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第一章
子犬王子来襲
しおりを挟むヒロインとしての自分の道を決め、これからどうしようか意気込んでいたが小さな私にはどうすることもできず月日は流れていった。
子犬王子と出会ってから一年がたった。3歳になった私はといえばすっかり子犬王子のことを忘れて悪役令嬢とどう出会うか、そのことばかり考えていた。そんな私の元へ、ある手紙が届く。王家の紋章のある手紙をみて、私がギョッとしたのは言うまでもない。
「カイラスから手紙が届いたみたいよ?マリア、あなたあの坊やと仲良くなったんじゃなかったかしら?」
お母様がニマニマとにやけ、その手紙を私に手渡した。
「お母様、その顔はやめてくださいませ。それにカイラス様とは一年は会ってないはずですもの。仲が良いというのは語弊です」
「あなた本当に3歳なの?本当、大人の女性と話してるみたいだわ」
私を膝の上に抱き上げ、頭を撫で回しながらお母様はそんなことを言った。仕方の無いことだと思う。もう途中で数えることをやめてしまったが、少なくとも30越えたおばさんなのだ。お母様は20代前半くらいだから、そんな母親よりも精神年齢は年上になるわけだ。
「とにかく手紙を読んでみましょ?マリア、文字大体読めるんでしょ?」
「なんで知ってるの、読めること言ったことあった?」
「メルが全部教えてくれのよ~?娘のことは母として把握しておかなきゃね~」
なるほど、侍女か。
お母様と話してること多いなぁと思ってたら、私のこと報告してたのか。なるほど。下手な行動はできない、ということだな。
さあ!さあ!と手紙を読むことを催促するお母様をしり目に、私は手紙を開いた。
手紙の内容は、『お元気にしていますか?』から始まり、近況報告が5枚にわたって綴られていた。
「結構量が多いわね…」
お母様がその紙の量をみて、少しげんなりする。私もこの量には驚きを隠せなかった。
「あれ?5枚かと思ったら、6枚目があるわ…」
その6枚目の手紙には、こちらへ来る日程と、私の父親には許可をもらっていることが書かれていた。
「えっうちに来る!?」
「あらぁ、坊やうちに来るの?」
「お父様が許可したって書いてあるけど、お母様何も聞いてないのですか?」
「ふふっ、母様も許可済みです~!よく分かったわね!」
これでお母様がやけにニヤニヤした顔で私を見ていた理由が分かった。最初から手のひらコロコロされていたわけだ。
ブスッと頬を膨らませてみると、お母様は笑いながら私の両頬に手を当てた。
「あら、騙されたと思ってるの?本当にマリアは可愛いんだから」
「もうお母様はすぐ私を騙すんだから。それよりもカイラス様明日には来るみたいだわ。準備しなきゃ」
「坊やよ?そんな準備することもないわよ」
「何言ってますのよ、王子よ」
「いいじゃない、私の甥っ子よ?のんびりしましょうよ~」
「いくらお母様が元王族って言ってもそうは行かないわ!公爵家総出でカイラス様を迎え入れるわよ!」
そこからの私は、無我夢中でカイラスのために準備を始めた。お母様はそんな私をソファに座って眺めていたけれど。
なぜ私がカイラスが遊びにくるというだけで、ここまで本気になったのか、恐らくヒロインとして意気込んではみたもののこの一年何も無かったため、そのやる気が変な方向に向かった結果なのだと思う。
そんなこんなで、当日。
「カイラス様、お久しぶりですわね」
「マリア、久しぶり。少し見ない間に綺麗になったね」
それもそのはず。昨日は部屋の準備から私自身の準備まで完璧にこなしたのだから。
カイラスはまた少し身長が伸びて、長かった前髪をバッサリ切っていた。一年前に比べて表情も少し明るくなったような…。
「…なんだか、雰囲気変わりました?前髪を切ったからでしょうか?」
「そんなに変わったかい?」
「…少し、ですが良い変化だと思いますわ」
ふいにカイラスの視線が私の後ろへいく。そこにはお母様が立っていた。
「ヒステリア叔母様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「坊や、久しぶりね。少し大きくなったわね」
私のお父様に対しては、緊張して喋ることもできなかったあのカイラスだが、やはりお母様は叔母と甥の仲だ。結構会話をすることができるのだな、と関心しながら2人を眺める。
私は少しだけ感じた違和感をそっと隠し、カイラスを客間に入れた。
そんな私とカイラスの後ろ姿を、ジッとお母様か見つめていたけれど、私はそれに気づくことはなかった。
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