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7.残念 side???
しおりを挟むーー朝方、ロゼリアが屋敷から去るのを見届けた人物はその顔に醜悪さを滲ませながら隣にいる細身の使用人に話しかけた。
「ふんっ。あの女の顔を見たか?嬉々として呪術の小瓶を持って帰っていったぞ?ほんに恐ろしい娘だな」
「そうですな」
「それに可愛いからと言ってこの私のことをちょっと媚を売るだけでなんでもしてくれるいい道具だと思っていそうではないか。自分がただ操られているだけとも知らずにな呑気なものだな」
「そうですな。余程自分に自信があるのでしょうな」
「まぁ、小瓶をあの生意気な伯爵に使うのもいいが、どうせなら夫人の方に使って欲しいものだ」
「何故ですか?」
「決まっておろう。あの目障りな小僧は自分の妹を溺愛しているそうではないか。そんなに大切にしている者が最大限の苦痛の末に亡くなるのだぞ。あやつの絶望に歪んだ顔を想像するだけで愉快な気持ちになるわい。本当ならあやつの家族に直接手を下し、本物の絶望を味合わせてやりたい所だが、今手を出してしまうと真っ先に私が疑われてしまうからな。それに比べ、あやつの妹に手を出す分には丁度いい隠れ蓑がいることだしバレやしない。ほんに下級貴族の分際で私と同じ宰相補佐だということにも業腹であるのにこの高貴な私を差し置いてあやつが宰相候補だと!?あの若造がっ!!ふざけるにもほどがある!」
男は顔に醜悪さを貼り付けたまま己の前に立ち冷たく自分を見下ろす男を思い出していた。自分より30は下の若造であり、また自分のような高貴な存在ではない下級貴族の分際で当たり前のようにして自分の前に立つ男にこの男は嫉妬に満ちた憎悪を募らせていた。
「なるほど。旦那様のそのご慧眼感服いたします」
「そうであろう!そうであろう!ほんにあやつは生意気な奴であるからな。年長の者として1度痛い目を見せて現実の厳しさと言うものを教えてやらねばいかん!」
「そうですな。年長のものがしっかりとせねば下の者がつけあがるだけですからな」
男は褒められたことに気を良くして鼻息荒く言葉を重ねる。側から見れば細身の使用人がおべっかで言っていることは丸わかりであったのに。
その使用人にとって男への忠誠心は皆無であった。ただニコニコと笑い誉め、頷いているだけで大金が入るのでそこにいるだけである。その使用人にとってはお金が全てだ。そのため、いざとなれば公爵であったとしても足蹴や盾にする気満々であるし、何かあった時にはすぐに逃げられるように準備も万全に済ませている。そんな少しのきっかけで簡単に敵に回るような男が自分の隣にいるとも知らずに、自分は上に立つべきものなのだと自慢げに男は語っていた。そして
「全てが上手くいけば失意に沈んでいるであろうあやつを蹴落とし私がこの国の宰相となるのだ!はははははは!」
目の前に迫っているであろう己の輝かしい未来に思いを馳せ、上機嫌に酒を煽っていたーー。
ーーこれが全てバレているとも知らずに…。
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