怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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九十七話 あの時のこと ④

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 フィンレルside


 ベレッタを王宮の医師に診察してもらい、何の影響も残っていなく大丈夫だと言われて心底ホッとした。

 あの媚薬は飲む量で強さがまったく違うらしく、ベレッタはかなりの量を飲まされたから効果が凄く強く出たようだが、後遺症は残らないものらしい。

 私はまだ眠るベレッタを抱きかかえたまま馬車に乗り邸に戻った。

 そしてベレッタがいつも眠る寝室のベッドに彼女を寝かせた。

 夫婦の寝室より普段ベレッタが寝起きしている所の方が目を覚ました時に少しでも安心するだろうと思ったからだ。

 私は片時も離れずにベレッタに付き添おうと思ったが、汚れたままでは許しません!とリリアンナにキツく言われて、仕方なしに急いで湯浴みをして着替えてベレッタが眠るベッドへと戻った。

 私はベッドで眠るベレッタの側に戻ってから、すぐ脇の椅子に座りベレッタの様子を見ながらその柔らかい髪を撫でたり、手を握ったりしてずっと側を離れずにいた。

 あの時のエレナに馬乗りになられ、首を絞められて苦しそうに呻いている姿、媚薬に冒されて顔を真っ赤にして苦しそうな姿、それから私を大好きだ、他の人には触れられたくない私がいいと言ってくれたベレッタを思い返しながら、後悔だったり苦しさ嬉しさ愛おしさいろんな感情が溢れてきて、私は一人声を出さず涙を流した。


 ベレッタは眠り続けて夕方に目を覚ました。

 夢だと思っていたようだが、頬と首の手当てした包帯などを触って、あのことが現実に起こったことに怖くなりポロポロと涙を流すベレッタに胸が詰まり堪らなくなるが、すまないと謝罪しながらも、大丈夫だったベレッタは穢されていない相手をしたのは私だと、少しでも安心して欲しくて言うと。

 また私のことが大好き、私で良かったと言ってくれた。

 それからベレッタに水を飲ませて、主治医に診てもらい私がずっと側にいるから休むように言うと、ベレッタがまた私を大好きだと言ってくれて、これ以上なく愛しくなって、ベレッタの両頬を手で包んで彼女の額にキスをした。

 ベレッタは穏やかに目を閉じた。

 ベレッタはそれから朝まで目を覚まさなかったが、私はずっと側にいてベレッタの様子を見続けた。

 ベレッタは夢を見ているのか魘されてはいないが、時に悲しそうな顔をしたり嬉しそうに笑ったりしていた。

 私はどうか穏やかなラファエルと一緒にいる楽しい夢であるようにと願わずにはいられなかった。

 ギルバードは私に逐一報告すると言った通り、度々早馬で情報を届けてくれた。

 まだ取り調べは始まったばかりだが、エレナは暴れたり、自分は悪くないと叫んだり訳のわからないことを言って話が通じないらしい。

 一方フローリアの方は最初こそ泣いて私は悪くないとエレナと同じことを言っていたらしいが、捜査員が根気強く話を聞いてフローリアの現状を話すと、素直に事情聴取に応じるようになったらしい。

 あと近衛の四人は最初から大人しく素直に取り調べに応じているらしく、少しずつ状況がわかってきた。

 実行犯はエレナ、フローリア、エレナの近衛四人とそして舞踏会の会場内でカエンシュルト伯爵閣下の側にあったグラスの乗ったテーブルワゴンを倒した給仕のメイドと、メリアンナ夫人を呼びに行ったメイドだった。

 彼女たちは逃げたりすることなくすぐに捕らえられた。

 会場内のメイド二人はエレナが何をしようとしているかは聞かされず、エレナに指示されてやっただけだと証言しているらしい。


 近衛の証言で舞踏会中にベレッタを攫い穢すつもりで、ベレッタを攫う方法をいくつか考えていたらしい。

 ひとつは会場を出て花を摘みに行った時。

 ふたつめは会場内でメモを渡してベレッタを誘き出す方法。

 そして最後が実行された方法で、バルコニーに出て一人になったベレッタを攫う方法だった。

 ひとつめとふたつめはいずれもベレッタが一人きりになることがなかったし、会場の外はうちの者が多くいたから実現出来ず、メモを渡すのも会場内ではベレッタが常に多くの者に囲まれているか、私と必ず一緒にいたから渡すタイミングがなかったらしい。

 そして最後の方法についてはエレナの指示で近衛たちがわざわざベレッタが出たバルコニー以外のバルコニーの出入り口の扉の取っ手を舞踏会開始直後に壊してすべて使えないようにして封鎖させたらしい。

 王宮での舞踏会だ、例え出入り口の扉の取っ手だけでも壊れていたら、警備の関係上封鎖される。

 だが舞踏会が開始されてしまえば、いくら警備の問題であっても余程のことがなければ中止にすることはまずない。

 取っ手が壊されたバルコニー前と下の王宮周りに騎士が配置され警備が強化されたが、会は続行された訳だ。

 そしてバルコニーに出ようとした参加者たちはその異変を感じたことだろうが、扉の取っ手が壊されていることを参加者全員に周知させていなかった。

 このことはギルバードがこちらの落ち度であると謝罪があった。

 しかし下手に混乱を招かない為であったことは私でもわかることだ。

 それにエレナはあの会場で会が催される時、アンジェリカ様やメリアンナ夫人たちが友人だけで休憩する時、必ずあのバルコニーを使うことを知っていたようだ。

 あのバルコニーは会場内にあるバルコニーの中でも一番大きくバルコニーからの眺めも一番良いから、彼女たちは好んでそこを使用していたようだし、他の参加者たちはそこが彼女たちの社交の場と捉えていて、彼女たちが使用することを認めていて彼女たちに優先させて譲り自分たちはあまり使用していないようだった。

 そんなことまで知っていたエレナは休憩する為にベレッタがバルコニーに出てくるのを待って、バルコニーの下に近衛を潜ませてベレッタが一人になった時に攫う為に、当日まで王太子宮の二階のバルコニーで、縄を使いバルコニーの下でまで登りバルコニー下で潜んでいて、中の部屋からの合図でにバルコニーによじ登り、そこに置いてある人に見立てた大きな荷物に大きなズタ袋を被せて手早くロープで縛り、下に降ろすところまでを何度も予行練習までさせ道具まで揃えていたらしい。

 そして会場下の警備をしてい騎士たちに対しては、バルコニーに人が出たら誰か確認しベレッタだった場合、近衛の一人が他の騎士に自分のところに下で警備している騎士たちを呼んで来るように命令して、下の警備の騎士たちを呼びに行かせ、いったん他に移動させ、その隙に二人の近衛が壁をよじ登りバルコニーの下に潜んでいて、一人の近衛が下で見張りの役割をした。

 それから会場内のメイドがメリアンナ夫人を呼びきて、ベレッタが一人になった時に二人の近衛がバルコニーによじ登って、ベレッタを気絶させズタ袋の中に入れてロープで縛り、そのロープを使ってベレッタを下に降ろして西方の離宮へと運んだらしい。


 エレナはアカデミーの成績は下から数えた方が早かったし、王太子妃になってからは一向に教育を真面目に取り組む気がなく、ギルバードに泣きついては、ドレスやアクセサリーを強請り、頻繁にお茶会を開いて自分に傅き、媚びを売ってくる下位貴族令嬢だけを招いて大騒ぎして、遊び贅沢をしまくって、王太子妃教育はまったく進んでいなかったらしいが、悪事に頭を働かせる小賢しさはあったということだな。

 今私に届いている情報はこのくらいだ。

 ベレッタが目覚めて落ち着いたら、私は一度王宮に行くつもりだ。


 

 ベレッタは朝になり目を覚ました。

 まだボーッとしているが、昨日より意識もはっきりしていて、言葉もいつもの溌剌としたものに戻りつつあった。

 ベレッタの顔が赤くてまだ体調が良くないのかと主治医を呼ぼうとしたが、ベレッタが大丈夫だと言い、あの時のことを知りたがった。

 まだ恐怖心があるだろうから心配したが、どうせ知ることになるだろうし、いずれ伝えなければならないことなので、早い方が良いかもしれないとベレッタが食事を食べた後に話すと言ってから、いったん部屋を出て食事の手配して私は戻った。

 そしてベレッタがラファエルはどうしているか?と聞いてきたので、今までになく長くベレッタの姿が見えないことに、ラファエルが泣いたりすることがあると正直に言うと、慌てて身体を起こしてラファエルに会いに行こうとするから、私が連れてくるとベレッタに言い聞かせて、私はラファエルの部屋へと向かった。




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