怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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百四話 王太子との対面 ④

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「それで先程の陛下のことだが、証拠はまだないがこれだけのことをされてきた陛下がエレナの協力者だとは思えないんだ」

 ギルバードは切り替えるように表情を引き締めて言った。

「そうですね…私も確証はありませんでしたが、最初から陛下ではないだろうと思っていました」

「そうか…で、ごく一部の人間というのは影の人間だ。

 これは公にされていないが秘薬についてはいずれは退任していく宰相や大臣たちにも知らされることはなく、王族とごく数人の影だけが知っていることなんだ」

「…影ですか?」

 私は影という組織があるのは少しだけ知っている。

 その組織は国内や国外で諜報する為の機関で、国王陛下のみが命を下せるが、王家所属ではなくまったく別の機関で王家も監視する独立している機関であるということくらいだ。

「ああ、秘薬については王族とその影の数人が管理することが昔から決められている。

 大昔にその秘薬を悪用した王族がいたからだ。

 その影がアカデミー在学中から私とアンジェリカだけでなく、エレナも監視していた。

 彼らは表には出てこない、存在を知っているのはごく限られた者だけだ。

 フィンが影のことで知っていることは少ないだろう。

 正式に王族の側近となったら聞かされていただろう。

 エレナはアカデミー在学時代にはもちろん彼らの存在を知らなかったはずだ。

 そしてエレナは王太子妃教育を満足に受けていないこともあるが、影のことは王太子妃教育を終えて、王妃教育に入ってから聞かされるものだから、エレナは今も彼らの存在を知らないだろう。

 それらを考えても彼らがエレナの協力者というのも考えにくい。

 それに彼らに命令を下せるのはこの国で国王陛下だけだからね。

 彼らがエレナを利用して私たち王族を排除しようとしているなら…などのことはあるが疑い始めればすべてが怪しくなるが、そこまで考えなくともよいだろう。

 だから彼らという線も極めて可能性が低い」

「なるほど…だからギルは残りのお一人の可能性しかないと思っているという訳ですね」

 ギルバードがひとつ頷いて。

「まあそうだ。

 あと王族には叔父上王弟殿下がいるがその可能性も限りなくない。

 王弟殿下とエレナが顔を合せたのは結婚式の時だけ、公の場で挨拶をして王弟殿下から祝いの言葉をもらった時だけだった。

 それにその数日後に王弟殿下はすぐに国外に旅立たれてそれから一度も戻ってきていない。

 これについても他のことについてもなんだが、エレナの証言は一切得られていない。

 それにエレナがちゃんと証言したとしても、協力者が王妃殿下であったという確固たる証拠がなく証言のみなんだ。

 エレナと侍女の証言があったとしても今のところ王妃殿下を裁くことは難しいんだ」

そうか、例え協力者が王妃殿下であったとしても裁けるだけの証拠がないのか。

「それに報告にあるがまだエレナは訳のわからないことを言いながら、自分は悪くないとずっと言うばかりで話にならないそうなんだ」

「そうですか…」

 こちらに来るまでのギルバードの報告にもあったが、いったい何なんだ!

 自分があんなことをやっていながら、ベレッタに馬乗りになり首を絞めている現場を押さえられているのに、何故自分が悪くないなどと言えるんだ!

 私はその身勝手なエレナに怒りを感じてギルバードを睨み付けてしまう。

「…フローリア、近衛、メイドたちの証言とエレナは現行犯だからもう疑いようもない。

例え本人の証言がなくとも罰せられることは決まっているが…。 

もう強引な方法で自白に持っていってもいいんだが…エレナが私や、フィン、ナイゲル、エンディナーに会って話が出来るならすべてを話すと言っているそうだが…」

「はあ?」

 私は腹の底から低い声が出ていると自分でもわかる。

「そうだよな…フィンはもう顔も見たくないだろう。

 きっとナイゲルもエンディナーも同じだと思う…。

 だが私は一度だけ会ってみようと思っているんだ…」

 ギルバードのもう諦めたような表情が気になる。

「こんなことを言っては何ですが…もう誰が会おうと変わらないと思うのですが?」

「確かにな…でもエレナは王太子妃でまだ私の妻だ…。

 私には責任がある。

 私の過去の行ないでこうなったとも言えるんだ。

 だが、エレナはそう言っているが私たちに会えたからと正直にすべて話すとは思っていないよ。

 ただ一度も会わずにそのまま拷問して自白させるものね…最後になるだろうから一度は私だけでも会ってみようと思う…」

 ギルバードは眉を寄せて悔恨の表情を見せながらエレナに温情を見せる。

 その張り詰めた後悔の色に染まっているギルバードの様子に私は遣る瀬無い思いが込み上げてくる。

 甘いと思われるかもしれないが私はそんなギルバードを一人でエレナに会わせたくないと思ってしまった。

「…もしナイゲルとエンディナーが会ってもいいと言ったなら、私も一度は会ってもいいと思っています」

私がギルバードをジッと見ながら言うと。

「フッ、フィンは私のことを心配してくれているんだな…。

本当に情けない男で済まない。

でもいいのか?本当に?」

ギルバードが私が心配していると気付いて自嘲しながら私に問うてくる。

ギルバードは本当に人の機微に敏感になったんだなとこんな時なのに素直に感心した。

「構いません。

ただナイゲルもエンディナーもとエレナが言っているのだから、みんなが揃うことが条件です」

「…わかった。

ナイゲルにもエンディナーにも私が手紙を出してみて、彼らが会ってみてもいいと言ってくれたら、その機会を作るよ」

それからギルバードとこれからのことを少し打ち合わせをしてからその日は私は邸へと戻った。







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