ぼくらの森

ivi

文字の大きさ
45 / 122
第二章 目覚め

第45話 謎の人物

しおりを挟む
 セロは廊下の角を曲がると、最後の階段を急いで登る。

 まったく……ルディアと関わると、いつもろくなことがない。オルティスと呼ばないでくれと何度頼んでも、一向に聞き入れる気配がないのだ。

 ルディアがタークのそばにいるときは、気が気じゃない。

 タークにだけは、オルティスの名を知られたくない。

 そう願うセロの気持ちを知っているからか、ルディアは彼が焦る様子を見て、面白がっているようにも見える。

 本当に勘弁してくれないものか。タークに名前を知られていないのは、半ば奇跡のようなものなのに……。

 そんな考え事をしているうちに、セロはいつの間にか階段を登り終えていた。階段の先には、まだ廊下が続いているようだが、セロが目指している大広間は階段を登ってすぐの右隣に位置している。

 騎士の学舎に来るのは初めてだが、構造はドラゴン乗りの学舎とほとんど同じだ。騎士の大広間へたどり着くことができたセロは、ようやく息をつくことができた。

 廊下を少し進むと、すぐに大きな二枚扉へ突き当たる。そこには疲れた様子で扉にもたれる二人の少年がいたが、彼らはセロに気がつくと素早く姿勢を正した。

 「お名前と所属を……」

 一人の少年が、懐からメモを取り出した。

 「三年のドラゴン乗り所属、セロです」

 「ありがとうございます。では、面会したい方のお名前と所属をお願いします」

 「ケリー・トナーズ……三年の騎士です」

 少年はペンを走らせて何かを書き終えると、今度は折り目の付いたリストを取り出した。ケリーの名前を探しているのだろう。間違いがなければ、彼はここにいるはずだ。

 「ええと……はい、トナーズさんですね。ご本人に面会可能かどうか確認して来ますので、ここでお待ち下さい」

 よかった……間違いなかったようだ。

 少年が行ってしまうと、残されたもう一人が扉の前に歩み寄った。『不潔な服装での入室を固く禁じる』という注意書きが貼られた扉を背に、少年は慣れた様子で直立不動の姿勢を取っている。

 そうか、こうして交互に面会者を案内しているのか。この二人だけで面会者の対応をしている訳ではないと思うが、初日の今日は大忙しだっただろう。

 少年が着ている制服の丈は短く、上着にベルトを巻いていない。制服に刺繍されたドラゴンの紋章はドラゴン乗り、騎士ともに共通で、少年の紋章には翼が一つ。

 四年生以上の学生は紋章の変化はなくなるが、それ以下の学年は最初から縫われたドラゴンの首と、一年ごとに刺繍される翼の数を数える。

 つまり、この少年は二年生の騎士ということになる。

 大抵の場合、急な人手が必要になったときは、下級生が割り振られる。ある程度の経験を積み、単独行動が可能になる二年生がよく駆り出されるのだ。セロも三年生になる前は、数々の雑用をこなしていた後輩の一人だった。

 無言の時間をごまかすために、普段なら気にしないことをぼんやりと考えていた。しかし、どれほどつまらない思考を頭の中で転がしていても、いつかは限界が来る。

 知らない騎士とともに待機する時間が、苦痛に変わろうとしていたとき。さっきの少年が静かに戻って来た。

 「お待たせしました」

 少年は扉を閉めて、一呼吸おいてから話し始める。

 「トナーズさんも面会を望んでいるとのことなので、お通しします。トナーズさんは部屋の一番奥側、窓際の列にいらっしゃいますが……ご案内しましょうか?」

 「いえ、僕一人で大丈夫です。ありがとう」

 セロが答えると、少年はドアノブに手をかけた。

 部屋へ入ろうとした瞬間。

 部屋を出ようとしていた人たちに、セロは危うくぶつかりそうになった。

 「すみません……!」

 慌てて飛び退いたセロの様子に、二人の少年も状況を理解したらしい。彼らが廊下の端に寄って道を開けると、白いローブを身にまとった人物が、複数人の学生に囲まれて部屋から出て来た。

 半透明の白い布を頭に被っているせいで、顔はよく見えないが、薄い布に透ける黄色い瞳がセロを見つめていた。

 「……気を付けろ」

 取り巻きの学生の一人が短く注意すると、白いローブの人は小さく笑って階段を降りて行った。

 あんなに厳重な見張りがつくなんて……あの人は一体、何者なんだろう。

 セロが誰もいなくなった階段に釘付けになっていると、背後から少年が声をかけてきた。

 「あの……確認せずに扉を開けてしまって、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 「あ、ああ……平気だ。こちらこそ、すまなかった」

 少年たちも、あの人物の正体が気になるのだろう。彼らはセロと話しながらも、チラチラと階段へ視線を向けていた。

 友達を待たせてはいけない。セロは扉の向こうに目を配ると、大広間へ足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...