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第一章
その日の夜
しおりを挟む子猫王子の来襲をなんなくかわした私は、3歳の幼女が一人で寝るには大きい、いわゆる天蓋付きのベッドに横たわっていた。
時間は20時をすぎた頃ぐらいだろうか、OL時代の私ならこれからが私の時間で一人で居酒屋行ったりしていたのだけれど。やはりどんなに精神年齢ババアだろうが身体は3歳、この時間はおねむの時間なのだ。
うとうとしていた私の鼻を唐突にむにっと誰かがつまんだ。
「…んぐっ!息できな…っ」
息が出来なくなり、バタバタと暴れパッと目を開けるとにまにま笑顔の侍女がいた。侍女、というよりは…。
「あんた神だな!!」
顔にグーパンチを入れようとして、思いとどまる。今中身は神かもしれないが、身体は侍女なのだ。彼女に怪我が残ってはいけない。
「ぐっ…」
「やはりこの身体に入ることにして正解だったようじゃのぅ」
ほれほれ、と神は私の頬をむにむにつまむ。くそ、転生前のこと根に持ってんなこいつ。
「それにしてもお主うまいことやったのう」
「…は?」
よいしょ、と神は私の隣に腰をおろす。
「カイラスが攻略者だという話はしたのう。そのカイラスを手懐けたのも良かったと思うのじゃが、今回サーシェスまで手懐けたのはなかなかじゃった」
「別に手懐けた覚えないわよ」
「お主になくても、ありゃ手懐けられとる。神である我にはわかるのじゃよ」
神は勝手に一人で解釈し、一人で納得している。私はといえば、そうかなぁ?と頭をひねるのだった。
「ちなみに分かってはおると思うが、サーシェスも攻略者じゃ」
「えっ!?」
サーシェスも攻略者だったの!?恋愛ゲームに耐性のない私なのだ。分かっておるだろう、みたいなこと言われても困る。驚く私をみて、神自身も一緒に驚く。
「嘘じゃろ…あんなにわかりやすいのに…」
「私が恋愛ゲームに耐性がないの、あんた忘れたの」
「そうじゃったかの?まあええ、まあええ、ここまでは上手に話が進んどる」
そうなの?ヒロインとして自覚してからの一年、なにも無さすぎて話進んでないってずっと思ってたんだけれど。
「そんなもんじゃよ、これは現実じゃからの」
「おい、心読んでんじゃねえ」
「ふぉっふぉっ」
いかにも神らしくふんぞり返って笑っている神を睨みつける。くそ、手も出せくなったからな。
「うぜー…と、そういえば、神。私は悪役令嬢にいつになったら会えるのよ」
「まだ会えんのぅ。この世界は5歳になるまで、子どもは家を出ない決まりじゃからの」
そう、私が家から出ない理由、それはこの世界の決まりにあった。
5歳までは家から出ると疫病にかかりやすくなってしまう、とかいう訳分からない決まりのせいで私は一歩もこの家から出たことがないのだ。
「あんたがそんな決まり作ったの?」
「我ではなく、この世界の人間が決めたことじゃ。我にはどうにもできん」
なんでも昔、この世界には子どもだけがかかるという奇病があったのだそうだ。その病気のせいで5歳までの幼い子どもはみんな死に、人口が激減したとかしなかったとか。
「なんで5歳までの子どもなのかしら」
「そりゃ、お主、この世界に魔法の概念があるからじゃよ」
今まで聞いたことのない新事実に、思わず目が取れそうになる。驚き、言葉が出ない。
「ま、魔法?」
「ありゃ?我言ってなかったかの?」
「は、はぁ!?そんな話一度もしなかったじゃない!!何今さら言ってんのよ!」
これには侍女の身体だし、という私の考えもポロッとなくなり、思わずビンタをかましてしまった。3歳の力だからそこまで重たいビンタではなかったと思うけれど。
「お主相変わらず、手と口が同時に出る奴じゃのぅ~!」
「メタな話すると結構話進んでんのよ、何今さらそんなこと言ってんの!」
「言わなかった我も悪かったがのぅ、気づかなかったお主もお主じゃぞ」
たしかに、魔法が発展している国なら気づかない訳ないものね。周りを見てないって証拠なのかしら。
「まあ、今の時代、お主が思うような魔法を使うことはないに等しいからの。特に魔物とかいる訳でもないし。水道から水がでるのもこの世界では魔法のおかげなんじゃよ。
要するにお主の世界で科学と呼ばれていたものがこちらでは魔法になった、それだけなんじゃ」
じゃあ電気がつくのも、魔法が原因してるってことなのか。確かに、言われてみたら電気をつけるときも水を流す時も、スイッチや蛇口のようなものって見当たらない。侍女は指でパチンとしてたな…。
「でもそれが5歳までの子どもと何が関係するの?」
「5歳までの子どもは魔法のコントロールができんことが多いんじゃ。魔法のコントロールは感情のコントロールと一緒じゃからの。ちょっとしたことで魔法が身体の中で暴発しての、死んでしまうんじゃ」
そんなことがあるのか、魔法って思ったより物騒なのね。私のこの身体も、魔法のコントロールができなかったら死んでしまう可能性があるってことなのか。
「悪役令嬢もお主と同じ3歳じゃから、今は家の中におるはずじゃ。その関係で、この世界では5歳になると盛大にパーティーを催すからの。それまでの辛抱じゃよ」
「5歳になったら会えるってこと?」
「それは我には分からん。可能性が広がるということじゃ。
ということで、我は帰るぞ」
ちょっと待って!と言おうとしたその次の瞬間には、侍女はメルに戻っていた。
「お、お嬢様!?申し訳ありません!私いつの間にベッドの上に!!」
土下座しそうな勢いで謝る侍女をなだめつつ、いつも身体をとられてかわいそうだなと思っていた。しかも今日はビンタしてしまったし。よく見れば少し赤くなっている。
今までは、そんなに長い時間身体を使ってるわけじゃないし、いいかと思っていたけれどこのことも少し考える必要がありそうだ。
よしよし、と侍女の頬を撫でながら私は物思いに耽るのだった。
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