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2.デーモンの呪い
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キャンプとは言っても、焚き火と荷物があるだけの小さな洞穴だ。
剣を使ってぱぱっと火を起こす。魔力で起こした炎は、薪に移しても煙を出さない。洞穴の中でも安心安全だ。
俺は荷物を整理して、残りわずかな食料を取り出した。
村でもらった干し葡萄、今まで大事に取っておいてよかった。
最後のひとつをマイロに渡すと、マイロは小さい口でちまちまと干し葡萄をかじった。そこはかとなく嬉しそうなので、干し葡萄が好きなのかもしれない。
ツンとした表情は崩さないまま、マイロが上目遣いに俺を見る。
無意識だろうが、めっちゃかわいい。
「あの、勇者様は召し上がらないのですか?」
「俺はいいよ。お腹すいてないし」
カッコつけようとしたときに、タイミング悪く腹がぐう、と鳴ってしまった。
マイロがパチパチと瞬きした。困ったように眉尻を下げて、かじりかけの干しぶどうと、俺の顔を交互に見る。
「気にしないで。本当にいいから」
「しかし……」
「俺は干し肉があるし」
塩っ辛いばかりでおいしくないから、積極的には食べたくないけど、マイロに心配をかけたくないので黙々と食べた。
近くの川で汲んだ水を沸かし、食後に2人で飲んだ。カップはひとつしかないので回し飲みだ。間接キスとかは、全然、全く意識してないが、ふっくらとして色つやがいいマイロの唇は凝視してしまった。
俺も年頃の男の子だ。かわいい子がすぐ隣にいれば、ちょっと意識してしまうのも仕方ない。
「あの勇者様」
「ルカでいいよ」
「では、ルカ様。失礼なのは承知の上なのですが、少しお体に触れてもよろしいですか?」
「えっ……え?」
「ルカ様がお嫌なら」
「ぜ、全然嫌じゃない!!」
どもった上に、無駄に声を張ってしまった。童貞丸出しの反応だが、今年成人したばかりなので許してほしい。
マイロは挙動不審な俺に引くこともなく、こちらにそろりと手を伸ばす。
「じっとしていてくださいね」
陶器のように真っ白で、華奢な指先がなんと俺のボタンを外していく。
耳元で、心臓がバクバク鳴っていた。
初めてとはいえ、完全に主導権を明け渡すのは頼りないだろう。マイロは無垢そうな見た目をしているし、俺がしっかり導いてやらないと……。
こっそりにやつきながら、プラチナブロンドのつむじを見つめていると、途中でマイロの指の動きが止まった。
「マイロは積極的だな……」
「……やっぱり」
「え? 何が?」
「これを見てください」
マイロがすっと身体を離して、俺の胸元を指し示す。
そこには見覚えのないあざのようなものが、くっきりと浮かび上がっていた。
青黒いあざは、自然にできたとは思えないほどに整然とした幾何学模様を描いていた。複雑に絡み合った直線と曲線が、左胸から始まり、不気味なことに、外に向かってじわじわと面積を広げていっている。
「えっ!? なにこれ?」
半ば恐慌状態で自分の胸をぺたぺたと触る。あざは痛くも痒くもないが、どう見てもどんどん広がっていっていた。邪なことを考えている場合ではない。
マイロが魔導書を片手に持ち、もう片方の手を俺の胸に合わせた。
「癒せ」
回復魔法がかかるが、あざにはなんの反応もなかった。
「ダメです。私の力では治癒できません……」
マイロが両目に涙をたっぷり溜めていた。彼はさっきからずっと、俺の痛みを自分のことのように思ってくれる。本当にいい子だ。
マイロの優しさで、混乱していた頭がスッキリした。
「大丈夫だよ。心配しないで」
「申し訳ありません、ごめんなさい」
「マイロが泣くことない」
「ごめんなさい……」
ぽろぽろと涙をこぼすマイロの頭を、優しく撫でてやる。
「これ、そんなにヤバいやつなの?」
「わかりません。おそらくは呪いの類いだと思います。先程のモンスターのうちの誰かが、死ぬ間際にかけたのでしょうか。私を助けたせいで勇者様が……」
「大丈夫。俺は大丈夫だから」
さっきまでの落ち着いた態度から急変して、マイロはすっかり取り乱していた。魔物に捕まって怖い思いをしたあとに、これだ。精神がすり減っても無理はない。
俺はマイロの肩に腕を回し、そっと抱きしめた。同い年にしては華奢な身体は、すっぽりと俺の腕の中に収まった。大丈夫だと繰り返しながら肩をさすってやると、マイロの押し殺した嗚咽が徐々に落ち着いていく。
「申し訳ありません。お見苦しいところを」
「ううん。マイロが心配してくれて嬉しいよ。俺、ここまで一人旅だったからさ、めちゃくちゃ寂しかったんだよね」
マイロが顔を上げた。まだ目が赤いが、涙は止まっている。
泣き腫らした目に不謹慎にもドキッとしてしまい、俺は慌てて目を伏せた。
「怪我しても心配してくれる仲間はいないし、一緒にモンスターと戦ってくれる人もいなかった。こうして話ができるのも、今すごく嬉しいし、楽しいんだ。マイロがいて、俺は助かってるよ」
「勇者様……」
マイロがそっと俺の背中に手を回す。
「勇者様はお優しいですね」
「君ほどじゃないよ」
お互いに、じっと瞳を覗き込む。
これ、いい雰囲気なんじゃないか?
あざの衝撃で吹っ飛んだ劣情が、再びむくむくと湧いてくる。マイロはなんだかいい匂いがするし、潤んだ瞳は言うまでもなく色っぽい。
ストイックな法衣は、ウエストがしっかり絞られていて、マイロの美しい腰のラインをありありと見せつけてきた。上着の裾がめくれて、ピッタリと仕立て上げられたズボンに包まれた、きゅっと締まったお尻まで見えてしまう。
こんな子は地元の村にはいなかった。
初めて感じるドキドキで、酔っぱらっているみたいな気分だった。君、なんて気取った言い方も初めて使ったし。
マイロが、俺の心臓に耳を当てる。サラサラとした髪が、俺の開いた胸元をくすぐる。
(うひゃーーーー!!)
情けなく叫びそうになるのを必死に堪えているうちに、マイロが俺の身体から離れてしまった。
「あっ……」
名残惜しすぎて、つい手がマイロを追うが、マイロは全く気づかなかった。そのまま、自分の荷物のほうに歩いていってしまう。
(ま、まあ。出会ったばかりだし、その日にそういうあれをするもんじゃないしね、うん)
ちゃんと段階を踏んでから……と悶々とする俺をよそに、マイロは荷物から本を一冊取り出して開いた。
分厚い本をペラペラとめくりながら、目線はしっかり文字を追っている。
その速さでちゃんと読めるのか、と感心した。俺は文字はなんとか読めるくらいで、本なんて読もうとも思わない。
「……やはりダメです。呪いの簡易目録には載っていません。専門家にみてもらわないといけませんね」
「あ、調べてくれてたんだ」
俺はやましいことしか考えてなかった。我ながら呑気というか、鈍感だ。
「私は呪いについては専門外なので、詳しくは分かりません。町の教会で司祭様に見てもらいましょう。私が所属する教会の司祭様が、この国で最も呪いに詳しいはずです」
「所属する教会ってことは、やっぱりマイロは神官だったんだ。すごいな」
神官というと、冒険者パーティーには必須の職業である。本来なら、回復役がいなくては冒険は始まらない。
俺は簡単な回復魔法なら自分で使えるので、1人で放り出されたが。
ちょうど一人旅の寂しさに限界を感じていたところだ。ぜひ仲間になってもらいたい。
俺の期待に反して、マイロは困ったように目を伏せてしまう。
「まだ見習いの身です」
「そうなの? すごく強かったじゃん」
「司教様はもっとすごいですよ」
「それは、そうかもしれないけど」
司教様は別枠だろう。単に年齢の差があって、知識と経験を積み重ねた年月が違う。
「とにかく。今夜は早く休みましょう。明日の朝、夜明けとともに出発します」
マイロはそこで話を打ち切り、俺に背を向けて寝転んでしまった。寝顔が見たかったが、覗き込むのは変態すぎるので我慢した。
このまま起きてきても、悶々としてしまうだろう。俺もマイロにならって早めに眠った。
剣を使ってぱぱっと火を起こす。魔力で起こした炎は、薪に移しても煙を出さない。洞穴の中でも安心安全だ。
俺は荷物を整理して、残りわずかな食料を取り出した。
村でもらった干し葡萄、今まで大事に取っておいてよかった。
最後のひとつをマイロに渡すと、マイロは小さい口でちまちまと干し葡萄をかじった。そこはかとなく嬉しそうなので、干し葡萄が好きなのかもしれない。
ツンとした表情は崩さないまま、マイロが上目遣いに俺を見る。
無意識だろうが、めっちゃかわいい。
「あの、勇者様は召し上がらないのですか?」
「俺はいいよ。お腹すいてないし」
カッコつけようとしたときに、タイミング悪く腹がぐう、と鳴ってしまった。
マイロがパチパチと瞬きした。困ったように眉尻を下げて、かじりかけの干しぶどうと、俺の顔を交互に見る。
「気にしないで。本当にいいから」
「しかし……」
「俺は干し肉があるし」
塩っ辛いばかりでおいしくないから、積極的には食べたくないけど、マイロに心配をかけたくないので黙々と食べた。
近くの川で汲んだ水を沸かし、食後に2人で飲んだ。カップはひとつしかないので回し飲みだ。間接キスとかは、全然、全く意識してないが、ふっくらとして色つやがいいマイロの唇は凝視してしまった。
俺も年頃の男の子だ。かわいい子がすぐ隣にいれば、ちょっと意識してしまうのも仕方ない。
「あの勇者様」
「ルカでいいよ」
「では、ルカ様。失礼なのは承知の上なのですが、少しお体に触れてもよろしいですか?」
「えっ……え?」
「ルカ様がお嫌なら」
「ぜ、全然嫌じゃない!!」
どもった上に、無駄に声を張ってしまった。童貞丸出しの反応だが、今年成人したばかりなので許してほしい。
マイロは挙動不審な俺に引くこともなく、こちらにそろりと手を伸ばす。
「じっとしていてくださいね」
陶器のように真っ白で、華奢な指先がなんと俺のボタンを外していく。
耳元で、心臓がバクバク鳴っていた。
初めてとはいえ、完全に主導権を明け渡すのは頼りないだろう。マイロは無垢そうな見た目をしているし、俺がしっかり導いてやらないと……。
こっそりにやつきながら、プラチナブロンドのつむじを見つめていると、途中でマイロの指の動きが止まった。
「マイロは積極的だな……」
「……やっぱり」
「え? 何が?」
「これを見てください」
マイロがすっと身体を離して、俺の胸元を指し示す。
そこには見覚えのないあざのようなものが、くっきりと浮かび上がっていた。
青黒いあざは、自然にできたとは思えないほどに整然とした幾何学模様を描いていた。複雑に絡み合った直線と曲線が、左胸から始まり、不気味なことに、外に向かってじわじわと面積を広げていっている。
「えっ!? なにこれ?」
半ば恐慌状態で自分の胸をぺたぺたと触る。あざは痛くも痒くもないが、どう見てもどんどん広がっていっていた。邪なことを考えている場合ではない。
マイロが魔導書を片手に持ち、もう片方の手を俺の胸に合わせた。
「癒せ」
回復魔法がかかるが、あざにはなんの反応もなかった。
「ダメです。私の力では治癒できません……」
マイロが両目に涙をたっぷり溜めていた。彼はさっきからずっと、俺の痛みを自分のことのように思ってくれる。本当にいい子だ。
マイロの優しさで、混乱していた頭がスッキリした。
「大丈夫だよ。心配しないで」
「申し訳ありません、ごめんなさい」
「マイロが泣くことない」
「ごめんなさい……」
ぽろぽろと涙をこぼすマイロの頭を、優しく撫でてやる。
「これ、そんなにヤバいやつなの?」
「わかりません。おそらくは呪いの類いだと思います。先程のモンスターのうちの誰かが、死ぬ間際にかけたのでしょうか。私を助けたせいで勇者様が……」
「大丈夫。俺は大丈夫だから」
さっきまでの落ち着いた態度から急変して、マイロはすっかり取り乱していた。魔物に捕まって怖い思いをしたあとに、これだ。精神がすり減っても無理はない。
俺はマイロの肩に腕を回し、そっと抱きしめた。同い年にしては華奢な身体は、すっぽりと俺の腕の中に収まった。大丈夫だと繰り返しながら肩をさすってやると、マイロの押し殺した嗚咽が徐々に落ち着いていく。
「申し訳ありません。お見苦しいところを」
「ううん。マイロが心配してくれて嬉しいよ。俺、ここまで一人旅だったからさ、めちゃくちゃ寂しかったんだよね」
マイロが顔を上げた。まだ目が赤いが、涙は止まっている。
泣き腫らした目に不謹慎にもドキッとしてしまい、俺は慌てて目を伏せた。
「怪我しても心配してくれる仲間はいないし、一緒にモンスターと戦ってくれる人もいなかった。こうして話ができるのも、今すごく嬉しいし、楽しいんだ。マイロがいて、俺は助かってるよ」
「勇者様……」
マイロがそっと俺の背中に手を回す。
「勇者様はお優しいですね」
「君ほどじゃないよ」
お互いに、じっと瞳を覗き込む。
これ、いい雰囲気なんじゃないか?
あざの衝撃で吹っ飛んだ劣情が、再びむくむくと湧いてくる。マイロはなんだかいい匂いがするし、潤んだ瞳は言うまでもなく色っぽい。
ストイックな法衣は、ウエストがしっかり絞られていて、マイロの美しい腰のラインをありありと見せつけてきた。上着の裾がめくれて、ピッタリと仕立て上げられたズボンに包まれた、きゅっと締まったお尻まで見えてしまう。
こんな子は地元の村にはいなかった。
初めて感じるドキドキで、酔っぱらっているみたいな気分だった。君、なんて気取った言い方も初めて使ったし。
マイロが、俺の心臓に耳を当てる。サラサラとした髪が、俺の開いた胸元をくすぐる。
(うひゃーーーー!!)
情けなく叫びそうになるのを必死に堪えているうちに、マイロが俺の身体から離れてしまった。
「あっ……」
名残惜しすぎて、つい手がマイロを追うが、マイロは全く気づかなかった。そのまま、自分の荷物のほうに歩いていってしまう。
(ま、まあ。出会ったばかりだし、その日にそういうあれをするもんじゃないしね、うん)
ちゃんと段階を踏んでから……と悶々とする俺をよそに、マイロは荷物から本を一冊取り出して開いた。
分厚い本をペラペラとめくりながら、目線はしっかり文字を追っている。
その速さでちゃんと読めるのか、と感心した。俺は文字はなんとか読めるくらいで、本なんて読もうとも思わない。
「……やはりダメです。呪いの簡易目録には載っていません。専門家にみてもらわないといけませんね」
「あ、調べてくれてたんだ」
俺はやましいことしか考えてなかった。我ながら呑気というか、鈍感だ。
「私は呪いについては専門外なので、詳しくは分かりません。町の教会で司祭様に見てもらいましょう。私が所属する教会の司祭様が、この国で最も呪いに詳しいはずです」
「所属する教会ってことは、やっぱりマイロは神官だったんだ。すごいな」
神官というと、冒険者パーティーには必須の職業である。本来なら、回復役がいなくては冒険は始まらない。
俺は簡単な回復魔法なら自分で使えるので、1人で放り出されたが。
ちょうど一人旅の寂しさに限界を感じていたところだ。ぜひ仲間になってもらいたい。
俺の期待に反して、マイロは困ったように目を伏せてしまう。
「まだ見習いの身です」
「そうなの? すごく強かったじゃん」
「司教様はもっとすごいですよ」
「それは、そうかもしれないけど」
司教様は別枠だろう。単に年齢の差があって、知識と経験を積み重ねた年月が違う。
「とにかく。今夜は早く休みましょう。明日の朝、夜明けとともに出発します」
マイロはそこで話を打ち切り、俺に背を向けて寝転んでしまった。寝顔が見たかったが、覗き込むのは変態すぎるので我慢した。
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