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第一章 はじまり
第23話 心の洗濯
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セロはタークの隣に腰を下ろすと、転がっている片方のブーツを手に取った。少し持ち上げただけでも、水を吸ったブーツの重みが、ずっしりと腕にのしかかってくる。
「えっ?どうしたんですか、セロさん?」
「一緒に洗うよ。石鹸、貸してもらえるかな?」
タークは、ぱあっと目を輝かせて「はいっ!」と石鹸を差し出した。
「なんだか、セロさんがこんなことしてるのって珍しいですよね」
すっかり上機嫌になったタークが、にこにこしながら呟く。セロはブーツの表面を丁寧に洗いながら、首を傾げた。
「だって、セロさん。訓練ばっかりで、少しもお話する時間がないじゃないですか。部屋でお話しようと思っても、セロさんはいつも遅くまで作業してますし。だから、こうして一緒にお洗濯するのも、滅多にないこと……だなって……」
タークの声は小さくなっていき、最後には上目遣いでセロを見ていた。
何を怒られると思ったのかは知らないが、叱られた子どものような顔をしているタークを見て、セロはプッと吹き出してしまった。
「あっ、笑った!」
慌てて無表情を装うセロを、タークは楽しそうに指さした。やれやれと首を振りながら、セロは泡がついたままの手でタークの手を払う。
タークは楽しそうな笑い声を上げていたが、しばらくすると寂しそうに目を伏せた。
「今みたいに笑顔でいたら、セロさんのことを怖いって言う人は、いなくなると思うのにな……」
セロが顔を上げると、タークは慌てて付け足した。
「えっ、えっと……昨日の夜、一緒に侵入口を探してくれた人が、セロさんのことを厳しいって言ってて。……あっ、でも、ぼくは全然、そんなこと思ってないですよ?セロさん、本当はいい人なのに、そういう風に思われるのは、すごくもったいないなって思ったんです!……本当ですよ!」
タークの滅茶苦茶な言い訳に、セロは力なく笑った。彼の言いたいことは、よく理解できる。
学舎では名前や噂が独り歩きするのは、よくあることだ……良い意味でも、悪い意味でも。
指導が厳しい者に限らず、無愛想な顔をしているだけでも「あの人は厳しい。」とか「この人は怖い。」の一言で、簡単に評価されてしまう。
「そうか……その人は、どんな人だったんだ?」
「二人いたんですが、どちらも二年生でした。とても優しくて、面白い人たちなんです。名前は……」
タークは「あれ?」と言ったきり、動かなくなってしまった。しばらくの間、虚空を見つめていたタークは、ふいに首を傾げた。
「……だれ、だったかな?」
ブーツを洗うのも忘れて、タークは困り顔でセロを見つめる。
「すみません、その人たちのことを庇おうとしているとか、そういう訳じゃないんですが……名前を聞くの忘れてました」
「気にしなくていい。……さあ、早く洗ってしまおう」
いつもの悪い癖だ。
気にする必要はないと、頭ではわかっているのに。面識のない人が自分を知っているというだけで、あれこれ考え込んでしまう。
たとえ、その誰かがセロのことを知っていたとしても、全部を把握しているとは限らない。
そもそも、ルディアのようにセロの過去を嗅ぎ回る人間は、ほんの一握りしかいないのだから。タークが余計な入れ知恵をされることはない……と思いたい。
心に残る嫌な不安を押し流すように、セロがブーツについた泡を洗い流そうとしたそのとき。
聞き慣れた男の声が、広場の向こうで響いた。
「えっ?どうしたんですか、セロさん?」
「一緒に洗うよ。石鹸、貸してもらえるかな?」
タークは、ぱあっと目を輝かせて「はいっ!」と石鹸を差し出した。
「なんだか、セロさんがこんなことしてるのって珍しいですよね」
すっかり上機嫌になったタークが、にこにこしながら呟く。セロはブーツの表面を丁寧に洗いながら、首を傾げた。
「だって、セロさん。訓練ばっかりで、少しもお話する時間がないじゃないですか。部屋でお話しようと思っても、セロさんはいつも遅くまで作業してますし。だから、こうして一緒にお洗濯するのも、滅多にないこと……だなって……」
タークの声は小さくなっていき、最後には上目遣いでセロを見ていた。
何を怒られると思ったのかは知らないが、叱られた子どものような顔をしているタークを見て、セロはプッと吹き出してしまった。
「あっ、笑った!」
慌てて無表情を装うセロを、タークは楽しそうに指さした。やれやれと首を振りながら、セロは泡がついたままの手でタークの手を払う。
タークは楽しそうな笑い声を上げていたが、しばらくすると寂しそうに目を伏せた。
「今みたいに笑顔でいたら、セロさんのことを怖いって言う人は、いなくなると思うのにな……」
セロが顔を上げると、タークは慌てて付け足した。
「えっ、えっと……昨日の夜、一緒に侵入口を探してくれた人が、セロさんのことを厳しいって言ってて。……あっ、でも、ぼくは全然、そんなこと思ってないですよ?セロさん、本当はいい人なのに、そういう風に思われるのは、すごくもったいないなって思ったんです!……本当ですよ!」
タークの滅茶苦茶な言い訳に、セロは力なく笑った。彼の言いたいことは、よく理解できる。
学舎では名前や噂が独り歩きするのは、よくあることだ……良い意味でも、悪い意味でも。
指導が厳しい者に限らず、無愛想な顔をしているだけでも「あの人は厳しい。」とか「この人は怖い。」の一言で、簡単に評価されてしまう。
「そうか……その人は、どんな人だったんだ?」
「二人いたんですが、どちらも二年生でした。とても優しくて、面白い人たちなんです。名前は……」
タークは「あれ?」と言ったきり、動かなくなってしまった。しばらくの間、虚空を見つめていたタークは、ふいに首を傾げた。
「……だれ、だったかな?」
ブーツを洗うのも忘れて、タークは困り顔でセロを見つめる。
「すみません、その人たちのことを庇おうとしているとか、そういう訳じゃないんですが……名前を聞くの忘れてました」
「気にしなくていい。……さあ、早く洗ってしまおう」
いつもの悪い癖だ。
気にする必要はないと、頭ではわかっているのに。面識のない人が自分を知っているというだけで、あれこれ考え込んでしまう。
たとえ、その誰かがセロのことを知っていたとしても、全部を把握しているとは限らない。
そもそも、ルディアのようにセロの過去を嗅ぎ回る人間は、ほんの一握りしかいないのだから。タークが余計な入れ知恵をされることはない……と思いたい。
心に残る嫌な不安を押し流すように、セロがブーツについた泡を洗い流そうとしたそのとき。
聞き慣れた男の声が、広場の向こうで響いた。
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