ぼくらの森

ivi

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第三章 旅立ち

第111話 三番の木札

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 「さあ、かわいい新米たちが来たぞ!おまえたち、木札と笑顔を忘れずにな!」

 バドリックの声につられて見ると、入学式を終えた私服の新入生たちが、宿舎の裏からぞろぞろと歩いて来ていた。

 整列した学生たちが、手の中の番号札に目を落とし始める。セロも懐に入れていた木札を取り出して、木目に焼かれた数字を確認した。

 何度見ても、変わることはない。

 「3」の数字がセロを静かに見上げている。

 訓練場の中央で待つ学生のもとに、新入生たちが不安と期待の入り混じった顔でやって来る。戸惑いながら進むその歩みは亀ほどに遅く、緊張の糸をより一層強く引き伸ばしているようだ。

 そして、ようやくお互いの顔が確認できるほど近付いたとき、ドラゴン乗りたちが一斉に手を掲げた。

 「十二番!十二番の札を持った人はここに来て!」

 「五番の人!俺の所まで来てくれ!」

 番号を呼ばれて、ほっとした顔を見せる後輩たち。続々と顔合わせを果たした彼らは、大きな荷物を抱えて、新生活が始まる宿舎へ連れられて行く。

 「女の子のドラゴン乗りは少ないから、来てくれて本当に嬉しいわ!えっと、まずは部屋に荷物を置かないとね。それから学舎を案内するわ!」

 「これから、よろしくな!あっ、そんなに緊張しなくていいから。気楽に行こうぜ?」

 人の群れがどんどん遠のいて行き、訓練場に残る者も数えるほどになった。

 新入生の欠席や辞退はないと聞いているが、これほど一気に人が減ると、相手が来ているか心配になる。

 そのとき、まるでセロの不安に呼応するかのように、春の強い風が吹き荒れた。

 舞い上がる砂埃に視界が奪われ、周囲からは咳き込む声が聞こえて来る。

 やがて、風の唸る音が遠くへ流れ、瞼をぎゅっと閉じていたセロは、ゆっくりと目を開けた。

 日差しに眩む彼の視界には、いつの間にか背の低い少年が立っていた。

 小さな体には似合わない、大きな荷物を背負った少年は、風に絡まった栗色の癖っ毛を解くことも忘れて、周囲を忙しなく見回している。

 砂嵐に巻き込まれたことがないのか、少年の反応は、まさに「おっかなびっくり」と言った感じだった。

 十五歳にしては、どこか幼さの残る少年だ。

 セロの視線を感じたのか、きょろきょろしていた少年の瞳が彼の姿を捉えた。

 目が合った気不味さに強張りながらも、少年は手の中の札を持ち直してこちらに見せてくる。

 色あせた木札に刻印された番号は……「3」だ。

 間違いない。

 目の前にいるこの少年が、セロの後輩になる新入生だ。

 後輩と無事に出会えたことに安堵して、セロは自分の木札を少年に見せた。その瞬間、少年はあっと短く声を漏らして顔を輝かせた。

 「あ……あのっ!えっと……!ぼ、ぼくは、タークって言います!よろしくお願いします!」

 重い荷物を背負っていることを忘れたのか、少年は元気よく頭を下げると、荷物の重さにつられて体勢が大きく崩れた。

 セロは慌てて支えようとしたが、どうやらその必要はなかったらしい。

 少年はすんでのところでバランスを取り直すと、照れたように笑った。

 「あ、ああ……よろしく」

 セロはぎこちなく答えて、手を差し出した。少年の持っている木札を、後の集会で返さなければならない。それが、新入生を無事に迎えることができたという証明になるからだ。

 だが……そんな先輩の都合は伝わらなかったようだ。タークはセロの手をギュッと握りしめると、そのまま何度も何度も上下に振った。

 これは、誰がどう見ても握手だ。

 誰に何と言われようと、これは握手なんだ。

 「木札を僕に渡して。」とちゃんと言えばよかった。
だが、新入生たちはさっきの説明会で、先輩に木札を渡すよう指示が出されたはずだ。緊張のせいで、記憶が飛んでしまったのかも知れない。

 「あの、すまないが……君の木札を僕に渡してくれないか?それがないと、学長に報告できない」

 「え……?あっ!すみません!」

 タークは慌ててポケットから木札を取り出すと、恥ずかしそうに木札を差し出した。

 受け取った札を懐にしまって、セロは軽く息をついた。

 「それじゃあ……行こうか」

 「はいっ!」

 セロはタークの先を歩いて、宿舎へ案内する。

 入り口の二枚扉をくぐり抜けて、階段を登り、左に曲がる。そこから、廊下をしばらく歩いた東側にあるのが、彼らの新しい部屋だ。
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