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第二章 目覚め
第48話 第二回大草原遠征
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鬱蒼とした森が、目の前で途切れている。
木々の先には、広大な大草原が地の果てまで広がり、風になびく草が波打っていた。
やっと、大草原に着いたんだ。
騎士の口々から感嘆のため息が漏れ、馬たちも見慣れない景色に耳を忙しく動かしている。
先頭を行く集団が止まったのだろう。列の進行は次第に遅くなり、前を歩く馬の足が止まった。
ケリーは手綱を伸ばして、ヘルムのツバを手で押し上げる。人々から忘れ去られた西の森は、いたるところで木が倒れ、太いツタが幹に巻きついていた。
西の森には、数年前まで人の暮らす村があったそうだ。
森から人がいなくなってしまったのは、大草原が魔界軍の拠点になったことに加えて、もう一つ理由がある。それは、かつて大草原の近くに住んでいた村の住人たちが「魔界の塔」と呼ばれる魔界軍の塔に、捕虜として捕らわれてしまったからだ。
魔界軍による侵略によって、この辺りで栄えていた村はすべて廃墟と化した。そして、魔界軍の脅威にさらされた西の地には、旅人すら近寄らなくなってしまったのだ。
梢の先にのぞく午前の空は薄い雲に覆われて、森の影を一層深くしている。ケリーが額ににじむ汗を拭っていると、隣で待機していたクウェイが声をかけてきた。
「ケリー、大丈夫かい?」
「ちょっと暑いですけど、オレは大丈夫です」
ケリーは笑って答えると、鞍に吊るした水筒を取って水を飲んだ。鎧を身に着けているせいもあって、ジメジメとした蒸し暑さが体力を奪っていく。
「うん?どうした、グレイスター。おまえも飲みたいのか?」
グレイスターが水筒を羨ましそうに見ている。
水筒を馬の口元へ持っていくと、グレイスターは唇を器用に使って水を吸い、ギュイギュイと音をたてて飲んだ。
この辺りには川がない。馬たちが十分に水を飲めたのは、昨夜の野営地が最後だった。
「はい、おしまい。何かあったときのために、少しだけ残しておこうな?」
水筒を片付けたケリーに、グレイスターは不満そうに鼻を鳴らした。愛馬の首をなでながら、彼は前方の様子を伺う。随分と長い時間、待機の状態が続いているように感じるが、列は依然として動く気配がない。
「どうやら、先頭集団が偵察に向かったみたいだね。戻って来るまで、もう少し時間がかかるかな」
遠征軍は森に入ってから、いくつかの部隊に分かれて行動していた。弓を扱うことができるエダナは弓部隊へ移り、ケリーとクウェイの二人は、複数の班が合わさった合同の部隊へ配置された。
クウェイはこの小部隊の中で最年長であり、チーフを任されている。彼は部隊の指揮を取るために、今回の遠征の作戦を事細かに把握していた。
偵察は精鋭部隊だけで行い、ドラゴン乗りと残った騎士団は援護に回る。このまま問題なく偵察が済めば、無事に帰還することになるだろう。
ひとまず、ここまでの作戦は順調に進んでいるようだ。
「……ちょっと行ってくるね」
前方で待機している班の一人が、クウェイに向かって手招きをしている。どうやら、チーフが招集されているようだ。
「お気をつけて」
珍しく真面目な言葉を使うケリーに微笑むと、クウェイは鹿毛の愛馬に乗って行ってしまった。
見知らぬ騎士に囲まれて一人になってしまったケリーは、グレイスターのたてがみを触って暇を持て余した。
薄暗い森の中で過ごす時間は、学舎にいるときよりも、ずっと長くて退屈に感じる。なかなか進展しない状況に飽きたケリーは、腹の底からため息をついた。
こんなとき、エダナがそばにいてくれたら何時間でも耐えられるのに。グレイスターもヴェルーカがいないからか、つまらなさそうに蹄で地面をかいている。
「なあ、グレイ。偵察だけなら優秀な騎士たちだけで、よかったんじゃないのか?こんなに大勢の人を集めたなら、魔界軍とドカンッとぶつかった方が――」
「うわあああああーっ!」
ケリーが小声で愚痴っていると、背後で切羽詰まった叫び声が響いた。
断末魔は一瞬にして退屈を掻き消して、ケリーの身体をガクガクと震わせた。
「後方より奇襲!」
「魔界兵だっ!」
反射的に剣を抜き、ケリーはグレイスターの鼻先を声の聞こえた方へ向ける。耳をピンと立てて低い声で鳴く馬たちは、迫りくる邪悪な気配を察しているようだ。
しかし、騎士たちは誰も敵の姿を捉えていない。どこからやって来るかわからない敵に、彼らは緊張した面持ちで剣を構えている。
「に、逃げろおおおおー!」
「全員、散れーっ!」
耳をつんざく叫び声と、甲高く響き渡る馬の悲鳴が頭の中で渦を巻く。魔界兵がすぐそこまで迫っている……ここにいたら、やつらの餌食になってしまう!
「逃げないと……!」
気がつくと、周りにいた騎士たちは散開していた。
『このままじゃ、オレもグレイも死ぬっ!』
ケリーは咄嗟にグレイスターの腹を蹴って、騎士たちの背中を追いかけた。
だが……何だか様子がおかしい。
逃げる騎士たちが、まるで誰かに引きずり降ろされるように次々と落馬している。
それだけではない。乗り手を失った馬も数歩走るうちに、地面に倒れて苦しそうに足掻いていた。
見えない敵が、騎士たちを襲っている。
森のあちこちから響く断末魔によって、逃げ道が少しずつ削られていく。追い込まれたケリーは、何も考えずに大草原へ飛び出した。
木々の先には、広大な大草原が地の果てまで広がり、風になびく草が波打っていた。
やっと、大草原に着いたんだ。
騎士の口々から感嘆のため息が漏れ、馬たちも見慣れない景色に耳を忙しく動かしている。
先頭を行く集団が止まったのだろう。列の進行は次第に遅くなり、前を歩く馬の足が止まった。
ケリーは手綱を伸ばして、ヘルムのツバを手で押し上げる。人々から忘れ去られた西の森は、いたるところで木が倒れ、太いツタが幹に巻きついていた。
西の森には、数年前まで人の暮らす村があったそうだ。
森から人がいなくなってしまったのは、大草原が魔界軍の拠点になったことに加えて、もう一つ理由がある。それは、かつて大草原の近くに住んでいた村の住人たちが「魔界の塔」と呼ばれる魔界軍の塔に、捕虜として捕らわれてしまったからだ。
魔界軍による侵略によって、この辺りで栄えていた村はすべて廃墟と化した。そして、魔界軍の脅威にさらされた西の地には、旅人すら近寄らなくなってしまったのだ。
梢の先にのぞく午前の空は薄い雲に覆われて、森の影を一層深くしている。ケリーが額ににじむ汗を拭っていると、隣で待機していたクウェイが声をかけてきた。
「ケリー、大丈夫かい?」
「ちょっと暑いですけど、オレは大丈夫です」
ケリーは笑って答えると、鞍に吊るした水筒を取って水を飲んだ。鎧を身に着けているせいもあって、ジメジメとした蒸し暑さが体力を奪っていく。
「うん?どうした、グレイスター。おまえも飲みたいのか?」
グレイスターが水筒を羨ましそうに見ている。
水筒を馬の口元へ持っていくと、グレイスターは唇を器用に使って水を吸い、ギュイギュイと音をたてて飲んだ。
この辺りには川がない。馬たちが十分に水を飲めたのは、昨夜の野営地が最後だった。
「はい、おしまい。何かあったときのために、少しだけ残しておこうな?」
水筒を片付けたケリーに、グレイスターは不満そうに鼻を鳴らした。愛馬の首をなでながら、彼は前方の様子を伺う。随分と長い時間、待機の状態が続いているように感じるが、列は依然として動く気配がない。
「どうやら、先頭集団が偵察に向かったみたいだね。戻って来るまで、もう少し時間がかかるかな」
遠征軍は森に入ってから、いくつかの部隊に分かれて行動していた。弓を扱うことができるエダナは弓部隊へ移り、ケリーとクウェイの二人は、複数の班が合わさった合同の部隊へ配置された。
クウェイはこの小部隊の中で最年長であり、チーフを任されている。彼は部隊の指揮を取るために、今回の遠征の作戦を事細かに把握していた。
偵察は精鋭部隊だけで行い、ドラゴン乗りと残った騎士団は援護に回る。このまま問題なく偵察が済めば、無事に帰還することになるだろう。
ひとまず、ここまでの作戦は順調に進んでいるようだ。
「……ちょっと行ってくるね」
前方で待機している班の一人が、クウェイに向かって手招きをしている。どうやら、チーフが招集されているようだ。
「お気をつけて」
珍しく真面目な言葉を使うケリーに微笑むと、クウェイは鹿毛の愛馬に乗って行ってしまった。
見知らぬ騎士に囲まれて一人になってしまったケリーは、グレイスターのたてがみを触って暇を持て余した。
薄暗い森の中で過ごす時間は、学舎にいるときよりも、ずっと長くて退屈に感じる。なかなか進展しない状況に飽きたケリーは、腹の底からため息をついた。
こんなとき、エダナがそばにいてくれたら何時間でも耐えられるのに。グレイスターもヴェルーカがいないからか、つまらなさそうに蹄で地面をかいている。
「なあ、グレイ。偵察だけなら優秀な騎士たちだけで、よかったんじゃないのか?こんなに大勢の人を集めたなら、魔界軍とドカンッとぶつかった方が――」
「うわあああああーっ!」
ケリーが小声で愚痴っていると、背後で切羽詰まった叫び声が響いた。
断末魔は一瞬にして退屈を掻き消して、ケリーの身体をガクガクと震わせた。
「後方より奇襲!」
「魔界兵だっ!」
反射的に剣を抜き、ケリーはグレイスターの鼻先を声の聞こえた方へ向ける。耳をピンと立てて低い声で鳴く馬たちは、迫りくる邪悪な気配を察しているようだ。
しかし、騎士たちは誰も敵の姿を捉えていない。どこからやって来るかわからない敵に、彼らは緊張した面持ちで剣を構えている。
「に、逃げろおおおおー!」
「全員、散れーっ!」
耳をつんざく叫び声と、甲高く響き渡る馬の悲鳴が頭の中で渦を巻く。魔界兵がすぐそこまで迫っている……ここにいたら、やつらの餌食になってしまう!
「逃げないと……!」
気がつくと、周りにいた騎士たちは散開していた。
『このままじゃ、オレもグレイも死ぬっ!』
ケリーは咄嗟にグレイスターの腹を蹴って、騎士たちの背中を追いかけた。
だが……何だか様子がおかしい。
逃げる騎士たちが、まるで誰かに引きずり降ろされるように次々と落馬している。
それだけではない。乗り手を失った馬も数歩走るうちに、地面に倒れて苦しそうに足掻いていた。
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※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
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