ツンデレ神官は一途な勇者に溺愛される

抹茶

文字の大きさ
4 / 17

4.呪いを解く方法

しおりを挟む
「せ、せせ、性行為?」

 性行為って、セックスだよな?
 この爺さん正気か?

 いくら呪いの治療とはいえ、愛する人以外と、そういうことをするなんてよくないと思う。

「死を逃れるにはそれしかありません」
「マ、マジですか……」

 それでも俺は、自分の勝手な都合で、嫌がる相手と無理にそういうことをするのは嫌だ。たとえ命に関わるとしても。
 警戒する俺に、司教が生温かい目を向ける。まさか、童貞だということまで見抜かれてはいないだろうな?

「この教会には呪いの治療の訓練を受けた聖職者がおりますので、ご安心ください。秘密は墓場まで守られます」

 訓練ってなんだ。経験が足りない頭でいろいろ想像してしまう。

「え、ええと」
「ちなみに、一度の行為では足りませんので、ダンジョンに向かう道中でも、何度か聖職者と治療を行ってください。
 こちらで同行する聖職者をお付けしましょう」

 俺は返事をすることしかできず、司教がどんどん話を進めてしまう。成人したばかりの童貞にはディープすぎて、全然気持ちが追いつかない。
 都会って怖い。


 結局なし崩しに、訓練を受けた聖職者とやらに引き合わせられることになった。
 俺は司祭とともに部屋を出て、中庭を抜け、教会堂の裏にある建物に向かう。こっちは聖職者たちや、世話をしている孤児たちの居住スペースと、事務室などがあるらしい。

 俺は悪趣味だと思うのだが、司教のほうはずっと普通に振る舞っている。
 この町の教会は、俺がいた村のものとはかなり違うようだ。

 中庭では、小さな花壇のまわりで子供たちが元気に走り回っていた。荷物を運んだり、雑談している神官もたくさんいて、実に健康的な光景だ。
 俺は居た堪れない思いをしながら、隣を歩く司祭に問いかける。

「あの……こういうことって、よくあるんですか?」
「そう頻繁にはありませんが、まれにあることです。この辺りは昔から悪魔系モンスターが多く、呪いの被害も少なくありませんので」

 なるほど。だから、こんな田舎町でも有名な司教が赴任していたり、立派な教会が立っていたりするのだろう。
 違和感が解決してすっきりした。

 事務室の中には、可愛らしい顔の少年少女が並んでいた。彼らは俺の顔を見ると、立ち上がって丁寧にお辞儀をする。
 幼い顔立ちにぎょっとしたが、手足の長さや、しっかりした骨格から、成人はしているだろうと判断できた。未成年が出てきたら流石に困る。

「彼らが訓練を受けた者たちです。皆、優秀な神官見習いですので、ルカ様がお気に召した者をお連れください」

 気分は良くないが、ここまで来てやっぱりやめますとは言いづらい。
 訓練を受けたというからには彼らもプロなんだし、あまり意識しないほうがいい。仕事なのだから、変に拒否されても困るだけだろう。


 ただお気に召した者、と言われても、外見の好みなんて考えたことがないので、いまいちピンとこなかった。
 それでも選ぶ必要はあるので、俺はなんとか捻り出そうと考えてみる。


 たとえば髪はブロンドで、ストレートがいいかな。声は低めで落ち着いていると安心できる。背は高め、でも俺より少し低いといい。瞳はくりくりと大きくてかわいいのに、目尻が上がってキリッとして見えるのが好きだな。色がピンクゴールドだったらなおよし。

 一緒にアークデーモンを倒す旅をするんだから、強くなくちゃいけないし、俺は生活力が弱いから、しっかりしていると助かる。

 なにより優しくて、温かくて、一緒にいると心がぽかぽかするような……。


 もう駄目だ。わかってる。頭の中に浮かぶのは1人しかいない。

 ただ、彼はこの場にいないのだ。

 ここにいないということは、マイロはこの仕事には就いていないのだろう。
 ほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちだ。

「ルカ様?」

 様子がおかしいと思ったのか、司教が心配そうに声をかけてきた。
 俺は、その両肩をぐっと掴む。

「つかぬことをお聞きしますが」
「なんでしょう」
「マ、マ、ママ、マイロは、その……」

 めちゃくちゃどもってしまった。
 ダサすぎるが、俺にとっては大事な質問なのだ。聞かないわけにはいかない。

「マイロですか? 彼も一応、訓練は受けておりますが」
「エッ!?」

 一瞬のうちにさまざまな感情が湧き上がり、勢いあまって、司教の両肩をぶんぶん揺さぶってしまった。

「あっ、すみません!」

 俺が手を離すと、司教は苦笑いしながら乱れたカソックを整える。

「構いませんよ。マイロなら多少の戦闘訓練も積んでおりますし、ルカ様のお役に立てるでしょう。よろしければこちらに連れてまいりますが」
「お願いします」

 本当なら土下座したいくらいだ。俺にも一応プライドはあるので、この場は最敬礼で我慢しておいた。
 司教が他の少年少女たちを連れて、部屋から退出する。部屋で待つように言われて、俺はその場に残った。

 そわそわしながら待った数分は、ずいぶん長く感じられた。
 控えめなノック音を聞いて、俺は背筋を伸ばし、ちょっとだけ髪を整えた。

「お待たせいたしました」

 部屋に戻ってきたのは、マイロだけだった。司教はもういない。

「司教様から話は聞きました。私がルカ様に同行いたします」

 マイロがぺこりと頭を下げた。
 さっきまでと比べると、目に見えて親しみがなくなり、完全に営業用の顔になっていた。

 うっかり失念していたが、マイロは『そういう』目的で呼ばれたとわかってここに来たのだ。
 俺が今までマイロのことを邪な目で見ていたのも、バレてしまっただろう。気まずく思うのも無理はない。むしろそっちが普通だ。

 こうして、マイロと再開出来たことで舞い上がっている俺のほうが、よっぽどおかしいのだ。
 その自覚はあるが、マイロの顔を見ると喜しくなるのは抑えられない。

「私は神官としては見習いの身ですし、その……呪いの治療に関しては、ほとんど実践経験がないのですが、誠心誠意お仕えいたします」
「そんなに畏まらないで。こっちこそ、変なことに付き合わせてごめん」

 マイロは全く顔色を変えず、生真面目に俺の目を見て答えた。

「いいえ。司祭様も、言葉にはされませんが、ルカ様が伝説の勇者様であるとお気づきになっているはず。
 このような大切なお役目を任されて、光栄に思います。この身体くらいでしたら、いくらでも差し出しましょう」
「いや、ほんとごめん……」

 マイロの職業意識の高さに、後光がさして見えた。俺はやましいことばかり考えていて申し訳ない。
 どうせ触るなら好きな子のほうがいいというのは、言い訳にはなるだろうか。

 まだ心が決まらない俺に対して、マイロはきびきびと必要なことを確認していく。
 
「それでは、いつ出発しましょうか」
「え、もう?」
「ルカ様のお体のことを考えると、すぐにでもダンジョン攻略に向かったほうがよろしいかと」
「た、たしかに」

 今のところ痛みなどはないが、これからどうなるかはわからない。動けるうちに進めるだけ進んだほうがいいだろう。

「旅の疲れもあるでしょうから、今日は宿で一泊して、明日の朝に町を出るのがいいと思うのですが」
「うん。俺もそれがいいと思うよ」
「では、そのように」

 こんなことを言っている場合ではないのだが、再会してからマイロの口調がさらに固くなっている気がする。それを寂しいと思うのは、俺のわがままだ。自分でそれを選んだのだから。
 マイロとはこういう形じゃなくて、もっと普通に仲間になるべきだった。

 たぶん、まだ手遅れじゃない。これからお互いのことを知ればいい。俺に魅力はないかもしれないが、せめてマイロのことが好きだということは伝えたい。

 そのためには、早くアークデーモンを倒して呪いを解く。そうすれば村も平和になるし、一石二鳥だ。

 俺は改めて、表情を引き締めた。

「それで、その……」

 はきはきと旅程を確認していたマイロが、急に口ごもる。

「呪いの治療を、今夜もしたほうがよいと、思うのですが」
「治療?」
「その……」
「……あっ!」

 すぐに察することができなかったのを、激しく悔やんだ。俺のために頑張ってくれているのに、マイロのほうから言わせるなんて最低だ。

「やっぱり、気が進みませんか?」
「違うんだ。俺、呪いとかさっぱりで、どうしたらいいか全然わからないし。その、あっちのほうも、したことないし」

 マイロが目をぱちくりさせた。
 俺の言葉を、場を和ませる冗談だと思ったのか、マイロがやっとささやかな笑顔を見せてくれた。俺は本気なのだが、マイロに笑ってもらえるなら今後いくらでも言ってやりたい。

「大丈夫ですよ。私に任せてください」
「ありがとう」

 情けなさの極みだが、嘘を言うのはもっとかっこ悪いだろう。
 マイロに隠しごとはなしだ。素直に、プロに任せよう。

「では、宿屋にご案内しますね。部屋は取ってあります。私は旅の準備がありますので、一度教会に戻りますが、後ほどルカ様のお部屋に参ります」
「わかった。よろしくお願いします」

 軽く頭を下げると、マイロがまた控えめに微笑む。
 お仕事モードが終われば、こんな風に笑ってくれることもあるのだ。まだ脈はあるのかもしれない。
 俺は心の中でガッツポーズした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...