生き返った俺は、親友を救いたい!―何度やりなおしになっても、俺はお前と一緒に生きていきたい―

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10.届かない声(過去)

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『ん?』

 変わらずウェルトに守られた空間で、やることもなくぼーっと自分が埋まってるだろう地面を見て戻れないかと考えていた時、そこに初めて変化が訪れた。

 ざわりと変わった空気にそちらを見れば、暗雲と枯れた大地、瘴気の霞による重苦しい景色の中に一人、真っ黒な衣装にマントを靡かせた男がこっちに歩いてきているのが目に入った。

『!』

 ウェルト!!

 そう、叫びたかったはずが、言葉を失った。

 ずっと待ち望んでいた男の登場に、生きてたなって喜びとか、よかったって嬉しさに体がブワッと歓喜に沸きだったのに、それが本能的な恐怖からであったのかよくわからなくなった。

 息をすることを忘れたかのように緊張が体を支配し、心臓が嫌な音を立てる。

 あの日と同じように、ウェルトが歩く道には血の道ができる。一歩一歩進む足元には黒い瘴気が舞い、ウェルトが通る道が赤黒く染まっていく。

 ……ウェルトのはずなのに、俯いて見えない表情と放たれる禍々しい気配はとても人間だとは思えなくて、その姿は聖騎士共が言っていた化けーー

『ッ!!』

 ッ違う。あれはウェルトだ!!

 過った馬鹿な考えを頭を振ることで消し去り、俺はなんとか言葉を搾り出した。

『……ウェルト?』

 それは何やってんだと自分を問いただしたくなるくらい怯えと不安に満ちた声だった。

「……やっと……やっとお前を殺した連中を捕まえることができたんだ」

 墓の前に立ったウェルトは酷く疲れ切った声で、ドスッと重たい音を立て、手に持っていたものを置いた。

 ――それはどれも苦痛に満ちた人間の首だった。

『っ……おい、ウェルト! なんだよこれは!!』

 胸倉を掴もうと伸ばした手はスカッと空を切り、すり抜ける。

 くそっ、やっぱ掴めねぇのかよ! 
 しかもウェルトの奴、俺のこと見えねぇのか!!

『おい! ウェルト!! ウェルト!!!』

 必死に呼びかけるも、ウェルトは俺に気づかず片膝をつく。

 ウェルトが置いた黒い物体――生首へと目をやり、よく見れば、どこか見覚えがあった。
 それはあの日、俺達を殺そうと追ってきていた聖騎士のうちの三人の首だった。

 ……けど、あいつらの髪と瞳は青とかオレンジとかそんな色鮮やかな色だったはず。なんで全員真っ黒なんだ?

 違和感を感じながらも、俺はウェルトの前に回り俯く顔を上げさせようと肩に触れる。けれど、やっぱりすり抜ける。
 そんな自分の手に歯噛みした。

「……ルクス。遅くなってすまない」

 重く昏い声でウェルトが言う。

「やるべきことが多く、少し時間が空いてしまった。だが、いい土産を持ってきただろう?」

『っ……土産って』

「こいつらはな、お前を殺したあと逃げたんだ。それを今日やっと捕まえることができてな。遅いと思うか? ……そうだな。少し泳がせていたから、時間がかかってしまった」

 ウェルトは俺に喋りかけているようで喋っていなかった。まるで何かを隠すよう墓から目を逸らしながら言葉を紡ぐ。

「お前と同じ恐怖を味わわせたかったんだ。理不尽に責め立てられ、命を奪われる恐怖を。お前を殺したんだ。当然だろう? だがな……だが……ははっ、こいつらは死ぬ間際になんと言ったと思う?」

 そう言って、ここに来て初めてウェルトはゆっくりと顔をあげた。

「『死にたくない』などと宣ったんだぞ?」

『……っ』

 そこには、酷く淀んだ瞳があった。
 泣きそうに見えて、でも涙は見えない。その瞳の闇の深さに息を呑み、まるで心臓が鷲掴みされたかのような錯覚に陥った。

 ……人の目が、こうまで昏い色を帯びれるものなのか?

「……私達は……一言でも殺さないでくれと言ったか? 死にたくないと言ったか? ……ただ話を聞いてくれと言った私達の言葉を……っ何一つ聞かず罪を押し付けてお前を殺した癖に、自分達は死にたくないだと!!!」

 荒がっていく語気に、ビリビリッと空気が震えた。

「黒は悪なのだろう? 生きていてはいけない色なのだろう!? なのに自分達が黒に染まった途端死になくないだと!? ははッ何が正義だ。何が神の使徒だ選ばれた騎士だ!! 現状を理解しようともせず! ただ他人に責を押し付け関係のない者までも断罪し正義を遂行したと酔いしれ語ることしかできない愚者共がッ!! 自分の番になればっ……こうも無様に命乞いをするしかない人の皮を被った悪魔共がッ。っ私とっ……私と同じ大切なものを殺されれば嘆く心を持っているのにっ……なぜっ……ああも執拗に私達を追い詰めお前を殺したんだッ!! なにがっ……私達と違うというんだ!!」

 泣くように叫んで、怒るウェルトに呼応するようウェルトを中心に黒い霧が広がり出す。
 その霧が触れれば途端に花は枯れ、地面がどす黒く滲んでいった。

『!』

 ガラッと崩れる音に後ろを振り返れば、石が、せっかくウェルトが俺のために置いてくれた墓標が風化するように崩れていき、ボロボロになっていく。

『……あ……や、やめろウェルト。お前が俺のために作ってくれた場所なんだろ?』

 震える声で言うと、そんな声が届いたかのようにウェルトは「ああ」と虚ろな目で顔を上げ、ヨロヨロと立ち上がり、俺を通り過ぎ墓標へと手を伸ばす。

「すまないルクス。少し瘴気を漏らしてしまったようだ」

 触れた場所からはらっと砂が落ちる。
 だが、それ以上は崩れることはなく、ウェルトの言葉に周囲に漂っていた瘴気がウェルトの元へと戻るように消えていった。

 ……どうなってんだこれ。
 は? 意味がわかんねぇ。漏らしたってなんだよ。まるで自分で瘴気の出し入れができるみてぇじゃねぇか。

 お前ができるのは瘴気を吸収して魔力にできることなんじゃないのか? 純粋な魔素に戻せることなんじゃねぇの? 
 なんで……瘴気を操れるみてぇなこと言うんだよ……。

「……ルクス」

 呆然としていれば、悲哀に満ちた声が耳に届く。ウェルトは額を俺の墓標に当て、目を瞑っていた。

 その姿が言葉に言い表せないほど悲痛で、哀れで、どうしようもない悲しさが湧き上がってきた。

『……俺はここにいるぞ、ウェルト』

 触れられないとわかっていてもその背に向かって手を伸ばす。
 当然のごとく手は空を切って、忌々しく自分の手を見下ろした。

 これは明らかに俺を殺されたことによるウェルトの復讐だ。
 こんなことになってるなんて、少しも考えなかった自分の馬鹿さ加減に呆れる。

 あんなにも、俺が好きだと嘆いていた奴なのに……。

「……ルクス、すまない」

『……何がだよ。復讐なんてもんやったからか?』

 落ち込んだような声に、そんなん別にやらなくてよかったんだぞ、と俺は苦笑しウェルトの隣に並んだ。
 すぐに触れられる距離にいるのに触れられないし、気づかれない。

 ……笑ったのは、一種の希望だった。

 怒鳴って焦って言葉を紡ぐより、もうやっちまったものは仕方ないと。復讐なんて危ないものしてって、でもそれでお前が前を向いて生きていけるのならってもう終わらせておきたかった。

 だから息が苦しくなるような胸の内を隠して笑って声をかけたんだ。なのに――

「そうだよな。たった数人程度でお前が満足するはずがないよな」

『………………は?』

 一瞬呆けて、墓から顔をあげたウェルトの目に今日何度目かの息を呑んだ。

「こいつらだけでは足りない。まだ、お前を追い詰めた聖騎士共を全員ここに連れてこれていない。命じた聖国の王侯貴族、国民。協力した国、者共も殺さなければ終わらない」

 昏い瞳の中でもわかるほど色づくのは業火の怒りと狂気の色。

「ルクス……痛かっただろ? 苦しかっただろう? ずっと追われ続け、何度も恐怖を味わったはずだ。ーーその苦しみを全て与えて、お前を死に追いやった者達の首を持ってこよう。いい殺し方を思いついたんだ。こいつらを見てみろ。とてもいい顔をしているだろう? 私達を化け物だと罵り、厭った連中にうってつけな方法で殺して、わからせて、お前の墓に供えよう」

『は、はあ!? 何言ってんだお前!!!』

 ウェルトの顔に浮かぶ笑みにゾッとした。

『……っ……おい!』

 このウェルトはダメだ。止めないとッ。
 
 墓を前にジッと佇み、諦めたかのように俯き踵を返してこの場から去ろうとするウェルトの背に向かって俺は手を伸ばした。

 がーー

「……ルクス、お前が言ったんだ。『生きろ』と。ーーだから殺す」

 ピタリと立ち止まって俺の墓へと振り返ったウェルトはそう言った。
 その目は、俺を殺した連中に向けた目と全く同じ目をしていた。

 ……ああ、そうか。
 これは単純なウェルトの復讐じゃない。俺の身勝手な言葉と想いがウェルトを狂わせたんだ。

『ふ、ふざけんなウェルトッ!!!』

 歩いていくウェルトを追いかける。けど、ある一定の距離まで行けば途端に俺の体は動かなくなる。

『おいッ待てよ!! 誰が殺せっつったよ!? 誰が復讐を生きがいにしろなんて言った!!! 恐怖? んなもん感じたことねぇわ!! なのにお前っ、いったい何人殺すつもりなんだ!! やめろ!!!』

 くそ!! なんでこれ以上行けねぇんだよ!!

 届かない手がもどかしい。こんだけ叫んでるのに聞こえないのがムカつく。

 自分の墓に戻って、俺は力の限り自分が埋まっているであろう地面を踏み抜いた。
 掘ろうとしても空気を掻くようで、俺は幽体のままだ。

『ふざけんなっ!! 生きてんだろ俺!! ウェルトが繋いでくれたおかげで俺は今もこうしてここにいるんだろ!? なんでだ!? どうして戻れねぇ!!!! 体がなけりゃっ……ウェルトに何もできねぇじゃねぇか!!!』

 ウェルトを見るも、もう小さくその姿が見えなくなっていく。

『っ待てウェルト!! 行くな……っ行くな!!』

 走って、走って、でも動けなくなる。
 暗い空は今にも雨が降りそうなのに、降らずに雷鳴だけが轟く。
 そんな空がウェルトの心を表しているようだった。

『……なんでっ……なんでわざわざそっちに堕ちに行くんだよ……』

 見えなくなった背中に俺は立ち尽くすしかなかった。

『泣きそうなくせになんで……っ。俺はただ……っ』

 ……ただ純粋に……、大切なお前に生きてほしかっただけなんだよ。

『……っくそ……』

 こぼれた言葉に強く手を握り、歯を噛み締める。

 この体は本当によくわからない。
 心臓の音は聞こえないのに痛いほど胸を締め付けてくる。息を吸ってるように思わねぇのに苦しい。そして、次から次へと涙があふれてくる。

『違うんだウェルトっ……やめろ……頼むから堕ちないでくれ……っ』

 悪かった。俺が悪かったから。
 自分を傷つける道を選ばないでくれ。頼むっ。

 ……けれど、どれだけ願っても俺の願いは届かず、そこからほんとうに俺の墓には数多の屍が築かれ始めた。


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