私、ハンクラー!今、ダンジョン にいるの

木野葛

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ダンジョン学校編

ダンジョン探査開始

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 それぞれのステータスチェック後は、ダンジョン学校から持ってきたそれぞれの武器を手にとりダンジョンに入る。今回はパーティーは結成せずに入ろうということがバスの中で告げられていたためパーティーは組むことなくダンジョンに入ることになる。
 ダンジョンの一階ではあまりチームを組む必要がなく、むしろマイナスな面が大きいと小野川は言う。
 パーティーを結成することで、一人がモンスターを倒すと他の人にも経験値が入ることがわかっている。しかし、モンスター一体の経験値をパーティーの人数分で分け合うと言う形になるため一人がモンスターを一体倒すよりも、格段に入ってくる経験値が少なくなってしまう。ゲームではよくあるシステムだが、リアルになると揉め事の元になることが多い。そのため一人でもなんとかなる一階は、パーティーを結成せずに行くのが定石となっていた。

 今日はとりあえずダンジョン内の雰囲気を味わうことが目的だ。
 小野川を先頭に、年長である山崎と作菜が並び、真ん中に神田と佐藤、後ろに東山と小川、殿にはまだ授業を受けたことのない杉崎という男性の三十代ほどの講師がついた。元自衛官だという杉崎は、自衛官らしく鍛えられていて刀を腰に差している。基本的に講師二人は手を出さずに見ているだけとあらかじめ告げられていたので、この布陣は生徒同士が話し合って決めた。
 ダンジョン内にいるときには、基本的にこの布陣でいくことにしようということになっている。一人一体は必ずモンスターを倒すように言われているため、場合によってはローテーションしようということで話し合いは終わった。

「それじゃあ、行こうか」

 最年長ということで、山崎が言った。どことなく緊張感がないのは、作菜がダンジョンの話をしてしまったからだろうか。緊張感のない様子に、不思議そうに講師二人が生徒たちを見る。

(私のせいです。ごめんなさい)

 内心謝りながら、自分だけは緊張感を保とうと気を引き締めた。

 ダンジョン内は、昔入ったダンジョンと同様に妙に静かだった。ゲームのようにBGMがあるわけではなく、風の音や車の音が遠くから聞こえるわけではない。
 ただ自分たちの足音や呼吸音だけがよく耳についた。それがソワソワした落ち着かない気分を作り出す。
 不思議と初級のダンジョン内はやや薄暗いが、視界を確保するには問題ない程度の明るさを保っている。一見レンガ造りのように見える通路の天井にはランプなどは何もない。光源がなんなのかは、ダンジョン探索を初めて五年たった今でもわかっていない。ただ、おそらく健康には害はないだろうと考えられている。
 しばらく歩くと、徐々に足が重たくなってくる。そういえば、前に入った時もそうだったな、と作菜は思い出した。若さと興奮と勢いで一時間程度ダンジョンをただ歩いただけだったが、ダンジョンから出た頃には部活の大会で二試合やったときのような重苦しい疲労感を背負っていたことも思い出した。
 代わり映えのしない景色は時間感覚を狂わせる。十分ほど歩いたのではないか、と作菜は思ったが、実はそれほど歩いてはいないのかもしれない。生憎時間を確かめる時計などは持っていないため、どれだけ歩いたのかわかりにくい。

「来たぞ」

 このままモンスターなど出ないのではないか、と雰囲気が垂れ始めた頃に、小野川が短く告げた。
 気がつけば音もなく大きなネズミが、こちらを敵意を持って見据えていた。
 チューとキューの中間のような威嚇をする鳴き声。一際大きな鳴き声を発すると、バレーボールよりもやや大きいネズミが襲ってきた。

「ひっ!」「キャァ!」

 生理的な気持ちの悪さが、作菜と佐藤の悲鳴になって漏れ出る。
 しかし、ネズミはあっさりといつの間にか剣を抜いていた小野川に切り捨てられていた。あまりに早く、あっという間の出来事だった。
 切り捨てられたネズミは、光に包まれて消え去り床には研磨前の宝石のような一円玉サイズの石がコロンと転がった。そのあまりにあっさりした出来事に、生徒たちはぽかんと女性講師を眺める。
 小野川が転がった石を無造作に拾う。

「今のが、獣系ダンジョンによくいる狂いネズミだな。攻撃手段は主に体当たりと噛みつき、引っ掻く。まあ、真っ直ぐにしか向かってこないから、倒すのに必要なのはタイミングと度胸だ。そしてこれが、ドロップアイテムの魔石。授業でも言ったが、一番下の等級の魔石になる」

 半透明な小さな石は、一見研磨してない宝石の原石のようにも見える。

「色がついている場合は、属性がついている。無色の魔石は使い道が今のところ見つかっていない」

 そのため、産出量も多いことから価格も低く、これをどれだけ集めてもあまり金にはならない。
 講師らしい言葉を聞きつつも、思わず作菜はくすんだ魔石をじっと見つめた。魔石としての価値はあまりないかもしれないけれど、これ、磨いたらいいハンクラ材料になるのではないか、とハンドクラフト好きとして考えてしまう。
 硬さはどれくらいだ?穴を開けられるか?開けられないなら、レジンに封入してしまうのもありだ。ワイヤーアクセサリーにするのも萌える。
 初めて間近でモンスターが殺されるところを見てショックは受けているが、妙に冷静な部分がハンドクラフトに意識が向く。

「さて、次はお前たちにやってもらうが、誰から行く」
「あ、私やります」 

 作菜が手を上げて軽く請け負うと、隣にいた山崎がぎょっとしたようだった。

「積極的だな。できるのか?」

 感心したような、お前から言い出すとは思わなかった、というような小野川の声。ダンジョン内で積極性を見せるキャラクターだとは、講師にも思われていなかったのだろう。
 しかし、作菜としては浮ついた雰囲気にしてしまった責任もあるし、体力のある最初のうちにさっさとモンスターを倒すという体験をしておきたかった。確かに悲鳴はあげたが、モンスターが怖かったというよりもネズミが気持ち悪かったという部分の方が大きい。

「やります」

 早いか、遅いかの違いだけだ。
 またしばらくすると、先頭を歩いていた小野川が「出た」と告げる。その視線の先にいたのは、ネズミよりも一回り大きい水饅頭のような生き物だった。
 スライムだ。ダンジョンでは最もポピュラーなモンスター。確かに見かけは半透明なため、気を抜いたら薄暗いダンジョン内では見逃しそうになる。
 見かけが水饅頭のせいか、ネズミのような嫌悪感はない。運がいいと作菜が思っていると、小野川が下がる。
 それに合わせて武器を構えて前に出ると、スライムがポーンポーンとボールのように弾む。何度か弾んだところで、ポンッ!と跳ね上がり、体当たりをしてきた。体当たり、というかそこそこ速いボールが飛んできたように感じた。
 一見半透明のボールのようなスライムの動きは、思ったよりも早いと斜め後ろでみていた山崎は思ったが、最初に志願した一見普通のお嬢さんの女性は思ったよりも冷静に棒を突き出した。スライムに棒が突き刺さる。

「あ、寒天」

 刺さった瞬間に、思わず漏れた感想。適度な硬さのぶりんとした殴り心地だった。
 同じく斜め後ろで見ていた小野川が、ぶふっと小さく吹き出すのが聞こえる。
 そのまま、棒を横になぎ払うと、スライムは壁に打ち当たり体を震わせて光に包まれて消えていく。周りが思ったよりも、ずっと冷静な行動だった。モンスターを倒した後には、コツンと音を立てて小瓶が落ちた。

「珍しい。一発目でポーションとは、運があるな。スライムがポーションを落とすことはごく稀だ」

 心底驚いた、といった小野川の声。本当に珍しいことなのだろう、ポーションと作菜を交互に見ている。
 後から調べてみるとスライムが落とすのは、一番小さな魔石とビー玉のようなスライムの核がよく落ちることがわかった。ポーションはいわゆるレアドロップというものだ。インターネットはそんな情報も簡単に調べられる。

「運いいんですかねー」

 ここ半年の出来事を思い出して思わず遠い目になる。運がいいということは否定しておく。こんなのは、たまたまだ。
 そういってドロップアイテムであるポーションを手に入れると、作菜はまじまじと観察した。怪我を治すというポーションは、飾り気のない小瓶に入っていた。ガラスっぽい素材で封をされている。中身の液体は青色で、お世辞にも美味しそうには思えない。

「・・・青色1号」
「似ているのには同意する」

 着色料に似た色に思わず呟くと小野川が頷いた。作菜がふっと気がついたように手を開いたり閉じたりする動作を見て、「わかったか」と聞いてきた。

「何か・・・入ってきた感じですね?」

 わずかばかりの何かが、体にスッと入り込んだような気がする。かと言って何かが大きく変わったわけでもなく、気のせいかと思うばかりの僅かさだ。

「それがいわゆる経験値というやつだ」

 モンスターを倒すと、誰でも経験値を得る。ある一定の量が貯まるとレベルアップする、というゲームのようなルールはこのダンジョンでも当てはまるルールらしい。
 ただし、レベルは上がれば上がるほど経験値が溜まりにくくなっていく。現に、毎日のようにダンジョンに潜っている小野川は、ちょっとやそっとのモンスターを倒したぐらいではレベルが上がらないと告げた。

「当面はレベルアップすることが目的だ」

 講師のその一言で、再びダンジョン探検は再開された。

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