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残酷な遊び
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俺はあてもなく歩いとった。どうせ帰る場所一緒やねんけど。気分転換や。悲しげな虫の音が響いとる。
「……?」
虫の音が……止まった?
足を止めた。
タイミングのせいやろか。
やけに"ハッキリ"聞こえたんや。
森が呼吸を止めていた。
ザッ。
背後からの音。
身震いしてもうた。
おそるおそる背後を振り返ると――
そこには小さい子が立っとった。
……どことなく、儚げなやった。
日が還っていく。
入れ替わりにその子がやってきた。
……ふと、そんな気がしたんや。
俺とその子。ヘビと睨まれたカエルみたいやった。
声が出えへん。
有無を言わせぬ“何か”が、その子にはあった。
スッ。
その子がゆっくりと指した。
……なんや?
俺はその方向を見る。
細い獣道や。村人がよう通るんやろう。足場が踏み固められとる。
コイツがなん――
その子を振り向くと、もうその子はおらんなっとった。
獣道を歩く。生い茂る長い草を掻き分け進む。木々の間から光が差し込んできとる。
少し開けた場所で、日溜まりが出来とった。
俺はそこに立って、目を閉じた。
柔らかい日差しや……。
日の光に包まれながら、記憶に呼ばれとる気がした。
「キャハハハ」
数人の子どもたちがスルリと俺の脇を抜けて行った。
「おーい、こっちじゃ!」
一人が叫んどる。俺の進行方向に向かって。
ふと隣りを見ると、さっきの小さい影が立っとった。それはジッと呼ばれた先を見とる。
「ま、待ってぇな」
そこには"鬼"が泣きそうな顔をしてこちらに走ってきとった。
「こっちこっちー!」
「ほれ、逃げぇ」
「わー、こっち来るけぇ」
子どもたちの声が踊る。
鬼と付かず離れずの距離で。
まるで野犬の群れや。
野生の光景と重なる。
せやけど、あの子らに悪気はない。ただ遊びたい、それだけなんや。
その子は転んだ。
泣きべそをかいとった。
「――、――」
声が森に沈んでいく。
風が吹く。
一つ。
木々が揺れる。
また一つ。
お尻をペタンとつけて、瞳が震えとる。
……ああ、あったなあ。
そんな時分が――
そっとひざを曲げ、視線を合わせたった。
おーい、おーい。
遠くから、親しみの声が届いた。
「はよう来いよ~、『イケニエ』~!」
口を真一文字に結び、その子は立ち上がった。
「…………イケ、ニエ?」
俺はその場からしばらく動けんかった。
何か鉛を、いや、足を鎖にしばられたみたいや。
視線を左右に揺らす。
――おらん。
「さっきの、あいつ、どこ行ったんや」
俺の言葉に返事は帰ってこんかった。
木々のざわめきだけが、答えやった。
「……なんやねん」
――チリン。
鼓膜が音を拾った。
耳、おかしなった?
……聞き間違え、か?
――チリン。
いや、ちゃう。確かに聞こえとる。
……鈴の、鈴の音や。
吸い寄せられるように音の方へ、足が動いた。
理屈やない。光に誘われる蛾みたいやった。
♪ お供えひとつ かげひとつ
まわるまわる 鈴が鳴る
ひかりの外で 手をつなぐ
きっときっと かみさま笑う ♪
かみさま笑う、かみさわ笑う。
かみさま笑う、かみさわ笑う。
チリリン、チリリリン。
二人の子が同時に鈴を鳴らした。満ちていた音が、潮のように引いていく。
かみさま笑う、かみさわ笑う。
かみさま笑う、かみさわ笑う。
かみさわ、かみさわ、かみ……わ……
温度の無い視線の数々が、一斉に俺を見た。
ゆっくり円陣がほどけていく。
しゃがんだ娘が現れる。
「…………」
固唾を飲む。
ツバを飲むのが精一杯や。
う、動かれへん。
娘が顔をあげる。
ゆっくりこちらに微笑んだ。
「……冷めんうちにね」
俺の頭の奥で、あの台所の声がかすかに重なった。
その言葉と同時に――
群れの中から、小さい子が一人、歩み出た。
まっすぐ俺の方へ。
チリン……
その子から鳴った気がした。
息を呑む。
鈴の音が反響する。
「お前は……誰や」
後ずさる。
娘に支えられた。
小さい子が近づく。
口が動く。
「け、も、の」
視界が閉じた。
―――
夕日が落ちかけとる。
少し肌寒い。
思わずポケットに手を突っ込んだ。
――チリン。
頭ん中で、子どもたちが笑っとる。
「……?」
虫の音が……止まった?
足を止めた。
タイミングのせいやろか。
やけに"ハッキリ"聞こえたんや。
森が呼吸を止めていた。
ザッ。
背後からの音。
身震いしてもうた。
おそるおそる背後を振り返ると――
そこには小さい子が立っとった。
……どことなく、儚げなやった。
日が還っていく。
入れ替わりにその子がやってきた。
……ふと、そんな気がしたんや。
俺とその子。ヘビと睨まれたカエルみたいやった。
声が出えへん。
有無を言わせぬ“何か”が、その子にはあった。
スッ。
その子がゆっくりと指した。
……なんや?
俺はその方向を見る。
細い獣道や。村人がよう通るんやろう。足場が踏み固められとる。
コイツがなん――
その子を振り向くと、もうその子はおらんなっとった。
獣道を歩く。生い茂る長い草を掻き分け進む。木々の間から光が差し込んできとる。
少し開けた場所で、日溜まりが出来とった。
俺はそこに立って、目を閉じた。
柔らかい日差しや……。
日の光に包まれながら、記憶に呼ばれとる気がした。
「キャハハハ」
数人の子どもたちがスルリと俺の脇を抜けて行った。
「おーい、こっちじゃ!」
一人が叫んどる。俺の進行方向に向かって。
ふと隣りを見ると、さっきの小さい影が立っとった。それはジッと呼ばれた先を見とる。
「ま、待ってぇな」
そこには"鬼"が泣きそうな顔をしてこちらに走ってきとった。
「こっちこっちー!」
「ほれ、逃げぇ」
「わー、こっち来るけぇ」
子どもたちの声が踊る。
鬼と付かず離れずの距離で。
まるで野犬の群れや。
野生の光景と重なる。
せやけど、あの子らに悪気はない。ただ遊びたい、それだけなんや。
その子は転んだ。
泣きべそをかいとった。
「――、――」
声が森に沈んでいく。
風が吹く。
一つ。
木々が揺れる。
また一つ。
お尻をペタンとつけて、瞳が震えとる。
……ああ、あったなあ。
そんな時分が――
そっとひざを曲げ、視線を合わせたった。
おーい、おーい。
遠くから、親しみの声が届いた。
「はよう来いよ~、『イケニエ』~!」
口を真一文字に結び、その子は立ち上がった。
「…………イケ、ニエ?」
俺はその場からしばらく動けんかった。
何か鉛を、いや、足を鎖にしばられたみたいや。
視線を左右に揺らす。
――おらん。
「さっきの、あいつ、どこ行ったんや」
俺の言葉に返事は帰ってこんかった。
木々のざわめきだけが、答えやった。
「……なんやねん」
――チリン。
鼓膜が音を拾った。
耳、おかしなった?
……聞き間違え、か?
――チリン。
いや、ちゃう。確かに聞こえとる。
……鈴の、鈴の音や。
吸い寄せられるように音の方へ、足が動いた。
理屈やない。光に誘われる蛾みたいやった。
♪ お供えひとつ かげひとつ
まわるまわる 鈴が鳴る
ひかりの外で 手をつなぐ
きっときっと かみさま笑う ♪
かみさま笑う、かみさわ笑う。
かみさま笑う、かみさわ笑う。
チリリン、チリリリン。
二人の子が同時に鈴を鳴らした。満ちていた音が、潮のように引いていく。
かみさま笑う、かみさわ笑う。
かみさま笑う、かみさわ笑う。
かみさわ、かみさわ、かみ……わ……
温度の無い視線の数々が、一斉に俺を見た。
ゆっくり円陣がほどけていく。
しゃがんだ娘が現れる。
「…………」
固唾を飲む。
ツバを飲むのが精一杯や。
う、動かれへん。
娘が顔をあげる。
ゆっくりこちらに微笑んだ。
「……冷めんうちにね」
俺の頭の奥で、あの台所の声がかすかに重なった。
その言葉と同時に――
群れの中から、小さい子が一人、歩み出た。
まっすぐ俺の方へ。
チリン……
その子から鳴った気がした。
息を呑む。
鈴の音が反響する。
「お前は……誰や」
後ずさる。
娘に支えられた。
小さい子が近づく。
口が動く。
「け、も、の」
視界が閉じた。
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夕日が落ちかけとる。
少し肌寒い。
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――チリン。
頭ん中で、子どもたちが笑っとる。
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