優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

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63話

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 鼻歌交じりに歩く最側に、ついて行くことしか出来ない。
 こうも目の前で楽しげな姿を見せられると断り辛いもんだ。

 俺は〝最側ゾーン〟を前に成すすべがなかった。



「この辺だとぉ、ここにしか無いんですよねー!」
 自販機の前でおもむろに立ち止まり、財布から小銭を取り出した。これから飲みに行くのに買うのか?

 ピッ、ガシャン。
 ピッ、ガシャン。

「はい、せーんぱい♪」

 二本買い、そのうちの一本を俺に差し出した。

 なにこれ? メロンソーダ? いやいや!

「これは?」
「奢るって言ったじゃないですかぁ! 遠慮しないでくーださーい!」
「あっ、おぉ! さんきゅー!」


 なぁ最側。〝一杯〟って自販機の事なのか? まさかな。

 
 俺たちは缶ジュースメロンソーダ片手に突き進む。〝北御砂糖通り商店街〟を突き進む。


 会話が途切れる事は無かった。笑顔で意味のわからない話を振ってくる。「だってぇ、バイト仲間じゃないですかぁ♪」このセリフは既に何度目かわからない。


 ──なぁ最側。バイト仲間ってなんだよ?



 ◆◇◆◇◆◇

「あそこのベンチで乾杯しましょぉ!」

 お店から歩いて10分弱。噴水、木のベンチくらいしかない憩いの場。

 夜は不思議と良い雰囲気が漂う。乾杯をするには絶好の場所。


 ……乾杯? ここまで状況が揃えばこれから何が起こるのかは容易に想像ができる。

 正気か? まぁ、おまえがそれでいいなら、俺は何も言わないけど。

 目の前で楽しげにされると、ほんと何も言えなくなる。


 ベンチの前に立つと、俺はポケットからハンカチを取り出し最側の前に敷いた。ちほ直伝、ハンカチIN!!

 キョトンとする最側。まぁ、わかる。俺も最初はそうだった。

「えっ、なんなんですか? 狙ってるんですか?」
「奢ってもらったしさ、汚れるだろ」

 …………。暫しの沈黙。

「ま、ま、ま、まさか?! ハンカチにわたしの温もりを溜め込んで持ち帰るつもりですねッ?!」

 バサっと一歩後退して顔を赤くしてとんでもない事を言い出した。どうしてそうなる?!

「先輩にそんな趣味があったとは……」

「あるわけねーだろ!」
 俺はスッと敷いたハンカチを手に戻した。

「うそですぅ! 冗談ですぅ!! バイト仲間なら察して下さいぃーっ」
 俺の手から強引にハンカチを取り上げ、ニコッと笑い、ブーブーと言う顔をする。だからバイト仲間ってなに?!


 ゴソゴソとカバンの中からハンカチではなく可愛らしいタオルを取り出し、
「じゃあ先輩にも──」
「俺はいーよ」

 俺はデンっとベンチに腰をかけた。俺のだっさいハンカチが汚れる事に意味は無いが、最側が手にする可愛らしいタオルには座れない。良識的に。


「見かけによらず強引なんですねっ! 見かけによらずっ」
 少しだけため息混じりに言うと、俺のハンカチを敷いてゆっくりとベンチに腰をかける。どこか満足気な顔をしているのは気のせいだろうか。


「じゃあ乾杯しましょーー! お疲れ会!!」

 なんか色々間違えてるけど、
 おまえがそれでいいなら、いいよ。


 〝プシュッ〟

「ほら早く先輩も開けて!!」
「お、おう」〝プシュッ〟

 急かされるように缶ジュースメロンソーダを開けた。そして、乾杯の音頭なのかわからないが、最側は缶ジュースを持つ手を上にし、

 「お疲れー!! かんぱーーい♪」

 〝〝カンッ〟〟

 強引に俺が持つ缶にぶつけてきた。乾杯だ!


 ──俺たちは夜のベンチに座って、メロンソーダで乾杯をした。

 満面の笑みで嬉しそうに楽しそうにする彼女を見て、不思議と俺も楽しくなってしまった。
 
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