どうやら私は悪女らしい~ならそれらしくふるまいましょう~

由良

文字の大きさ
3 / 13

3話 クラリスという少女

しおりを挟む
 こんやくしゃのしりるさまにあいました。
 とてもやさしそうで、どきどきします。

 お母さまが神さまのところに行ってしまいました。

 シリル様がしんぱいして会いにきてくれました。
 自分はずっといっしょにいると約束してくれました。

 お父さまがあたらしいお母さまを連れてきました。
 私に妹ができました。同じ年だけど、私のほうがすこし早く生まれたらしいです。

 セリーヌといっしょに遊ぼうと思ったら怒られました。
 体が弱いから元気には遊べないらしいです。

 シリル様と一緒にいるとどきどきして、どうすればいいかわからなくなります。
 もしかしたらこれが恋というものなのでしょうか。

 お継母様と一緒に来たメイドがセリーヌが異母妹だと教えてくれました。
 私は本当はいらないのだと、言っていました。曾祖父の約束以外なんの役にも立たないと言って笑っていました。

 セリーヌと一緒に魔力適性試験を受けました。
 さすがは自慢の娘だと、お父様がセリーヌを褒めていました。私の結果はどうでもいいようです。

 私の試験結果は悪かったそうで、お父様に怒られました。
 でも私の結果票は捨てたはずなのに、どうやって知ったのでしょう。捨てたのに気づいて拾ってくれたのなら嬉しいです。
 
 忙しいとかでシリル様との約束がキャンセルになりました。
 次お会いできる日が楽しみです。

 今日もシリル様とは会えませんでした。いつ頃落ち着くのでしょう。

 今日もシリル様は忙しいようです。

 シリル様を街中で見かけました。セリーヌと一緒にいて、とても楽しそうでした。

 定期日以外で会うのはやめようとシリル様に言われました。
 連絡も極力控えてほしいそうです。

 どうやら私はシリル様と結婚すると、曾祖父の遺産がもらえることになっているようです。
 だからシリル様はセリーヌと親しそうでも、私との婚約を継続しているのでしょうか。

 シリル様は本当は私と婚約していたくないのだと話してくれました。
 私のような性根の悪い娘はどうしても嫌らしいです。

 今日もシリル様は機嫌が悪そうでした。私と会えたのが嫌なのでしょう。
 いかに私の性格が悪いか語り、曾祖父の約束がなければとぼやいていました。
 約束とは、遺産のことでしょうか。遺産が手に入ったら、私はいらなくなるのかもしれません。


 ベッドの隙間に隠されていた日記。一日にほんの数行だけ書いているだけの簡潔なもの。
 その中から関係ありそうなものだけ拾っていく。

 幼い頃からはじまった日記は最初はつたなく、最近に近づけば近づくほどにじみ、ぼやけている。
 どうしてなのかは、考えるまでもない。

「曾祖父の遺産が彼らの手に渡るぐらいなら、いっそのこと……」

 そして最後の文字を読む。
 どうしても婚約を解消したくなった理由はきっと、この曾祖父の遺産とやらだろう。
 クラリスがシリルと結婚し、もしもクラリスが亡くなれば遺産はシリルのものになる。そしてシリルとセリーヌが結婚すれば――だからクラリスは自らの死を望んだのだろう。
 彼らに一矢報いるために。

「……だけど、失敗したのね」

 その結果は、私がよく知っている。
 記憶を失って、シリルとの婚約だけは継続できるように取り繕わされ、今に至る。

「一緒にいるって約束してくれたのに」

 日記の中にある文章をなぞりながら声に出す。にじんだ文字は、クラリスの無念の表れだろう。
 最初は仲よい婚約者だったことは簡単に読み取れる。そして、段々と冷たくされていくのも。

 いったいどれほどの悲しみがクラリスを襲ったのか。
 どれだけ理不尽を強いられたのか。
 悩み苦しみ嘆いたのか。

 胸の中に表現し難い感情が生まれる。
 この日記を読んで懐かしさを覚えたわけでもなければ、抱いた悲しみや苦しみを思い出したわけでもない。

 何も思い出せないけど、どうしようもないやるせなさと腹立たしさを感じる。

「クラリスはきっと、優しい子だったのね」

 誰かを傷つけることができないぐらい、優しかったのだろう。
 やり返すよりも死を選ぶぐらい、心が弱っていたのだろう。

「だけど私は、そこまで優しくないみたい」

 一矢どころか十矢ぐらい報いてやろうじゃないか。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

【完結】どくはく

春風由実
恋愛
捨てたつもりが捨てられてしまった家族たちは語る。 あなたのためだったの。 そんなつもりはなかった。 だってみんながそう言うから。 言ってくれたら良かったのに。 話せば分かる。 あなたも覚えているでしょう? 好き勝手なことを言うのね。 それなら私も語るわ。 私も語っていいだろうか? 君が大好きだ。 ※2025.09.22完結 ※小説家になろうにも掲載中です。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。  婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。 侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。 二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。 (小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

処理中です...