怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

文字の大きさ
105 / 143

百三話 王太子との対面 ③

しおりを挟む



「それはどういうことでしょうか?」

 私はギルバードの落ち込んでいる姿を見るのは忍びないと思ったが、ギルバードが私に話そうとしてくれているのだからちゃんと聞かなければならないと話を促した。

「実は陛下は私たちがアカデミー在学中に影をアカデミーにも潜入させて、私やアンジェリカたちの動向を監視させていた。

 当然私とエレナが親しくなっていく様も見ていたから監視対象にはエレナも含まれた。

 そこでエレナがアカデミー在学中に複数の男と関係を持っていたことを陛下は影からの報告で知っていた」

「えっ?」

 私は思ってもいないことに目を見開いた。

 エレナがアカデミー在学中に他の複数の男たちを関係を持っていた?

 王太子妃になる女性は托卵を避ける為にも純潔でなくてはならなかったはずだ。

「…私は結婚までエレナとは関係を持っていなかったよ。

 エレナに誘われたことはあったけど、それは踏み留まったんだ。

 確かに初夜の時にエレナは純潔ではなかった。

 エレナがアカデミーで一度だけある貴族子息に無理矢理強要されて関係を持ったことがあると泣きながら何度も謝ってくるから、その子息はもう平民となり今どこにいるのかもわからないと言うから
、私はその時に一度だし無理矢理だったのだから女性であるエレナはさぞ怖かっただろう、思い出したくもないことだろうからそれ以上エレナを責めることば出来ないと許したんだ。

 でも本当はそうじゃなかった。

 それにエレナはその時に避妊薬を使っていた。

 陛下からその避妊薬の多用で子を身籠ることが出来なくなったんだろうと聞かされたんだ。

 そりゃ子が出来ないはずだよ…」

 ハハッとギルバードは乾いた声で自嘲しながら私を見てきた。

 私はその衝撃の事実にギルバードに何と言っていいかわからなかった。

「陛下はそれを知っていながら私とエレナの結婚を許したんだ。

 それもすべて私への罰だったんだろう。

 こうなることがわかっていた。

 私が昔と何も変わらなければ私もエレナも二年も経たずに排除されていただろう。

 だが、陛下は四年経ってその事実を私に告げ、もう待てない側妃を娶れと命令してきた。

 私は自分を廃嫡してくれと陛下に進言したが、受け入れられなかった」

 ギルバードがあの時に思い詰めていたのは自分を廃嫡して欲しいと陛下に進言して許されなかったからなのか。

「…それで殿下は側妃を娶ることを承諾したのですね」

 私はゴクッと唾を飲んでから聞いた。

「ああ、私はもう私が私情で動いて良い立場ではないことをわかっていたからね。

 それで私は泣いて嫌がるエレナに対してもう無理だからと押し切ったんだ。

 私は王族だからそんなに簡単には離縁など出来ない。

 それにエレナのことは私にも大きな責任がある。
 
 私は民や臣下、国に大きな迷惑をかけてしまった。

 だから側妃を娶ったとしてもエレナのことは以前のような愛はなくとも大切にしようと思っていた。

 でもまたエレナは問題を起こしてしまった。

 私の友人であったフィンレルの夫人を穢して排除しようとした。

 おまけにあの時エレナは夫人の首を絞めて殺そうとしていた。

 私はもう無理だと思ったよ。

 私がしでかしたことでこんなことになってしまったんだ。

 だからもう一度陛下に私を廃嫡して幽閉してくれっ、処刑でも構わないと進言したんだ。

 でももうお前に側妃を娶ることは決定していて、相手ももう決まっている。

 それを覆すことはしない。

 お前は国の為、民の為に出来ることをしろ!と言われるだけで認められなかったんだ」

「…」

 私はギルバードに何と言葉をかけていいかわからない。

「もう側妃となる令嬢と顔を合わせているし…彼女とはエレナの事件以降にも顔を合わせたんだ。

 彼女は『わたくしは別に殿下を愛してはおりませんよ。でもわたくしは殿下の側妃となることを決めましたの。わたくしたちは国の為、民の為にやらなければなりませんよね?時は待ってはくれないのですもの』と言われてしまった。

 私なんぞに嫁いでくる彼女が可哀想で申し訳ない…」

 ギルバードは悲し気に一点を見つめて自分を責めている。

「ギル…私がこんなことを言うのは何なのですが…私は今まで妻のベレッタに散々こう言われました。

 過去に起こったことは変えられないし、起こったことは取り返せない。

 また周りの人はそのことをずっと忘れないだろう。

 でもこれからは変えることが出来るのです。

 自分たちが頑張って努力して、家の為に領民の為、使用人、家族の為に一緒にその評判を塗り変えていきましょうと言われました。

 私も間違いを冒しました。

 でもそれでも妻の言葉でやり直せると思ったのです。

 ギルも簡単なことではないけど、私と同じだと思います!」

 私がキッパリと言うとギルバードは一度目を瞠った後、フッと苦笑いする。

「…そうか、フィンレルの夫人はきっぷのいい明るく前向きな女性だと聞いているが本当なんだな。

 そうかな…私もやり直せるのかな?

 それにしてもあれ以降初めて私をギルと愛称で呼んでくれたな」

 ギルバードが少しはにかんだ。

「申し訳ありません。

 私は今もギルの臣下で友人であるつもりですよ」

 私がギルバードに笑いかけるとギルバードも少し柔らかい笑顔を私に向けてきた。

「…フィンありがとう」

 ギルバードは照れ臭そうな顔をしてから私の愛称を呼んで目を伏せた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...