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9.ダンジョン
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ダンジョンは、ボスを中心としたモンスターの巣窟だ。そんな危ない場所に近寄る者は、ほとんどいない。
他の通行人もおらず、2日目以降の旅は静かなものだった。
聞こえてくるのは、木の葉が擦れる音と、鳥のさえずりのみ。話し相手がいなかったら、かなり退屈だっただろう。
俺はマイロがいるだけで、退屈な景色も輝いてみえるが。
こうして予定通りに、アークデーモンの住むダンジョンにたどり着いた。
思いの外強いモンスターも湧かず、安全な道行きだったので、もらった薬草も使わずじまいだ。
2日目の晩は治療をしなかった。
俺は平気だが、流石に毎晩するのはマイロの身体に毒だ。
しかし呪いの進行が進んでしまったため、3日目はした。そのときも、俺はなるべくしつこく触れないようにした。歩きながらずっと好きだと言い続けるのは、やめなかったが。
帰り道には、俺の呪いも解けているはずだ。それまではきっと、何をしてもマイロは心を開いてはくれない。
これが終わったら、改めてマイロに告白して、一緒に旅をしたいと伝えるつもりだ。
アークデーモンのダンジョンは、山間にある洞窟だ。整備された街道からは少し離れていて、山越えに半日かかった。
マイロの提案で、登りながら山の中にいくつか目印をつけてきた。帰りはもっと早くおりられるだろう。
太陽が中天に昇り、森の中に木漏れ日を落とす。
さっきまで聞こえていた自然の声も止み、不気味なほどに静かだった。
「行くか。準備はいい?」
「はい。行きましょう」
顔を見合わせて頷き合う。
俺を前衛にして、ダンジョンのなかに入った。ここからは敵の本拠地だ。少しも油断できない。
洞窟の中から、冷たい風が吹き出しているように感じた。
堂々と振る舞っているが、実のところ虚勢だ。
俺にダンジョン攻略の経験はない。知識のほうも、冒険者のてびきを軽く流し読みしたことがある程度でら心許ない。
おそらくマイロも同じだろう。
よく見れば、マイロの魔導書を持つ手が震えている。
デーモンたちにあんな目に遭わされたばかりだ。怖いにきまっている。
「マイロ。大丈夫?」
「問題ありません」
表情は見えないが、声はしゃんとしていた。覚悟は決まっているということだろう。
俺も負けないよう、せめて気持ちだけは勇ましくありたい。気を引き締めた。
俺たちは迷いなく、それでもトラップの確認だけはちゃんとしながら進む。
神官と勇者は、罠探知系の魔法は専門外だ。ただ今回に限っては、マイロの知識が非常に役に立った。
「ルカ様。あちらに、見覚えのあるトラップがあります」
マイロの住む町は、何度もデーモンたちの襲撃を受けている。その度に教会の一員として戦っていたマイロは、相手の手の内をよく理解していた。
おまけに神官は、悪魔系モンスターと相性がいい。どこにトラップが仕掛けられているか、直感でおおまかに察知できるらしい。
「すごいな。助かるよ」
「ふふ。お役に立てて嬉しいです」
見つけた端からトラップを解除していくマイロは、ずいぶんいきいきして見えた。隠された罠解除の才能が開花したのかもしれない。俺は感心して、マイロの手際のいいトラップ解除を眺めていた。
呑気な俺の鼻先に、マイロがぴっと人差し指を向ける。
「今回だけは私がお役に立てましたが、今後はちゃんと、罠探知のできる方をお仲間にしてくださいね」
「はーい」
やっぱりマイロは、俺よりしっかりしている。
本当はマイロと2人旅が望ましいが、流石の俺もマイロと2人で魔王討伐ができるとは思っていない。いつかは仲間を増やす必要がある。
まあ、今はまだ先の話だ。
俺が未来に思いをはせている間にも、マイロはトラップの残骸からちゃっかり素材を回収し、荷物に収めていた。
「終わりました。先に進みましょう」
「了解。……あ、待って」
言いながら、俺は腰の剣を抜く。
モンスターの気配を察知するのは、まだ俺のほうが得意だ。
トラップがあった場所の奥に、デーモンが数匹隠れていた。
罠にかかった冒険者に、後ろから襲いかかる算段なのだろう。
奇襲に失敗したと気づき、デーモンたちが襲いかかってくる。
マイロが魔導書を開く間に、俺は先陣をきって飛び出した。
「おらぁっ!」
炎をまとった剣を、デーモンの頭に叩きつける。俺の一撃は運良く急所に当たり、デーモンはあっさりと霧散した。
そのまま横に薙いで隣の敵を斬りつけるが、腕でガードされる。この辺りの敵は、外にいる奴らより賢いようだ。
「光よ!」
暗い洞窟を、聖なる光が照らした。
「ギャアアァァ!」
マイロの光魔法が炸裂し、デーモンたちが悲鳴をあげて消え去る。
まとめて2、3匹を屠るさまは、とても見習いには見えないのだが、あの町はどうなっているんだろうか。修羅の国か?
「ありがとうマイロ」
「いえ、大したことでは」
謙遜しつつも、嬉しさを隠しきれない顔がかわいい。
戦いは終わったが、まだ気は抜けない。今の騒ぎを聞きつけて、モンスターが集まってくるかもしれない。
ボスであるアークデーモン戦のためにも、魔力は温存しておくべきだ。俺たちは戦いを避け、忍び足で先を急いだ。
出くわした敵を倒しながら、俺たちは順調にダンジョンの奥へと進んだ。
行き止まりが見えた辺りで、俺が下の階に向かう階段を見つけた。
敵まで呼んでしまわないように抑えた声で、マイロを呼ぶ。
「マイロ、見てくれ」
「階段ですか……どうしましょうか」
「注意して下りよう」
俺の即断に、マイロが頷く。
階段を一歩ずつゆっくり下ていく。先行する俺に、マイロが続いた。
「あ、ルカ様!」
マイロが叫ぶのと、俺がトラップにかかるのが同時だった。
脚元の縄を踏むと、足首を縄で縛られる。魔法の気配がない原始的な罠だ。そのせいで、マイロでも目視するまでは気づけなかった。
ずる賢いアークデーモンが、神官への対策として考えたのだろう。うわさ通りの狡猾さだ。
俺は自分のうかつさを恥じながら、足元の縄を炎の剣で焼き切る。
「ごめん、マイロは大丈夫?」
足元を確認しながら話しかけるが、なかなか返事がこない。
不審に思って振り返る。
そこにマイロの姿はなかった。
「嘘だろ……マイロ! マイロ!」
狭い空間に、俺の虚しい叫びが響き渡った。足元も気にせず辺りを走り回ってマイロを探すが、どこにもいない。
まるで消えてしまったかのようだ。
1人になって、急に部屋の中が薄ら寒い感じがした。マイロがいないというだけで、こんなにも心細いなんて。
とりあえず深呼吸して、自分を落ち着かせようとした。途方に暮れている暇はないのだ。
マイロが黙って、俺を置いていくはずがない。なにかトラップに引っかかって、どこかに連れ去られたのだろう。
一瞬でいなくなるなんて、落とし穴でもない限りなんらかの魔法しかあり得ない。
警戒してまわりを探索してみたが、それらしいトラップも、落とし穴も見つからなかった。
「どういうことだ……?」
首を捻りながらも、俺は足を動かし続けた。止まったら、不安でどうにかなってしまいそうだ。
自分が傷つくことよりも、マイロが酷い目にあっていないかどうかが、怖くてしかたない。
悪い予感がした。
もしかしたらマイロは、アークデーモンに攫われたのではないだろうか。
初めて会ったときも、マイロはデーモンに攫われていた。きっと、なにかマイロを攫う理由があるのだろう。
マイロをこのダンジョンに連れてきたのは、間違いだった。
どおりで、ここまでの道のりが平和だったわけだ。
俺たちは招き入れられたのだ。
ここからは油断しない。
俺は目の色を変えて、剣を抜く。
このまま最下層まで、一気に駆け抜けよう。そう決意して、駆け出した。
他の通行人もおらず、2日目以降の旅は静かなものだった。
聞こえてくるのは、木の葉が擦れる音と、鳥のさえずりのみ。話し相手がいなかったら、かなり退屈だっただろう。
俺はマイロがいるだけで、退屈な景色も輝いてみえるが。
こうして予定通りに、アークデーモンの住むダンジョンにたどり着いた。
思いの外強いモンスターも湧かず、安全な道行きだったので、もらった薬草も使わずじまいだ。
2日目の晩は治療をしなかった。
俺は平気だが、流石に毎晩するのはマイロの身体に毒だ。
しかし呪いの進行が進んでしまったため、3日目はした。そのときも、俺はなるべくしつこく触れないようにした。歩きながらずっと好きだと言い続けるのは、やめなかったが。
帰り道には、俺の呪いも解けているはずだ。それまではきっと、何をしてもマイロは心を開いてはくれない。
これが終わったら、改めてマイロに告白して、一緒に旅をしたいと伝えるつもりだ。
アークデーモンのダンジョンは、山間にある洞窟だ。整備された街道からは少し離れていて、山越えに半日かかった。
マイロの提案で、登りながら山の中にいくつか目印をつけてきた。帰りはもっと早くおりられるだろう。
太陽が中天に昇り、森の中に木漏れ日を落とす。
さっきまで聞こえていた自然の声も止み、不気味なほどに静かだった。
「行くか。準備はいい?」
「はい。行きましょう」
顔を見合わせて頷き合う。
俺を前衛にして、ダンジョンのなかに入った。ここからは敵の本拠地だ。少しも油断できない。
洞窟の中から、冷たい風が吹き出しているように感じた。
堂々と振る舞っているが、実のところ虚勢だ。
俺にダンジョン攻略の経験はない。知識のほうも、冒険者のてびきを軽く流し読みしたことがある程度でら心許ない。
おそらくマイロも同じだろう。
よく見れば、マイロの魔導書を持つ手が震えている。
デーモンたちにあんな目に遭わされたばかりだ。怖いにきまっている。
「マイロ。大丈夫?」
「問題ありません」
表情は見えないが、声はしゃんとしていた。覚悟は決まっているということだろう。
俺も負けないよう、せめて気持ちだけは勇ましくありたい。気を引き締めた。
俺たちは迷いなく、それでもトラップの確認だけはちゃんとしながら進む。
神官と勇者は、罠探知系の魔法は専門外だ。ただ今回に限っては、マイロの知識が非常に役に立った。
「ルカ様。あちらに、見覚えのあるトラップがあります」
マイロの住む町は、何度もデーモンたちの襲撃を受けている。その度に教会の一員として戦っていたマイロは、相手の手の内をよく理解していた。
おまけに神官は、悪魔系モンスターと相性がいい。どこにトラップが仕掛けられているか、直感でおおまかに察知できるらしい。
「すごいな。助かるよ」
「ふふ。お役に立てて嬉しいです」
見つけた端からトラップを解除していくマイロは、ずいぶんいきいきして見えた。隠された罠解除の才能が開花したのかもしれない。俺は感心して、マイロの手際のいいトラップ解除を眺めていた。
呑気な俺の鼻先に、マイロがぴっと人差し指を向ける。
「今回だけは私がお役に立てましたが、今後はちゃんと、罠探知のできる方をお仲間にしてくださいね」
「はーい」
やっぱりマイロは、俺よりしっかりしている。
本当はマイロと2人旅が望ましいが、流石の俺もマイロと2人で魔王討伐ができるとは思っていない。いつかは仲間を増やす必要がある。
まあ、今はまだ先の話だ。
俺が未来に思いをはせている間にも、マイロはトラップの残骸からちゃっかり素材を回収し、荷物に収めていた。
「終わりました。先に進みましょう」
「了解。……あ、待って」
言いながら、俺は腰の剣を抜く。
モンスターの気配を察知するのは、まだ俺のほうが得意だ。
トラップがあった場所の奥に、デーモンが数匹隠れていた。
罠にかかった冒険者に、後ろから襲いかかる算段なのだろう。
奇襲に失敗したと気づき、デーモンたちが襲いかかってくる。
マイロが魔導書を開く間に、俺は先陣をきって飛び出した。
「おらぁっ!」
炎をまとった剣を、デーモンの頭に叩きつける。俺の一撃は運良く急所に当たり、デーモンはあっさりと霧散した。
そのまま横に薙いで隣の敵を斬りつけるが、腕でガードされる。この辺りの敵は、外にいる奴らより賢いようだ。
「光よ!」
暗い洞窟を、聖なる光が照らした。
「ギャアアァァ!」
マイロの光魔法が炸裂し、デーモンたちが悲鳴をあげて消え去る。
まとめて2、3匹を屠るさまは、とても見習いには見えないのだが、あの町はどうなっているんだろうか。修羅の国か?
「ありがとうマイロ」
「いえ、大したことでは」
謙遜しつつも、嬉しさを隠しきれない顔がかわいい。
戦いは終わったが、まだ気は抜けない。今の騒ぎを聞きつけて、モンスターが集まってくるかもしれない。
ボスであるアークデーモン戦のためにも、魔力は温存しておくべきだ。俺たちは戦いを避け、忍び足で先を急いだ。
出くわした敵を倒しながら、俺たちは順調にダンジョンの奥へと進んだ。
行き止まりが見えた辺りで、俺が下の階に向かう階段を見つけた。
敵まで呼んでしまわないように抑えた声で、マイロを呼ぶ。
「マイロ、見てくれ」
「階段ですか……どうしましょうか」
「注意して下りよう」
俺の即断に、マイロが頷く。
階段を一歩ずつゆっくり下ていく。先行する俺に、マイロが続いた。
「あ、ルカ様!」
マイロが叫ぶのと、俺がトラップにかかるのが同時だった。
脚元の縄を踏むと、足首を縄で縛られる。魔法の気配がない原始的な罠だ。そのせいで、マイロでも目視するまでは気づけなかった。
ずる賢いアークデーモンが、神官への対策として考えたのだろう。うわさ通りの狡猾さだ。
俺は自分のうかつさを恥じながら、足元の縄を炎の剣で焼き切る。
「ごめん、マイロは大丈夫?」
足元を確認しながら話しかけるが、なかなか返事がこない。
不審に思って振り返る。
そこにマイロの姿はなかった。
「嘘だろ……マイロ! マイロ!」
狭い空間に、俺の虚しい叫びが響き渡った。足元も気にせず辺りを走り回ってマイロを探すが、どこにもいない。
まるで消えてしまったかのようだ。
1人になって、急に部屋の中が薄ら寒い感じがした。マイロがいないというだけで、こんなにも心細いなんて。
とりあえず深呼吸して、自分を落ち着かせようとした。途方に暮れている暇はないのだ。
マイロが黙って、俺を置いていくはずがない。なにかトラップに引っかかって、どこかに連れ去られたのだろう。
一瞬でいなくなるなんて、落とし穴でもない限りなんらかの魔法しかあり得ない。
警戒してまわりを探索してみたが、それらしいトラップも、落とし穴も見つからなかった。
「どういうことだ……?」
首を捻りながらも、俺は足を動かし続けた。止まったら、不安でどうにかなってしまいそうだ。
自分が傷つくことよりも、マイロが酷い目にあっていないかどうかが、怖くてしかたない。
悪い予感がした。
もしかしたらマイロは、アークデーモンに攫われたのではないだろうか。
初めて会ったときも、マイロはデーモンに攫われていた。きっと、なにかマイロを攫う理由があるのだろう。
マイロをこのダンジョンに連れてきたのは、間違いだった。
どおりで、ここまでの道のりが平和だったわけだ。
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