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13.穏やかな日常
しおりを挟む魔物も瘴気もまだ溢れてる。
なのに人は耐性をつけ、恐怖の化身だった魔物を金や物、武器、食糧に変え、身を守る術を身に付けていった。
このまま滅ぶんじゃないのかと思っていた世界は、二千年前では考えられないほど豊かに、様々な種族と道具、未知の大地が広がり溢れる面白い世界になった。
ほんと、生命の進化は馬鹿にできねぇわ。
それでもーー
「まさか人間にもこんな角とか翼が生えるとは思わなかったわぁ」
「そうですね」
ちょうどいい指圧で揉まれる肩に、浴槽に背を預け、俺は体から力を抜く。
「生き物って不思議だよな。魔力容量が増えて耐性がついたって言ってもそれ以上の力に晒されちまえばやっぱり体が耐えきれなくて死んじまってたのに、年月さえあればさらに角や翼を生やして生き抜く力に変えられんだから」
そして、また強くなる。
「昔は角も翼も弱点だったのに気づけばそれもなくなってたしなー」
「そうですね」
「いつの間になくなったんだろ?」
「そうですね」
「時を感じるなぁ」
「そうですね」
「……ユーグがそうですねしか言わねぇ」
「もう数十回は聞いた話ですから」
「……そっか」
俺の話なんて歴史家や研究者からしたら涎が出るほど聞きたい話なんだぞ?
なにせ、この世界で二千年以上の時を生きてる奴なんて俺とウェルトともう一人くらいしかいねぇんだし。
なのにそっかぁ。飽きちまうか……。
「ルクス様。眠たいのであれば眠ってくださってもいいんですよ?」
「……もうちょっと温もる」
ぷくぷくと沈み、ぼーっと湯船を眺めた。
花を一つ掬って、ユーグをちょいちょいと招きその角に花を添えればーーうん、
「可愛いな」
「……子ども扱いしないでください」
クスクス笑って拗ねるユーグを揶揄った。
他の三人も呼んで花をつければ、こっちは気恥ずかしそうだけど嬉しそうだ。
やっぱり可愛いい。
歳をとるとなんでも可愛く見えてくるんだよな。
……お前らに弱点なんてない方がいいよ。
魔族を斃すにはまずは角か翼からっていうのは鉄板で、俺もよく狙ったものだけど、今もそうなら俺は気が気じゃなかったと思う。
魔族はどの種族よりも魔力を有して魔法の扱いに長けていたけど、角と翼を切られれば大半の力を失っていたから千年前まで魔族の地位は低かった。
元は同じ人間だってのに、漆黒の翼と異形への恐怖、そしてそいつらが持つ魔力の強さに始まった迫害と争いは、魔族が持つ弱点とその数の少なさによって劣勢だったが、数十年かけてその戦況は大きくひっくり返った。
それは魔族が進化を続けて力をつけていったことも理由だが、一番は最恐最悪ウェルト様が魔族側についたことが大きい。
あれには俺も椅子からひっくり返る勢いで驚いたものだし、全世界が震撼したもんだ。
それまでずっとどこかに留まることもなく、彷徨い歩いては災厄を振り撒いていたウェルトが、誰かを助けるために立ち止まったんだ。
追われる魔族の立場に、昔の自分と重なるものがあったのかもしれない。
ようやく掴んだウェルトの居場所。その頃には俺が体に戻れてから約六百年ほどの時が経っていた。
ウェルトの奴、ちょろちょろ動き回っては情報も少ないから探し出すのに困ってたんだ。
あったと思ったら偽情報か、どこかにいったあとだったり。
だから、その話を聞いて事実だとわかった時には、やっとあいつを捕まえられるって喜んだもんだ。
まぁ、魔族の天辺に簡単に会えるわけもなく、潜り込むにも相当な時間と死があったが。
最終的には人間の王に捕まって、洗脳されかけたりもするし。
その苦労を思い出して俺はまた笑った。
実際は笑えるもんじゃなかったが、今の暮らしを思えばついこぼれてしまう。
「そろそろ上がるわ」
立ち上がればユーグがすぐに柔らかな布で俺を包み、拭ってくれる。
そのまま促される先にあるものは、浴槽の隣にいつの間にか用意されていた長い台だ。
まだマッサージすんのかよ。
そういえば腰もするって言ってたな。
腕に顎を乗せ、うつ伏せに寝転がれば腰を中心としたマッサージが開始される。
「あ゛~、効く~」
こう、不老不死だし身体的にも老いた感覚はないのに、つい出てくる言葉がジジ臭くなっていく気がするのはどうしたらいいんだろ?
でも、気持ちいんだよな~。
「痛くありませんか?」
「ないない」
贅沢だ……。
うとうととしつつ、穏やかな時間にホッと息を吐き出す。
薄く目を開く先には、平和な眼差しで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる子達がいる。
二千年も生きてきて、殺されたり、殺されそうになったり。喰われたり、逃げたり。実験台にされそうになって、見せ物にされて、どうにかして自分も不死になろうって奴らに痛めつけられて。
色々散々な目に遭って、激動の真っ只中を生きてきた自覚がある。
何十、何百と数え切れないくらいの苦しみと恐怖、死を体験したけど、こうやって穏やかな時間と心を与えてくれる魔族達には感謝してもしきれない。
ウェルトも、こんな優しくて穏やかな日常がすぐそばにあるんだってことを早くわかればいいんだよ。
そうすれば、あの辛かった日々も癒されていくのを感じるから。
「……なぁあとで花、手配してくれるか?」
「花ですか?」
「ああ。玄関とこの庭、久しぶりに手入れしてみようかと思ってな」
裏庭も荒れてんのは荒れてるけどウェルトの第二の棲家になってるからな。寝てる奴の横でゴソゴソやるわけにもいかないし、また不機嫌になって殺されるのはごめんだ。
「ちょっとした一画整えるくらいで……あ、花だけじゃ味気ないし、植木もいくらか用意しておいてくれ」
「用意するぶんには構いませんが、魔王様の瘴気によってすぐに枯れてしまうのでは?」
「枯れねぇようにすんのが俺の仕事だからな。今回、ちょっといいこと思いついたんだよ。失敗しても、また挑戦するだけだし……」
ダメだな。そろそろ眠気が限界だ。
いろんなこと思い出して、ちょっと疲れた。
頼んだぞと言えば、背中から「はい。お任せください」と笑みを含んだ言葉が返ってくる。
夢現にお礼を言って、俺はゆっくりと眠りについた。
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