【本編完結以降番外編は随時更新予定】小国の美姫は帝国で側室になってのんびり生きたい

asamurasaki

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六話 小国の美姫、お披露目の夜会

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皇帝陛下視点



今は皇宮の私の部屋の間に寝室を挟んだ隣の皇后の部屋で、お互い部屋の中から行き来出来るように改造させた部屋にウィレイナは暮らしている。
元々皇后となれば皇宮で住まうことになっているが、以前は皇帝と皇后の部屋は完全に別の個室となっていたが、他国の仕様に私が変えさせた。

ウィレイナを皇宮に移らせたのはウィレイナを排除しようとした側室たちを家ごと排除したり、他国の王女は国に帰して処罰を受けさせることにして、他の側室たちもそれぞれ家や国などに帰らせた後のウィレイナがちょうど安定期になった頃だった。

ウィレイナの懐妊がわかってからすぐにでも皇宮に連れて帰りたかったが、まだウィレイナを害そうとした者を排除出来ていない時であったので、人の出入りが多い皇宮より離宮の方でウィレイナを守ることにしたのだ。

側室たちがすべていなくなってからウィレイナが安定期になっているとはいえ身重のウィレイナを一人離宮に居させるのが心配だったからだ。
実を言うとそれだけじゃなく私が会いたい時にすぐ会いたいが為でもある。

そして皇宮でウィレイナを守る人員を増やして確実なものにしてからにした。
その時はとりあえずは私の部屋の近くの部屋に移らせた。

本当は最初から私の隣の皇后の部屋にしたかったが、まだ正式に皇后になるとは発表していないし他の側室はいなくなったが、まだこの件に関して完全に決着がついていなかったからだ。

もう部屋の改造は済んでいたが。

強引に隣の部屋にさせようかとも思ったが、周りにこれ以上文句を言わせない為に決着したからにした。

ウィレイナは余程離宮の住み心地が良いのか、「わたくしはこちらに住まわせて頂けるだけで十分でございます」と言っていたが。

「ウィレイナは私の子を身籠っているだろう?私はそなたの懐妊がわかってからずっと心配しているのだ。

でもまだ他の側室たちがいたからウィレイナだけを皇宮に住まわせる訳にはいかなかった。

だが今はもうウィレイナしかいない。

それならもうそなたは皇宮で暮らしてもいいと思わないか?

それに私がそなただけを愛しているともうわかったのだろう?

もう私にはウィレイナだけだ。
私はウィレイナ以外に他に側室を娶る気がない。
それは今後もずっとだ。
そなたが皇后になるのだ。
これからもずっとウィレイナだけを愛する。

私は愛するウィレイナの傍にいたい。
私が会いたい時にすぐ会える距離にそなたに居て欲しいのだよ。

私の為を思って皇宮に来てくれないか?」

とウィレイナに私の気持ちを切々と説いて同情を引くようにして、少々強引に皇宮に連れ帰った。

女に同情を引いて傍にいさせるなんて過去の私が見たら信じられないと言って、馬鹿にするであろうな。

でも今の私はもうウィレイナがいないと生きていけない。
それに私は今の私の方が好きだで幸せだ。
一日中愛するウィレイナの顔を見て触れ合っていたいと思っている。

皇帝としてそんなことが無理であることはわかっているが。

ウィレイナは安定期に入ってから他の側室がみないなくなったこと、その時に私がウィレイナだけを愛していると告白したことで、私の気持ちをわかってくれて受け入れてくれた。

しかしウィレイナは私がウィレイナを愛する程、まだ私のことを愛していないことはわかっている。

ウィレイナが私に好意を持っていることは確かだが、それが親愛からなるものなのか、私を男として好きなのかどちらなのか、鈍感で男女関係に疎いウィレイナ自身がわかっていない。

今はそれでいいと思っている。
ウィレイナが私の傍にいることを納得してくれたのだ。

いつかウィレイナが私を愛してくれるよう私は自分の思いを伝え続けて行動していくまでだ。

ウィレイナが皇宮に移ってきてから部屋をほとんど出ることが出来ない生活をさせてしまっている。
 
ウィレイナが自由になりたい、穏やかに自分のやりたいことを好きにやりたいと望んで、母国を出てきたことを私はウィレイナから聞いてわかっているのに、また母国と同じような生活を強いてしまっている。

でも少し待って欲しいと私は言った。

帝国の皇后になったらウィレイナの望む生活をするのは難しくなってしまうかもしれない。

でも私はもうウィレイナは逃してはやれない。

だから私はウィレイナの為に出来ることはするつもりだ。
少しでもウィレイナの望む生活を実現させてやりたい。

その為なら私は何でもする。
ウィレイナにもそれをわかってもらいたい。


側室問題が完全に決着してウィレイナは皇后の部屋に移った。

そしてウィレイナが皇宮に移ってきてから半年足らずの夜半にウィレイナは男児を生んだ。

私と同じ黒髪に赤い瞳の生まれたばかりなのにウィレイナによく似た美しい顔をした皇子が誕生した。
赤ん坊ながらに目鼻たちがもう整い過ぎている程だ。

皇族の直系が赤い瞳を持って生まれてくることは決まっているが、髪も私の色が優性となったのか、髪と瞳の色は私の色だが見目がウィレイナによく似ている。
この子は今のところ帝国の世継ぎ候補の筆頭である。
順調にいけば皇太子となり皇帝となる私とウィレイナの息子だ。

そのことだけでもなのに見目がウィレイナに似ているとなると、この子のこの先は私より大変なものとなるかもしれんな。

国内の貴族令嬢や他国の王女たちが放っておかず、我先にとこの子に集ってくるであろう。

私がそんなことを思いながら生まれてから数ヶ月経った眠る我が子を抱いていると、ウィレイナが話しかけてきた。

「グレイブ様?何だか浮かない顔をしていますけど、何かありましたか?」

ソファに座って首を傾げながら私を見上げる私の可愛いウィレイナ。
男女間のことには疎い鈍感なのに私の表情の機微などには敏いのだ。

「…この子は髪と瞳は私の色を受け継いでいるが、顔はウィレイナによく似ている。

これから帝国の皇子としてこの子は大変だなと思っていたのだ」

私の言葉にウィレイナはん?という顔をした後、私の言わんとしていることに気付いてハッとした顔になった。

ウィレイナは帝国に来た時、自分の付きの侍女が自分に普通に接してきたことから、母国での狂騒とも言える自分の美貌に対する称賛は小国である母国のことだけで、外に出れば自分は人並みであると思ったようだが、そんなことはあるはずはなかった。

ウィレイナの美貌はこの世界でも一番と言えるものであることをもう今では自分でもわかっている。

だからといってウィレイナは今までと何ら変わらなないのだが。

「そういうことですか。

そうかもしれないですわね。
でもこの子にはグレイブ様もわたくしもおります。

わたくしたち2人でこの子がなるべく憂いなく生きていけるように、傍にいて導いて見守っていけばきっと大丈夫ですわ。

それにこの子はグレイブ様の子ですもの。
きっと強い子になります」

ウィレイナの言葉は不思議だ。
私の憂いなどすぐに吹き飛ばしてしまう。
そうだな、私の憂いもこんなふうにすぐに吹き飛ばしてしまうくらいなのだからこの子のことも大丈夫だろう。

「フッ、そうだな。
今思ったが、弟や妹をたくさん作ればいいのだ。

ウィレイナに似た子がたくさん出来ればこの子一人ではなくなるだろ?」

私がそう言うと、ウィレイナは顔を赤くして恥ずかし気にしながら目を泳がせる。

「…そ、そうですわね」

いつまで経っても初で可愛らしい反応をするウィレイナは本当に堪らなく愛らしい。

子を生んでもその美しさは変わらないどころかより一層美しさに拍車がかかっているようだ。

輝かんばかりの美貌に少し大人っぽくなり色気も出てきて、最早その美しさはどこまでいくのだろうと思っている。
 
だが、この私がイメルダを始めウィレイナの侍女たちや使用人たちがウィレイナを今まで通りに愛して守っていく。

そしてこの帝国全体がウィレイナの生活を守っていくようになるようにしてみせる。

私とウィレイナの子の名はテオルブにした。

ウィレイナと出会う前は生まれてくる子はこの国の世継ぎでしかないと思っていたが、私とウィレイナの子となれば可愛いと思えてくるから不思議なものだ。

私はウィレイナとテオルブを守っていく。
そしてウィレイナが言ったようにテオルブが悩んだり傷ついたりしたら、私の経験から教えてやれることがあるだろう。 
見守って導いてやればいいのだ。
ウィレイナと一緒にな。

それは今後出来るであろう私とウィレイナの子たちにも同じくだ。

ウィレイナを強引とも言える方法で皇宮に住まわせたこと、今後一切側室を娶るつもりはない法律を変えると言ったことで文句は確かに出た。

今まで帝国で国内からも国外からも側室を娶ることは政事のひとつとして当たり前のことであった。

その当たり前を変えることに危機感を覚える者や何故か伝統として重んじるものがいるが、知ったことか。

俺はそんないらん習慣を変えると決めたんだ。

口煩い臣下たちに「ウィレイナより美しい者がいるなら側室を娶ることを考えてても良い」と宣言したので、ウィレイナの体調が戻ってから披露目の夜会を開くことにしている。

一度でもウィレイナを披露すればほとんどの者は納得して、また側室を娶れなどと言ってくることはないだろう。

ウィレイナより美しい者などいるはずがないのだから。



ウィレイナの体調は産後1ヶ月もすると以前通り戻ったので、他国の国王たちも招待するので、余裕を持って夜会の日取りをそれから半年後に決めた。


そしてウィレイナを披露目する夜会の日がやってきた。

今宵のウィレイナは真っ白に私の瞳の色の赤い小さい宝石で大きな薔薇一輪の模様を象り縫い付けたものを腰から膝下辺りまでくるようにあしらったドレスにした。

私がドレスの生地からデザインなどすべて指示を出したものだ。

大きな薔薇が施された身体のラインが出るマーメイドラインという真っ白いドレスを纏うウィレイナはより清廉さを醸し出していて、その美しい均等の取れた身体のラインも表れていてまさに女神のように美しい。
胸の上までのデコルテラインと言われるものが出たドレスで、その上に赤い大きな宝石のペンダントをしている。
上に肌があまり見えないようにドレスと同じ生地の白いストールを羽織らせて、白いロンググローブもさせている。

披露目はするが、なるべく長時間肌を他の者に見られるのが嫌だからだ。 
ウィレイナの美しさを披露する為の夜会だが、これくらいの独占欲は許してもらいたい。

私とファーストダンスの時はそのストールも外すことになるのは仕方ないだろう。
そこは我慢するとしよう。
 
首の締まったドレスは帝国では夜に開かれる夜会や舞踏会には相応しくないとされている。
昼のお茶会などでは着ている者はいるが、それも年配の者ばかりだ。
やはり古い印象を与えてしまう。

ウィレイナは帝国を代表する皇后となる女性だから今身体のラインが出るものが流行りなので、そういうところをちゃんと押さえたものにした方がいいと考えて、このドレスを選んだ。

薄紫の綺麗な髪を緩く結って中央に黒い宝石のついた花の模様の白金の飾りをつけている。
ティアラは結婚式までお預けだ。

今宵の夜会でウィレイナを皇后とすると発表するから出来るだけ早く結婚式をしたい。

私とウィレイナが会場前の扉に到着した。
もう臣下たちや招待している他国の者たちが会場に集まっているだろう。

まだウィレイナには内緒にしているが、ウィレイナの両親のヨギート王国の国王夫妻も招待している。
 
帝国から片道2ヶ月以上かかるそうだからそうそう来れることはないが、最愛の娘に会えると王子や王女たちを置いて国王夫妻は昨日皇宮に到着したと聞いた。

ウィレイナには後でゆっくり家族と会わせてやろうと思っている。
喜んでくれるだろうか?
 
ウィレイナにとっては生まれて初めての夜会だ。
緊張して少し顔が青白くなり引きつっている。 

「ウィレイナ、大丈夫だ。
私だけを見ていればいいのだ。
そうしていれば夜会などすぐに終わる」 
 
と私が言うと、ウィレイナはふふふっと少し緊張が解けた相変わらずの輝かんばかりの美しい微笑みを見せた。

ウィレイナは私の前では訓練された淑女の笑みではなくウィレイナの本来の屈託のない微笑みを見せてくれる。
私はそれが堪らなく愛おしく好きだ。

「そうですわねグレイブ様、わたくしはグレイブ様以外目に入りませんもの。
グレイブ様だけを見つめている間に夜会が終わってしまうと思いますわ」

「えっ?‥」

思ってもいないウィレイナの言葉に私は固まってしまった。
ウィレイナからそんなことを言われたのは初めてだからだ。

顔が熱くなっていくのがわかる。
ウィレイナから初めてと言える私のことを好いているという告白とも言えるものではないか?その言葉に私の心が歓喜して身体に震えがきそうだ。
でも何故今この時なのだ?

ウィレイナはイタズラが成功したような茶目っ気のある笑顔を私に向けてきた。
 
「ウィレイナ、今なんてズルいぞ」

私がジトッとウィレイナを見やると。

「グレイブ様がわたくしの言葉で顔を赤くするところを初めて見れましたわ。

そのお陰で緊張が解れてきましたよ、ありがとうございます」

と美しく屈託なく笑うウィレイナ。
ああ、私はウィレイナには敵わないな。


さあ、私とウィレイナの入場の時だ。

ウィレイナが私の腕に自分の腕を絡めたタイミングで扉が開いて私たちはゆっくりと会場に入っていく。

ウィレイナは緊張など感じられない程しっかりと前を見据えて堂々と私の横を歩いている。
壇上の中央まで来てから王座の椅子には座らず、立ったまま頭を下げている面々に私が声を発する。

「面を上げよ」

おずおずと頭を上げた者たちが一瞬水を打ったように静まり返った後、おぉーっと次々に感嘆の声があちこちから上がる。

みながウィレイナの美しさに度肝を抜かれているのがわかる。

そうであろう。
ウィレイナ程の美しい女など他には存在しない。

着飾った令嬢や王女たちがポカンと目を見開いているのがわかる。

ウィレイナがどれ程のものか見定めてやろうと思っていたのだろうが、お前たちでは話にもならない。
足元にも及ばぬ。

しばらくざわめきがおさまりそうもないので、私が場を収めることにした。

「聞くがよい」

言うとみながピタッと静かになった。

「紹介しよう。
私の最愛の妻、ウィレイナ・モリアナ・サンクスヴェリッドだ」

ウィレイナが私から腕を離して美しいカーテシーをする。
その完璧ともいえる礼にさえみながウィレイナの美しさに息を呑んでいる。

「わたくしがウィレイナ・モリアナ・サンクスヴェリッドでございます。
皆様以後お見知り置きを」

うっとりする程の美しい微笑みを浮かべながら軽やかに美しく響く声でウィレイナが自分の名を名乗った。

それだけでまた波のようにどよめいていく。

感嘆の溜め息を吐くもの、涙を流さんばかりに目を潤ませている者もいる。

見ると、ウィレイナの両親であるヨギート国王夫妻がもう泣いているではないか! 
一国の国王王妃、親が泣いてどうする!

久方ぶりに娘の姿を見ることが出来て感激しているのかもしれんが、いち国王と王妃がちょっと泣き過ぎてはないか?
 
ウィレイナがクスッと笑った。

「どうした?」
    
私はウィレイナの耳元で小声で聞く。

「お父様とお母様のお姿が見えたのですが、凄く泣いていて…一国の国王陛下と王妃陛下としては有り得ないことですが、らしいなと思ったら緊張が余計解れてきて」  

とウィレイナがクスクスという笑みを私に向けてきた。
その笑みにまた周りがざわつく。

「みなの者、私はウィレイナを皇后とすることをここに宣言する!
そして私は今後一切側室など娶らない。
私の愛する者はウィレイナだけだ!」

私の宣言に歓声と拍手が巻き起こった。
ウィレイナを一目見ればこうなることはわかっていた。

これで良い。
しかし今後ウィレイナの母国ヨギート王国のような狂騒が起こらないようにせねばならないと思った。

会場にいるほとんどがウィレイナの人外とも言える程の美貌に見惚れて、魅入られているのがわかる。

私がちゃんとしなければなるまい。

愛する私のウィレイナが望む自由に穏やかに暮らせるよう、それがなるべく実現出来るよう私がしていかなくてはならない。

皇后となれば、自由と穏やかな暮らしを送ることは難しいかもしれない。

それでもウィレイナが皇后となることを承諾してくれたのだ。

私は愛するウィレイナの為にウィレイナの望む生活を出来るだけ叶えてやりたい。

私はその為にこの帝国の皇帝としてあり続けなければならない。

それが私の生きている意味である。


あれから私とウィレイナがファーストダンスを踊った。

みなの注目を一心に浴びていたけど、ウィレイナは周囲の視線など気にせず、いつもと変わらず私の顔を見ながら美しく微笑んでいた。

そうなのだよ、ウィレイナ。
ウィレイナはそのままで良いのだ。
この時、この時間を楽しもう、愛する私のウィレイナよ。



★☆★


ウィレイナ視点


夜会の後、応接室でお父様とお母様にお会いした。
グレイブ様からお聞きしたのだけど、お父様とお母様をわたくしを喜ばせようと内緒で招待しており、お父様とお母様が遠い帝国に来て下さり、昨日皇宮に到着されたらしい。

お父様とお母様は夜会の時にあれだけ泣いていたのにわたくしの顔を見ると、また号泣しだした。

でもわたくしはもう怖いとは思わない。
この帝国での経験がわたくしを成長させてくれたのだと思う。

グレイブ様と両親が挨拶を交わしてから。

「ヨギート国王陛下、王妃陛下お久しぶりでございます」

カーテシーをしながら挨拶をすると。

「ウィレイナ、お願いだからそんな他人行儀はやめてくれないか」

「そうですわ、ウィレイナ!わたくしたちは貴方の親なのだから」

お父様とお母様が悲壮な顔をして続け様に言う。
わたくしがグレイブ様を見ると、グレイブ様が笑顔を見せゆっくり頷いてくれたのでわたくし砕けた口調に戻すことにした。

「お父様、お母様お元気そうで何よりです」

「おぉー、ウィレイナよ。
その、そなたを抱きしめて良いか?」

お父様がグレイブ様とわたくしを見てお伺いを立てるように聞いてきた。

「家族ですもの、もちろんですわ」

わたくしがそう言うとお父様がわたくしに歩み寄ってきて、キュッと優しく抱きしめて下さった。

温かい懐かしいお父様の香りがしてくる。

「お父様の香りがしますわ、それにとても温かい。
とても安心します」

「ウィレイナ…」

お父様がわたくしから腕を離してまたボロボロと泣き始める。

「お父様どうしたのですか?」

「私は…私たちはウィレイナに嫌われてしまったのではないかと…だからウィレイナは国を出て行ってしまったのではないかとずっと思っていたのだ」

お父様からの言葉を聞いて、お父様もお母様も何故あんなに泣いていたのか、今も泣いているのかわかった。
 
あの時、わたくしはあのまま国にいることが怖くなって出て行ってしまった。
ちゃんと家族たちに納得してもらったと思っていたけど、違ったのね。

お父様、お母様ごめんなさい。
周りがどうであったにせよ、わたくしが逃げ出したのは事実だ。
今思えば、わたくしはあの状況を本気で自分でどうにかしようとは思っていなかった。
最初からどうにも出来ないと諦めていたのだ。
お父様や家族はただわたくしを大切に思って守ろうとしてくれていたのに。

周りがわたくしが何か言う前に察して動こうとしても、わたくしがちゃんと自分を持ってやりたいことしたくないことを諦めずにもっと上手く言えれば良かった。
わたくしからもっと働きかければ良かったのかもしれない。
そうすれば周りも変わっていったのかもしれない。

でもそれも今ならわかること。
決してお父様やお母様たちだけのせいではなかった。

「わたくしはいつまでもお父様、お母様の娘ですよ。
わたくしを愛してくれていることちゃんとわかっていますしわたくしも愛してます。

わたくしはお父様お母様、そして母国ヨギート王国に感謝しております。

嫌だから嫌いだから国を出たのでは決してありません。

もっと早くにわたくしがどうしたいかどうありたいかもっとちゃんと伝えるべきでしたね。

ごめんなさい」

わたくしは怖くなって国を出たのだとは言わなかった。
それを言ってしまうとお父様とお母様が余計悲しむと思ったからだ。

「そんなことはない。
すまなかった、ウィレイナ。

私たちがそなたを心配するあまりそなたの自由を悉く奪ってしまっていたのだ。

私たちはウィレイナが国を出てから気付いたのだ。

馬鹿な親を許しておくれ」

「お父様もう謝らないで下さいませ。

遠い所を来て下さり本当にありがとうございます。

お会い出来て本当に嬉しいです」

「ウィレイナ…」

お母様も涙を流している。
わたくしはお母様の元へ歩いて行き、お母様に抱きついた。

「お母様、会いたかったです!」

「ああ、ウィレイナわたくしもですよ。

貴方が国にいる時より元気にそして生き生きとしていて、わたくしは本当に嬉しいわ」

「お母様ありがとうございます。
わたくしは今とても幸せですよ」

しばらくお父様、お母様と抱き合った。

「ヨギート国王殿、王妃殿明日にはぜひ私とウィレイナの息子テオルブに会ってやって下さい」

グレイブ様がお父様、お母様に語りかけた。

「サンクスヴェリッド皇帝殿、有り難き言葉感謝する」

「まあ、お父様、お母様もグレイブ様も堅苦しいですわ。

グレイブ様はお父様の義理の息子ですのよ。

お父様、お母様はわたくしの親ですが、グレイブ様の親でもあるのですよ」
 
わたくしが先程自分が両親に他人行儀な挨拶をしたのに、それを棚に上げてニコッと笑いながら言うと。

「そうだな、お義父上お義母上、皇宮に滞在中はウィレイナとテオルブと心ゆくまで過ごして下さい」

グレイブ様もニッコリとお父様とお母様に微笑みを向けた。

「クレイブ殿、ありがとう。
そうさせてもらうよ」

お父様もお母様もグレイブ様とわたくしに笑顔を向けてくれた。

これからわたくしは帝国の皇后となるけれど、出来るなら時期を見て一度母国に帰ってみたいと思うわ。

それもこの帝国に来たからグレイブ様に出会うことが出来たからそう思えるようになった。

自由になりたくて帝国に来たけれど、離宮から出ることは出来なくてもわたくしはここで侍女たちが普通に接してくれて出来る範囲で好きなことをさせてもらった。
それからグレイブ様と出会って、最初はグレイブ様はただお疲れになっているからわたくしがグレイブ様を癒やす存在になって、お元気になられればもう来られなくなるだろう。

グレイブ様に側室として寵愛されるよりも、離宮で自由にのんびり穏やかに過ごしていける方が良いとさえ思っていた。

でもグレイブ様はそんなわたくしを愛するようになって下さった。
それからは毎日のように離宮にいらっしゃってストレートに愛を伝え続けて下さっていた。
わたくしはずっとそれは閨の睦言で本気でおっしゃっているのではないのだと思っていたけど、わたくしがテオルブを身籠って安定期になった頃、グレイブ様は他のすべての側室はいなくなったこと、そしてわたくしだけを愛していると伝えて下さり、本当に愛して下さっているのだとわたくしは気付いた。

グレイブ様はそれからも毎日わたくしに愛してると伝え続けて下さっている。
わたくしは自分の子を生んで、生まれたばかりのグレイブ様と同じ黒髪に赤い瞳のテオルブをこの腕で抱いた時にわたくしもグレイブ様を愛しているのだと気付いた。

そしてわたくしはたくさんの人たちに愛されていることを気付くことが出来た。 

これからはわたくしは帝国でたくさんの人たちを愛して生きていきたいと思っている。

まだグレイブ様に言葉で伝えていないけど、この後二人っきりになった時にグレイブ様に愛していますと伝えよう。

本当に帝国に来て良かった。



☆★☆



この夜会から2日後にお父様とお母様は国へと帰って行った。
また必ずお会いしましょうと約束して。

夜会から半年後にグレイブ様とわたくしは結婚式をして、わたくしは皇后となった。

結婚式にはお父様とお母様、第二王女だった侯爵家へ降嫁したお姉様夫妻が参列して下さいました。

お父様とお母様は半年前の夜会に出席したのだから今度は王太子のお兄様が出席すると言ったそうなんですが、それを聞いたお父様が「それなら国王を退位する」と言い出してしまい、王太子のお兄様が急遽国王に即位することになりお兄様は泣く泣くお父様とお母様に参列を譲ったのだと聞きました。

お父様とお母様は相変わらずと言ったところでしょうか(笑)。

皇后となると当然だけど、わたくしが母国を出る時に望んだ自由でのんびり穏やかな生活とはいかなかった。

でもわたくし自身が望んで皇后になったのです。

ずっとグレイブ様のお側にいたいから、グレイブ様にわたくしだけを愛して欲しいから、わたくしもグレイブ様だけを愛していたいから。

それが自由な生活よりもわたくしの望む幸せとなったからであります。


わたくしはそれから二男二女を生んで5人の子の母になりました。

幸せで楽しいことばかりではなく時に大変なことや悲しいこと、辛いことがありました。
これからもきっとあることでしょう。

でもいつかグレイブ様が皇帝を退位された時に、二人で自由にのんびり穏やかな隠居生活が出来たらいいなとグレイブ様と話しております。

今のわたくしの夢はあの離宮で皇帝を退位したグレイブ様とのんびりと生きていくことです。

それまでにわたくしの子たちのいろいろな物語が巻き起こりますが、それはまた別のお話でございます。



END


★☆★


これにて本編完結でございます。

実は最初本作の主人公傾国の美姫ウィレイナの子供たちメインの作品を考えておりましたが、それは短編では済まないなということでウィレイナと皇帝グレイブを主人公としたものにしました。


この後、番外編を書いていきたいと思ってます。

番外編では端折ったウィレイナの心境の変化やR18のお話を書いていきたいです。

私都合で他の連載がストップしておりまして、更新するとここで書きながら滞ってしまい申し訳ございません。

長期更新していないにも関わらずお気に入りにし続けて下さってるみなさま本当にありがとうございます。

体調が悪くなったり、いろいろと忙しくかったこともありまして、リハビリ的な気持ちで短編を書きたくなりこちらの作品を先に書き上げました。 

思ったより一話が随分長くなってしまいました(笑)。


う~ん簡潔にわかりやすくまとめて楽しめる短編を書く難しさを実感しております。

これからそういうショートショートみたいな短編にも挑戦したいです。


これからもボチボチですが、また他の連載も書いていきたいと思っております。

連載が再スタートした際には番外編以外は何かない限りは毎日更新していきたいと思っております!

ありがとうございます!
そしてよろしくお願い致します。












    
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