178 / 225
初めての遠征 その2
ゴルド町
しおりを挟む
「良い夜~ダーティとディックの場合~」という話の中に、ダーティによるディックへの痛々しい責めの描写があります。
その上、性的な暴力の描写もありますのでご注意ください。
***
「大雨だ」
ここは、近くにある金山の為に栄えたゴルド町。
ゴルド町の小さなカフェの窓から外を眺めながら、ダーティは物憂げに呟いた。
地面へ叩きつけられる数多の白い飛沫。
傘を持ち足早に帰宅する労働者の足が、跳ねた泥で汚れている。
冬が過ぎるのを今か今かと待ち侘びる並木が両手を広げ慈雨を全身に浴びる。
叙情的ではあるものの、滝のように降る雨が奏でる不協和音に皆がどこか暗い表情を浮かべている。
「今日はこの町で雨宿りするしかないね」
ダーティの対面に腰掛けたヴェルトはティーカップを持ち上げ、面倒そうに目を細めた。
「そうだな。この雨じゃ馬車を動かすのは危険だ」
とダーティもヴェルトの意見に同調し紅茶を口にする。
(……普通だな)
紅茶に深い造形があるらしいダーティは、田舎の小さなカフェという事を考慮した上で、ありふれた香りにとりあえず及第点をやる事にした。
ヴェルトの隣の席に着いているカイラが、紅茶に息を吹きかけ冷まそうとしていると……
「ボウヤ」
いかにもといった制服を身に纏ったカフェ店員の少女が3人の席に近付いてきた。
「これ、サービスね」
と少女は白い皿をカイラの前に置いた。その皿の上にはウサギの形に剥いた果物が並べられている。
「……ありがとうございます」
完全に子供扱いされている事に苦笑を浮かべながらもカイラは小さくお礼を言った。
「あの……もしかして」
と少女が今度はダーティに向き直る。
「アナタ、ダーティさんじゃありませんか?」
「そうだが……もしかして、私のファン?」
美男子を映す少女の瞳が揺れた。
「そうです! あぁ、まさかこんな田舎で会えるなんて! ここでバイトしてて良かった!」
少女は両手を差し出しダーティに握手を求める。
「すまない、私は他の人に触れるのが苦手でね。代わりにサインをあげようか」
と微笑むダーティを、ヴェルトはじっと観察していた。
(……もしかしてダーティ、女性恐怖症なのかな)
男である自分には平気で握手を求めるくせに、女であるカフェ店員との握手は避けた。
(まぁ、どうでも良いけど)
とすぐにヴェルトはダーティから意識を逸らし、最も興味を惹かれる少年へ目線をやった。
カイラはサービスの果物を口へ運び、シャリシャリと音を立てながら咀嚼している。
(こうして見るとウサギかリスみたいだな)
とヴェルトはクスリと笑った。
***
やはりフォーン村より旅人も多いようだ。何軒もあるホテルのうちの1軒に、一行は泊まる事にした。
ダーティは1人部屋を。カイラとヴェルトは2人部屋を取ったのだ。
「ではヴェルトにカイラ少年。私はこの部屋だから」
と鳥籠を手にしたダーティは、会いている方の手でドアノブを掴む。
「はい。ダーティさん、おやすみなさい」
「あぁ、2人とも良い夜を」
「良い夜」の意味を瞬時に理解したヴェルトは、
「ダーティも良い夜をね」
とほくそ笑んだ。
2人が視線で意思を通わせている中、カイラだけがそのままの意味で受け取り「良い夜を」と無邪気に返した。
その上、性的な暴力の描写もありますのでご注意ください。
***
「大雨だ」
ここは、近くにある金山の為に栄えたゴルド町。
ゴルド町の小さなカフェの窓から外を眺めながら、ダーティは物憂げに呟いた。
地面へ叩きつけられる数多の白い飛沫。
傘を持ち足早に帰宅する労働者の足が、跳ねた泥で汚れている。
冬が過ぎるのを今か今かと待ち侘びる並木が両手を広げ慈雨を全身に浴びる。
叙情的ではあるものの、滝のように降る雨が奏でる不協和音に皆がどこか暗い表情を浮かべている。
「今日はこの町で雨宿りするしかないね」
ダーティの対面に腰掛けたヴェルトはティーカップを持ち上げ、面倒そうに目を細めた。
「そうだな。この雨じゃ馬車を動かすのは危険だ」
とダーティもヴェルトの意見に同調し紅茶を口にする。
(……普通だな)
紅茶に深い造形があるらしいダーティは、田舎の小さなカフェという事を考慮した上で、ありふれた香りにとりあえず及第点をやる事にした。
ヴェルトの隣の席に着いているカイラが、紅茶に息を吹きかけ冷まそうとしていると……
「ボウヤ」
いかにもといった制服を身に纏ったカフェ店員の少女が3人の席に近付いてきた。
「これ、サービスね」
と少女は白い皿をカイラの前に置いた。その皿の上にはウサギの形に剥いた果物が並べられている。
「……ありがとうございます」
完全に子供扱いされている事に苦笑を浮かべながらもカイラは小さくお礼を言った。
「あの……もしかして」
と少女が今度はダーティに向き直る。
「アナタ、ダーティさんじゃありませんか?」
「そうだが……もしかして、私のファン?」
美男子を映す少女の瞳が揺れた。
「そうです! あぁ、まさかこんな田舎で会えるなんて! ここでバイトしてて良かった!」
少女は両手を差し出しダーティに握手を求める。
「すまない、私は他の人に触れるのが苦手でね。代わりにサインをあげようか」
と微笑むダーティを、ヴェルトはじっと観察していた。
(……もしかしてダーティ、女性恐怖症なのかな)
男である自分には平気で握手を求めるくせに、女であるカフェ店員との握手は避けた。
(まぁ、どうでも良いけど)
とすぐにヴェルトはダーティから意識を逸らし、最も興味を惹かれる少年へ目線をやった。
カイラはサービスの果物を口へ運び、シャリシャリと音を立てながら咀嚼している。
(こうして見るとウサギかリスみたいだな)
とヴェルトはクスリと笑った。
***
やはりフォーン村より旅人も多いようだ。何軒もあるホテルのうちの1軒に、一行は泊まる事にした。
ダーティは1人部屋を。カイラとヴェルトは2人部屋を取ったのだ。
「ではヴェルトにカイラ少年。私はこの部屋だから」
と鳥籠を手にしたダーティは、会いている方の手でドアノブを掴む。
「はい。ダーティさん、おやすみなさい」
「あぁ、2人とも良い夜を」
「良い夜」の意味を瞬時に理解したヴェルトは、
「ダーティも良い夜をね」
とほくそ笑んだ。
2人が視線で意思を通わせている中、カイラだけがそのままの意味で受け取り「良い夜を」と無邪気に返した。
5
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる