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仄かな灯籠
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目を覚ました。天井の木目が、ぼんやり浮かんでくる。
「……どこや、ここ」
目をこすりながら身体を起こす。
ギクリとした。
自分の影が、揺れとる。
紙灯籠が仄かな光を灯しとった。
ふう、と息をつく。
――寝てもうたんか。
泡のように、これまでのことが浮かんでは消えていく。
遊ぶ子どもたち。奥さんの見たんけ。村長の"見"たんか。森にいた、獣と――
チッ、舌打ちをする。頭を掻きむしった。
子どもも、奥さんも、村長も……
影だけが真実を知っている気がする。
灯籠で揺れている。
――なんでや?
どうやら、まだ何か知らんことがある。
俺は決心した。……もう少し調べる必要がある。
にわかに廊下が騒がしくなる。
トタタッ、と小さな足音。続いて弾むような笑い声、たしなめる女性の声も混じる。
――隣に誰か、おる。
声がくぐもってるから、よう分からへん。
子どもと女性の声が薄っすらと聞こえてくる。
壁の横に立ったけど、よう聞こえへん。
俺は頭を掻きむしり、ドアの鍵を掛けることに決めた。
意識を会話だけに集中する。この村、この異変に関することは一言も見逃す訳にいかんのや。
「えー、いいなあ。かみさまのとこに行けるんじゃろ?」
母親はその時、鼻白んだ。それも一瞬のことで、すぐに微笑んだ。
「ええねえ、ほんに幸せなことじゃ……」
慈しむようにゆっくり我が子を撫でた。
――なんや?
この会話の違和感は。
ドクン。
胸が高鳴った。汗が一筋頬を伝う。
なぜか分からへん。視界がじょじょに狭まっとる。
考えがまとまれへん。影が、灯籠の灯りで、揺れとる……。
ミシリ……ミシリ……
思考の底を這い寄るような音。
俺は、薄ら寒い思いで、その音を聞いていた。
俺は音を立てないよう、静かに鍵を、開けた。
――カチリ
無機質な解除の音が響く。そんな些細な音にさえ、俺は一瞬息を止めた。
ふと思い出したように、足元が凍りついた。まるで霜が下りたようや。
ゆっくり息を吐き、呼吸を止める。心臓の音を聞きながら、ゆっくり引き戸を押した。
扉の先は"闇"やった。しかしそれは灯籠の灯りでゆっくりと輪郭を広げていく。
数センチのドアのすき間、眼球だけで周囲を探る。
光はか細く、何一つ得られるもんがない。
まるで"逃亡者"になったような気分やった。
廊下には灯籠が等間隔で並んどった。
そのひとつに、黒い塊がゆっくり近付いていく。
――ミシリ、ミシリ……
あいつやったんか。
緩慢な動きで、ロウソクの交換をしとった。
俺はゆっくりとドアを開け、灯り番の方を向いた。
互いに軽く会釈し、そのまますれ違う。
廊下に出てみると、等間隔やと思っとった灯籠は、事実はちゃう。
部屋の前に並んどる灯籠の中には、消えとるもんもあった。
「……消えたんか」
灯り番は、僅かに頷いた。
そこだけ、闇に冒されとるようやった。
通り過ぎたあと、ふと視線を感じた。
「……なんや?」
振り向くと、灯り番はゆっくり頭を下げとった。
灯り番の立っとる位置は、親子の部屋の前やった。
「……どこや、ここ」
目をこすりながら身体を起こす。
ギクリとした。
自分の影が、揺れとる。
紙灯籠が仄かな光を灯しとった。
ふう、と息をつく。
――寝てもうたんか。
泡のように、これまでのことが浮かんでは消えていく。
遊ぶ子どもたち。奥さんの見たんけ。村長の"見"たんか。森にいた、獣と――
チッ、舌打ちをする。頭を掻きむしった。
子どもも、奥さんも、村長も……
影だけが真実を知っている気がする。
灯籠で揺れている。
――なんでや?
どうやら、まだ何か知らんことがある。
俺は決心した。……もう少し調べる必要がある。
にわかに廊下が騒がしくなる。
トタタッ、と小さな足音。続いて弾むような笑い声、たしなめる女性の声も混じる。
――隣に誰か、おる。
声がくぐもってるから、よう分からへん。
子どもと女性の声が薄っすらと聞こえてくる。
壁の横に立ったけど、よう聞こえへん。
俺は頭を掻きむしり、ドアの鍵を掛けることに決めた。
意識を会話だけに集中する。この村、この異変に関することは一言も見逃す訳にいかんのや。
「えー、いいなあ。かみさまのとこに行けるんじゃろ?」
母親はその時、鼻白んだ。それも一瞬のことで、すぐに微笑んだ。
「ええねえ、ほんに幸せなことじゃ……」
慈しむようにゆっくり我が子を撫でた。
――なんや?
この会話の違和感は。
ドクン。
胸が高鳴った。汗が一筋頬を伝う。
なぜか分からへん。視界がじょじょに狭まっとる。
考えがまとまれへん。影が、灯籠の灯りで、揺れとる……。
ミシリ……ミシリ……
思考の底を這い寄るような音。
俺は、薄ら寒い思いで、その音を聞いていた。
俺は音を立てないよう、静かに鍵を、開けた。
――カチリ
無機質な解除の音が響く。そんな些細な音にさえ、俺は一瞬息を止めた。
ふと思い出したように、足元が凍りついた。まるで霜が下りたようや。
ゆっくり息を吐き、呼吸を止める。心臓の音を聞きながら、ゆっくり引き戸を押した。
扉の先は"闇"やった。しかしそれは灯籠の灯りでゆっくりと輪郭を広げていく。
数センチのドアのすき間、眼球だけで周囲を探る。
光はか細く、何一つ得られるもんがない。
まるで"逃亡者"になったような気分やった。
廊下には灯籠が等間隔で並んどった。
そのひとつに、黒い塊がゆっくり近付いていく。
――ミシリ、ミシリ……
あいつやったんか。
緩慢な動きで、ロウソクの交換をしとった。
俺はゆっくりとドアを開け、灯り番の方を向いた。
互いに軽く会釈し、そのまますれ違う。
廊下に出てみると、等間隔やと思っとった灯籠は、事実はちゃう。
部屋の前に並んどる灯籠の中には、消えとるもんもあった。
「……消えたんか」
灯り番は、僅かに頷いた。
そこだけ、闇に冒されとるようやった。
通り過ぎたあと、ふと視線を感じた。
「……なんや?」
振り向くと、灯り番はゆっくり頭を下げとった。
灯り番の立っとる位置は、親子の部屋の前やった。
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