おばさんですが、今日からヒロインらしいです。

まぐ

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第一章

子犬王子来襲2

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 客間へ移動し、向かい合ってソファに座る。相変わらず綺麗な金色の瞳が真っ直ぐ私を見つめた。

「マリア、会えて嬉しいよ」
「私もですわ」

 侍女がいれた紅茶に口をつける。レモンの香りが口の中いっぱいに広がった。メルのいれるレモンティーは本当に美味しいのだ。

「カイラス様、良かったら召し上がってください。毒などは入っていませんから」
「はは、君が先に飲んで毒が入ってないと見せてくれただろう。それに僕は君が毒を盛るなんて考えてもいないよ」
「そうですか?ならいいのですけれど」

 それからは他愛もない話をした。
 カイラスが剣術をならい始めたことや、弟のこと、英才教育がきつい話や、それらの先生の話、どれもこれも手紙にも書いてあった内容であったが、普段家から出ない私にとってどの話も刺激的であったのは間違いない。

 だが、話を聞くたびに私の中の違和感は大きくなっていった。

「ところで、カイラス様、以前前髪が長かったですけれど、そんなにバッサリ切られて…何か心境の変化でもあったのでしょうか?」
「剣術を始めたと言っただろう?端に邪魔になっただけさ」
「そうでしたか。カイラス様はお強いのでしょうか?」
「さあ、どうだろう。まだ始めたばかりだからね」
「いつかご指導頂いているところを見させてもらいたいですわ」

 構わないよ、とカイラスは笑う。たった一度、しかも一年前に出会っただけの彼に、ここまで違和感を持つのはおかしいことかもしれない。
 にこやかに笑うカイラスに対し、私も同じように微笑みかけた。

「以前はとても人見知りが激しかったようですけれど、それも治ったんですのね」

 カイラスは笑顔をはりつけたまま、答える。

「そうだね、いつの間にか治っていたみたいだよ」
「へえ、それは良かったですわね。国王陛下もお困りになっていたようですし…」

 人見知りって、たった一年でここまでなくなるものなのかしら。何が彼をそこまで変えたの?本当に変わったの?

「…ところで、カイラス様のお庭には、今なんのお花が咲いてますの?」

 私の問いにカイラスは答えない。

「今の季節は冬ですから、そうですわね…ネモフィラなんか咲くのではないかしら」
「そうだね、庭師がそんなことを言っていたよ」

 そう、やっぱりそうなのね。

「ユリも綺麗な頃かしらね?」
「うん、そうだと思うよ」
「…あまりお花には興味がないかしら?」
「そんなことはないけれど、男なら花なんかより剣術だね」

 カイラスは表情を崩すことなく、にこやかな笑顔のままだ。私も笑顔をはりつけたまま、もしかしたら不敬になるかもしれない言葉を彼に対して叩きつけようと思う。

「貴方、誰ですの?」

 瞬間、彼の顔から笑顔が消える。カイラスとは違った冷たい瞳、温かさを感じさせない金色の双眸が私を見つめる。

「残念でしたわね、ネモフィラは春の花なんですのよ。またユリは夏の花だわ」

 彼は答えない。

「人見知りなんてものは、たかだか一年そこらで治るものではないんですのよ。特にカイラス様のは重症であったみたいですしね」

 彼の後ろで、カイラスと以前一緒にきた従者が罰が悪そうな顔をしている。

「それに、お忘れかしら?花が好きだと言った貴方に私言いましたわ。男とか女とか関係ないと」

 冷たい瞳が怖い。私の身体が芯まで冷えて、痛いほどだ。

「貴方、誰なの」
「ハッ」

 クックックと笑う彼は、片手で前髪をかきあげる。顔の造形は一緒なのに、カイラスとは全く違う雰囲気の少年だ。

「俺はサーシェス。カイラスの双子の弟さ。それにしてもよく俺がカイラスじゃないと分かったな。あんた、最初から俺がカイラスじゃないって思ってただろ?」
「私の勘はよく当たるのよ」
「へ~おもしれぇ女だな」

 サーシェスはソファから立ち上がると、私の隣にドスッと座った。侍女や、従者がそれをみて動き出そうとしたが、それらを私は手で止める。

「今日こちらへいらした要件はなんですの?」
「あんた、俺の女になれ」
「丁重にお断りさせていただきますわ」
「顔も赤らめないんだな、おもしれぇ」

 ケタケタ楽しそうに笑うサーシェスの隣で、私は小さくため息をつく。

「ところで、貴方カイラス様の手紙読んだわね?」

 ん~?としらばっくれようとするサーシェスを睨みつける。とぼけようたって、そうはいかないんだから。

「この手紙と同じことしか言わないんだもの。読んだとしか思えないわ」

 ポケットからカイラスの手紙を出し、それをサーシェスに見せつけた。

「あー…だって、あいつその手紙出そうとしねーんだもんよ。いつも書くだけ書いて、それを引き出しに隠すんだ。だから俺はその手紙奪って、ついでにあんたのことを見に来たってわけだ」

 じゃあカイラスはこの手紙が私に届いていることもしらない、てことか。私はカイラスの従者を手招きする。

「この手紙、カイラス様に返してちょうだい」
「は、しかし…」
「いいのよ、元々私宛ではないかもしれないでしょう」

 そう、この手紙、お元気ですか?から始まるが誰宛に書いているのか分からないのだ。近況しか書いていないそれは、むしろ日記のようなものに思えた。

「それとこの坊や、連れて帰ってくださる?」

 突然後ろから現れたお母様は、カイラスの従者にそう言った。

「お母様?」
「ひ、ヒステリア叔母様!」
「坊や、すぐにカイラスのものを取ろうとする癖どうにかなさい。それにうちのマリアは誰のものでもなくってよ」

 ピシャリと言い切るお母様。お母様、どこから話聞いてらしたの…。

「それにしてもマリア、よくカイラスじゃないと分かったわね?私はこの子たちが産まれた時には王宮にいたから、どっちがどっちかは分かるんだけれどね」
「分かったのならあの時そう言ってくれればよかったではありませんか?」
「この坊やが何をしに来たのか分からなかったから、様子見しようと思ったのよ」

 ふと隣をみると、サーシェスは小さく縮こまっている。さきほどまでの俺様オーラはどこへやら。ライオンのようだった姿は、今や小さな子猫のようだ。カイラスが子犬なら、サーシェスは子猫だなと私は思う。

「分かってるわね、サーシェス。このことはお兄様に報告するわ。もちろんカイラスにも」
「ち、父上にいうのか…」
「もちろんよ。さ、あなたこの坊やを連れて帰ってちょうだいね。私も王宮に一緒に行くわ」

 そこからはまるで嵐のようだった。
 嫌々駄々をこねるサーシェスをお母様が脇にかかえ行ってしまった。最後に私をみるサーシェスは、子猫が親猫と引き離されてしまった、みたいななんとも切なげな顔で、そういう表情はカイラスとよく似ていた。

 がんばれ、サーシェス。

 そう心の中で言って、私は冷えたレモンティーを飲んだのであった。


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