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第一章【未来8歳/沙織20歳】
第11話 【閑話休題②】颯真の夜
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夜の風がカーテンを揺らしていた。
まだ雨はやんではなく、ぽつぽつと雨が屋根をたたく音が聞こえてくる。
雨の匂いが部屋の中まで薄く入り込んできている。
机の上には開きかけのノートがあり、半分くらい宿題を書き写したところで手がとまる。
颯真は手にした鉛筆をくるくると回す。
回しながら、ぼぅっと物思いにふける。
時計の秒針が小さく動いていた。
「…未来」
小さく、名前をつぶやく。
その名前を口にした瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
あの日の未来の告白を、何度も何度も思い出してしまう。
(…私ね、好きな人、いるの)
(…沙織、さん)
あの言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
何を言えばいいのか、分からなくなった。
だから、気が付いたら「…変、だよ」なんて言葉が口から出ていた。
(…女同士で、家族で、歳の差あって、それって)
(…そういうのって…普通、じゃないよ)
自分の言葉が、未来を傷つけてしまったと思う。
どうして、あんな言い方をしてしまったのだろう。
どうして、もっと思いやりの言葉をかけてあげることができなかったのだろう。
息を吐くと、喉の奥が少し痛んだ。
ちくちくする。
何かが、喉の奥に刺さっているみたいだ。
刺さっているのは…後悔かもしれなかった。
(それでも)
一度出した言葉はもう戻らないし…それに何より…
嘘はついていなかった。
変、だと思った。
普通じゃないと思った。
女が女を好きになるなんて…
自分の叔母を好きになるなんて…
「やっぱり、変、だよ」
目を閉じる。
あの時、未来は泣きそうな顔をしていて、それでも、笑おうとしていたと思う。
あの時の未来の横顔が忘れられない。
未来の顔。
大好きな人の、顔。
「…どうして」
俺じゃ、ないんだ。
分かってる。
本当は、分かってる。
あの時も、今も、本当は、ただ単に。
自分が、嫉妬していただけだということは。
隣の部屋から妹の笑い声が聞こえる。
母親とテレビを見ているみたいだった。
いつもの、日常の音。
それなのに、どこか遠くに感じる。
窓の外を見ると、濡れたアスファルトに街灯の光が反射しているのがみえた。
雨はまだやまない。
今日、帰りに濡れながら走って帰ってしまったから、帰った時には身体がずぶ濡れになっていた。
(朝、母さんが傘を持っていきなさいといったのをちゃんと聞いていればよかった)
と思った。
傘を持っていっていたら。
何か、変わったのだろうか?
放課後、残って、未来と話でもできたのだろうか?
少し、思い出す。
今日の放課後、未来がピンク色の傘をもって、ゆっくりと帰ろうとしていたことを。
美月が…持ってきていた水色の折り畳みの傘を…わざわざ鞄にしまって…その後ろをついていったことを。
そして自分は…走って。二人を追い越して。一人だけで。
濡れながら帰ったことを。
「…俺、どうしたいんだろう」
自分でも分からない。
分かっているのは、自分が、未来のことを好き、だということだけだ。
未来のことが、好きだ。
けど、自分の好きな相手が、自分以外の誰かを好きになることが…こんなにも苦しいことだとは思わなかった。知らなかった。
しかもその相手が…普通じゃないだなんて。
(俺、どうしたいんだろう)
もう一度つぶやく。
つぶやいたところで、こたえは出なかった。
胸の奥が、何かでふさがれているみたいだった。
ただ、静かに、窓の外の雨の音を聞いていた。
いつの間にか、寝てしまっていたらしい。」
気が付いたら、窓の外が少し明るくなっていた。
東の空が、薄く紅色にいろづいている。
夜と朝の境目。
そのあいまいな時間が…どこか、未来みたいだ、と思った。
理解できない。
共感できない。
応援できない。
できないできない。
できないことばかり。
けれど。
やっぱり、離れたくない。
好き、だから。
それに何より、親友、だから。
(未来はたぶん、これからもっと、遠くへ行く)
自分には見えない景色を見て、自分とは違う人を想う。
普通じゃない道をいく。
止めてもきかない。
未来はまっすぐに歩いていく。
そんな未来のことを、自分は、好きになったのだから。
鉛筆を持ち、いつものようにくるくると回し、そしてそれから握りなおして開いたノートの隅に、文字を書く。
「未来が、笑っていられますように」
それは、祈りのような言葉だった。
願いでもあり…呪いでもある。
文字をみつめて、息をはいて。
(今日、未来に会ったら)
(まずは)
(おはよう、って、言おう)
と、思った。
窓の外の雨は、いつの間にか、やんでいた。
まだ雨はやんではなく、ぽつぽつと雨が屋根をたたく音が聞こえてくる。
雨の匂いが部屋の中まで薄く入り込んできている。
机の上には開きかけのノートがあり、半分くらい宿題を書き写したところで手がとまる。
颯真は手にした鉛筆をくるくると回す。
回しながら、ぼぅっと物思いにふける。
時計の秒針が小さく動いていた。
「…未来」
小さく、名前をつぶやく。
その名前を口にした瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
あの日の未来の告白を、何度も何度も思い出してしまう。
(…私ね、好きな人、いるの)
(…沙織、さん)
あの言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
何を言えばいいのか、分からなくなった。
だから、気が付いたら「…変、だよ」なんて言葉が口から出ていた。
(…女同士で、家族で、歳の差あって、それって)
(…そういうのって…普通、じゃないよ)
自分の言葉が、未来を傷つけてしまったと思う。
どうして、あんな言い方をしてしまったのだろう。
どうして、もっと思いやりの言葉をかけてあげることができなかったのだろう。
息を吐くと、喉の奥が少し痛んだ。
ちくちくする。
何かが、喉の奥に刺さっているみたいだ。
刺さっているのは…後悔かもしれなかった。
(それでも)
一度出した言葉はもう戻らないし…それに何より…
嘘はついていなかった。
変、だと思った。
普通じゃないと思った。
女が女を好きになるなんて…
自分の叔母を好きになるなんて…
「やっぱり、変、だよ」
目を閉じる。
あの時、未来は泣きそうな顔をしていて、それでも、笑おうとしていたと思う。
あの時の未来の横顔が忘れられない。
未来の顔。
大好きな人の、顔。
「…どうして」
俺じゃ、ないんだ。
分かってる。
本当は、分かってる。
あの時も、今も、本当は、ただ単に。
自分が、嫉妬していただけだということは。
隣の部屋から妹の笑い声が聞こえる。
母親とテレビを見ているみたいだった。
いつもの、日常の音。
それなのに、どこか遠くに感じる。
窓の外を見ると、濡れたアスファルトに街灯の光が反射しているのがみえた。
雨はまだやまない。
今日、帰りに濡れながら走って帰ってしまったから、帰った時には身体がずぶ濡れになっていた。
(朝、母さんが傘を持っていきなさいといったのをちゃんと聞いていればよかった)
と思った。
傘を持っていっていたら。
何か、変わったのだろうか?
放課後、残って、未来と話でもできたのだろうか?
少し、思い出す。
今日の放課後、未来がピンク色の傘をもって、ゆっくりと帰ろうとしていたことを。
美月が…持ってきていた水色の折り畳みの傘を…わざわざ鞄にしまって…その後ろをついていったことを。
そして自分は…走って。二人を追い越して。一人だけで。
濡れながら帰ったことを。
「…俺、どうしたいんだろう」
自分でも分からない。
分かっているのは、自分が、未来のことを好き、だということだけだ。
未来のことが、好きだ。
けど、自分の好きな相手が、自分以外の誰かを好きになることが…こんなにも苦しいことだとは思わなかった。知らなかった。
しかもその相手が…普通じゃないだなんて。
(俺、どうしたいんだろう)
もう一度つぶやく。
つぶやいたところで、こたえは出なかった。
胸の奥が、何かでふさがれているみたいだった。
ただ、静かに、窓の外の雨の音を聞いていた。
いつの間にか、寝てしまっていたらしい。」
気が付いたら、窓の外が少し明るくなっていた。
東の空が、薄く紅色にいろづいている。
夜と朝の境目。
そのあいまいな時間が…どこか、未来みたいだ、と思った。
理解できない。
共感できない。
応援できない。
できないできない。
できないことばかり。
けれど。
やっぱり、離れたくない。
好き、だから。
それに何より、親友、だから。
(未来はたぶん、これからもっと、遠くへ行く)
自分には見えない景色を見て、自分とは違う人を想う。
普通じゃない道をいく。
止めてもきかない。
未来はまっすぐに歩いていく。
そんな未来のことを、自分は、好きになったのだから。
鉛筆を持ち、いつものようにくるくると回し、そしてそれから握りなおして開いたノートの隅に、文字を書く。
「未来が、笑っていられますように」
それは、祈りのような言葉だった。
願いでもあり…呪いでもある。
文字をみつめて、息をはいて。
(今日、未来に会ったら)
(まずは)
(おはよう、って、言おう)
と、思った。
窓の外の雨は、いつの間にか、やんでいた。
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