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第15話 再び散歩に挑む魔王
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少しオレンジ色を残した暗闇になる一歩手前の空。今日も地獄の番犬ケルベロスは殺気を放ちながら元気に足を踏み出す。
そんな殺気などものともせず、オレはこころの中でスキップしていた。はやく、はやく真由の元へ。
「拓也君!」
「真由」
昨日と今日学校でも約束してた通り、真由と合流する。真由に合わせてオレも体操服&ジャージスタイルだ。
「やる気だね」
「真由が頑張ってるのに、オレが練習せず足引っ張ったりしたら嫌だからな」
「ありがとう。拓也君」
可愛い笑顔を見られただけで幸せだ。とは、言えなかったがこころの中で叫んでいた。こころの中のオレは自由でいいな。
とりあえずさっさと場所を移そう。ここは家の前すぎる。
「あーあーあー、そういう事ぉ」
玄関が開いて角……ではなくツインテの妹がじとーっとした視線を送っていた。
「どおりでお兄ちゃん、いきなり散歩係はこれからオレがやるなんて言うわけだ。そっか、マユお姉ちゃんが一緒に……いつの間に……」
妹の目から熱線でもでてるんじゃないかと思う。なぜなら顔が熱いからだ。
「違うぞ。これは高校の体育祭の練習のためだ。ほら、体操服だろ」
学校指定の体操服とジャージなので図らずともペアルックになっているのは気の所為だ。
違うと言ってるのに妹の唇が尖る。何で尖るんだよ。まさか、真由と一緒に散歩行きたいからってオレに「ハウス!」とでも言うつもりか? この散歩は譲らんぞ!!
「永遠ちゃんも一緒に行く? 今からぐるっと走りに行くんだ。練習用にさ。いい運動になるよ」
二人きりという状況がガラガラと音をたてて崩れた。
「行く!! 待ってて。着替えてくる」
そう言って嬉しそうに急いで家の中に入った。
「よし、行こう。真由」
「駄目だよ。永遠ちゃんに待ってるって言ったんだから待たなきゃ」
しょぼん。二人きりの散歩が、妹つきの散歩になった。しょぼん。
最初から犬がいて二人きりじゃなかっただろって? それでも、二人で行きたかったぁぁぁぁ。たとえ犬一匹に足をかじられながらでもっ。
「お待たせ!!」
満面の笑みで出てきた妹まで、体操服の上着にジャージの下。中学の時にオレが着てたヤツだ。おさがりなんて嫌だろうからと新しく買ったのもあるのに今妹が着てるのはどう見てもオレのおさがりのヤツ。洗濯はされているがなぜそっちを着る!?
犬を見る。あぁ、そうか。新しく買ってもらった服をケルベロスに噛み噛みされちゃ嫌だもんな。
「さぁ、いこ!! 行こうー!!」
オレと真由の間に入り、両方と腕を組む。おい、何でそこなんだよ。ちょっと場所かわれ。
そう思ったが、かわったところで腕を組むという動作は出来ないだろうことは想像がついていたけれど。
前回とは反対方向の公園に真由が誘導する。オレのトラウマを気遣ってだろう。昨日の今日でお巡りさんが公園見張ってるかもだしなぁ。
あそこ、一匹いれば二匹、三匹といるかもしれないが。まあ、色々な場所を探すのも悪くないだろう。
「もー、ケルっち甘えすぎだよぉ。お兄ちゃんかわりに持ってー」
「いや、飼い主……」
飼い主である妹にべったりとくっついて離れない犬。
「私が抱っこしようか?」
手を差し出す優しい女神がいる。真由だ。
「ちょっとだけお願いぃぃ」
永遠が真由に犬をわたそうとする。が、やはり犬に拒否られていた。何がそんなに恐ろしいのか。ぶるぶると震えて子犬みたいに鳴いている。
「は? 何? ケルっち。まるでスマホみたいにぶるぶるじゃん」
「ごめんね、やっぱり私が苦手みたいだね」
「そうなんだ」
女神の腕の中を選ばず子悪魔の腕の中を選ぶとは。
「私、前世でワンちゃん達にひどい事でもしてたのかな」
「えー、そんな事ないない。マユお姉ちゃんが悪い事なんてするわけないじゃん」
そうだぞ。真由は前世でだって、優しい女神だったに決まってる。ひどい事なんてするわけがない。ん、前世? あー、勇者だったら魔物達も怯えても仕方がないか? 圧倒的強さであったからな。勇者マユは。って、違うか。今は犬にびびられるって話だしな。でも、前世ってまさかオレに揺さぶりかけてますか? もしかして勇者ですか?
むっ、それよりまた真由が寂しそうな顔をしてるじゃないか。こうなったらまたオレが犬の代わりを――。
頭を差し出そうかと顔を斜めにした時だった。
カンカンカン
踏切警報機の音がなる。少し先にあるそこを見ると見覚えある人間が踏切のそばに立っていた。
「あれ、閃九君?」
「だよな」
「え、何々? ヒラメ? お魚?」
真由が同じく気がついたようだ。妹は犬を下におろしキョロキョロしている。犬は必死に真由から逃げようと引っ張るが妹にリードを短めに握られ阻止されている。
閃九頭脳君はこちらには気がついていないのだろう。踏切を見て立っていた。少しふらついているようにも見える。なんだか操り人形のようにふらりふらりと。
「何か、変だ」
「え? 何が?」
真由が突然走り出す。
カンカンカン
まだ警報機はなり続けている。遮断機の遮断桿も下がっている。なのに、頭脳君はそれを持ち上げ中に侵入しようとしていた。
「な、おい!!」
動くのが遅れた。間に合わない。でも真由が間に合う? いや、そんな危険な事をさせちゃダメだろ!?
「真由ッ!!!!」
そんな殺気などものともせず、オレはこころの中でスキップしていた。はやく、はやく真由の元へ。
「拓也君!」
「真由」
昨日と今日学校でも約束してた通り、真由と合流する。真由に合わせてオレも体操服&ジャージスタイルだ。
「やる気だね」
「真由が頑張ってるのに、オレが練習せず足引っ張ったりしたら嫌だからな」
「ありがとう。拓也君」
可愛い笑顔を見られただけで幸せだ。とは、言えなかったがこころの中で叫んでいた。こころの中のオレは自由でいいな。
とりあえずさっさと場所を移そう。ここは家の前すぎる。
「あーあーあー、そういう事ぉ」
玄関が開いて角……ではなくツインテの妹がじとーっとした視線を送っていた。
「どおりでお兄ちゃん、いきなり散歩係はこれからオレがやるなんて言うわけだ。そっか、マユお姉ちゃんが一緒に……いつの間に……」
妹の目から熱線でもでてるんじゃないかと思う。なぜなら顔が熱いからだ。
「違うぞ。これは高校の体育祭の練習のためだ。ほら、体操服だろ」
学校指定の体操服とジャージなので図らずともペアルックになっているのは気の所為だ。
違うと言ってるのに妹の唇が尖る。何で尖るんだよ。まさか、真由と一緒に散歩行きたいからってオレに「ハウス!」とでも言うつもりか? この散歩は譲らんぞ!!
「永遠ちゃんも一緒に行く? 今からぐるっと走りに行くんだ。練習用にさ。いい運動になるよ」
二人きりという状況がガラガラと音をたてて崩れた。
「行く!! 待ってて。着替えてくる」
そう言って嬉しそうに急いで家の中に入った。
「よし、行こう。真由」
「駄目だよ。永遠ちゃんに待ってるって言ったんだから待たなきゃ」
しょぼん。二人きりの散歩が、妹つきの散歩になった。しょぼん。
最初から犬がいて二人きりじゃなかっただろって? それでも、二人で行きたかったぁぁぁぁ。たとえ犬一匹に足をかじられながらでもっ。
「お待たせ!!」
満面の笑みで出てきた妹まで、体操服の上着にジャージの下。中学の時にオレが着てたヤツだ。おさがりなんて嫌だろうからと新しく買ったのもあるのに今妹が着てるのはどう見てもオレのおさがりのヤツ。洗濯はされているがなぜそっちを着る!?
犬を見る。あぁ、そうか。新しく買ってもらった服をケルベロスに噛み噛みされちゃ嫌だもんな。
「さぁ、いこ!! 行こうー!!」
オレと真由の間に入り、両方と腕を組む。おい、何でそこなんだよ。ちょっと場所かわれ。
そう思ったが、かわったところで腕を組むという動作は出来ないだろうことは想像がついていたけれど。
前回とは反対方向の公園に真由が誘導する。オレのトラウマを気遣ってだろう。昨日の今日でお巡りさんが公園見張ってるかもだしなぁ。
あそこ、一匹いれば二匹、三匹といるかもしれないが。まあ、色々な場所を探すのも悪くないだろう。
「もー、ケルっち甘えすぎだよぉ。お兄ちゃんかわりに持ってー」
「いや、飼い主……」
飼い主である妹にべったりとくっついて離れない犬。
「私が抱っこしようか?」
手を差し出す優しい女神がいる。真由だ。
「ちょっとだけお願いぃぃ」
永遠が真由に犬をわたそうとする。が、やはり犬に拒否られていた。何がそんなに恐ろしいのか。ぶるぶると震えて子犬みたいに鳴いている。
「は? 何? ケルっち。まるでスマホみたいにぶるぶるじゃん」
「ごめんね、やっぱり私が苦手みたいだね」
「そうなんだ」
女神の腕の中を選ばず子悪魔の腕の中を選ぶとは。
「私、前世でワンちゃん達にひどい事でもしてたのかな」
「えー、そんな事ないない。マユお姉ちゃんが悪い事なんてするわけないじゃん」
そうだぞ。真由は前世でだって、優しい女神だったに決まってる。ひどい事なんてするわけがない。ん、前世? あー、勇者だったら魔物達も怯えても仕方がないか? 圧倒的強さであったからな。勇者マユは。って、違うか。今は犬にびびられるって話だしな。でも、前世ってまさかオレに揺さぶりかけてますか? もしかして勇者ですか?
むっ、それよりまた真由が寂しそうな顔をしてるじゃないか。こうなったらまたオレが犬の代わりを――。
頭を差し出そうかと顔を斜めにした時だった。
カンカンカン
踏切警報機の音がなる。少し先にあるそこを見ると見覚えある人間が踏切のそばに立っていた。
「あれ、閃九君?」
「だよな」
「え、何々? ヒラメ? お魚?」
真由が同じく気がついたようだ。妹は犬を下におろしキョロキョロしている。犬は必死に真由から逃げようと引っ張るが妹にリードを短めに握られ阻止されている。
閃九頭脳君はこちらには気がついていないのだろう。踏切を見て立っていた。少しふらついているようにも見える。なんだか操り人形のようにふらりふらりと。
「何か、変だ」
「え? 何が?」
真由が突然走り出す。
カンカンカン
まだ警報機はなり続けている。遮断機の遮断桿も下がっている。なのに、頭脳君はそれを持ち上げ中に侵入しようとしていた。
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動くのが遅れた。間に合わない。でも真由が間に合う? いや、そんな危険な事をさせちゃダメだろ!?
「真由ッ!!!!」
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