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第二章 赤の瞳と金の瞳
第74話 竜の生態と元婚約者の顔
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フレイルは子どもらしく、軽食に手を伸ばしかぷりと食いつく。はやく続きが聞きたいのに、と思いながらも軽食に手を伸ばすタイミングをくれたので私も手にとる。
冬でもとれるあの赤い果実を干して作ったドライフルーツ。それと赤い果実のジャムが少し乗った小さめの焼き菓子。軽食の甘さを引き立てるためか今日の紅茶は甘い香りが少なめだ。
「僕はルニア姉様の弟ですが、本当の意味の弟ではないのです。あぁ、生まれ変わりをしてしまったから正確にはその弟でもなくなってしまいましたが」
「生まれ変わり?」
「はい、エマ様。竜は人より長く生きますが死ぬ事も出来るんです。ただ、人と違うのは死んだあとすぐまた竜として生まれ変わるという性質を持っていて――。僕、ルニア姉様の弟として生きていたレイは数日前に亡くなりました。その生まれ変わりなんです」
ガタリとルニアの近くで音がなった。かなり動揺している。ルニアの表情があまりに痛々しい。
フレイルは続けた。
「突然でした。研究室に人がどかどかと入りこんできてあっと言う間に僕は牢に入れられました。どうやら怪しい薬を作って王家由来者暗殺を企てたとか、竜魔道具研究の第一人者グーナル夫妻殺害の疑いとかかけられたみたいですね。僕が作ってたのはラヴェルがした指示ばかりだったのに、笑ってしまいますよ……。ホント」
あの人はそんな事までしてたのね。全然知らない元婚約者の顔。当たり前か、話す事すら数えるほどだったのだもの。
国の為にと思ってしていたのかもしれないけれど、知れば知るほど彼の姿がわからなくなる。ラヴェルはいったいどんな感情を抱いていたのだろう。
剣の向こう側にいたラヴェルの顔を思い出す。紅茶のカップを握る手がカタカタと震えてしまう。
「あー、解呪薬を作られたら困るからやったんちゃう? アイツ、エマちゃんの事きらっとったし」
「あぁ、それもあるかもしれない。そっちが本命だったのかなぁ? 僕、エマ様に害が及ばないように体調はしっかり維持するように呪いを調整してましたから」
さらっと怖い。この子。太るのって体にかなり負担がかかると思うんだけど……。
「見た目が太いからって食事をとらなくなる。そんな風にならないようにしっかり食べるようかけてた呪いだけ残されるとは……」
顔面をぶつけそうになるくらい頭がぐらりとした。この子のせいだったのか。この食欲!!
あぁ、でも私が餓死なんてならないようにしてくれていたのなら、あぁ、でも――。
恨めばいいのか、感謝するべきなのか複雑な感情でフレイルを見る。
「あの、これ治るの?」
おずおずと聞いてみる。
「えーっと……、エマ様が僕を選んでくれるなら最速で薬を作ります!!」
にこにこ可愛い笑顔が、悪魔に見えた。
「私は……」
言いかけて一度ブレイドを見る。私は、もう決めてるんだから迷わず答えなきゃ。
「私はアナタを選びません。残ってる呪いにだって打ち勝ってみせます。私が生きるためにしてくれたというのは感謝します。ありがとう、フレイル」
あとは自分の気持ちでなんとかしなくちゃ。食べたならその分動けばいい。それなら出来るはずだ。
フレイルの笑顔はそのまま変わらなかった。
「それでこそ、エマ様です。エマ様が一緒にいてくれないなら僕が一緒にいればいいだけですしね」
フレイルはにこにこしながらよろしくねとまわりに言っていく。もちろん、ルニアにも。
「ルニア姉様いいですよね?」
ルニアは頷くと、フレイルの手を掴み会議室から出ていった。
「ちょっ、ルニア姉様、まだ話し途中!!」
「いいから、こいっ」
そんな感じの二人の話し声が遠ざかっていく。
「なんやろ。久しぶりの姉弟再会っちゅー感じやなかったな」
「そうだな。まあ、見た目から変わってるとなると認識が追いついていないのかもしれない。それを話し合うんじゃないか? ――っと、エマ大丈夫?」
ブレイドが私の手を握る。たぶん止めるためだろう。私の手は自分でも驚くほどぶるぶると震えていた。
グーナル夫妻殺害。私の記憶に間違いがないならグーナルはお父さんの店の名前だ……。
冬でもとれるあの赤い果実を干して作ったドライフルーツ。それと赤い果実のジャムが少し乗った小さめの焼き菓子。軽食の甘さを引き立てるためか今日の紅茶は甘い香りが少なめだ。
「僕はルニア姉様の弟ですが、本当の意味の弟ではないのです。あぁ、生まれ変わりをしてしまったから正確にはその弟でもなくなってしまいましたが」
「生まれ変わり?」
「はい、エマ様。竜は人より長く生きますが死ぬ事も出来るんです。ただ、人と違うのは死んだあとすぐまた竜として生まれ変わるという性質を持っていて――。僕、ルニア姉様の弟として生きていたレイは数日前に亡くなりました。その生まれ変わりなんです」
ガタリとルニアの近くで音がなった。かなり動揺している。ルニアの表情があまりに痛々しい。
フレイルは続けた。
「突然でした。研究室に人がどかどかと入りこんできてあっと言う間に僕は牢に入れられました。どうやら怪しい薬を作って王家由来者暗殺を企てたとか、竜魔道具研究の第一人者グーナル夫妻殺害の疑いとかかけられたみたいですね。僕が作ってたのはラヴェルがした指示ばかりだったのに、笑ってしまいますよ……。ホント」
あの人はそんな事までしてたのね。全然知らない元婚約者の顔。当たり前か、話す事すら数えるほどだったのだもの。
国の為にと思ってしていたのかもしれないけれど、知れば知るほど彼の姿がわからなくなる。ラヴェルはいったいどんな感情を抱いていたのだろう。
剣の向こう側にいたラヴェルの顔を思い出す。紅茶のカップを握る手がカタカタと震えてしまう。
「あー、解呪薬を作られたら困るからやったんちゃう? アイツ、エマちゃんの事きらっとったし」
「あぁ、それもあるかもしれない。そっちが本命だったのかなぁ? 僕、エマ様に害が及ばないように体調はしっかり維持するように呪いを調整してましたから」
さらっと怖い。この子。太るのって体にかなり負担がかかると思うんだけど……。
「見た目が太いからって食事をとらなくなる。そんな風にならないようにしっかり食べるようかけてた呪いだけ残されるとは……」
顔面をぶつけそうになるくらい頭がぐらりとした。この子のせいだったのか。この食欲!!
あぁ、でも私が餓死なんてならないようにしてくれていたのなら、あぁ、でも――。
恨めばいいのか、感謝するべきなのか複雑な感情でフレイルを見る。
「あの、これ治るの?」
おずおずと聞いてみる。
「えーっと……、エマ様が僕を選んでくれるなら最速で薬を作ります!!」
にこにこ可愛い笑顔が、悪魔に見えた。
「私は……」
言いかけて一度ブレイドを見る。私は、もう決めてるんだから迷わず答えなきゃ。
「私はアナタを選びません。残ってる呪いにだって打ち勝ってみせます。私が生きるためにしてくれたというのは感謝します。ありがとう、フレイル」
あとは自分の気持ちでなんとかしなくちゃ。食べたならその分動けばいい。それなら出来るはずだ。
フレイルの笑顔はそのまま変わらなかった。
「それでこそ、エマ様です。エマ様が一緒にいてくれないなら僕が一緒にいればいいだけですしね」
フレイルはにこにこしながらよろしくねとまわりに言っていく。もちろん、ルニアにも。
「ルニア姉様いいですよね?」
ルニアは頷くと、フレイルの手を掴み会議室から出ていった。
「ちょっ、ルニア姉様、まだ話し途中!!」
「いいから、こいっ」
そんな感じの二人の話し声が遠ざかっていく。
「なんやろ。久しぶりの姉弟再会っちゅー感じやなかったな」
「そうだな。まあ、見た目から変わってるとなると認識が追いついていないのかもしれない。それを話し合うんじゃないか? ――っと、エマ大丈夫?」
ブレイドが私の手を握る。たぶん止めるためだろう。私の手は自分でも驚くほどぶるぶると震えていた。
グーナル夫妻殺害。私の記憶に間違いがないならグーナルはお父さんの店の名前だ……。
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