自分でもバカ真面目だと思っているけれど、真面目キャラを脱するタイミングを逃してしまったので、卒業するまで私はこのままだと思う。
――せめて、この三つ編みだけでも。
胸元まである三つ編みをつまみ上げたあと、やっぱりやめようと首を振った。三好さんのようなショートカットは、私には似合わない。それから、授業に集中しようと思い、現国の教科書を開いた。
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