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魔法祭。そして…
お手紙
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一方こちらはカイラ邸。貴族の風格を残したリビングにて、カイラは買ってきてもらっていた型抜きクッキーを摘みながら、ウサギのぬいぐるみ「カイラ君」におめかしをさせていた。
2つの濃い緑色の小さなリボンクリップを両耳の付け根に着けてやると、男の子なのに女の子のように見える。
「カイラ君、早速着けてあげてるのかい」
キッチンから2つのカップを持って現れたヴェルトが、カイラの対面に腰掛けた。
「そうなんです。えへ、ヴェルトさん、プレゼントありがとうございます」
頬を赤らめ足をもじもじさせているカイラに礼を言われたヴェルトは、静かに頷いて1つのカップをカイラに差し出した。
「はいお茶」
「ありがとうございます」
カイラは「カイラ君」を机に置いてティーカップを手に取り茶をひと口飲む。
相変わらずヴェルトに茶の心が無いのが分かる味だ。
「みなさぁ~~ん! お手紙が、届きましたよぉ~~!」
静かなティータイムをぶち壊しながらリビングに入室したお手伝い魔道具が、足をジタバタさせながら1通の手紙を高く掲げた。
「何? 騒々しいね」
「お手紙が届きましたよ」
カイラには良く見られたい為か、ヴェルトとクマの2人は特に罵り合わず会話し始める。
「どっち宛なんだい」
「分からないから2人に声かけたのよ」
「はぁ?」
面倒そうに立ち上がったヴェルトは、クマの手から黒い封筒を奪い取った。
「……うわ」
そして封筒の表を見た途端、アメジストの目が道に吐き捨てられたガムを見るような目付きに変わった。
封筒にコウモリの紋章が刻まれているのだ。つまりこれは夢魔からの手紙という事であり、カイラとヴェルトに用のある夢魔といえば1匹しかいない。
「これ、ミキからの手紙だよ」
「えっ!?」
目を丸くして立ちあがろうとするカイラを「待って!」と鋭い声で制止する。
「カイラ君は来ちゃ駄目。やけにぶ厚いし何を仕掛けられてるか分かったもんじゃない。クマ、念の為換気してくれるかい?」
「あー、はいはい」
カイラの手前、不本意ながらもクマはリビングの窓を開けた。
赤い封蝋を慎重に開け、ヴェルトは中身を検める。中にあったのは1封の封筒と1枚の手紙だった。
カミソリなども仕掛けられていないか確認した後、ヴェルトはまず手紙に目を通した。
苛立たしいほど丁寧な文字で綴られていたのは、たった一文だけだった。
『これを見てどうするかはお前達次第』
文が示す「これ」というが同封されていた封筒の中身なのだと思い、ヴェルトはその封を切った。
その中身は……ガゼリオの浅ましい姿を写した写真だった。
色とりどりの女性用下着を身に着けさせられたまま、初老の男に尻を穿たれたりナニをしゃぶらされている場面ばかり。
苦しそうな表情を浮かべているガゼリオの姿を見て、ヴェルトの僅かな良心が痛み始めた。
養父に引き取られてからも数え切れぬほど会っていたあの男がまさか……陰でこのような事をされていたとは。
「ヴェルトさん、何なんです、それ」
危険が無い事を確かめ再び立ちあがろうとしたカイラを、ヴェルトは更に強い語気で止めた。
「駄目だ! 見るなカイラ!」
「ッ!」
その迫力にカイラはビクッと身を震わせて、椅子にペタンと腰を降ろす。
(絶対……何か、良くない事が起こったんだ!)
それがミキのせい……つまり、奴に魅入られた自分のせいでもあるとカイラは思い込んでしまう。
「……ごめん、怒鳴っちゃって」
振り返り、怯えた様子のカイラに謝ったヴェルトは手紙を持ったままどこかへと歩み始めた。
「ど、どこ行くんですか?」
「自分の部屋だよ。ちょっと整理したくてね」
とだけ言い残し、カイラとクマを残したまま部屋を後にした。
「酷いねー。カイラきゅんに怒鳴るなんて! カイラきゅんだいじょうぶ?」
クマは心配してカイラに声をかける。
「うん、大丈夫。……ありがとう」
未だに恐怖で体を震わせながらも、カイラは気丈に微笑んだ。
それから少しして、ヴェルトが自室からリビングに戻って来た。
「あぁ~! ハァ、ハァ、謝んなさいよ~! カイラきゅんに……ハァ、ハァ、謝んなさいよぉぉ~~!」
興奮し足をジタバタさせながらカイラへの謝罪を強要するクマを、「今はそんな暇無いんだよ」と適当にあしらうヴェルト。
「カイラ君、少し訊きたい事がある」
「何でしょう」
どんな質問が来るのかと内心ビクビクしながらカイラはヴェルトの声に耳を傾ける。
「この男の人。見た事ないかい」
とヴェルトがカイラに見せたのは写真の切り端だ。そこにはガゼリオの養父の顔だけが写し出されており、彼が何をしているのかは全く分からないようにされている。
「えーっと…………あっ!! ちょっと待っててください!」
記憶の引き出しを片っ端から開けたカイラは、この男の事を思い出したようだ。そして何かを取るためにリビングを後にした。
「オ~マ~エ~! 目ん玉抉り出してスクランブルエッグにするど~~!!」
カイラがいなくなった途端、クマは目を吊り上げてヴェルトを罵った。
「…………」
クマの戯言など今は気にならないようで、ヴェルトはじっとカイラを待った。
少しして、カイラは1冊の本を小脇に抱えて戻って来た。表紙を見るに、これは魔法を学ぶ学生向けの教科書のようだ。
「……この人! さっきの写真と同じ顔です!」
とカイラが指差したのは、教科書の最終ページに載せられた著者近影。
「ディザイオ……魔法研究家……カイラ君、その本借りてても良いかい?」
「えぇ、構いませんよ」
カイラはヴェルトに本を手渡した。
「あの、ヴェルトさん。本当に何があったんです? 僕にできる事があれば、何でもします!」
「いや、後は僕が何とかするからさ。カイラ君はそのままゆったりしてて」
「嫌です! 僕だって魔法使いで、冒険者なんです! せめて何があったかだけでも教えてください!」
「駄目だ! いいから家で大人しくしてるんだ。いいね?」
有無を言わせぬ迫力が籠ったヴェルトの言葉。
(でも、ここで引き下がったら絶対後悔する! ミキが何かやったのなら……またヴェルトさんや周りの人達が、僕の知らないところで酷い目に遭うかもしれない!)
ヴェルトがホテルの隣室で襲われた事を思い出したカイラは歯を食いしばった。
そして、普段のカイラからは考えられぬほど鋭い視線をヴェルトに浴びせながら、カイラはダイアモンドの決意を輝かせたのだ。
2つの濃い緑色の小さなリボンクリップを両耳の付け根に着けてやると、男の子なのに女の子のように見える。
「カイラ君、早速着けてあげてるのかい」
キッチンから2つのカップを持って現れたヴェルトが、カイラの対面に腰掛けた。
「そうなんです。えへ、ヴェルトさん、プレゼントありがとうございます」
頬を赤らめ足をもじもじさせているカイラに礼を言われたヴェルトは、静かに頷いて1つのカップをカイラに差し出した。
「はいお茶」
「ありがとうございます」
カイラは「カイラ君」を机に置いてティーカップを手に取り茶をひと口飲む。
相変わらずヴェルトに茶の心が無いのが分かる味だ。
「みなさぁ~~ん! お手紙が、届きましたよぉ~~!」
静かなティータイムをぶち壊しながらリビングに入室したお手伝い魔道具が、足をジタバタさせながら1通の手紙を高く掲げた。
「何? 騒々しいね」
「お手紙が届きましたよ」
カイラには良く見られたい為か、ヴェルトとクマの2人は特に罵り合わず会話し始める。
「どっち宛なんだい」
「分からないから2人に声かけたのよ」
「はぁ?」
面倒そうに立ち上がったヴェルトは、クマの手から黒い封筒を奪い取った。
「……うわ」
そして封筒の表を見た途端、アメジストの目が道に吐き捨てられたガムを見るような目付きに変わった。
封筒にコウモリの紋章が刻まれているのだ。つまりこれは夢魔からの手紙という事であり、カイラとヴェルトに用のある夢魔といえば1匹しかいない。
「これ、ミキからの手紙だよ」
「えっ!?」
目を丸くして立ちあがろうとするカイラを「待って!」と鋭い声で制止する。
「カイラ君は来ちゃ駄目。やけにぶ厚いし何を仕掛けられてるか分かったもんじゃない。クマ、念の為換気してくれるかい?」
「あー、はいはい」
カイラの手前、不本意ながらもクマはリビングの窓を開けた。
赤い封蝋を慎重に開け、ヴェルトは中身を検める。中にあったのは1封の封筒と1枚の手紙だった。
カミソリなども仕掛けられていないか確認した後、ヴェルトはまず手紙に目を通した。
苛立たしいほど丁寧な文字で綴られていたのは、たった一文だけだった。
『これを見てどうするかはお前達次第』
文が示す「これ」というが同封されていた封筒の中身なのだと思い、ヴェルトはその封を切った。
その中身は……ガゼリオの浅ましい姿を写した写真だった。
色とりどりの女性用下着を身に着けさせられたまま、初老の男に尻を穿たれたりナニをしゃぶらされている場面ばかり。
苦しそうな表情を浮かべているガゼリオの姿を見て、ヴェルトの僅かな良心が痛み始めた。
養父に引き取られてからも数え切れぬほど会っていたあの男がまさか……陰でこのような事をされていたとは。
「ヴェルトさん、何なんです、それ」
危険が無い事を確かめ再び立ちあがろうとしたカイラを、ヴェルトは更に強い語気で止めた。
「駄目だ! 見るなカイラ!」
「ッ!」
その迫力にカイラはビクッと身を震わせて、椅子にペタンと腰を降ろす。
(絶対……何か、良くない事が起こったんだ!)
それがミキのせい……つまり、奴に魅入られた自分のせいでもあるとカイラは思い込んでしまう。
「……ごめん、怒鳴っちゃって」
振り返り、怯えた様子のカイラに謝ったヴェルトは手紙を持ったままどこかへと歩み始めた。
「ど、どこ行くんですか?」
「自分の部屋だよ。ちょっと整理したくてね」
とだけ言い残し、カイラとクマを残したまま部屋を後にした。
「酷いねー。カイラきゅんに怒鳴るなんて! カイラきゅんだいじょうぶ?」
クマは心配してカイラに声をかける。
「うん、大丈夫。……ありがとう」
未だに恐怖で体を震わせながらも、カイラは気丈に微笑んだ。
それから少しして、ヴェルトが自室からリビングに戻って来た。
「あぁ~! ハァ、ハァ、謝んなさいよ~! カイラきゅんに……ハァ、ハァ、謝んなさいよぉぉ~~!」
興奮し足をジタバタさせながらカイラへの謝罪を強要するクマを、「今はそんな暇無いんだよ」と適当にあしらうヴェルト。
「カイラ君、少し訊きたい事がある」
「何でしょう」
どんな質問が来るのかと内心ビクビクしながらカイラはヴェルトの声に耳を傾ける。
「この男の人。見た事ないかい」
とヴェルトがカイラに見せたのは写真の切り端だ。そこにはガゼリオの養父の顔だけが写し出されており、彼が何をしているのかは全く分からないようにされている。
「えーっと…………あっ!! ちょっと待っててください!」
記憶の引き出しを片っ端から開けたカイラは、この男の事を思い出したようだ。そして何かを取るためにリビングを後にした。
「オ~マ~エ~! 目ん玉抉り出してスクランブルエッグにするど~~!!」
カイラがいなくなった途端、クマは目を吊り上げてヴェルトを罵った。
「…………」
クマの戯言など今は気にならないようで、ヴェルトはじっとカイラを待った。
少しして、カイラは1冊の本を小脇に抱えて戻って来た。表紙を見るに、これは魔法を学ぶ学生向けの教科書のようだ。
「……この人! さっきの写真と同じ顔です!」
とカイラが指差したのは、教科書の最終ページに載せられた著者近影。
「ディザイオ……魔法研究家……カイラ君、その本借りてても良いかい?」
「えぇ、構いませんよ」
カイラはヴェルトに本を手渡した。
「あの、ヴェルトさん。本当に何があったんです? 僕にできる事があれば、何でもします!」
「いや、後は僕が何とかするからさ。カイラ君はそのままゆったりしてて」
「嫌です! 僕だって魔法使いで、冒険者なんです! せめて何があったかだけでも教えてください!」
「駄目だ! いいから家で大人しくしてるんだ。いいね?」
有無を言わせぬ迫力が籠ったヴェルトの言葉。
(でも、ここで引き下がったら絶対後悔する! ミキが何かやったのなら……またヴェルトさんや周りの人達が、僕の知らないところで酷い目に遭うかもしれない!)
ヴェルトがホテルの隣室で襲われた事を思い出したカイラは歯を食いしばった。
そして、普段のカイラからは考えられぬほど鋭い視線をヴェルトに浴びせながら、カイラはダイアモンドの決意を輝かせたのだ。
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