ぼくらの森

ivi

文字の大きさ
65 / 122
第二章 目覚め

第65話 待ち合わせ

しおりを挟む
 セロは並木通りを急ぎながら、訓練場をふり返った。彼と入れ替わるようにして、ドラゴン乗りたちが学舎へ駆け込んで行く。

 あと少し遅れていれば、混雑した食堂で昼食を取ることになっていただろう。タークが早起きしてくれたおかげで、事は予定通りに進んでいる。

 人のいない橋を足早に渡り終えて、セロは階段の上からケリーを探した。

 騎士団の訓練場を歩いて探すと、きりがない。セロは馬が行ったり来たりしている馬場ではなく、ケリーがいそうな厩舎や繋ぎ場に目を通したが、どこにも見当たらなかった。

 正午の鐘が鳴ってから、時間はそれほど経っていない。もしかすると、ケリーはまだ昼食を食べているのかも知れない。

 階段の下で待っていれば、お互いに見つけやすいはずだ。

 ケリーが来るまで、一息つこう。

 そう思っていた矢先、階段の影から赤毛の青年が姿を現した。彼は松葉杖片手にこちらを見上げて、楽しそうに笑っている。

 「セロ、遅いぞーっ!何やってんだよー!」

 セロは残りの階段を駆け降りて、ケリーの隣に並んだ。

 「随分と早いな。お昼はちゃんと食べたのか?」

 「もちろん!食べなきゃ動けないからな」

 「騎士の食堂も混雑していただろう?もし不都合があれば、集合時間を遅くしようと思うんだが、どうかな?」

 「誰がどこに行ったって?オレは食堂になんか行ってないぜ?」

 「……どういうことだ?」

 食堂は正午の鐘が鳴ってからでなければ開かない。それはドラゴン乗りも騎士も同じだ。だが、そもそも食堂に行っていないと言うケリーは、どこで昼食を食べたのだろうか。

 セロが首を傾げると、ケリーは説明を始めた。

 「昨日さ、グレイに乗ってくれる人がいるって言っただろ?別の班に所属してる二年の後輩なんだけど、いつも手伝ってくれるんだよ。今日も、昼休みに親友に会うって話したら、サンドイッチを持って来てくれたんだ。『食堂に行く時間がないと思って持って来ました!』ってさ」

 ズボンのポケットからクシャクシャになった包み紙を取り出して、ケリーはセロに見せつける。

 「オレはセロと違って、三食ちゃんと食べてるから心配無用だ。その証拠に……ほら!ここで、おまえを待ってる間に全部食べちゃったぜ」

 「僕だって、時間があるときは食べるようにしているよ。……ああ、そう言えば。聞きたいことがあるんだ」

 食堂にいた学生を見る限り、騎士団の手伝いに参加するドラゴン乗りは少なくないようだった。だが、セロ以外のドラゴン乗りたちは、どうやって手伝いを必要としている騎士を見つけるのだろうか。

 騎士一人ひとりに確認して回る訳にもいかないだろう。セロの問いに、立案者は答えた。

 「班決めの木札って覚えてるか?セロも後輩君が入学して来たときに配られたと思うんだけど、あれと同じことをしたんだ。学長にお願いして、手伝いを希望する騎士と、手伝いに来てくれるドラゴン乗りに、対になった番号札を配ってもらった。それで今日、お互いに札を見せて、同じ数字だった人がパートナーになるんだよ。木札の儀式なら、みんな知ってるし簡単だろ?」

 「なるほど。」と感心するセロを見て、ケリーは得意げに胸を張った。

 「ええと……それで、僕は何から始めればいい?まずは、ヴェルーカを迎えに行くのかな?」

 会話が落ち着いたところで、セロは本題に入った。馬房掃除か、手入れか、騎乗……それとも、また別の作業か。セロは頭の中で様々な選択肢を並べたが、答えはどれでもなかった。

 「その必要はないぜ?ヴェルーカなら、すぐそこにいるからな」

 ケリーが訓練場を指さしたそのとき。セロの背後でバタバタと凄まじい足音が鳴り渡り、同時に重いものが落ちる嫌な音が腹の底に響いた。

 慌てて見ると、階段に最も近い丸馬場で一人の騎士が膝をついていた。少し離れた場所では、一頭の小さな馬が他の騎士に捕らえられている。

 馬場でうずくまっている騎士を見る限り、どうやら落馬したらしい。だが、次の瞬間。セロはもう一つの事実に目を見開いた。

 なぜ、今まで気がつかなかったのだろう。丸馬場で暴れていた馬は、ヴェルーカだった。

 「……って、あれ?もしかして、気づいてなかったのか?」

 今さら気づいたのかと驚くケリーに、セロは言い訳をする。

 「ケリーは裏で作業をしていると思っていたから、馬場の方はよく見ていなかったんだ」

 落馬した騎士は何事もなかったかのように立ち上がって、ヴェルーカへ歩み寄る。

 セロの心は、嫌な予感にざわついていた。

 まさか、あの暴れ馬に自分が乗るのか?

 「……冗談だろう?」

 セロの口をついて出た言葉に、今度はケリーが首を傾げた。

 「ケリー、君は昨日『ヴェルーカは人を傷つけたりしない。』と言ったな?あの様子を見る限り、とてもそうとは思えないんだが」

 セロが確認している間も、ヴェルーカは動き回って、騎士に跳び乗る隙を与えない。その光景はどう見ても、捕まえて来た野生馬の調教にしか見えなかった。

 慌ただしく動く騎士たちを見つめながら、ケリーは短く呟いた。

 「うん、言ったな」

 呆気に取られたセロは何も言い返すことができず、潔く認めたケリーは、もう何も言うことがなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...