38 / 42
第一章
第38話 番外編・ある獣人の思い(ヒナツ視点)
しおりを挟む
薬を入手する際いつも世話になっていたある風狼族の男に渡された香。それが始まりだった。
「これは焚くことで、元気になるお香です。先生」
「そんな物ができたのか――」
ちょうど風邪を引いた生徒がいた。薬を買い付ける男が持ってきた香だ。僕は教え子たちのいる教室で何の疑いもなくそれを焚いた。
はやく元気になるようにと。
次の日、風邪の生徒が増えた。僕はまた香を焚いた。次の日も、次の日も。もらった香を使い切った五日目。生徒たちは皆、風邪を引いた。違う、何か別の病気だ。
最初、香のせいかと疑った。けれど、同じ場所にいた大人……僕には何もなかった事からすぐに疑いの候補から外した。
「大丈夫ですか?」
最初に発症した生徒、イーシャは香で風邪を治そうと思った子だった。
この子の風邪が皆に感染ってしまったのかもしれない。その事を彼女自身気に病んでいた。
「僕がなんとかする。皆の薬を買いにいかなくては」
生徒達全員の家をまわり、金を集める。回復薬等の薬は貴重になってきていて金がかかるからだ。
皆で出し合って、購入しなければ手に入らない。
「先生、お願い」
咳き込みながらイーシャは僕に願った。
僕は頷き、風狼族の集落に向かう。
雷狼族に薬を作れるものはいない。唯一回復魔法や回復薬を作れるかもと期待されている神の名を冠するスキルを持つイーシャもまた病に冒されている。
僕は香を渡した男を探した。だが集落にその男は戻ってきていなかった。
「調合スキルを持っていた風狼族が全員連れて行かれた!?」
法外な値段で薬を売っていた男がそう言った。
「そうだ。だから、もっともっと金がいるようになるぞ、ニイチャン」
「そ、そんな……」
ふらふらと集落を出ようとした時、僕は呼び止められる。
「話は聞かせてもらった。うちにある薬を譲ってあげよう。風狼族の方も大変なんだろう。実は雷狼族でも妙な病気が流行っていてね。これを飲めばすぐに酷い咳でも静かに眠れるようになるよ」
「本当、ですか……」
値段はさっきの男の半分ほどであった。ただ、人数分にはまだ足りない。
「水で薄めて……全員分に……。そうだ、薄めた分効きにくくなるかもしれない。イーシャ……イーシャの分は」
イーシャは優しい子だった。誰にでも等しく接し、笑顔を絶やさず、成績優秀。
「先生、村長になるんですよね? 頑張って下さい。わたし、応援しますから」
彼女はきっとこの村の、いや、この世界の救世主、神になる。彼女のスキルはきっとそういう物だ。
「女神様に村長になるように言われたんだ。僕はだから村長にならないと。イーシャ、君も必ず僕が救ってみせる」
◇◇◇
イーシャが神の元に行ってしまった。
病気は良くなるどころか、悪化の一途を辿っていた。
彼女は村にある、神様の聖域と呼ばれる場所から神の元に行った。
「皆を救いたい」
彼女は父親にそう言い残した。
皆を救う。イーシャの願いだ。僕は薄めた薬を配り続ける。
救う、救う、救う――。
どうして、その中にイーシャの命が入ってない?
「薬が尽きたんだ。次をくれ……」
「いったい何人が必要なんだ? ほら」
薬を手にして村に戻った。
「すまない、ヒナツ。オレも時間があれば行きたいんだが」
「いいえ、ウルズさん。ミラさんの事で大変でしょう」
「ミラはスクがみてくれてるから、村の中なら走り回れる」
「そうですね」
村の中ならまわれる。村長の座巡って戦う相手ウルズは言った。
その娘、スキルがいまだ不明で何の役にも立た無さそうなミラもまた、病気で伏せっていた。
神の名を冠するスキルを持つイーシャがいなくなって、この男の娘が生きている。
ウルズは僕が薬を買いに走っている間にも村長候補として村中をまわれる。
僕は寝ないで村をまわり、次の薬を求めてまた風狼族の集落に行く。
「はぁ、もう無理だよ。薬はない。どうしても買いたきゃ向こうにいきな」
「そんな――」
薬で皆を救って、村長に選ばれなければ僕はイーシャとの約束を果たすことが出来ない。
言われた通りに向こうに足を運ぶ。とても手が出る値段ではなさそうだった。
「もう金がない――」
数人聞いてまわった。返ってくるのはもう無理だという言葉。
諦めたら、イーシャの気持ちはどうなる? どうなるんだ?
「あんたは嘘をつかれてるんじゃないか?」
薬をなんとか手に入れようと来た風狼族の集落で声をかけられる。
怪しい老婆だった。
「え?」
「キヒヒ、ほら、薬をあげよう。それとあんたの手足になってくれる男達も」
「誰ですか? 僕は……」
お金はない。だが、薬は手に入れたい。
「村長になるんだろう」
「どうしてそれを――」
「もう一人の候補の男。あんたがいない間に暗躍してるんだろうねぇ。せっかくあんたが頑張ってるってのに、キヒヒ」
老婆の香水だろうか。変に甘ったるい匂いが鼻をつく。
「……そうなのでしょうか。僕は、僕はイーシャとの約束を果たしたいのに」
気がつけば、老婆は姿を消していた。しかし、薬と手足になるという男達がここにある。あれは夢ではない。
村へと急ぐ。たくさんの薬を手に入れた。僕が村長になるんだ。
◇◇◇
僕はただ、皆を守りたかった。……イーシャ、君も含めて。
なのに、皆を救うと願った君だけが助からなかったなんてそんな世界はおかしいだろ?
「これは焚くことで、元気になるお香です。先生」
「そんな物ができたのか――」
ちょうど風邪を引いた生徒がいた。薬を買い付ける男が持ってきた香だ。僕は教え子たちのいる教室で何の疑いもなくそれを焚いた。
はやく元気になるようにと。
次の日、風邪の生徒が増えた。僕はまた香を焚いた。次の日も、次の日も。もらった香を使い切った五日目。生徒たちは皆、風邪を引いた。違う、何か別の病気だ。
最初、香のせいかと疑った。けれど、同じ場所にいた大人……僕には何もなかった事からすぐに疑いの候補から外した。
「大丈夫ですか?」
最初に発症した生徒、イーシャは香で風邪を治そうと思った子だった。
この子の風邪が皆に感染ってしまったのかもしれない。その事を彼女自身気に病んでいた。
「僕がなんとかする。皆の薬を買いにいかなくては」
生徒達全員の家をまわり、金を集める。回復薬等の薬は貴重になってきていて金がかかるからだ。
皆で出し合って、購入しなければ手に入らない。
「先生、お願い」
咳き込みながらイーシャは僕に願った。
僕は頷き、風狼族の集落に向かう。
雷狼族に薬を作れるものはいない。唯一回復魔法や回復薬を作れるかもと期待されている神の名を冠するスキルを持つイーシャもまた病に冒されている。
僕は香を渡した男を探した。だが集落にその男は戻ってきていなかった。
「調合スキルを持っていた風狼族が全員連れて行かれた!?」
法外な値段で薬を売っていた男がそう言った。
「そうだ。だから、もっともっと金がいるようになるぞ、ニイチャン」
「そ、そんな……」
ふらふらと集落を出ようとした時、僕は呼び止められる。
「話は聞かせてもらった。うちにある薬を譲ってあげよう。風狼族の方も大変なんだろう。実は雷狼族でも妙な病気が流行っていてね。これを飲めばすぐに酷い咳でも静かに眠れるようになるよ」
「本当、ですか……」
値段はさっきの男の半分ほどであった。ただ、人数分にはまだ足りない。
「水で薄めて……全員分に……。そうだ、薄めた分効きにくくなるかもしれない。イーシャ……イーシャの分は」
イーシャは優しい子だった。誰にでも等しく接し、笑顔を絶やさず、成績優秀。
「先生、村長になるんですよね? 頑張って下さい。わたし、応援しますから」
彼女はきっとこの村の、いや、この世界の救世主、神になる。彼女のスキルはきっとそういう物だ。
「女神様に村長になるように言われたんだ。僕はだから村長にならないと。イーシャ、君も必ず僕が救ってみせる」
◇◇◇
イーシャが神の元に行ってしまった。
病気は良くなるどころか、悪化の一途を辿っていた。
彼女は村にある、神様の聖域と呼ばれる場所から神の元に行った。
「皆を救いたい」
彼女は父親にそう言い残した。
皆を救う。イーシャの願いだ。僕は薄めた薬を配り続ける。
救う、救う、救う――。
どうして、その中にイーシャの命が入ってない?
「薬が尽きたんだ。次をくれ……」
「いったい何人が必要なんだ? ほら」
薬を手にして村に戻った。
「すまない、ヒナツ。オレも時間があれば行きたいんだが」
「いいえ、ウルズさん。ミラさんの事で大変でしょう」
「ミラはスクがみてくれてるから、村の中なら走り回れる」
「そうですね」
村の中ならまわれる。村長の座巡って戦う相手ウルズは言った。
その娘、スキルがいまだ不明で何の役にも立た無さそうなミラもまた、病気で伏せっていた。
神の名を冠するスキルを持つイーシャがいなくなって、この男の娘が生きている。
ウルズは僕が薬を買いに走っている間にも村長候補として村中をまわれる。
僕は寝ないで村をまわり、次の薬を求めてまた風狼族の集落に行く。
「はぁ、もう無理だよ。薬はない。どうしても買いたきゃ向こうにいきな」
「そんな――」
薬で皆を救って、村長に選ばれなければ僕はイーシャとの約束を果たすことが出来ない。
言われた通りに向こうに足を運ぶ。とても手が出る値段ではなさそうだった。
「もう金がない――」
数人聞いてまわった。返ってくるのはもう無理だという言葉。
諦めたら、イーシャの気持ちはどうなる? どうなるんだ?
「あんたは嘘をつかれてるんじゃないか?」
薬をなんとか手に入れようと来た風狼族の集落で声をかけられる。
怪しい老婆だった。
「え?」
「キヒヒ、ほら、薬をあげよう。それとあんたの手足になってくれる男達も」
「誰ですか? 僕は……」
お金はない。だが、薬は手に入れたい。
「村長になるんだろう」
「どうしてそれを――」
「もう一人の候補の男。あんたがいない間に暗躍してるんだろうねぇ。せっかくあんたが頑張ってるってのに、キヒヒ」
老婆の香水だろうか。変に甘ったるい匂いが鼻をつく。
「……そうなのでしょうか。僕は、僕はイーシャとの約束を果たしたいのに」
気がつけば、老婆は姿を消していた。しかし、薬と手足になるという男達がここにある。あれは夢ではない。
村へと急ぐ。たくさんの薬を手に入れた。僕が村長になるんだ。
◇◇◇
僕はただ、皆を守りたかった。……イーシャ、君も含めて。
なのに、皆を救うと願った君だけが助からなかったなんてそんな世界はおかしいだろ?
0
あなたにおすすめの小説
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる