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集結
手術
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ガゼリオと話した後、マティアスは証拠をまとめた。
ガゼリオの写真と調書。それにマティアスが書いた魔法の残滓についての報告書。
そしてそれらを「私が直接行った方が早い」という理由で、マティアス自ら書類を持ち兵士詰所まで出掛けたのだ。
マティアス不在の中、ようやく到着した3人がガゼリオを囲んでいた。
上半身裸にさせたガゼリオの体に魔道具探知機を当てているのは、大きな革のキャスケットと黒いローブを身に着けた魔導技師クロウである。
金属探知機と言えば誰もが想像するような、先が円状になった棒を持ちガゼリオの体を探っている。
機械をガゼリオの左肩に当てたクロウは「見つけた」と呟いた。
「ガゼリオさんの左肩から魔道具の反応が見つかりました。反応から見て……皮膚の下に埋め込まれています」
それを聞いた人物……白衣を羽織ったハルキオンは「なるほど」と唸る。
「ガゼリオさん。何か身に覚えはありませんか? 例えばお父さんに引き取られた後、病院で手術を受けさせられたとか」
流暢なハルキオンの問いに、ガゼリオはディザイオと出会ってからの記憶を探った。
「いえ……特には」
「古い型のようです。大体……ええと、30年前の」
自分が生まれるより前の魔道具。改めて養父と会ってからの記憶を探るが、どうしても思い出せない。
「まぁ……とりあえず取り出してしまいますか。リタさん、麻酔は持って来ていますね?」
セピアの髪と目をした薬剤師リタは「もちろん」と答えた。
「ならここでチャッチャとやっちゃいましょうか」
と軽々しい口調で言うハルキオンを、ガゼリオは不安気に見上げた。
目の前にいるのはレザーの死と拷問を司る貴族ハルキオン・ブラッドムーン。不安に思わない方がおかしい。
(あぁ、きっと不安に思ってるんだ。……私が、死刑執行人だから)
ハルキオンもそれを察し、誰をも安心させる医者の笑みを浮かべると、
「大丈夫ですよガゼリオさん。魚屋が魚を捌くよりも素早く終わらせてみせますから」
(うわぁ最悪な例え)
ガゼリオが表情を引き攣らせたのを見たクロウは、「チャチャッとね」と楽しそうに呟く鳥の巣頭に苦笑いを浮かべたのだった。
***
「ガゼリオ~……大丈夫か?」
情けなく目を潤ませたレオが、ベッドに寝かされているガゼリオに目を向けた。
「あぁ、大丈夫」
上半身をゆっくりと起こしながらそう答えたガゼリオ。
(ハルキオン様、本当に魚捌くみたいにチャッチャと終わらせてくれたな)
と、左肩にサージカルテープで固定されたガーゼに触れながら心の中で呟く。
(3人とももう帰ってしまったけれど……また改めてお礼しないとな)
「大丈夫だからさ……もう起きても良いだろ?」
ベッドから降りようとするガゼリオの前にレオは立ちはだかる。
「ダメだっつってんだろ。傷が酷くならないようにガゼリオは寝てろ」
過保護なレオに対しガゼリオは微苦笑を浮かべた。
「しかし酷いよな、体に魔道具埋め込むだなんて」
「……だけどさ、俺、記憶ねーんだよな。アイツに手術受けさせられたとか」
ガゼリオは頭に手を当て考えるが一向に思い出せない。
10歳の頃には既に物心が付いていたので、記憶に残っているはずなのだが……
「まぁ、とにかく無事に魔道具は取り出されたんだろ? ならいつ埋め込まれたかなんてどうでも良いだろ?」
「……それもそうだな」
とガゼリオは楽観的なレオの一言で考えるのをやめた。
2人がいる部屋の戸が3回ノックされた。ガゼリオが返事をすると、扉が開かれ向こうからマティアスが現れた。
「ただ今戻った。ガゼリオ殿、証拠を兵士詰所に回した。今頃大慌てでディザイオ邸に向かってるであろう」
「そう……ですか」
報告を聞いたガゼリオの表情に陰が差したのを見たレオは、そっとガゼリオの手に自身の手を重ねた。
何も言われずともレオの温かい気持ちが伝わり、ガゼリオは彼の顔を見上げて笑顔を作ったのだ。
ガゼリオの写真と調書。それにマティアスが書いた魔法の残滓についての報告書。
そしてそれらを「私が直接行った方が早い」という理由で、マティアス自ら書類を持ち兵士詰所まで出掛けたのだ。
マティアス不在の中、ようやく到着した3人がガゼリオを囲んでいた。
上半身裸にさせたガゼリオの体に魔道具探知機を当てているのは、大きな革のキャスケットと黒いローブを身に着けた魔導技師クロウである。
金属探知機と言えば誰もが想像するような、先が円状になった棒を持ちガゼリオの体を探っている。
機械をガゼリオの左肩に当てたクロウは「見つけた」と呟いた。
「ガゼリオさんの左肩から魔道具の反応が見つかりました。反応から見て……皮膚の下に埋め込まれています」
それを聞いた人物……白衣を羽織ったハルキオンは「なるほど」と唸る。
「ガゼリオさん。何か身に覚えはありませんか? 例えばお父さんに引き取られた後、病院で手術を受けさせられたとか」
流暢なハルキオンの問いに、ガゼリオはディザイオと出会ってからの記憶を探った。
「いえ……特には」
「古い型のようです。大体……ええと、30年前の」
自分が生まれるより前の魔道具。改めて養父と会ってからの記憶を探るが、どうしても思い出せない。
「まぁ……とりあえず取り出してしまいますか。リタさん、麻酔は持って来ていますね?」
セピアの髪と目をした薬剤師リタは「もちろん」と答えた。
「ならここでチャッチャとやっちゃいましょうか」
と軽々しい口調で言うハルキオンを、ガゼリオは不安気に見上げた。
目の前にいるのはレザーの死と拷問を司る貴族ハルキオン・ブラッドムーン。不安に思わない方がおかしい。
(あぁ、きっと不安に思ってるんだ。……私が、死刑執行人だから)
ハルキオンもそれを察し、誰をも安心させる医者の笑みを浮かべると、
「大丈夫ですよガゼリオさん。魚屋が魚を捌くよりも素早く終わらせてみせますから」
(うわぁ最悪な例え)
ガゼリオが表情を引き攣らせたのを見たクロウは、「チャチャッとね」と楽しそうに呟く鳥の巣頭に苦笑いを浮かべたのだった。
***
「ガゼリオ~……大丈夫か?」
情けなく目を潤ませたレオが、ベッドに寝かされているガゼリオに目を向けた。
「あぁ、大丈夫」
上半身をゆっくりと起こしながらそう答えたガゼリオ。
(ハルキオン様、本当に魚捌くみたいにチャッチャと終わらせてくれたな)
と、左肩にサージカルテープで固定されたガーゼに触れながら心の中で呟く。
(3人とももう帰ってしまったけれど……また改めてお礼しないとな)
「大丈夫だからさ……もう起きても良いだろ?」
ベッドから降りようとするガゼリオの前にレオは立ちはだかる。
「ダメだっつってんだろ。傷が酷くならないようにガゼリオは寝てろ」
過保護なレオに対しガゼリオは微苦笑を浮かべた。
「しかし酷いよな、体に魔道具埋め込むだなんて」
「……だけどさ、俺、記憶ねーんだよな。アイツに手術受けさせられたとか」
ガゼリオは頭に手を当て考えるが一向に思い出せない。
10歳の頃には既に物心が付いていたので、記憶に残っているはずなのだが……
「まぁ、とにかく無事に魔道具は取り出されたんだろ? ならいつ埋め込まれたかなんてどうでも良いだろ?」
「……それもそうだな」
とガゼリオは楽観的なレオの一言で考えるのをやめた。
2人がいる部屋の戸が3回ノックされた。ガゼリオが返事をすると、扉が開かれ向こうからマティアスが現れた。
「ただ今戻った。ガゼリオ殿、証拠を兵士詰所に回した。今頃大慌てでディザイオ邸に向かってるであろう」
「そう……ですか」
報告を聞いたガゼリオの表情に陰が差したのを見たレオは、そっとガゼリオの手に自身の手を重ねた。
何も言われずともレオの温かい気持ちが伝わり、ガゼリオは彼の顔を見上げて笑顔を作ったのだ。
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