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百二話 王太子との対面 ②
しおりを挟むフィンレルside
ギルバードの話は続く。
「これはあくまでフローリアと侍女の証言のみだからまだ確定とは言えないが…。
エレナが夜会の後に秘薬のことを知ったのだとしたら、陛下は有り得ない。
陛下はあの夜会の翌朝に宰相と外交官を伴って隣国スンペリドニ王国に出発され、戻ってこられたのは二週間後だ。
その外遊には王妃殿下は同行しておられない」
ギルバードは表情を戻して淡々と私に説明した。
「…そうだったのですか…」
私は自分でも確証はないが、陛下ではないだろうと思っていたが自分の考えは正しかった訳だ。
「ああ…それに陛下は私とエレナが婚約してから私たちに度々苦言を呈していらした。
初めの頃私はそれは陛下がアンジェリカを気に入っていて、婚約破棄した私たちのことが気に入らないからだと思って反発していたがね…。
だが陛下が私たちに苦言を呈していたのはそんなことじゃなく私たちの為だったんだ。
陛下は半年もするとエリナには何も言わなくなった。
その頃には私は苦言呈しられたり、叱られたりするということはまだ期待されているんだということがわかるようになっていた」
「殿下はお気付きになったのですね」
私はギルバードに対して失礼な言い方だと思ったが、正直な気持ちを口にした。
「…そうだな。
いくら私でもあのことでもう私には後がないということはわかったからね。
次に何かあれば継承権を剥奪され、廃嫡されるだろうと。
嫌々でも執務や自分がやらねばないならいことをやるしかなかった。
もう私を庇う人も逃げ場もなくなっていたから…」
ギルバードの言う庇う人も逃げ場もいうのは王妃殿下のことだろう。
もう王妃殿下もギルバードを庇うことは出来なくなったということだ。
「そうですか…」
「そうするといくら馬鹿で愚かな私でも周りが見えてきたということだ。
だから陛下からの苦言も言われるうちが花だと気付いたさ。
しかしエレナは変わらなかった。
エレナは自分に苦言を呈してきたり、厳しく接する人間を泣いて嫌がりそういう人間を遠ざけ、自分も近寄らない。
だからエレナは相手が陛下だから本人の前では殊勝な態度だったが、陛下を苦手にして近寄ろうとはしなくなった。
家族の晩餐に誘われてもそれを何かと理由を付けて断るようになったくらいだ…」
私にはギルバードの言葉に驚く。
いくら王太子妃といえど、陛下の誘いを断るなど有り得ないことだと思うからだ。
「それだけじゃない。
エレナに付けられた王太子妃教育の教師に対しても、授業の時間中なのに、抜け出してきて私のとこに来て厳し過ぎるし嫌がらせをされると私に泣きついてきて、教師をクビにするように言ってきた。
最初は私もエレナの言うことを信じ込んでいたから、エレナの言う通り教師をクビにしたりしていた。
しかし私が周りが見えてくるようになると、果たしてエレナの言うことは事実なんだろうか?と思うようになった。
その時に教師のこともそうだが、あのアカデミーの時にもエレナが嘘を言っているんでは?と思っようになった。
アンジェリカたちが冤罪だとはわかったが、私はそれまでエレナがされたことは事実で誰か他の者たちがしていたんだろうと思い込んでいた。
今更で気付くのがあまりに遅かったがな…。
それからは教師をクビにするようなことはせず、私たちには後がないんだとエレナに言って聞かせて説得していたんだ。
でもエレナはわかってくれずただ嫌だ嫌だと泣いて、真面目に教育に取り組もうとはしなかったんだ」
ギルバードはそう言って悲しそうに目を伏せた。
ギルバードは本当にエレナを愛していたんだろう。
だからこそ真実が見えてきて、エレナにも自分にも落胆したんじゃないだろうか。
「エレナは私が自分に冷たくなった何故なんだ?と私を責めてきたよ。
でも私はそんなエレナを何とか説得して前向きに王太子妃教育をしてもらおうとした。
でも駄目だったんだ…。
だから私が王太子妃がするべき執務もやるようになった。
教育がまったく進んでいないのだからエレナが出来る訳がないからね」
それでか…ギルバードが夜会や舞踏会で会う度に痩せてやつれていっていると思っていたが、自分の執務だけではなくエレナが担うはずの執務までやっていたのならそうなるのは頷ける。
まだギルバードの話は続く。
「そんな状態が続いて三年が過ぎた時に、陛下から側妃を娶る話を聞かされた。
私はそれは仕方のないのことだと思った。
もうエレナに対して昔のような気持ちが残っていなかったしね。
それで私はエレナにそのことを言ったのだが、泣いて激しく抵抗されたんだ。
絶対嫌だ!私はこんなにギルを愛しているのよ!って言われて…私はこうなったのは私のせいでもあると思って、強くエレナに言えなかったんだ。
だから陛下にもう少し待ってくれと私から言って待ってもらった。
だけど四年が経ってもエレナが懐妊することがなく、私は陛下に四年目にあることを聞かされたんだ」
ギルバードの顔はより深刻に落ち込んだものになった。
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