幼馴染に告白をしたら「ごめーん。勘違いしちゃったよね!」って軽いタッチで振られ「まっ。今までどーりってことで、よろしく~!」と、肩を叩かれた

おひるね

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   (後編)

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 あぁ。そんなものは初めから決まっている。
 遠くから様子を見ていて、パンスト&パンティーサンドイッチさんが俺に気付いたから、間を割って現れたんだ。

 こんな美味しい場面をみすみす逃してたまるかってな。
 このままじゃ、蒸れタイツ大好きお兄さんに美味しいところを全部掻っ攫われちまうもんな?

 あぁ、どこまでも性根が腐っている。

 俺は本気で人生を諦めたんだぞ……?
 物陰から見ていたのなら、もっと早くに来れただろ?

 それなのに──。

 なんだよ、その心配そうな面は。
 なんだよ、その不安そうな面は。

 迫真の演技だな。無自覚に現れた救世主様ってか?
 それで俺を再度『くっつき虫』に陥れて、ぷぎゃぷぎゃ腹の底で笑おうってか?

 ふっざけんな!
 
 たったそれだけのためにやっていいことじゃないだろ!

 本気で人生を諦めたからわかる。
 これはもう遊びや冗談では済まされない。

 お前は絶対に超えてはならない一線を超えた。

 ここまで奢らせアイス計画のために我慢をしてきた。最後に笑うのは俺だと、血の涙を飲みながら我慢をしてきたんだ。

 でももう、やめだ。

 その結果が今なのだとしたら、いっそ終わりにしてしまったほうがいい。

 この先もイベントはまだまだ目白押しだ。
 ラブパワー獲得宣言証明書とやらの発行に多大な待ち時間を有するし、後には貸切露天風呂だって控えている。

 それでもまだ、時間的には幾分の余裕がある。
 この女のことだ。なにかしら企んでいても不思議ではない。

 すべてのイベントを我慢して耐えた末に、お前を置き去りにしてなにが得られる?

 確かに今日の朝までは、それで気が晴れたかもしれない。

 だがもう、それでは足らない。全然足らないんだよ。
 このあとのイベントに付き合えば、この気持ちはますます強くなる。
 
 もう無理だ。たかだか置き去りにするためだけに、そこまでの代償は払えない。

 だからここで、終わりだ。
 お前とはもう、サヨナラだ。

 じゃーな。花純。


 ………………………………。


 ……あぁ。結局、なにも成し遂げられなかったな。

 …………これが敗北ってやつなのだろうか。

 ………………敗北、か。

 そっか。負けちゃったのか、俺。

 べつに勝負をしているつもりはなかった。でも結果として途中で諦めてしまうのであれば、それは敗北にほかならない。

 だからなのだろうか。
 ここまで我慢していた気持ちが一気に、溢れ出す──。

「お前! どこ行ってたんだよ?! ふざけんなよ? 俺がどれだけ探したと思ってるんだよ? わかってんのか?!」

 気づいたときには花純の両肩を力強く揺らし、問い詰めていた。

 相手は悪魔。人智を超える魔性の存在。
 問い詰めたところで、意味は成さない。

 それどころかむしろ、逆に喜ばせてしまう。

 それでも言わずには、いられない。

 ──そう、思っていたのに。

 何故か目の前の悪魔は、なにかを後悔するように瞳を潤わせた。

「……あ、あのね、受付に人が流れ込んで行くのが見えたから、急いで列に並んだの。しょーちゃん、さっさと帰りたいって顔してたから……それで……えっと、急いでて……」

 ……は? なんだよ、それ?
 今更そんな普通の嘘が通用するわけがないだろ? 馬鹿にしているのか? 舐めてるのか、お前? ……しかし手には受付用紙らしきものが握られている。

 本当、なのか? いや。そうじゃないだろ。もう、そういう話じゃないだろ。

「ふざけんな! 勝手にひとりでふらふら行ったらだめだろ! なんで勝手に居なくなるんだよ?! 心配するってわからねえのかよ!」

 もう。止まれなかった。ずっと我慢をしていたからなのか、考えるよりも先に思うよりも早く──言葉が走ってしまう。

「ご、ごめん……。まさかこんなことになってるなんて、思わなくて……」

 ……は? 謝ったのか? こんなにも素直に、あの花純が……?

 俺を振ったときでさえ「ごめーん」って「めんごめんご」みたいな軽いノリでしか謝らなかったのに……?

 なんなんだよ。ふざけんなよ。悪魔なら悪魔らしく、最後まで悪魔で居ろよ!!
 
「ふっざけんな!! 謝るくらいならもうどこにも行くな! ずっと俺の側に居ればいいだろ!!」

 イラつきが頂点に達してしまったからなのか、わからない。

 止めどない思いが溢れて、止まらない。

「え……? う、うん! どこにも行かないよ? しょーちゃんの側にずっと居るよ? ど、どしたの……? なんでそんなことを今更言うの……?」

 まるで状況を理解していないかのような返答に、ますます腹が立った。

 もうわからない。自分でもなにがなんだかわからない。けど、こいつはどうせまた居なくなる。ふらふらと何処かへ行ってしまう。

 それはそう遠くない未来に、必ず訪れる。

 だって俺は彼氏にはなれなかったから。幼馴染なんて曖昧な関係がいつまでも続くわけがない。

 俺ではないほかの誰かと付き合い、花純は俺の手の届かない何処か遠くへ行ってしまうんだ。

 だからもう。この両手を伸ばさずには、いられない──。

「そんなの信じられるわけがないだろ! お前のなにを見てきたら、信じられるってんだよ! 勝手に居なくなりやがって。ふっざけんな! いいかげんにしろ!!」

「わわっ! しょ、しょーちゃん? 本当にどしたの? くっつき虫をするときはもっともっと優しくしないとだめなんだぞ? 女の子の体は柔らかいんだから!」

 此の期に及んでまだ、この女は「くっつき虫」とか冗談を抜かしやがるのか。

「だめだ。離さない! お前は俺の腕に抱かれていろ! もうどこにも行かせない!! ずっと俺の腕の中に居ろ! 二度と離れるな!!」

「……う、うん。どこにも行かない。ずっと……ずっと。しょーちゃんの側に居るよ? 約束。したもんね? ちゃんとわたしは覚えているから。大丈夫だよ?」

 約束……? なに言ってんだこいつ?

 と、思ってすぐ──。

 何故か、拍手が湧き上がった。

 「……素敵。まるでロミオとジュリエットみたい」
 「おう兄ちゃん! ソロプレイヤーと勘違いして悪かったな! 最高のロミジュリをありがとー!」
 「違うわ。これは織姫と彦星よ! 素敵!」
 「見せるねえ! あっつあつだねえ! よっ若大将!」

 歓声とも取れる声とともに、場の空気は一変した。

 「やれやれ。俺たちも負けてはいられないな。なぁ、みゆき?」
 「やんっ♡ マー君……いつにも増して激しいよぉ♡」

 さらに三日間履き続けた蒸れ蒸れパンスト大好きお兄さんが俺の肩をポンっと叩いた。

「大切なもんは絶対に離すんじゃねえぞ。女ってのはわがままな生き物だ。ここで、しっかり繋がっておけよ」

 言いながら俺の胸元に拳を押し付けた。

 な、なに言ってんのこの人……?

 それだけじゃない。警備員のおじさんまでもが、俺の肩をポンっと叩くと静かに二度「うんうん」と頷いた。そして──。

「異常なーし。本日もラブパワー事務局は平和なり~!」

 け、警備員さん? なにがいったい、どうなっているんだ?

 おまけにお上品で綺麗なお姉さんシスターまでもが──。

 「あぁ、神よ……。偉大なるラブパワーの神よ……。この二人に永遠の祝福をお与えください。すべては運命のいたずら、二度とすれ違わないように、どうかどうか絶えることなき祝福を──」

 言い終わると何度も俺に頭を下げて来て「すみませんすみません」と謝ってきた。

 ……え?
 もしかして、俺の痴漢容疑は晴れたのか?

 いったい、いつの間に……?
 まだなにも弁解すらもしていないのに……?

 その後何故か胴上げまで始まり、場内はお祭り騒ぎに包まれた。

 「よっ! ラブパワーの申し子!」
 「あっそーれ! あっそーれ!」
 「よーいしょ! よーいしょ!」

 なにがなんだかわからなかったけれど、宙に何度も飛ばされているうちにそんな悩みは消え去っていた。

 それよりも、隣で嬉しそうに笑う花純の横顔から目が離せなくなっていたんだ。

 







 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 そして場内が落ち着きを取り戻すと──。

「えへへ。なんかよくわからないけど、しょーちゃんと恋愛岬に来て正解だったぁ! うーれし!」

 大層ご満悦な様子で、悪魔は本日最高の笑顔を見せた。

 あぁ、俺はまたハメられたのか。正解ってなんだよ、正解って。……ははは。

 結局すべては、悪魔の手のひらの上だったのだろうか。
 俺は終始、手のひらの上で踊らされるだけの哀れなピエロだったのだろうか。

 でも不思議と、今だけは──。

「ってことでー、しょーちゃん! くっつき虫~! うりゃあ!」

 この笑顔をずっと、眺めていたいと思った。
 
 あとどれだけ、この関係を続けられるのかはわからない。いずれ終わりが来ると知りながらも──。

 こんな関係も悪くはないのかな。なんて。思ってしまったんだ。


 
 悪魔の笑みにもう一度、俺は恋をした──。
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