上 下
35 / 55
二、開花

二、開花 ⑪

しおりを挟む

 ***

「この野菜、今朝取れたばかりの新鮮なものばかりです」

 早速本を読んでいたら、彼は邪魔しないように離れた場所でパソコンを開けて仕事をしていたが、空が茜色になること、トマトにキスしながら僕の前までやってきた。
 すっかりこの祖母の部屋は僕の物になりつつある。ベットの周りには本や、宝石箱、回収した形見が散らばっている。よくみれば手を縛る用のタオルも畳んでおいてある。
「野菜、かあ」
「嫌いな野菜でもありますか」
 トマトを持って不思議そうな顔をするので、キスしていたトマトを奪うと齧る。
「間接キスなんて可愛いことをしますね」
「味がよくわからないんですよね、野菜って」
 彼が何か浮かれた発言をしたので、かぶせるように言う。
 花弁が青臭くて美味しくなかったが、段々と草とか土臭い味に慣れてきていた。それと同時に野菜の味が薄く感じ出した。花の味が強いせいかな。
 花を食べてから、野菜の味を感じなくなった、だけ。

「もしかして、これも花の強い匂いのせいとか言います?」
「ああ。そうですね。多分そうだと思いますよ」
「ふうん」
 新鮮だと言っていたトマトは、水分の多い草の味。美味しいとは程遠い歯ごたえだった。
 すると竜仁さんは必死で携帯の動画を見ながら、おいしそうなドレッシングを作ってくれていた。ドレッシングはみじん切りの玉葱とチーズ、山葵を使っていて、僕の味覚を刺激しようと試行錯誤してくれていた。
 野菜だけ。野菜以外は美味しく感じているので、不便はないんだけどなあ。
 そう思いつつも、残さず食べることがささやかな礼儀かなと完食しておいた。

しおりを挟む

処理中です...