121 / 122
第四章 出会い
第121話 おまじない
しおりを挟む
木漏れ日のなかで、焚き火がパチパチと燃えている。
毛布を肩にかけて本を読んでいたスノーは、そっと視線をあげた。
仲間が手当てしてくれたおかげで、体調はすっかりよくなった。傷はまだ完全には塞がっていないが、魔法で癒やしていけば、明日には動けようになるだろう。
そばでは、メーノがスノーから借りた本を黙々と読んでいる。そして、その隣ではジンが退屈そうにあくびをしていた。
少年は膝を抱えて揺れながら、つまらなさそうに焚き火を眺めている。
「ジン、退屈そうだね。君も何か読むかい?」
ジンは小さく首をふった。
どうやら、読書は好きじゃないみたいだ。
ジンくらいの歳の男の子は、きっと遊びたい盛りだろう。大人しく過ごす時間は、苦痛に感じるはずだ。
『ダイちゃんがいたらいいのに。』
スノーは軽くため息をついた。
遊び心のあるダイなら、ジンの退屈を晴らしてくれるはずなのに。彼は周辺の探索をするために、朝早くから森へ出かけてしまった。
スノーは本を閉じると、ジンのそばに移動した。
「ねえ、ジン。君とメーノは家族なの?」
ジンは首を横にふった。
「二人とも髪が茶色くて仲がいいから、てっきり姉弟だと思ってたよ。ずっと前からお友達なの?」
ジンは、また首を横にふる。
「そうなんだ。ぼくも、セロとは出会ったばかりなんだ。ダイちゃんとは、ちょっとだけ長い付き合いなんだけどね」
自分の話をされているとは知らず、セロは岩にもたれて、真剣な顔で地図を見ていた。時折顔を上げては、森を見渡している。
「……こわいよ、あの人」
少年の率直な感想に、スノーは思わず苦笑いをした。
「え、そうかな?とても優しい人なんだけど……」
言いかけて、スノーはちょっと考えた。
もしかすると、ジンの退屈を紛らわすことができるかも知れない。
「ねえ、話しかけてごらんよ!じっと地図を見ているなんて、セロも面白くないと思うよ」
嫌そうな顔をするジンに、スノーはほほえんだ。
「じゃあ、ジンにひとつ魔法を教えてあげる。セロと仲よくなれるようにね。簡単だけど、とても大切な魔法だよ」
魔法という言葉を聞いて、ジンの瞳がぱあっと輝く。ようやく子どもらしい一面を見せた少年は、興味津々で向き直った。
しかし、興味があるのはジンだけではないらしい。スノーの背後で、メーノが本を閉じる音が聞こえた。
セロに聞こえないよう、スノーは人差し指を口の前でたてた。ジンがわくわくした様子で真似をする。
「はははっ!……違うんだ、これは静かにっていう意味だよ」
はっと手をおろして、ジンは照れくさそうにはにかむ。
スノーはゆっくりと、丁寧に説明を始めた。
「いいかい?まずは、しっかりと相手の顔を見るんだ。怖かったら、目は合わせなくてもいいからね」
ジンは真面目な顔で頷くと、焚き火の向こうにいるセロを見つめた。
彼は相変わらず、地図に視線を落としたままだ。
「そうしたら、心のなかでセロに呼びかけてごらん」
「呼びかける……?ぼくは、何て言ったらいいの?」
ジンが不安を感じた、そのとき。
視線に気がついたのか、セロがふいに顔を上げた。
こそこそ話すジンとスノーを映した青い瞳が、訝しげに細められる。
「ジン、大丈夫だよ。君と友だちになりたいんだって、心のなかで三回唱えてみて」
ジンは目を伏せて、ゆっくりと三回頷いた。
心で呪文を唱えたジンが顔を上げると、セロは再び地図に目を落としていた。
「次は、どうするの?」
「おしまいだよ」
あっけなく終わりを告げられて、ジンは口をあんぐりと開いた。
スノーは、にっこりと微笑んでいる。
「セロにはちゃんと魔法がかかっているよ。もちろん、君にも魔法がかかっているから安心してね」
ジンは不思議そうに自分の手を見つめた。
本当に魔法がかかっているのか、疑っているようだ。
「さあ、魔法が消えないうちに、セロに話しかけてごらん」
スノーに促されて、ジンは仕方なく立ち上がった。
とぼとぼと歩いていく少年の小さな背中を、メーノが静かに見守っている。
やがて、セロの前で立ち止まったジンの心臓は、破裂しそうなほど大暴れしていた。退屈なんて、すっかり忘れてしまうほどに。
毛布を肩にかけて本を読んでいたスノーは、そっと視線をあげた。
仲間が手当てしてくれたおかげで、体調はすっかりよくなった。傷はまだ完全には塞がっていないが、魔法で癒やしていけば、明日には動けようになるだろう。
そばでは、メーノがスノーから借りた本を黙々と読んでいる。そして、その隣ではジンが退屈そうにあくびをしていた。
少年は膝を抱えて揺れながら、つまらなさそうに焚き火を眺めている。
「ジン、退屈そうだね。君も何か読むかい?」
ジンは小さく首をふった。
どうやら、読書は好きじゃないみたいだ。
ジンくらいの歳の男の子は、きっと遊びたい盛りだろう。大人しく過ごす時間は、苦痛に感じるはずだ。
『ダイちゃんがいたらいいのに。』
スノーは軽くため息をついた。
遊び心のあるダイなら、ジンの退屈を晴らしてくれるはずなのに。彼は周辺の探索をするために、朝早くから森へ出かけてしまった。
スノーは本を閉じると、ジンのそばに移動した。
「ねえ、ジン。君とメーノは家族なの?」
ジンは首を横にふった。
「二人とも髪が茶色くて仲がいいから、てっきり姉弟だと思ってたよ。ずっと前からお友達なの?」
ジンは、また首を横にふる。
「そうなんだ。ぼくも、セロとは出会ったばかりなんだ。ダイちゃんとは、ちょっとだけ長い付き合いなんだけどね」
自分の話をされているとは知らず、セロは岩にもたれて、真剣な顔で地図を見ていた。時折顔を上げては、森を見渡している。
「……こわいよ、あの人」
少年の率直な感想に、スノーは思わず苦笑いをした。
「え、そうかな?とても優しい人なんだけど……」
言いかけて、スノーはちょっと考えた。
もしかすると、ジンの退屈を紛らわすことができるかも知れない。
「ねえ、話しかけてごらんよ!じっと地図を見ているなんて、セロも面白くないと思うよ」
嫌そうな顔をするジンに、スノーはほほえんだ。
「じゃあ、ジンにひとつ魔法を教えてあげる。セロと仲よくなれるようにね。簡単だけど、とても大切な魔法だよ」
魔法という言葉を聞いて、ジンの瞳がぱあっと輝く。ようやく子どもらしい一面を見せた少年は、興味津々で向き直った。
しかし、興味があるのはジンだけではないらしい。スノーの背後で、メーノが本を閉じる音が聞こえた。
セロに聞こえないよう、スノーは人差し指を口の前でたてた。ジンがわくわくした様子で真似をする。
「はははっ!……違うんだ、これは静かにっていう意味だよ」
はっと手をおろして、ジンは照れくさそうにはにかむ。
スノーはゆっくりと、丁寧に説明を始めた。
「いいかい?まずは、しっかりと相手の顔を見るんだ。怖かったら、目は合わせなくてもいいからね」
ジンは真面目な顔で頷くと、焚き火の向こうにいるセロを見つめた。
彼は相変わらず、地図に視線を落としたままだ。
「そうしたら、心のなかでセロに呼びかけてごらん」
「呼びかける……?ぼくは、何て言ったらいいの?」
ジンが不安を感じた、そのとき。
視線に気がついたのか、セロがふいに顔を上げた。
こそこそ話すジンとスノーを映した青い瞳が、訝しげに細められる。
「ジン、大丈夫だよ。君と友だちになりたいんだって、心のなかで三回唱えてみて」
ジンは目を伏せて、ゆっくりと三回頷いた。
心で呪文を唱えたジンが顔を上げると、セロは再び地図に目を落としていた。
「次は、どうするの?」
「おしまいだよ」
あっけなく終わりを告げられて、ジンは口をあんぐりと開いた。
スノーは、にっこりと微笑んでいる。
「セロにはちゃんと魔法がかかっているよ。もちろん、君にも魔法がかかっているから安心してね」
ジンは不思議そうに自分の手を見つめた。
本当に魔法がかかっているのか、疑っているようだ。
「さあ、魔法が消えないうちに、セロに話しかけてごらん」
スノーに促されて、ジンは仕方なく立ち上がった。
とぼとぼと歩いていく少年の小さな背中を、メーノが静かに見守っている。
やがて、セロの前で立ち止まったジンの心臓は、破裂しそうなほど大暴れしていた。退屈なんて、すっかり忘れてしまうほどに。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる