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三十九話 国王、ラスボス?!を警戒する
しおりを挟むケングレットと踊りながら目線だけでフローラを探してみると、王太子と親しげに何やら話しているフローラを見つけた。
王太子も嫌がるどころか、デレデレと鼻の下を伸ばしている。
「もう王太子と接触したみたいね」
俺の言葉にケングレットも反応する。
「そうみたいですね…」
ケングレットは表情を変えず俺を見つめてくる。
「ダンスは踊らないのかしら?」
俺はもう親しそうにしている王太子とフローラを見て、何故だが少し笑えてきてケングレットの俺より随分高い位置にある顔を見上げる。
「平民からサイアン男爵の養子になったばかりでまだ踊れないのではないですか?」
「ああ、そういうこと」
横目でともう一度フローラを見ると、ちょうどこちらに目線を向けてきていた。
ケングレットと踊っている俺に気付いて目を剝いてキツい瞳で睨んでいる。
王太子が隣にいるのに取り繕いもしないのか?俺は口の端だけ上げて心の中で苦笑する。
それが俺だけに対してなのか、いやケングレットも含めてなのだろうけど、堂々としたものだな。
「今にも飛びかかってきそうな顔で睨まれてるわ」
俺がクスッと笑うと
「…もしかしてあの女を試す為にリリアナ様は俺をダンスに誘ったのですか?」
ケングレットが少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「あら、違うわ。
いくらわたくしでもそこまで考えてなかったわ。
ただ貴方もデビュタントで他の令嬢に誘われて踊っているだろうと思っていたのにまだだって言うから誘ったのよ。
せっかくのデビュタントなんだから一曲くらい踊っておいた方がいいかなと思ってね。
わたくしでは不満だったかしら?」
俺が少し首を傾げながら悪戯っぽく笑うとケングレットは目元を赤くしながら少しホッとしたような表情で
「とんでもございません。
他の令嬢と踊る気が一切ありませんでしたので、誘って頂いてありがとうございます」
ケングレットが嬉しそうにすんなり言うので
「まあ、そんな堅いこと言ってたらいつまでも婚約者も出来ないわよ」
「私は婚約者などいりません。
リリアナ様をお守りすることしか考えておりませんので」
ケングレットの言葉に俺は目を丸くして
「そんなに真面目に考えなくても…」
「いいのです」
ケングレットの頑固さが出てるな。
俺はそれ以上言葉に出さず、それからにこやかにケングレットとのダンスを楽しんだ。
ダンスが終わって家族がいる所へとケングレットと戻って行くと、ロランが耳元で囁いてきた。
「陛下が後でお話があるそうです」
「わかった」
たぶんフローラのことだな。
陛下から前もって報告なかったし、あの反応だと神殿での判定はまだだろうな。
サイアン男爵が神殿の判定もなしにフローラを養子にしたことに疑問はあるが、神殿で判定が済んでいれば陛下の耳にも入っているはずだからな。
それにしてもフローラが何でこんなに早く現れたのかが気になる。
陛下も俺に話すということは頼りにしてくれているということか。
早速フローラが王太子に近付いていったこともあるからだろうな。
とにかく陛下と話してみたいとな。
デビュタントの夜会の後、お父様、ラルフ、ロランと共に陛下の元へ行く。
「リリアナ、こんな時間に呼び出して悪かったな。
それにベンベルトのことも本当にすまない。
リリアナをエスコートしないばかりか、婚約者がいるのに無闇に他の令嬢に近寄るなと注意したんだが…
本当にどうしようもない愚息だ。
恥ずかしいばかりだ」
部屋に入ってから陛下がすぐ謝罪してきた。
王太子が俺をエスコートしなかったことを気にしているんだろう。
まあ婚約者ならエスコートして当然だからな。
でも予想していた通りだったから。
俺を噂の的にして貶めてやろうと思ったのかもしれないな。
確かにそれは成功したな。
周りに俺は王太子に見向きもされない婚約者として見られただろうからな。
しかし王太子もそれだけにしておけば良かったのに、婚約者がいながら初対面の令嬢と親しげに会話していたことは良くなかったんじゃないか。
おまけに相手が陛下にも王太子に対しても不敬な言動をしてきた男爵令嬢だったのだから目立っていただろう。
悪いが、王太子の評判もまた下がったことだろう。
「陛下がお謝りになることではございません。
わたくしが陛下にも王妃殿下にも王太子殿下に何も言わないで下さいとお願いしたのです。
あくまで王太子殿下とわたくしの問題ですので」
「しかしベンベルトがリリアナをエスコートしなかったとなると、リリアナが他の者たちにいろいろと噂されるであろう?」
「陛下、そんなことまったく気になりませんわ。
それよりサイアン男爵令嬢のことでわたくしをお呼びになったのですよね?」
俺が陛下を見ると苦虫を潰したような渋い顔になる。
「そうだ。いきなり我が許してもいないのにペラペラと話し出すわ、聖魔法が顕現したと言うし、ベンベルトに近付いていくし、ベンベルトもそれを許すしあやつは何が目的なのだ」
陛下はフローラと王太子のことで大層ご立腹のようで、フローラに対して怪しんでるようだ。
「そのサイアン男爵令嬢はまだ神殿での判定は済んでいないのですよね?」
俺はあえてに笑顔を貼り付けて陛下に聞いた。
「それは神殿から我に報告がきておらんので、まだだろう」
「神殿での判定が必要ですが、サイアン男爵が養子にしたようですから、聖魔法に顕現していると見て間違いないのではないでしょうか?」
陛下が俺の言葉にうむっと唸る。
「サイアン男爵令嬢も聖魔法に顕現していると?」
「陛下の御前にて自ら宣言したのです。
それが事実でなければ罰せられることですから事実なのでしょう」
俺が微笑みながら言うと
「いくら元平民であるとはいえ、聖魔法がどれほど希少かわかっているはずであろうにあんな場で言うなどと、何を考えているのか?何が目的なのか?不気味だ」
陛下はフローラの不敬な行ないに眉を顰め、そしてかなり警戒しているようだ。
確かにあんな公の場で聖魔法のことを言うことではない。
自らが危険な目に遭うかもしれないのに。
しかしフローラはずっと今までの記憶とゲームの知識があるだろうとリリアから聞いたし、自分はこの世界の主役であると思っているから危険性も感じていないのだろうな。
彼女が表舞台に現れるのは来年のはずが、早まったことについては彼女の目的が早く王太子たちに会うことだけなのか、他にもあるのか?
何だかゲーム通りじゃない今回は気になるところだが、それはこれから調べていく必要があるな。
「サイアン男爵、令嬢のことを調べる必要はあるかとは思います」
俺が陛下の顔を見上げると
「そうだな、我もそう思っている。
すぐ影を手配することにしよう。
聖魔法に顕現しているとなると属性判定の後、神殿にて保護してもらうことにする」
フローラは王宮でなく、神殿の方がいいかもな。
現実問題としていち男爵家では守り切れないだろうと思う。
しかし王宮での保護を進言してきそうではある。
「サイアン男爵が王宮での保護を進言してくるかもしれませんよ」
俺は有り得る可能性を口に出した。
「それはならん。信用のならない者を王宮で保護など出来ん」
陛下は即座に首を横に振った。
王太子は一目でフローラを気に入ってそうだから、王宮で保護すると言い出しそうではあるが、陛下は許しそうにないな。
「承知致しました」
俺は陛下を見上げる。
「それからサイアン男爵令嬢も貴族だ。
義務で貴族学院に通わせなくてはならないが、例外でやめさせることも出来る」
「陛下、例外もあるのですか?」
俺は例外ということは聞いたことがないので質問してみた。
「16歳になる貴族は義務で貴族学院に通うことが法て定められているが、家の事情や本人の体調、あと他国の間諜ではないかなど、本人や周りに怪しいところがある場合、認めないこともある。
真っ先にベンベルトに近付いていったしな、認めない方が良いかもしれん」
陛下の言葉を聞いて、言っていることはご尤もで本来ならそうするべきだろうが、フローラが学院に編入してこないとリリアナとリリアの敵は取れない。
それにわからないことも多いし、何をしてくるかわからないから危険であるだろうが、フローラには学院に編入してもらった方が調べやすくなっていいのではないか。
「わたくしはサイアン男爵令嬢には貴族学院に編入してもらった方が良いと思いますが?」
俺はすんなりと意見を述べる。
「しかし…断りもなしに我もにもベンベルトにも話しかけてくる常識がないし、もうベンベルトに近付いていっておる。
ベンベルトはいくら言って聞かせても変わらないしな。はぁ~」
陛下が溜息をつく。
「陛下発言をお許し頂けますか?」
「許す」
「陛下が危険を感じ警戒されてるいること私たちも十分承知しておりますし、私もそうでございます。
ずっと神殿に閉じ込めておくことも一つの手でございますが、もちろん神殿にての監視も必要てすが、学院に編入させて何が目的か動きを探るのも一つの手かと思います」
ここにきてお父様が初めて発言した。
「ふむ、そうではあるかもしれんが学院にはリリアナや他にも将来有望な生徒がたくさんいる。
その者たちが心配だ」
陛下はもしかしてフローラが他国の間諜かもと警戒しているのかもしれないな。
他国が自国の聖魔法に顕現した者を簡単に他国に出すことはまずするとは思えないし、フローラは自国の人間であることはゲームのことを聞いた話で間違いないだろう。
まったくないとは言えないけど、ゲーム通りだとすると出自もはっきりするだろうし、男爵家の養子になる前にどんな人間たちと接触していたか調べればわかるだろう。
陛下はゲームのことを知らないからそういうことも警戒することはわかるが。
でもフローラが違う行動に出てきたことは警戒すべきことだな。
邪魔する存在も気になる。
ウルヴァランはまだ掴めてないのだろうか?
掴めていたら今、俺の側にレンがいるからレンを介して報告してくるはずだ。
邪魔する存在をまだウルヴァランが掴めていないのなら尚更警戒する必要があるな。
邪魔する存在という者がフローラとの契約は切れているはずとウルヴァランは言っていたが、また新たな契約を結んでいるのか、まだ契約したままなのか。
何が目的か知る必要がある。
「リリアナには影の他にケングレット、ラルフ、ロラン、アルフたちがついております。
サイアン男爵令嬢も聖魔法に顕現しているのなら護衛と影も付けてある程度自由にして監視した方がよいと私は思います」
お父様が陛下に進言する。
「そうだな…まずはサイアン男爵令嬢の神殿で属性判定を行ない、周辺を調べてから学院に編入させるかどうかは決めることする」
陛下の言葉でその場は解散となった。
俺は学院に神殿に閉じ込めておくより、学院に編入してきてくれた方がいろいろと探りやすいと思っている。
ゲームのこともあるからな。
今日のことを見ていても、フローラが王太子には簡単に近づくことが出来るだろう。
あとのルドルフ、レアンドロ、ジョシュア、ケングレットは強制力がなくなったのなら今、大丈夫なような気がするけどな。
でも邪魔する存在がいることを忘れてはいけない。
油断は出来ないけど、ルドルフたちにどう近付いていくかも注視しなければならないな。
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