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10.これまでのことを
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アシュトン卿と連れ立って歩きながら、小さく息を吸う。
ホールに戻れば、オリヴィアとして彼と話すのは難しくなる。だからまだ、私が私として話せる間に聞いておきたいことがあった。
「それにしても……アシュトン卿は、よく私のことがわかりましたね」
「それは、どういうことでしょうか?」
不思議そうに首を傾げられ、自嘲じみた笑みを浮かべる。
「会場にいた方は――ああ、もちろん当事者である殿下やエミール……それから両親を除いて、ですが……誰も私をエミールと疑っていませんでしたから。それに、服装も普段のものとは違いますし」
普段は婚約者がいる身にふさわしいように、つつましいドレスを着るように心がけていた。こういった多くの人が参加する催しではとくに。
「ああ、なるほど……。たしかにあなたとエミール嬢はよく似ていますが、ふるまいすべてが同じ、というわけではありませんし……」
「アルベルト殿下は共寝しても気づかれなかったようですが」
「それは……」
言葉を詰まらせるアシュトン卿に自分の言葉が彼を困らせるだけだということに気づき、慌てて首を小さく振る。
今の状況や彼の立場を思えば、よくも悪くも言えないだろう。同意するのも否定するのも難しい彼に、言うべきセリフではなかった。
「申し訳ありません。困らせてしまいましたね……アシュトン卿が悪いわけではないのに……」
「いえ、気にしないでください。殿下のことは……その、俺が何か言うのはおこがましいことだと思うのですが――」
言葉を選ぶように話していたアシュトン卿だったが、その先を続けることはなかった。
「お姉さま!」
それよりも先に、別の声が割って入ってきたからだ。
「あ、ごめんなさい。エミール……遅いから心配していたのよ、大丈夫?」
私の隣に人がいるのに気づいたのだろう。妹は取り繕うような笑みを浮かべながら、改めてエミールと私を呼んだ。
「アシュトン卿と一緒にいるなんて思わなかったわ。ええと、どうして二人でいるのかしら」
ぎこちない笑みを向ける妹にアシュトン卿が少し悩むように視線をそらしたあと、静かにため息を落とした。
「黙っていてもしかたないことですので言いますが、俺の前でオリヴィア嬢の振りをする必要はありませんよ。話はすべて聞いていますから」
「なんで……もしかして、お姉さまが?」
「いえ、父から。俺の父親が誰かは、もちろん知っていますよね?」
つい先ほどまで知らなかったとは思えない自然な口ぶりでさらりと嘘をつく彼に、妹だけでなく私まで驚いてしまう。
私の知るアシュトン卿は、物静かな人だ。よけいな口を挟むことなくアルベルト殿下の側にいて、彼の動向を見守っている――どちらかといえば、実直な人だと思っていた。
だけど王太子の側仕えという責務を負っているのだから、ただ実直なだけではないということなのだろう。
「あら、そうなの。それはよかったわ。お城に行ったあとはどうしようか困っていたのよ。お姉さまの交友関係をすべて把握しているわけではないし、もしかしたら親しい使用人の一人や二人はいるかもしれないし……お姉さまにすべて聞くだけの時間があるか心配していたのだけど、アルベルト殿下の側仕えが協力してくれるのなら安心ね。話が通っている人がいてよかったわ」
にこにこと邪気のない笑顔で話す妹に、私はどんな顔をしていればいいのかわからない。
もしもアシュトン卿がいなかったら、私はこれまで私が築いてきたものを、彼女に与えるためだけに話さなければいけなかったらしい。
アルベルト殿下の婚約者である私は城に何度か招かれたことはあったけど、エミールは大きなパーティー、しかも社交デビューしてからのものでしか城に入ったことはない。だから城のどこに何があるのか、どんな人がいるのか、私ほど知っているわけではない。
そのことを考えれば当たり前といえば当たり前なのだろう。だけど、ほんの数時間前に決まったことなので、そこまで頭が回っていなかった。
ホールに戻れば、オリヴィアとして彼と話すのは難しくなる。だからまだ、私が私として話せる間に聞いておきたいことがあった。
「それにしても……アシュトン卿は、よく私のことがわかりましたね」
「それは、どういうことでしょうか?」
不思議そうに首を傾げられ、自嘲じみた笑みを浮かべる。
「会場にいた方は――ああ、もちろん当事者である殿下やエミール……それから両親を除いて、ですが……誰も私をエミールと疑っていませんでしたから。それに、服装も普段のものとは違いますし」
普段は婚約者がいる身にふさわしいように、つつましいドレスを着るように心がけていた。こういった多くの人が参加する催しではとくに。
「ああ、なるほど……。たしかにあなたとエミール嬢はよく似ていますが、ふるまいすべてが同じ、というわけではありませんし……」
「アルベルト殿下は共寝しても気づかれなかったようですが」
「それは……」
言葉を詰まらせるアシュトン卿に自分の言葉が彼を困らせるだけだということに気づき、慌てて首を小さく振る。
今の状況や彼の立場を思えば、よくも悪くも言えないだろう。同意するのも否定するのも難しい彼に、言うべきセリフではなかった。
「申し訳ありません。困らせてしまいましたね……アシュトン卿が悪いわけではないのに……」
「いえ、気にしないでください。殿下のことは……その、俺が何か言うのはおこがましいことだと思うのですが――」
言葉を選ぶように話していたアシュトン卿だったが、その先を続けることはなかった。
「お姉さま!」
それよりも先に、別の声が割って入ってきたからだ。
「あ、ごめんなさい。エミール……遅いから心配していたのよ、大丈夫?」
私の隣に人がいるのに気づいたのだろう。妹は取り繕うような笑みを浮かべながら、改めてエミールと私を呼んだ。
「アシュトン卿と一緒にいるなんて思わなかったわ。ええと、どうして二人でいるのかしら」
ぎこちない笑みを向ける妹にアシュトン卿が少し悩むように視線をそらしたあと、静かにため息を落とした。
「黙っていてもしかたないことですので言いますが、俺の前でオリヴィア嬢の振りをする必要はありませんよ。話はすべて聞いていますから」
「なんで……もしかして、お姉さまが?」
「いえ、父から。俺の父親が誰かは、もちろん知っていますよね?」
つい先ほどまで知らなかったとは思えない自然な口ぶりでさらりと嘘をつく彼に、妹だけでなく私まで驚いてしまう。
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だけど王太子の側仕えという責務を負っているのだから、ただ実直なだけではないということなのだろう。
「あら、そうなの。それはよかったわ。お城に行ったあとはどうしようか困っていたのよ。お姉さまの交友関係をすべて把握しているわけではないし、もしかしたら親しい使用人の一人や二人はいるかもしれないし……お姉さまにすべて聞くだけの時間があるか心配していたのだけど、アルベルト殿下の側仕えが協力してくれるのなら安心ね。話が通っている人がいてよかったわ」
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そのことを考えれば当たり前といえば当たり前なのだろう。だけど、ほんの数時間前に決まったことなので、そこまで頭が回っていなかった。
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