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百三話 王太子との対面 ③
しおりを挟む「それはどういうことでしょうか?」
私はギルバードの落ち込んでいる姿を見るのは忍びないと思ったが、ギルバードが私に話そうとしてくれているのだからちゃんと聞かなければならないと話を促した。
「実は陛下は私たちがアカデミー在学中に影をアカデミーにも潜入させて、私やアンジェリカたちの動向を監視させていた。
当然私とエレナが親しくなっていく様も見ていたから監視対象にはエレナも含まれた。
そこでエレナがアカデミー在学中に複数の男と関係を持っていたことを陛下は影からの報告で知っていた」
「えっ?」
私は思ってもいないことに目を見開いた。
エレナがアカデミー在学中に他の複数の男たちを関係を持っていた?
王太子妃になる女性は托卵を避ける為にも純潔でなくてはならなかったはずだ。
「…私は結婚までエレナとは関係を持っていなかったよ。
エレナに誘われたことはあったけど、それは踏み留まったんだ。
確かに初夜の時にエレナは純潔ではなかった。
エレナがアカデミーで一度だけある貴族子息に無理矢理強要されて関係を持ったことがあると泣きながら何度も謝ってくるから、その子息はもう平民となり今どこにいるのかもわからないと言うから
、私はその時に一度だし無理矢理だったのだから女性であるエレナはさぞ怖かっただろう、思い出したくもないことだろうからそれ以上エレナを責めることば出来ないと許したんだ。
でも本当はそうじゃなかった。
それにエレナはその時に避妊薬を使っていた。
陛下からその避妊薬の多用で子を身籠ることが出来なくなったんだろうと聞かされたんだ。
そりゃ子が出来ないはずだよ…」
ハハッとギルバードは乾いた声で自嘲しながら私を見てきた。
私はその衝撃の事実にギルバードに何と言っていいかわからなかった。
「陛下はそれを知っていながら私とエレナの結婚を許したんだ。
それもすべて私への罰だったんだろう。
こうなることがわかっていた。
私が昔と何も変わらなければ私もエレナも二年も経たずに排除されていただろう。
だが、陛下は四年経ってその事実を私に告げ、もう待てない側妃を娶れと命令してきた。
私は自分を廃嫡してくれと陛下に進言したが、受け入れられなかった」
ギルバードがあの時に思い詰めていたのは自分を廃嫡して欲しいと陛下に進言して許されなかったからなのか。
「…それで殿下は側妃を娶ることを承諾したのですね」
私はゴクッと唾を飲んでから聞いた。
「ああ、私はもう私が私情で動いて良い立場ではないことをわかっていたからね。
それで私は泣いて嫌がるエレナに対してもう無理だからと押し切ったんだ。
私は王族だからそんなに簡単には離縁など出来ない。
それにエレナのことは私にも大きな責任がある。
私は民や臣下、国に大きな迷惑をかけてしまった。
だから側妃を娶ったとしてもエレナのことは以前のような愛はなくとも大切にしようと思っていた。
でもまたエレナは問題を起こしてしまった。
私の友人であったフィンレルの夫人を穢して排除しようとした。
おまけにあの時エレナは夫人の首を絞めて殺そうとしていた。
私はもう無理だと思ったよ。
私がしでかしたことでこんなことになってしまったんだ。
だからもう一度陛下に私を廃嫡して幽閉してくれっ、処刑でも構わないと進言したんだ。
でももうお前に側妃を娶ることは決定していて、相手ももう決まっている。
それを覆すことはしない。
お前は国の為、民の為に出来ることをしろ!と言われるだけで認められなかったんだ」
「…」
私はギルバードに何と言葉をかけていいかわからない。
「もう側妃となる令嬢と顔を合わせているし…彼女とはエレナの事件以降にも顔を合わせたんだ。
彼女は『わたくしは別に殿下を愛してはおりませんよ。でもわたくしは殿下の側妃となることを決めましたの。わたくしたちは国の為、民の為にやらなければなりませんよね?時は待ってはくれないのですもの』と言われてしまった。
私なんぞに嫁いでくる彼女が可哀想で申し訳ない…」
ギルバードは悲し気に一点を見つめて自分を責めている。
「ギル…私がこんなことを言うのは何なのですが…私は今まで妻のベレッタに散々こう言われました。
過去に起こったことは変えられないし、起こったことは取り返せない。
また周りの人はそのことをずっと忘れないだろう。
でもこれからは変えることが出来るのです。
自分たちが頑張って努力して、家の為に領民の為、使用人、家族の為に一緒にその評判を塗り変えていきましょうと言われました。
私も間違いを冒しました。
でもそれでも妻の言葉でやり直せると思ったのです。
ギルも簡単なことではないけど、私と同じだと思います!」
私がキッパリと言うとギルバードは一度目を瞠った後、フッと苦笑いする。
「…そうか、フィンレルの夫人はきっぷのいい明るく前向きな女性だと聞いているが本当なんだな。
そうかな…私もやり直せるのかな?
それにしてもあれ以降初めて私をギルと愛称で呼んでくれたな」
ギルバードが少しはにかんだ。
「申し訳ありません。
私は今もギルの臣下で友人であるつもりですよ」
私がギルバードに笑いかけるとギルバードも少し柔らかい笑顔を私に向けてきた。
「…フィンありがとう」
ギルバードは照れ臭そうな顔をしてから私の愛称を呼んで目を伏せた。
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