妖しの彼女

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まだらなお姫様

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何を隠そう。私の身長は1cmである。


掌サイズ。なんて可愛いものじゃない。しかし今は小指の先ほどの大きさでしか存在していない。もちろん、このままでいる事に満足も納得もしていない。私は大きくなりたい願望を持っている。


  -・-


私はマダラオオヒメ。正確にはマダラオオヒメだったもの。浅木幸太の右手にとり憑いた妖怪だ。

井上香織の意識が生み出した邪推と欲望の生み出した平成の怪物。浅木幸太を喰らい尽くし、この世に新たな存在意志を持つ・・・はずだった。全ての誤算はあのクソビッチアバズレ女のせいだ。

浅木幸太の周りにまとわりつく蜘蛛のようなクソ女(私はすでに蜘蛛から脱却しているのでセーフ!)綾篠七海がいる限り、うかつに浅木には手が出せん。何とかこれを打開せねば、一生1cmの可愛い妖怪に成り下がってしまう。

私は彼の手の甲から、ゆっくりと5mm程度身を乗り出し様子を窺う。

よし、彼は勉強しているようだ。私の存在に気付く事はない。本来、私は宿主の持つ邪推や欲望を糧に成長するのだが、もはやその機能さえ微弱なものだ。今の私にできるか分からないが、少しずつ彼の血を抜き取る事で、意識の持つエネルギーよりもっと大きな力を摂取できるかもしれない。むろんバレないように行う必要がある。ちょっと何を言ってるか分からないけれど、私は何かしら行動にでる必要がある。


(さて、どうしたものかな?)


血を抜き取る。


簡単に考えたは良いけれど、コレはコレでどうすればいいのか分からない。蚊のように血を吸う機能はあいにく持ち合わせていない。とはいえ、爪で引っかくと痛みで気付かれてしまう恐れがある。かもしれない。

いくら思案せども答えはでない、そもそも思案で答えが出る問題でもない。そうして力を失った私が取った行動は一つだった。直接、手の甲に唇を押し当て蚊のように血を吸うのだ。もはや、できるかできないかではない。己を信じてトライしていくのみなのだ!

勉強している彼の手に気付かれないようにそっと唇を寄せたその時、ピリリと携帯の着信がなる。浅木が携帯に目を向けるよりも先に、その姿を消す。間一髪だった。


「・・・もしもし?綾篠さん?どうしたの?」


どうやら電話の相手は憎き綾篠七海その人らしい。


「え?キスした?僕が?誰と?」


ふおぉぉ!まさか見ている!?

私が成長しないように何かしらの方法で探っている!?


「何を言ってるんだよ・・・うん。そう。1人だよ」


2人だよ!

しかしまだ摂取していないし、それをキスと表現するのは何かしらの歪みを感じるよ。


「・・・そんなに心配なら今から来る?」


余計な事言うんじゃねぇぇ!

本当に来たら困るでしょうがぁ!


「うん・・・分かった。また明日学校でね」


浅木はそう言って携帯を机の上に置いた。どうやら来る事はないようで安心した。そして一つ分かった事がある。これまで身を晒した事がないわけではない。にも関わらずこの場で監視されている状況にはカラクリがある。それは・・・


監視されているのは、私じゃなくこの部屋だ。という事。


カメラか!?それとも呪術的なもの!?エスパー!?どれも正解でありそうな疑問に答えは出ないし、今それを解決する事もできない。解決したらそれはそれで問題も起きそうでもあるよね。でも、それはそれでやり様があるというもの。ようは監視されていても、彼女自身が見てない時間で事を済ませば問題ないという事。つまり深夜、寝静まったところが狙い目という話だ。


深夜3時を回った。浅木は何も知らずに寝息をたてて静かに眠っている。

時は満ちた。私は彼の掌から身を乗り出す。カーテンの隙間から月の光が差し込んできていて、この程度の明るさがあれば周囲の確認はできる。よいしょと小さく呟いて体を腰まで持ち上げると、身を屈めて唇を寄せる。ヒラヒラと微かに揺れるカーテン。その奥に私は見た。

髪の長い女性が不自然にも2階にあるはずのこの部屋の窓から、部屋を覗き込んでいる。私は声にならない悲鳴をあげ浅木の手の中に逃げ込んだ。


(来てるじゃねぇかぁぁぁ)


 -・-


私は憔悴し切っていた。

朝・昼・晩。全く隙がない。隙が無いという事もあるけど、強行した後の報復が恐ろしいという事もある。うん。そういうわけで残された手段は一つしかない。それは浅木に綾篠に対して何かしらの良からぬ欲望を抱いてもらう事だ。方向としては2種類考えていて、一つは綾篠以外の女に手を出すようそそのかす。もう一つは浅木に綾篠に対して良からぬ劣情を抱いてもらう!つまり男女関係だ。


うふふ。

綾篠め、私の掌で踊ってもらおうじゃないか。

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