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第四章 出会い
第114話 はじまりの森
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深い闇に沈む、夜の森。
木々の合間を縫って、松明の明かりがすーっと流れていく。
青い瞳の青年は怯える馬を駆り立てて、前を行く二頭の馬を追っていた。ふり返ると、暗闇の中に赤い目が見える。ブラッドウルフの群れに追われているのだ。
「くそっ!切りがねえ!」
先頭の大きな馬の背で、緑の髪の男が愚痴を吐く。大柄な男の腕には、白い髪の少年が抱きかかえられていた。
――ワオゥーーーーーン
ブラッドウルフの甲高い遠吠えが、男の悪態に共鳴するように響き渡った。
腹を空かせた魔界の犬たちが集まって来る。一体、どこまで逃げ続ければいいのだろう。ブラッドウルフの餌食になるのは、もう時間の問題だ。
『……絶望的だな。』
一寸先の闇を見据えて、青年は白黒斑毛の馬を駆る。
構えた剣は獣のどす黒い血に塗れ、彼の紺色のコートにも染みがこびりついている。跳びかかってくるブラッドウルフを剣一本で弾き返すのも、だんだん難しくなってきた。
両側から一斉に襲いかかられたら、ひとたまりもない。今は馬の足の方が早いようだが……それもいつまで保つか、わからない。
魔界軍の支配下にある西の森を抜けない限り、ブラッドウルフはしつこく付きまとってくるだろう。今すぐ朝になってくれれば、夜行性の魔界の犬は退散するだろうが……生憎、まだ夜は長い。
終わりのない地獄で足掻いていたそのとき、背後で獣の悲鳴が上がった。
「なんだ?」
男たちが後方へ目を向けると、闇の中で弧を描く光の筋が見えた。爪のように鋭い軌跡が松明の明かりを反射するたびに、ブラッドウルフの絶叫が森にこだまする。
「ボスウルフか!」
そうだとしたら助かる道はないが、耳をすませてもボスウルフの特徴的な足音は聞こえず、赤い眼光も見えない。
本当にボスウルフがいるなら、自分たちはとっくに死んでいるだろう。巨大な前足で薙ぎ払われれば、一瞬だ。疲弊した馬を相手に、ボスウルフが手間取るはずがない。
あんなに騒がしかったブラッドウルフの群れも、今はその影すらない。ただ、時折遠くからキャンキャンと耳障りな金切り声が聞こえてくるだけだ。
奇襲を警戒して走り続けていたが、馬たちも限界のようだ。先頭の馬が速度を落とすと、続く二頭も荒い呼吸のまま歩き始めた。
汗だくになった馬体が、松明の薄明かりを照り返している。
「一体、何だったんだ……?」
信じられないといった様子で、大型馬に乗った男が周囲を見渡した。ブラッドウルフの大群が、あんなにも呆気なく引き上げるなんて……悪い夢でも見ていたみたいだ。
「ダイ、怪我はないか?スノーは大丈夫か?」
白黒斑毛の馬に乗る青年――セロが訊ねた。
「ああ……気絶してるが、ちゃんと息はしてる。早く傷の手当てをしてやらないとな」
ダイと呼ばれた男は、腕の中で眠る白い髪の少年を見下ろした。スノーの水色のコートも、頭の後ろで一纏めにした長い髪も、血と泥で汚れてしまっている。
ブラッドウルフが最初に狙いを定めたのは、スノーだった。彼の優しい性格が、野生の勘で見抜かれてしまったのかも知れない。
スノーは馬上で弓を構えていたときに、ブラッドウルフに跳びかかられた。突然、馬から引きずり落とされたのだから、さぞかし怖い思いをしただろう。
ダイは進行方向へ松明を向けた。
彼らの行く先には、鬱蒼とした森が暗い口を開けていた。
木々の合間を縫って、松明の明かりがすーっと流れていく。
青い瞳の青年は怯える馬を駆り立てて、前を行く二頭の馬を追っていた。ふり返ると、暗闇の中に赤い目が見える。ブラッドウルフの群れに追われているのだ。
「くそっ!切りがねえ!」
先頭の大きな馬の背で、緑の髪の男が愚痴を吐く。大柄な男の腕には、白い髪の少年が抱きかかえられていた。
――ワオゥーーーーーン
ブラッドウルフの甲高い遠吠えが、男の悪態に共鳴するように響き渡った。
腹を空かせた魔界の犬たちが集まって来る。一体、どこまで逃げ続ければいいのだろう。ブラッドウルフの餌食になるのは、もう時間の問題だ。
『……絶望的だな。』
一寸先の闇を見据えて、青年は白黒斑毛の馬を駆る。
構えた剣は獣のどす黒い血に塗れ、彼の紺色のコートにも染みがこびりついている。跳びかかってくるブラッドウルフを剣一本で弾き返すのも、だんだん難しくなってきた。
両側から一斉に襲いかかられたら、ひとたまりもない。今は馬の足の方が早いようだが……それもいつまで保つか、わからない。
魔界軍の支配下にある西の森を抜けない限り、ブラッドウルフはしつこく付きまとってくるだろう。今すぐ朝になってくれれば、夜行性の魔界の犬は退散するだろうが……生憎、まだ夜は長い。
終わりのない地獄で足掻いていたそのとき、背後で獣の悲鳴が上がった。
「なんだ?」
男たちが後方へ目を向けると、闇の中で弧を描く光の筋が見えた。爪のように鋭い軌跡が松明の明かりを反射するたびに、ブラッドウルフの絶叫が森にこだまする。
「ボスウルフか!」
そうだとしたら助かる道はないが、耳をすませてもボスウルフの特徴的な足音は聞こえず、赤い眼光も見えない。
本当にボスウルフがいるなら、自分たちはとっくに死んでいるだろう。巨大な前足で薙ぎ払われれば、一瞬だ。疲弊した馬を相手に、ボスウルフが手間取るはずがない。
あんなに騒がしかったブラッドウルフの群れも、今はその影すらない。ただ、時折遠くからキャンキャンと耳障りな金切り声が聞こえてくるだけだ。
奇襲を警戒して走り続けていたが、馬たちも限界のようだ。先頭の馬が速度を落とすと、続く二頭も荒い呼吸のまま歩き始めた。
汗だくになった馬体が、松明の薄明かりを照り返している。
「一体、何だったんだ……?」
信じられないといった様子で、大型馬に乗った男が周囲を見渡した。ブラッドウルフの大群が、あんなにも呆気なく引き上げるなんて……悪い夢でも見ていたみたいだ。
「ダイ、怪我はないか?スノーは大丈夫か?」
白黒斑毛の馬に乗る青年――セロが訊ねた。
「ああ……気絶してるが、ちゃんと息はしてる。早く傷の手当てをしてやらないとな」
ダイと呼ばれた男は、腕の中で眠る白い髪の少年を見下ろした。スノーの水色のコートも、頭の後ろで一纏めにした長い髪も、血と泥で汚れてしまっている。
ブラッドウルフが最初に狙いを定めたのは、スノーだった。彼の優しい性格が、野生の勘で見抜かれてしまったのかも知れない。
スノーは馬上で弓を構えていたときに、ブラッドウルフに跳びかかられた。突然、馬から引きずり落とされたのだから、さぞかし怖い思いをしただろう。
ダイは進行方向へ松明を向けた。
彼らの行く先には、鬱蒼とした森が暗い口を開けていた。
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