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11.希望(過去)
しおりを挟むウェルトは、人を殺せば俺に持ってくる。
やっぱり俺の予想通り、ウェルトは瘴気を操れるようになったらしい。
あまり多くは話さないが、来る度にぽつぽつと俺の墓へとウェルトが語る内容から、その瘴気を使って少しずつ聖国の連中へと注ぎ込み、あいつらが忌み嫌っていた「黒」にその存在を染め上げていっていることがわかった。
まるで流行病のようにある日突然に、または少しずつ「黒」へと変わっていく髪と目の色に、自分達が持つ色彩鮮やかな色合いを誇りに思っていた聖国の連中は、さぞやその事態に阿鼻叫喚の大混乱に陥っているのは想像に難くない。
しかもあいつらは、初めに「黒」になった連中に対して「悪に落ちた者」だとか「黒に関わった者の末路」だとか適当ほざいて見せしめに国民達の前で嬲り殺したらしい。
黒に関わったって、お前らがウェルトを殺すように命じたくせにな。
それでも初めは当然の報いだと歓喜していた連中も、無差別に色が変わり出す頃には、いつそれが自分の番になるのかと居ても立ってもいられなくなったらしい。
色が変わる原因探しに躍起になり、疑心暗鬼に「黒」にならないよう私刑を行っては凄惨な事態になっているようだ。
……それは築かれる屍達の傷跡や表情を見ても簡単に読み取れることだった。
そんな屍達を見て、俺は思い出す。
ウェルトと旅をしてた時にも、生き残るためにそうやって同じ人間同士が殺し合って、潰れていった村を何度か見たことがあった。
ウェルトのやつ、あれだけ痛ましい顔をして墓を作ってやったりしてたのに、同じことしようとしてんのな。
二、三日に一度に数人、下手をすれば十数人と運んでくる屍達を前に、ウェルトはこいつはどういう人間で、どんな罪を犯したのか、どうやって殺したり死んだのかを俺の墓に向かって話した。
聞くに耐えない悲惨な話に胸が苦しく、吐き気がする。
けれど、淡々と話しているように見えて、一人一人の死を記憶して忘れないように、そしてどこか俺に釈明しているように話す声が昔のウェルトと重なってまだ大丈夫だと安心もする。
どれだけの年月が経っても、俺の声はウェルトには届かない。
少しずつウェルトの口数は減っていき、墓に来る間隔も空き始めた。
もう俺の墓には花畑の面影はなく、死体から溢れ出す瘴気と血に大地の穢れが増していくばかり。
百年も経てばこの辺りに充満する瘴気に屍も一日と経たずに黒ずみの灰になって消えていくようになった。
この場を守るよう張られていたウェルトの結界も、とうに消え失せた。
墓標の石の上に座りながら、この下にある俺の体は今どうなってんだろうなと思った。
他の奴らと同じように、もうとっくに消し炭になってんのかな?
何百回、何千回といろんな方法を試したが戻れない。そろそろ疲れてきた。
でも、また挑戦するよう石から降りて地面を踏みつける。
諦めたら楽になんのかなって思うのに、ウェルトを止めてやりたくて諦められない。
空を見上げれば、変わらず淀んだ雲がそこにある。
百年も経てば余裕で人間の寿命は尽きるのに、数年前見たウェルトは老けることを一切してなかった。
……もうウェルトが殺したかった連中は誰もいないだろう。いるはずがない。なのに、あいつは誰かの屍を持ってくる。
今日、ウェルトが数年ぶりに俺の墓に来た。また、誰かの死体を置いて何も言わずに去っていく。
『ウェルト……。もうやめろよ……』
そんな姿を追いながら、途中で俺の体は動かなくなる。
最近、ウェルトが置いていく屍から少しだけあいつが見ている景色が瘴気に混ざって見えるようになった。
俺が生きていた頃よりも、大地は死んで瘴気に満ち溢れている。こんな世界で誰が生きていけるんだと思うほどに地面は割れて乾燥しきって、雑草ですらほとんど見ない。川も瘴気によって汚染されてるか干上がっているようだ。
見える人間はみんな虚な瞳をして、痩せ細った身体に生きる気力を見つけられない。病気にもかかってんだろう。
すごいな。百年前も酷いと思ってたけど、まだ先があるのか。
……ウェルトは、世界を滅ぼすつもりなのか……?
『……』
こうしてしか知ることができない凄惨な出来事と光景、壊れていく友に自分の無力さを痛感する。
……もう……早く終わらせてやってくれ……。
淀んだ目は、時が経つごとに光を失っていく。それは世界と同じく底がないように酷くなっていく。
それでもウェルトの怒りは収まることを知らず、ずっと災厄を振りまき、まるで何かに追い立てられるかのように生き物を殺していく。
それがウェルト自身をも追い詰めて、苦しんでるように見えて、頭が破裂してしまいそうなほどいろんな後悔や気持ちが押し寄せてきて気が狂いそうになる。
誰かウェルトを助けてやってくれ。止めてやってくれっ。間違いだってわからせてやってくれ……っ。
それがどんな方法でもいい。例えその方法が殺すでもいいから誰かウェルトを止めてくれ!!
『……っくそ』
生きろと言ったくせにウェルトを止める方法に“殺す“が浮かぶ自分に絶望してまた頭がおかしくなりそうだった。
そうして過ごしてさらに二百年の月日が流れた。
『……今の俺ってどれだけ役立たずなんだろうな』
自分の墓の上に座り考える。
初めは堂々としていた石も、崩れ去りボロボロだ。それでもなんとか墓という体裁を保ってくれている。
約三百年、まだこうして形が残ってくれてるだけでもありがたいもんだよな。
『あいつ、今頃何してんだろうなぁ』
雷鳴轟く空を見上げる。
今日は一段と稲光がすごい。
ウェルトが来なくなってもうすぐ八十年ほどか?
大親友であり、仮にも好きだった奴の墓参りを約百年もしに来ないってどうなんだよ。
『……なんか虚しいな』
雷の音以外何も聞こえず、ここはいつまで経っても何もない寂しい場所だ。
……俺のことを忘れて、怒りも昇華されて落ち着いてんならいい。
けど、満ちる瘴気はまだこれ以上増えるのかと思うほどその範囲を広げていっているのを感じる。
……まだ、あいつは怒って人を殺してるんだろうか。
『……俺のこと好き過ぎんだろ』
だから止まらない。
止まり方がわからないんだ。
『ウェルト……』
空に走る雷光へと手を伸ばす。
ーー会いたい。
どうしたら会える?
ーー会いたい。
会ってどうする?
もういいって言ってやりたい……。
声を聞きたい。触れたい。話したい。
たぶん、あいつは俺に会えば泣くだろう。
泣いて謝ってくる。
そんなウェルトに馬鹿だなって笑って、もう大丈夫だって言ってやりたい。抱きしめてやりたい。
そう思った時ーー
『っ!?』
一筋の眩い光が落ちてきた。
落雷だ。
耳を劈くような轟音と衝撃。
血を吸い続け、瘴気によって脆くなっていた地面が雷の衝撃で崩れ落ちていく。
下は昔と変わらない激流の川だ。
「……っ」
やっ……べぇ……ッ。
雷が落ちてきたからって幽体の俺にダメージなんてあるはずがないのに、まるで壁に叩きつけられたかのような衝撃に見舞われ、体が重たくて言うことをきかない。
落ちてく感覚を感じながら、俺はキツく顔を顰め、なんとか目を開けた。
「……っ?」
……どこかいつもと同じようで違う、はっきりとした感覚と景色。
それらに違和感を覚える暇もなく、水面に何かを叩きつけたかのような音が聞こえ、同時に全身が激痛に襲われた。
口を開けばゴボッと大量の水が入ってくる。
苦……っし……っ!!
んなの何百年ぶりだよ。
襲いくる激流に体はいうことを聞かない。
俺はどうなったんだ?
流れに逆って無理矢理体を動かすも、全身が痛く、もがけばもがくほど力が失われてできる抵抗なんて微々たるものだった。
息ができず焦る。止めておくのももう限界で口を開けばそこからまた大量の水が入ってきた。
もう……ダメだ……。
体から力が抜けていく。
暗く冷たい水の中、力が抜け途切れそうになる意識になってようやく俺は冷静になれた。
……なんでこんなにも苦しいんだ?
俺は痛みもなにも感じない幽体だったはずだ。でも今は水の感覚も、その水をかく手の重さもはっきりと感じられる。さっき感じた激痛は、音はまさか俺が水面に打ち付けられたせいだったのか?
っならもしかして!
抱いた希望にグッと手を握り締める。
その感覚がちゃんとあった。
それが泣きたくなるほど嬉しかった。
……こんなところで死ぬわけにはいかねぇ。
諦めるわけにはいかねぇ。
諦めかけていた希望が胸に灯る。
誰もウェルトを救うことができないのなら。止めることも、殺すこともできないのなら俺が会いに行って必ずウェルトを止める。救ってやる。
ウェルト、今行くからな。
……そう思ったところで、俺は意識を失った。
⭐︎⭐︎⭐︎
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