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10.追跡

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 ーー2日後の夜


「ヨルト様、今日はお早いんですね。お仕事の方は大丈夫なのですか?」


 最近はいつも夜遅くまで忙しそうにしていたヨルト様ですが、今日は珍しく早くに休めるようでお互い笑顔でおやすみなさいの挨拶をしています。


「ああ。やっとひと段落ついてな」


「では、今日はこのままお部屋で休むのですね」


「そうだな、久しぶりにゆっくり眠れそうだ」


「それはよかったです」


 ニコニコと私は答えます。


「ああ、ありがとう。それじゃおやすみユユ。いい夢を」


「はい」


 そう言ってヨルト様は私の額にキスを落とすと休むために部屋へと戻っていきます。そして私も部屋へと戻りベッドに入ります。


「それでは奥様おやすみなさいませ」


「おやすみなさいませ」


「はい。おやすみなさいーー」



 ーーー


「………すまないなユユ…」


「…旦那様」


「ああ。今行く」


パタン

「それでは後は頼んだぞ」


「「はっお気をつけて」」


 ……………


「…………」パチ


 ヨルト様達の気配が消えて暫くしてから目を開けて周囲を確認します。そして、ベッドから起き上がりそっと足音を立てないように動きながら、クローゼットから動きやすい服とフードを取り出し着替えます。


 次に手早くカーテンを取り外し、そのカーテンに毛布やシーツを紐状に硬く括りつけて1本のロープを作ります。ここで魔法を使ってしまうと護衛の方達に気付かれてしまう可能性があるため仕方がありません。黙々と作業を進めた後、そのロープをベッドの脚に硬く結ぶと窓をそっと開けて辺りを確認して下に垂らします。


 …少し足りないようですけどこれくらいなら…


「…よし!」


 少し震えてしまう自分に小さく気合を入れるとロープをしっかりと持ちそっと窓の外へと踏み出します。


 2日前のヨルト様の言葉を聞いてから私の心はまたモヤモヤとしてしまいました。一緒に頑張ろうと決めたのに全て私抜きでことを進めようだなんて酷いです。ヨルト様が私を心配して下さっているように私だってヨルト様が心配なんです。なのに、ヨルト様が戦っている時に私は何も知らずにただ能天気に笑ってそこにいろと?ふざけないで下さい。


 ヨルト様が心配だからと理由を付けて私抜きで勝手に黙って動くと言うのなら私も勝手に動かせてもらいます。これでおあいこです。


 少しずつ慎重にそれでも急いでロープを伝って下に降りていきます。


 …思ったよりも地面まで距離がありますが……っえい!


ドサッ

「……っ!」キョロキョロ


 飛び降りた事で地面に落ちた音が少し響いてしまい慌てて周囲を確認しますが人の気配はありません。そのことにホッとしつつ馬小屋を目指します。自慢ではないのですが私は馬に乗ることが結構得意なのです。伯爵家に嫁いでから乗る機会はありませんでしたがたぶん大丈夫なはずです。


 馬小屋に入ると、中にいるお馬さん達が私を見てきますが、お世話を時々手伝わせて頂いていたこともあり私が小屋に入って来ても暴れる様子がなくホッとします。そしてそのままその内の一頭に近づきます。


「…おやすみ中にすみません。ヨルト様達の後を追いたいのです。よろしくお願いしますね」


 そう言ってその子を撫でると甘えるように私の手に頭を擦り寄せてきます。その様子に笑みがこぼれてしまいますが時間もないため手早く道具をつけ、準備を整えます。


 …本当にこんな勝手なことをすれば後でヨルト様にたくさん叱られてしまいますね。ですがここで止まるつもりも引くつもりもありません。だってこれは私達の夫婦の問題でもあるのですから。

 
「ーーそれでは行きましょう!」 


 ヒヒーン!

 


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