魔導士カイラは許されない〜インキュバスの呪いで貞操帯をかけられた少年〜

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集結

到着

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 あれから無事にマジェスティック邸に着いたレオは、マティアスに連れられるまま地下に入った。

「ガゼリオはこの先にいるんですか」

 階段を降りながら、汗だくのレオは先を行くマティアスに訊ねた。

「うむ。地下の部屋を使わせておる。とにかく貴様はガゼリオ殿の側にいてやってくれ」

 むぅ。と唸ってからマティアスは更に事態が深刻である事を恋人に分かりやすく告げる。

「真っ先にガゼリオ殿を発見したヴェルト殿いわく、レザーの湖で入水を図ろうとしたらしい」

「じ、入水!?」

 まさかあのガゼリオがと目を白黒させるレオに、更にマティアスは追い討ちをかける。

「そして私が魔力の残滓ざんしを調べたのだが……ここ1ヶ月以内で、拷問にも使用される『アゴニー』なる魔法を受けている」

 拷問魔法。……それは、ごく一部の人間のみが取得を許される魔法であり、レオはただその存在を知識として知っているのみ。

 撃たれれば鳩尾に鉄球を喰らうような激しい苦痛を味わうと言われるその魔法を、あのガゼリオが受けていただなんて。

「そんな魔法、誰から撃たれたんです」

「彼の父親のディザイオである」

 あまりに残酷な話にレオは絶句した。

 互いに口を開かぬまま長い階段を降り終わった先に、魔法祭の時に出会ったヴェルトがいた。

「レイさん」

「レオです」

「……そうでしたね」

 早々に悪い癖を発揮したヴェルトは素直に謝った。

「ガゼリオの恋人なら、あなたもこの写真を見ておくべきだ。とある夢魔から送られて来た、ガゼリオとそのお父さんの写真です」

 ヴェルトから手渡された写真の数々に目を通し……得体の知れない悔しさと悲しさに襲われた。

「まさか……あのガゼリオが」

 生徒達に明るく接していたあのガゼリオが、養父の歪んだ愛情を受けていたなんて。

「ガゼリオはこっちの部屋にカイラ君と一緒にいます」

 レオはヴェルトが指差した部屋に足早に向かいノックすらせず扉を開けた。

 そこには、ただひたすら呆然とした様子で腰掛けるガゼリオと、その対面に座っているカイラの姿があった。

「あ……」

 恋人の姿に気付いたガゼリオは力無く声を上げた。

「ガゼリオ。助けに来たぞ」

 レオはガゼリオに駆け寄り強い抱擁をした。

「レオ……っ!!」

 熱い体に包まれ無骨で大きな手で頭を撫でられた途端にガゼリオの感情が静かに爆発した。

 それを見ていたカイラは、そっと部屋を後にしたのだ。

   ***

「普段の俺、こんなんじゃないんだぜ」

「うん」

「こんなすぐに子供みてーに泣かねーんだよ」

「そうだな」

 立ったまま抱きしめ合い、レオはガゼリオの話に耳を傾けていたが、遂にレオは口を開いた。

「ガゼリオ。ごめんな」

「は? ……何で謝んだよ」

「お前が苦しんでんの、全く気付いてやれなかった」

 今思い出せば。色々とおかしい部分があったのだ。

 覆い被さられる事と後ろから抱きつかれる事がとにかく苦手で、酷く怯えていた事。

 13、14の少年らがデートをしているという話で真っ先にガゼリオが『どっかでよろしくヤってたりしてな』と軽口を叩いていた事。

 初めて情を重ねる前に体位について話していた時、『でも縛れば関係ねーから』と発言していた事。

「良いんだよ。むしろ気付いてくれなくて良かったんだ。……自分の家が普通じゃねーって事、薄々気付いてはいたんだけどさ……『普通の家』ってのが俺にはよく分からなくて。いつかレオに見破られんじゃないかって不安だった」

 ガゼリオはレオの筋肉に爪を突き立てる。

「そしたら嫌われるって……俺が親父の慰者なぐさみものにされてるって知ったら。。レオに嫌われてもう2度と2人きりで会えないって____」

「あのな、ガゼリオ」

 レオはガゼリオを安心させるよう軽い口付けを交わした。

「そんなあっさりと俺がガゼリオから離れる訳ねーって。……実はさ。俺、ここに来る前にヴェルトさんからお前の写真見せられたんだよ。恋人なら見ておくべきだってな」

「……そうかよ」

 ガゼリオは少々俯いた。

「ガゼリオ……俺、悔しいよ。悲しいよ。こんなにかっこよくて可愛いガゼリオをさ。あの男はずっと自分の良いように扱ってたって事だよな?」

 そして、それを自分はずっと気付いてやれなかった。

 教師であるレオには、子供達の心の状態にも気を配るという責務が課せられている。

 それなのに、自分の最も大切な男が入水を選ぶまで、彼の心の闇の深さを全く気付いてやれなかった。

 『教師失格だ』という言葉をレオは何とか飲み込み、安心させるような口調と声色で話し続ける。

「もう大丈夫だからな。俺がずっと側にいるから。ガゼリオの事、俺がずっと側で支えるから」

「……駄目だ」

 ガゼリオの言葉に「は?」とレオは訊ねる。

 信じられないという言葉を顔に張り付かせている男の胸からそっと顔を離し、ガゼリオは自嘲する。

「もう分かっただろ? 俺は汚い人間なんだよ。……やっぱさレオ。お前良い奴過ぎるからさ、俺なんかよりよっぽど良い人が見つ____」

 本当の気持ちを隠すように仮面を被り話すガゼリオに「そんな事ない!」と子供っぽい口調で反論した。その瞳には少し怒気が籠っている。

「ガゼリオあのなぁ! 前から言ってただろ? 俺ガゼリオが良いって! ガゼリオが大好きで、愛してんだって!」

 ガゼリオの体が折れそうになるほどレオは力強く抱き締める。

「ガゼリオは汚くなんかない。ていうか俺にはガゼリオが1番綺麗に見えんだよ。笑ってる顔も寝てる顔も真剣な顔も、むしろ泣いてる顔すら綺麗に見える。だから自分の事汚いとか言うな」

 ガゼリオを見下ろし、彼の目尻に残っていた涙を指で優しく拭った。

 疲れ切った彼の表情を見て、レオは時計に目をやった。

 既に翌朝に支障が出るほどの時間となっており、レオは自身を落ち着かせるよう溜息を吐く。

「もう……こんな時間なのか。ガゼリオ、今日はもう寝た方が良い。互いにゆっくり休んでさ、頭冷やしてから話そう。な?」

「……だな」

 一旦頭を冷やそうとガゼリオは頷き、何かに気付いたように声を上げる。

「あっ、でもその前に風呂入りたい」

「風呂?」

「あっちの部屋にあるってマティアス様が言ってた」

「……そうなんだ」

 2人は隣の部屋に入った。中央に清潔なダブルベッドがある部屋は、いつでも休めるようオレンジ色の柔らかな光で包まれている。

 その更に奥が脱衣所と浴室で、ガゼリオは脱衣所に続く扉を開けて振り返った。

 そこにはまるで着いて行くのが当たり前といった表情のレオが立っていた。

「あの。何で着いて来るんだよ」

「いやぁ。俺も一緒に入ろうかと思って」

「はぁ?」

 ガゼリオは呆れ顔を浮かべる。

「俺も汗だくだし、今のお前、目ぇ離した途端消えちまいそうなんだもん!」

 駄々を捏ねるレオに「仕方ない」とガゼリオはシャツのボタンに手をかけて…….思い出してしまった。

   ***

「そっか……ハハッ。何だよ……俺もレオの事……好きになってんじゃねーかよ……」

 ガゼリオは自嘲的に力無く笑う。そして一頻ひとしきり泣いた後、ベッドからムクリと起き上がった。

 下着を着替えないまま適当な黒い服を着て、シガレットケースに煙草を1本だけ入れて胸ポケットにしまった。

 その上からお気に入りの黒い外套を着込む。


「いいや……もう何もかも、どうでも良い」


 口角を上げたまま呟き、よろよろと部屋を後にするガゼリオの赤眼は酷く濁っていた。

   ***

(俺……あの下着、着たまんまじゃん!)

「? どうしたんだよガゼリオ」

 ボタンに手をかけたまま青ざめ硬直したガゼリオへ、レオは怪訝そうな視線を送る。

「やっぱレオ。お前入ってくんな」

 ガゼリオは硬い声で突っぱねる。

「はぁ? ……さてはガゼリオ。お前恥ずかしくなってきたんだな? 昨日公開床オナして、限界チンコ四つん這いの状態で扱かれてザーメンびゅーびゅー出してた奴が恥ずかしがってどーすんだよ」

 ガゼリオが黙っているのを良い事に、既に上半身裸となったレオは散々な事を言う。

「……じゃあ風呂入んのやめる!」

「おいおい待て待て待て!」

 子供のように吐き捨て踵を返したガゼリオを、レオがそっと抱き止めた。

「どーしたんだよ? ほら、俺が脱がせてやるから」

 とレオはガゼリオのシャツに手を掛ける。

「やめろ! おい、コラァ!」

 わあわあ言いながら抵抗するガゼリオだが、筋肉の前に教鞭を取るだけだった体は無力であった。

 すぐにシャツを剥かれ、燃えるように赤いレースの女性用下着が露わとなった。

「……なぁ、ガゼリオ」

 先程まで能天気な雰囲気だった声色が一気に冷たくなり、ガゼリオの鼓動が極度の緊張で速まる。

「この下着着てるって事はさ……今夜、親父に……」

 ガゼリオが苦しそうに顔を歪めたまま自分と目を合わせようとしないのを見て……レオの中で何かがプチッと音を立てて切れた。

「ガゼリオ……!」

 名を呼びながら、レオはガゼリオの衣服を乱暴に剥ぐ。

「嫌……嫌だ! やめろ! 見るな!!」

 女性物のブラジャーとショーツという浅ましく下品な姿へと変貌したガゼリオを、レオは力任せにベッドへ押し倒した。

「ひっ……!?」

 条件反射でガゼリオは目を力強く瞑り抵抗しようとするが、レオに両手をガッチリ押さえられているので抜け出せない。

「ガゼリオ! 目ぇ瞑んな。俺を見てろ」

 ガゼリオに目を開けさせたまま、レオは彼の唇を乱暴に奪った。

 唇の間に舌を捩じ込ませ、口内を蹂躙じゅうりんする。

「ん……ふ、ぅ……っ」

 ガゼリオが漏らす吐息が苦しそうだ。

 養父に付けられた痕跡を上書きするような、濃厚な接吻を交わし続ける。しばらくしてレオは口を離し、互いの唾液で架け橋を作った。

 そのままガゼリオの首元に舌を這わせようと体に顔を近付けると、明らかにガゼリオのものではない男の微かな匂いがレオの鼻を刺した。

 その匂いに吐き気を覚え舌打ちを打ったレオに、ガゼリオは恐る恐るといった風に口を開く。

「レオ……ごめん。もう全部どうでも良くなってたから、体に浄化魔法すらかけてない……つまり、あの男の体液がまだ体に残ってんだ。俺の事好きなだけ使良いから、せめて浄化魔法だけ____」

「だから使じゃねえっつってんだろ!!」

 怒鳴りながらレオは怯えるガゼリオの体をを起こさせ、手を引いて浴室へ連れ込んだ。

「な……何しようとしてんだ」

「今から汚ねーもん掻き出してやる」

「掻き出すって……魔法で良いだろ」

「いいから!」

 レオの迫力に蹴落とされ、ガゼリオは借りてきた猫のように大人しくしているしかなかった。
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