ツンデレ神官は一途な勇者に溺愛される

抹茶

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8.2度目の治療※

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 ひんやりと冷たい白樺の幹に手をついた。少し離れたところから、商人たちの話し声が聞こえる。

 背後からの視線を感じながら、下穿をすべて脱いだ。
 長めな上着の裾が、尻と内腿を隠してくれている。脚しか見えていないはずだが、ルカが唾を飲む音が聞こえてきた。反応がわかりやすい。

 訓練によって鍛えられた身体は、快楽を拾いやすい。
 正気を保って仕事を全うするために、私の教会には、身体感覚を鈍くして体温を調節する魔法が受け継がれていた。回復魔法の系統になるので、この技は魔導書がなくても使うことができる。
 
 要するに相手に気づかれずに、感度を調整できる魔法だ。
 昨夜もかけていたが、危うく解けそうになった。今夜はより厳重に魔法をかけておく必要がある。


 私は自分の口の中に指を入れて、唾液で濡らす。その手を裾の下に入れ、後ろを慣らした。
 見られながら自分でするのは死ぬほど恥ずかしい。気取られないよう、精神を集中して魔法を強化した。

「マイロ、俺も触りたい」
「ダメです」

 何度も問われたことだ。
 自分から一方的にするならまだしも、もしもルカに触られたりしたらぐずぐずになって、治療どころじゃなくなってしまう。

 これは呪いの治療を、円滑に行うためだけの作業だ。気持ちよくなってはいけない。
 それなのに、ルカに見られていると思うと、途端に快楽を拾ってしまう。

「かわいい……」

 ルカがうっとりと、夢見心地に呟く。
 こんな浅ましい私がかわいいわけないのに。田舎育ちの彼は、審美眼が独特なのだろうか。

 十分に中がほぐれてきたので指を抜いて、脚を開いた。上着をたくし上げ、尻をルカの前に晒す。
 ルカがごくり、と喉を鳴らした。

「……もう触ってもいい?」
「どうぞ」

 待ちかねて分厚い手のひらが、肉付きの薄い尻をむんずと掴んだ。
 さして柔らかくもないはずだが、ルカは感触を味わうようにもにと揉みしだく。マッサージのようで気持ちよくて、妙な気分になりそうで困った。

「ルカ様……! もう、いれてっ」
「あ、ごめん。つい」
「はやく、中にほしいです」

 教え込まれた言葉を言うと、私の胸がすっと冷える。

「……わかった」

 ルカの返事も、嬉しそうなものではなかった。

 他の人はああいう言葉を喜んでくれるのに、ルカには合わなかったようだ。
 ルカへの慕わしさは押し隠したままに、雰囲気は盛り上げていかないといけない。
 難しいことだが、これが私の仕事だ。

「んっ、マイロ、好きだ」
「……ん」

 耳元で好きだと囁かれ、体温が上がりそうになるのを魔法で抑制した。
 反応が薄い相手としても楽しくはないだろうが、我慢してもらおう。
 私だって必死だ。はしたなく乱れる姿など、ルカに見られたくない。


 せめてあと数年はやく出会えていたら、と思ってしまう。
 少年の頃の私は、もっと魅力的だったと言われたことがある。それならルカももっと満足できただろう。
 私ももっと幼く無知であれば、全てを委ねることができたのに。

「マイロ、もう」
「はいっ、なかに、ください」

 ルカの余裕のない声が腰まで響く。
 直後に、腹の中に熱いものが打ちつけられた。
 どく、どくと脈拍のリズムで流し込まれるそれを、全て中で受け止める。
 搾り取るように、きゅっと締め付けると、ルカが気持ちよさそうに呻いた。

 今まで、中で気持ちよくなったことなんてないのに、ルカに奥をつかれると、あらぬところがきゅんきゅん締まってしまう。押し流されそうになるほどの快楽を耐えるのは初めてだ。

 今回もギリギリのところで堪えた。
 この間は髪にキスされたときに、感度を調整する魔法が解そうになった。

 教会秘伝の魔法も、精神的な快楽までは対応していない。
 今までは、それでもよかったのに。ルカとの行為は、本当はとても気持ちいいのだろう。

「マイロ、好き、好き」

 後ろからルカに、力強く抱きしめられた。ちょうど仕事が終わったと思って、気が緩んでいた。
 私は魔法の調整が間に合わず、ルカの身体の温かさと、激しく脈打つ心音を、まともに浴びていまう。
 満たされる感覚に堰が外れて、快楽が一気に押し寄せる。

「あっ……」

 張り詰めていた性器がはじけた。
 煮詰まった濃い白濁が、木の幹に向かって放たれる。
 敏感になった身体を、慈しむようにルカが撫でた。その度に、ぴゅく、ぴゅくと先端が震えて精液を飛ばす。

「はぁ……ふぅ……」
「マイロも、俺で気持ちよくなってくれた? 嬉しい」
「あ……う」

 目の前で射精してしまっては言い訳のしようもない。
 軽蔑されるほど激しく乱れなかったのが、せめてもの救いだ。

「ルカ様」

 私は開き直って、振り返る。
 呼吸が落ち着いてきたら、するべきことを思い出した。これは仕事なのだ。

「少し失礼します」
「え、なに? もう一回?」

 期待のまなざしを向けられるが、目を逸すことで否定した。
 ルカのシャツをはだけさせて、呪いの位置を確認する。昨夜確認したときよりも、大きさが小さくなっていた。
 ひとまずほっとした。私はちゃんと、役に立つことができている。

「あれ、治ってる?」
「この方法で治すことはできませんが、治療の効果が現れているようです。この様子でしたら、明日はしなくても大丈夫でしょう」
「え……うん。わかった」

 ルカはほんの一瞬だけ残念そうな顔をした。きっと、私の体調を気遣ってくれたのだ。とこかが悪いわけではないので、優しさに胸が痛む。

 私は顔を伏せて、身体を拭く。脱いだ服も手早く身につけた。
 会話も特にないまま、キャンプ地に戻った。私は罪悪感に苛まれながら、ルカに背を向ける。
 そのまま寝たふりをした。目を閉じてこれからのことを考える。

 明日の晩は、治療ができそうにない。

 どうしても身体がルカに反応してしまう。訓練によって調教された自分の身体が憎らしい。
 ルカとせめて人並みに、愛し合うだけの行為ができたらよかったのに。役に立てることは嬉しいのに、望みを持つと胸が苦しくなる。

 今後はもっと厳重に魔法をかけておこうと、星空に誓った。


 しばらく静かだったのでルカも眠ったと思っていた。
 隣からごそごそと動く音がする。ルカがなるべく音を立てないようにしながら、近づいてきているようだ。

「マイロ、ありがとう」

 大きく温かい手が、私の頭を撫でた。寝入った私を起こさないよう気遣った、優しい手つきだった。
 自分の寝床に戻る音がして、静かになる。すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。

 私は複雑な感情に頭を悩ませながら、長い夜を過ごした。




 そこからの旅も、至って順調だった。

 道中で魔物に襲われても、ルカがほとんど1人で倒してしまう。怪我も、私が回復できる程度にしかしなかった。

 そういうルカを見ていると、彼が勇者だという実感が湧いて、頼もしく思う。


 軽い戦闘のあとのこと。
 回復魔法を使う私に、ルカが純粋な疑問を投げかけた。

「マイロが回復魔法を使うときって、魔導書持たないよね。でも、光魔法を使うときは魔導書を持ってる」
「ああ。そのことですか」
「俺はまあ、勇者だから魔導書はいらないみたいだけど。その辺って、どういう仕組みになってるの?」

 さっと回復を終わらせて、私は魔導書を荷物から取り出した。
 ルカに向かって、ページを開いて見せる。中には手書きの文字が、びっしりと詰まっている。私が書き込んだものだ。

「本来、魔法を使うには長い呪文が必要なんです。しかし、毎回長々と呪文を唱えていては面倒ですよね」
「モンスターは待ってくれないしね」
「ええ。ですから魔法使いは、魔導書にあらかじめ呪文を書いておくのです。
 そうすることで、いちいち呪文を唱えずとも、魔導書に魔力を込めるだけで魔法を使えるようになるんですよ」
「なるほどなぁ」

 ルカが腕を組んで頷いた。

「じゃあ、回復魔法に魔導書を使わないのは?」
「回復魔法は、正確には魔法ではないのです。癒しの力は、神官が長い修練と祈りによって、神から賜った恩恵。だから呪文を必要としません。
 魔力を使うので魔法に分類されていますが、本来は異なるものです」
「へえ。神官ってすごいんだね」

 謙遜するのもおかしい気がして、曖昧に微笑んで返した。

「光魔法は普通の魔法なので魔導書が必要ですが、回復魔法は厳密には魔法ではないので、魔導書はいらないんです」
「よく分かったよ。ありがとう」

 このくらいの初歩的なことは、魔法を少しでも学んだ者なら誰でも知っていることだ。ルカはここよりもっと辺境の田舎育ちだというので、こういう知識を子供に教える必要がなかったのだろう。
 お礼を言われることではないが、ルカの役に立てたと思うと嬉しかった。
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